48 レジスタンス
秘密警察の目が光っていると厄介なので、ブルケンには立ち寄らずに俺たちは野営を張っていた。夜、闇に紛れてこの野営地にやって来たものたちがいた。
「ミステイクの皆さんとお見受けしましたが、間違いないでしょうか?」
旅の冒険者を装いフードを被った三人組は、そう尋ねて俺たちの野営地にやって来て、海野さんのところに案内されてきたらしい。敵の刺客である可能性もあるので、十分注意して勇者四人とアリサ、エクレアの七人で面談する。
「そう警戒しなくても大丈夫です」
女がそう言ってフードを取ると、懐かしいヒルトン中尉だった。他の二人も見覚えがある、川を作った時に一緒に温泉に入った男達だ。
「お久しぶりです!」
「なんだ、ヒルトン中尉だったのか!」
海野さんが、笑いながら話す。
「第三連隊は今も健在なのか?」
「ええ、四千人はマッケル将軍に忠誠を誓って、革命政府の軍に潜伏しています」
「四千対六千五百プラス王宮魔導士じゃ不利だな」
「そうです。それで私たちは市民レジスタンス、エスパール軍と共同戦線でホフマン派を排除しようと考えています」
「民衆はどう思っているのかな?」
「ゲルト市内で言えば、ホフマン派のゲルト市長のグスタフに非難の声は集中していて、ゲルトを離れる人々も続出しています。市民レジスタンスも大小いろいろありますが、戦力としては、概ね七千人が参加しているようです。でも、ホフマンの秘密警察が、それらを片っ端から締め上げている最中です」
「市民を根絶やしにするつもりか?」
「どうでしょう? 権力を握ることに躍起になっているとしか思えません」
「ホフマンは権力を持ってどうしたいんだろう?」
「それは分かりません、何かカザット族の事情があるのかも知れません。でも、その為に恐怖政治を始めた時点で道を誤ったとしか言えないですね」
「確かに、そうだね」
「秘密警察の長を、第一連隊第一大隊長だったバルドスが務め、カザット族を主体に旧親衛隊も取り込んで、秘密警察は二千人を擁しているという噂です」
「あの、残虐な奴らか…」
「カザット族は勇猛ですが、手段を選びませんからね」
「ルルド攻略の時もそうだった。二千人も殺す必要はなかったんだ」
「噂は聞いています」
「で、どういう戦略を考えているのかな?」
「ゲルト市内からのゲリラ的な一斉蜂起を想定しています。市民七千が市街地を、軍内部の四千で軍と旧王宮を。外から、エスパール軍二千とゲルト市外の民間兵志願者、およそ一万でゲルトを取り囲む予定です」
「今、マッケル将軍は何処に?」
「ゲルト市内の、館に潜んでおられます」
「エスパール伯は?」
「同じく、エスパール家の館だと聞いております」
「一度、お二人に面談しておきたいのだが、ゲルト市内に入ることは可能だろうか?」
「はい、その為に私たちが参りました。レジスタンスの地下道があります、そこから市内への侵入は可能ですので、ご案内します」
「わかった、蜂起の五月三十日までは、まだ十日ある。それまでに、会うことにしよう。その旨をお伝え願えるか?」
「承知しました。ミステイクの皆さんの潜伏場所は三か所に分け、市内に用意しております」
「ありがとう」
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数日後、俺たちはゲルトへの侵入を果たした。
「来てくれたか!」
マッケル将軍は、自宅で潜んでいたというよりも、軟禁状態だったらしい。
「慣れぬ政治家なんぞやるものではないのう。ホフマンの方が二枚も三枚も上手じゃったわい」
リンゲにいた頃と比べると、かなりやつれた感がぬぐえない。
「ここでは、もうワシについて来る兵もかなり減ってしまってな、もうワシ一人の力ではどうしようも無くなったというわけじゃ。市民を守る力も無くなってしまった」
かなり弱気になっている。パストゥールを落とした後の、マッケル将軍のあの勢いは、どこにもない。
「本来、革命というものは力なき大多数の国民の力で起こすものです。将軍一人の力でどうにかするものではありません。将軍の革命は、王とその取り巻き有力貴族を退けて、共和制を敷いた時点で成功だったのですよ」
海野さんが、慰める。
「無理を承知で頼む、パストゥールの時のようにミステイクの力で不可能を可能にしてくれ」
マッケル将軍は海野さんの手を取って、頭を下げた。
「リンゲでも、お約束しましたように、我々は、この国が良くなるためであれば尽力を惜しみません」
「恩にきる。紹介しよう、こちらはエスパール伯の長女、セフィア嬢だ」
「初めまして! 紹介いただきました、エスパールが娘、セフィアです」
黒髪ロングの、超美女が自己紹介した。ストライーク!! と思わず俺は叫びたかった。
俺の好みに、直球でど真ん中だったのだ。たぶん年齢は俺と同じぐらいでスレンダーだが、出るところは出ている。聡明そうな冷ややかな眼差しに薄くて淡いピンクの唇。この女性にならば、俺は殴られてもうれしい気がする。
「父、エスパールもほぼマッケル将軍と同じ意見です。このままホフマンの自由にさせたら、我がエスパール領が守る西の防御も危うくなります」
「これは、セフィア嬢、ご足労頂きありがとうございます。ミステイクのウミノです。こちらが、イケミヤ、カキヌマ、アコ、カワハラ、グレッグです」
俺たちは、名前を呼ばれる順番に挨拶をした。セフィア嬢は「よろしく」と良家の子女らしく一人づつに挨拶をした。
「私がここに来たのは、父の意向をお伝えするためでもありますが、ホフマンについた王宮魔導士について説明するためでもあります」
「お詳しいのですか?」
「ええ、私はその王宮魔導士でしたから…」
それを聞いて、アリサが口を押え、俺にだけ聞こえた小さな声で
「黒髪の淫魔女!」
とつぶやいた。




