ある日の休日(4)
「お、バルツァー。結構朝早いんだな」
あてもなく学院の敷地を彷徨っていると、後ろから聞き覚えのある声に話しかけられた。
「ヨハンか。お前もはえーな。何してんの?ラフィに夜這いでもかけにいくんか?」
「夜でも女でもないんだが……」
何を言ってんねんという顔をするヨハンに、ここまでの道中を詳しく説明してやる。
「……ってワケで、ワンにもラフィにもボコられて悲しみに暮れながらトボトボ歩いてたってワケよ」
「どっちも自業自得じゃねえか……」
「まあな。だけどよ、ワンのは逆恨みだから仕方ねーにしても、ラフィのはもうアイツが女の子なのがワリーだろ。情状酌量の余地あんべが」
「痴漢に情状酌量の余地は無いと思うんですが……。つーか、ラフィは確かに中性的な顔立ちしてっけど、アレは男だぜ。俺、地元近いから、ガキの頃から知ってるけど、昔は上半身裸で喧嘩したりしてたし」
「ヨハン、貴様を淫行の罪で処刑する。大人しく御縄につけ」
「淫行の刑罰重すぎんだろ………」
ヨハンのヤロー、騒動の中でしか会話したことねーから知らなかったけど、意外と話せるヤツじゃねーか。こーいうのはリズムだからね、ちゃんとツッコんでくれないと。
「で、結局オメーは朝から何やってんの?」
「いやー、実は最近朝は自主練しててさ。死皇帝の件もあるし、少しは強くならねーと」
おー。なんだよコイツ、フツーに偉いじゃん。初登場時に廊下で「通夜には俺も呼んでくれよナ?ギャハハッ!」とか言ってた奴とは思えんな。
「…………バルツァー、ありがとな」
「あん?なにがよ?」
「いや、いいんだ。俺がありがとうと思ったから、ありがとうなんだよ」
「なんだよ、気持わりいな。さっさと自主練に行きやがれバカタレが」
「あぁ、そうするよ。またな」
「おー、がんばれや」
なぜかニヤつきながらジョギングで去っていくヨハンの背中を見つめる。
「俺も自主練しようかな……」
◆◇◆◇◆
ヨハンとの邂逅は無傷で終えたし、少しはマシな流れになりそうだぜ。
そんな事を思いながら、学院探索を再開する。探索というか、ただ歩き回ってるだけなんだけど。
おや、前方に見覚えのあるモンスターが。どうしたんだ、うずくまって何してやがる。
「リーナ先生、おはよーっす。こんなとこで何してんすか?う○こ?」
「バルツァーか。そりゃ辺境の奥深くでは外でしないといけないこともあるけどよ……。見りゃわかんだろ、花壇の手入れだよ」
「カダンっすか?聞いたことないですが、それはやっぱ何か殺しの道具……?なるほど、家断。つまり一族郎党根切りにするための────」
「仮にそうだとして、俺がこの日常空間でそれ弄ってたら、世界観物騒すぎんだろ。花壇だよ花壇、花植えてんだ」
マジで花壇なのかよ。なんか実用的なヤツなのかな?回復の専門家だし、薬草関連も知識が……。
「いや、わかりました。引き抜くと叫び声を発して、それを聞くと死ぬ系の植物ですね?もしくは大○でしょ、○麻」
「とにかく俺を邪悪な人間に仕立てあげたいらしいな……。ちげーよ、フツーに観賞用の花。綺麗なだけの花だ。危険はねーよ」
「へー、先生ってそういう仕事もあるんすね。そういうのは用務員さんとかがやってんのかと思ってた」
「ああ、フツーはな。これは俺の趣味っつーか。元々は俺のダチが手入れしてたんだが……。まぁ、いろいろあって、今は俺が引き継いでる」
…………あぁ、そういうことか。
リーナちゃんは、たまにこういう懐かしむような、寂しいような、そんな目をすることがある。辺境任務や戦友の話をしてる時に。
ここでいろいろってなんですか?と踏み込むほど俺のデリカシーは低くないぜ。
「…………朝から気ぃ使わせたな。すまん」
「いや、俺はリーナ"ちゃん"がその顔で花壇の手入れが趣味って、マジキモいなと思ってただけっすよ。どーせホントは大○でしょ。教え子のよしみで騎士団には通報しないといてあげますよ」
「フッ、そうかよ…………。で、若者がせっかくの休日にこんなとこで油売ってていいんか?ほら、散れ散れ」
「はいはい。行きますよ行けばいいんでしょ。そんじゃ、お先失礼しまーっス」
ったく、顔のワリに繊細な人だぜ。嫌いじゃねえけどよ。
次でこの話しめます。




