49 黒髪の淫魔女
「ちょっと、すみません。席を外します。アリサ、ちょっと来い」
俺は、アリサを連れて部屋の外にでた。
「何だ? 黒髪の淫魔女って?」
「いえ… その…」
「はっきり言え、ヤバいヤツなら、みんなも知っておかないといけないだろ?」
「あの… 言い難いのですが…」
「アリサから聞いたとは言わないから!」
「言わないでくださいよ。ええっと、幼くから優秀な方だったと聞いています。王都学院を首席で卒業し、魔法創作士、魔方陣鑑定士としての称号を持っておられるハズです。特に魔方陣に関しては、この世界のトップクラスです」
「うん、それで?」
「十六歳というあり得ない若さで王宮魔導士になって研究員として、王宮にいたのですが… その… 一夜で殿方を十人以上も相手にされて… その呼ばれた殿方が、ことごとく性的不能者になって開放されるという噂で、既婚者も独身も関係なかったそうです。それで、そういう別名で呼ばれるようになったとか。噂では、それが何度も続いたので、とうとう王宮魔法研究所から暇をだされたと聞きました」
「えっ?! そっちの方向にヤバいヤツなのか? でもアリサもベラさんとかとも仲良くやってたじゃん」
「ベラさんの比ではありません! ベラさんが十人いるのと同じなんですよ!」
俺は肉食獣の恰好をした十人のベラトリックスに囲まれた自分を想像した。
怖い! それは確かに怖い!
「分かった。じゃぁ、戻ろう」
------------------------------------
「すみません、戻りました」
俺とアリサが部屋に戻るのを待っていた、黒髪の淫魔女セフィアは王宮魔導士について説明を始めた。
「現在ホフマン方に付いている王宮魔導士は多くても十五名だと思います」
「それは、多いのか?」
「ええ、王宮魔導士は大体三~五名で一チームになって、魔法陣を起動させます」
「俺たちみたいに、いきなり魔法を打ってくるわけじゃないんだな?」
柿沼さんが聞く。
「ええ、私は勇者の魔法を実際に見た経験が無いもので、どんな状態なのかは知りませんが、生活魔法のように簡単には魔法を行使できません。魔法陣を複数で取り囲んで、詠唱を唱えることで魔法の発動が可能となります」
「じゃぁ、俺たちの方が機動力はありそうだな。どんな魔法を使うのだろう?」
「私の知る限りで戦闘に有効なものは、頭ほどある氷を降らせる氷魔法、この部屋を満たすほどの水を発生させる水魔法、家を一軒吹き飛ばすほどの爆裂火魔法。後は闇に紛れて行動できる闇魔法ですね」
「こういう感じかな?」
闇魔法の話を聞いて、亜湖さんがその場で消えて、セフィアの正面に現れて見せた。
セフィアは目の前で起こったことを信じられないという目で、口に手をあてて驚いている。
「そうです。それを三人で魔法陣を持って行うのです」
「大したことはないが、闇魔法は同じ闇にいるもの同士には筒抜けに見えるからな。パスツールの時のような奇襲は危険だな」
「俺たちと同じように、闇魔法で火魔法の詠唱を唱えているものや、攻撃を仕掛けてくる兵の姿を消すなんてことも出来るんだろうな?」
「そうです。その通りです。でも数は術者も含めて十人程度までです、痺れ薬や毒の粉を撒いたりも可能です」
「それを使って逃がすことも出来るわけか。そのステルス機能はヤバいよな」
「ステルス機能とは?」
「相手から認識されなくなる能力のことだ」
「なるほど」
「逆に、亜湖さんがずっと闇にいれば、亜湖さんからは丸見えってことじゃないですか?」
「そうだな。裕介、冴えてるな。俺がレーダーの役目を果たせばいいわけか」
「レーダーとは?」
「相手を探知する能力のことだよ」
「すみません、私は知らない言葉を聞くと確認せずにいられない性格なのです」
柿沼さんが面倒臭そうな顔をするとセフィア嬢がそう謝る。
「わかったが、あんまり話の腰を折らないでくれると助かる」
「すみません」
優等生で育ったからなんだろう、面倒臭い性格のようだ。たぶん、亜湖さんと柿沼さんは、こういう性格の人は苦手だろうな。
「さて、これを聞いてどう攻めるかだよね」
海野さんが、口を開く。
「王宮魔導士は、俺たちが相手をしないと一般兵には荷が重いでしょうね」
「秘密警察の本体とホフマン自身はその魔導士と王宮にいるんだよね?」
「そうです」
ヒルトン中尉が答えた。
「先に王宮に入って、蜂起に先駆けて王宮魔導士を始末してしまうのが一番いいのだろうがな」
「でも、もしもばれたら、蜂起に気づかれてしまいます」
「そうか、それじゃ、意味がないのか」
「蜂起してから王宮に入るのはもっと難しいぞ」
「じゃぁ、先に入って蜂起まで潜伏しているのかな? そして蜂起が始まったら、内部から崩すか?」
「そうだな。内部にも味方の兵はいるわけだから、危険だけれどそれが一番いいかな?」
「でも、ミステイク十七人は無理でしょ?」
「じゃ、俺と柿沼さん、エクレア少尉と亜湖ファミリー、ヒルトン中尉も行くかい? 裕介と池宮さんは、レジスタンスと一緒に外から壁を壊して進路を作ってくれ、それでどうだい?」
亜湖さんが、そう提案する。
「大丈夫ですか?亜湖さん、一番危険な任務じゃないですか!」
「でも、城内は俺にしか出来ないからな、ずーっと今まで裕介にやらせてきたしな。俺と柿沼さんが、ヒルトン中尉にいいところを見せる機会もくれよ」
柿沼さんと、ヒルトン中尉が目配せしている、この二人、そういう仲だったの?
「じゃ、わかりました。くれぐれも気を付けてください」
「これは、城内の地図です。ここが潜伏に持ってこいの場所です。それと亜空間転移を使った音声通信装置です、襟に付けておいて魔力を注げば声だけ亜空間を介して伝えることが可能です」
とセフィア嬢が自作の魔道具を六つ並べた。
「すげぇ、通信装置があったのか?!」
「魔力が沢山必要なので、普通の人には使えませんが、勇者や賢者なら使えるかも知れません」
俺は早速持って部屋を出て、話してみる。
「おう!聞こえるぞ、裕介!」
これは、役に立つなぁ~!
「やっぱり、流石は勇者ですね」
セフィア嬢の目が獲物を見るような目に感じたのは、あんな話しを聞いたからだろうか?




