38 石橋工事2
橋の土手作りには、大量の岩石がいる。しかし、今回のトンネルは馬車の通行を考えてあるため、かなり大きめだ。なので、容積的にはトンネルを二メートル掘れば、土手が一メートル出来る。既にトンネルはベイグル側が二百五十メートル、フレーブ側が二百メートルちょっと進んでいる。
穴を掘るだけなら早いのだが、土砂を掻き出しながら流して埋め立てていくので、時間がかかる。
アリサと女性兵士のスピカとベラトリックスは、工事工程管理を任されていて、始終現場をチェックしている。スピカは大人しいが、ベラトリックスは女戦士という感じで肉食系の男食いとして有名なんだそうだ。なので、みんな彼女の言うことには良く従う。外ではタルボガンの着ぐるみだから可愛らしいが、兵舎に入るとビキニで放漫なボディを惜しげ無く披露している。一度、男ばかりの風呂に入ってこようとして大騒ぎになったが、不思議とミステイクの六人の言うことは良く聞き、アリサも困っていないようだが、亜湖さんと柿沼さんはアリサと同じく、彼女を女として見ていないようだ。
マカロン君が、俺と表の連絡係をしてくれていて、流れなくなった土砂の粘度を下げて流したり小まめに良く働いてくれる。毎日、魔力を使っているからかも知れないが、最近は彼の魔力も強くなってきたような気がする。
二月の終わり、真ん中だけを残してフレーブ側の土手も完成した。
いよいよ、滝を崩して湖の水抜きだ。先に石で煉瓦を大量に作る、俺が水抜きをしている間にみんなは、橋の両サイドの縁石積みをしてもらう。橋の両側は、未だに氷の型枠のように張り付いているが、もう危ないので橋の側の氷に乗ることは、氷を溶かして作業を始めてから禁止になっている。向こう岸に行く時だけ、橋から離れた氷の上を通っていく。それも水抜きが終われば、橋の土手が開通するので必要はなくなる。
滝の場所は、橋の下流三百メートルほどのところにある。俺は崖を削りながら水面から十メートルほど高台まで道を作り、そこに六畳ほどのテラスを作った。
ここからの眺めは最高だ。
断崖絶壁に挟まれた滝は全て氷付いているが、全てが凍てつき昼の太陽の光に煌めいて、キラキラと輝き世界遺産に登録したいような美しい景色だ。
「この景色を今から壊してしまうのか… もったいない」
そう、つぶやくが、壊さないことには橋は完成しない。
「ほんと、初めて見たのに見納めとは残念です」
横でアリサも同意する。
「中佐、あんな遠くまで魔法が届くんですか?」
マカロン君が聞く。
「俺の土魔法の最大は五百メートル先まで届くから、この滝を一気に壊そうと思えばできるぞ」
「マジっすか?」
「でも、裕介、少しづつだぞ、一気に氷の下の水が流れ始めると、せっかく作った土手まで壊しかねない」
「みんな兵舎に避難しましたね?」
「はい、完了しました」
「じゃ、やるかぁ~!」
橋の手前まで溝を掘るつもりで滝の中央部を五メートル幅で砂に変えた。
ズゴゴゴ~!!
水流というのは凄いものだ。滝にぶら下がったツララが、振動で一気に弾け飛び、氷が滝にミシミシッ、バキバキっと押し寄せる。氷に上を抑えられた水がはけ口の狭い俺が崩した部分から、吹き上がるようにして流れ始めた。
橋の方も似たようなことになっている。せっかく積んだ煉瓦がボロボロ崩れ、中央の裂け目に残った支柱が水流で破壊された。
「すげぇ~!」
「お前、なんで一気にやったんだよ! 少しづつって言っただろうが!」
「だから、五メートルにしましたやん」
「底までやるバカがいるか?!」
「こんなに凄いことになるとは思ってもいなかったんですよ」
「先に氷を融かせば良かったな」
今更、後の祭りである。
俺は、崩壊しつつある滝のはけ口周辺だけを、大急ぎで魔法で固めた。
派手だったのは、最初の三十分ほどだった。
「まぁ、何とか土手はもったな。じゃ、もう全部壊してもいいぞ」
柿沼さんにそう言われ、俺は滝全部と滝上流の土砂を昇華した。既に、流れた砂で、滝の下流部に中州が出来始めていたからだ。
バキバキバキ!!
橋と滝の間の氷に一気に亀裂が入り、一メートル以上の氷の塊の流氷のように流され始める。
橋の排水口からの水が中央部分の氷を下流に押しやり、氷の塊の中央に末広がりになった川になった。そこに、徐々に周囲の氷と橋の上流から流れてきた氷の塊がぶつかり合って、更に川を広げながら流れていく。氷の土石流という感じだ。下流に立ってやらなくて良かった。
橋に穴を開ける作業は川の中から行わないといけない。大丈夫なんだろうか?




