14 ゲームのはじまり
レクリエーションのメンバーを決められないまま、イベント前日になってしまった。
そう、クラリス嬢が転校してくる日だ。
……こうなったらクラリス嬢が選ばなかった攻略対象を選ぼう。
攻略対象は皆優秀なのでメンバー入りさせて損はない。
けどシエロと対になってる子はあかん、相性が悪い。
その時は……うむむ。
「何難しい顔をしているんです?」
「ハルトには秘密……。」
「……ふーん?」
そういえば、ゲーム通りなら午前中に王子達に出会って、午後に他の攻略対象と話をするはずだ。
そろそろ主人公・クラリスが登場する頃ではないか?
と、考えたところで廊下を走る音が聞こえた。
これは、あれだな!
「ブランカ?」
私はすぐさま物陰に隠れた。
渡り廊下だったから塀を超えてそこに隠れただけなんだけどね!
「ハルト様!」
「! 君は……、クラリス嬢?」
ピンクブラウンの髪と瞳、赤に近いピンクのマントとリボン。
ハーフアップにしてある長髪が、走る度に揺れる。
クラリス=シュガー。
トラヴィス物語の主人公が、そこに居た。
おお……出会いイベント発生。
クラリスがそのままなのか、私と同じく転生したプレイヤーなのか分からないが、ひとまずゲーム通り進行しているようだ。
「あの、ユリウス王からお話は伺っています。頼りになるから、協力して事を進めなさい、と。」
「……そうでしたか。」
「この学園は今、様々なトラブルが起こっています。第二王子が引きこもった事もそうですが、嫉妬や妬み……あらゆる負の感情が生徒達の心を支配している。」
まるで暴風の魔女が呪いを振りまいているかのように。
……うん、実際いるんだよね暴風の魔女。
だからこそこの学園の生徒達がゲーム本編でもいじめとかそういう事に躊躇しないような描写あるし。
「私は王子達の事も含め、この学園を変えるつもりでここに来ました。どうか、ハルト様にも協力して頂きたいのです。」
「……。」
主人公はこの学園に来てまず、王子2人に出会う。
勿論、歓迎はされなかった。
アーサーは外に出たくない、ロミオは彼女が来た事がすでに気に入らない。
その後に出会う攻略対象達にしても、そう。
クラリスは先ほどのように協力をお願いするが、皆良い反応はしなかった。
フランは「俺に出来る事などない」と言うし、シエロは興味がないと断る。
もう一人は「大げさだよ」とまともに聞いてくれなかった。
「クラリス嬢、もしかして今までお願いして回っていたのですか?」
「え? ああ、はい……。あ、別にハルト様の優先順位が低いわけではないのですよ!?」
わたわたするクラリスに、ハルトはくすくすと笑った。
そんな事思ってませんよ、と答える。
「王の頼みとはいえ、随分熱心な方だな、と感心していたんです。」
「熱心だなんて、そんな……、まだ何も出来ていませんし。」
「いいえ、君の熱意は確かに伝わりました。僕で良ければ、協力しますよ。」
「!」
「君のように頑張っている人の事は、応援したいですから。」
攻略対象の中で、唯一ハルトだけが最初から主人公に協力を約束する。
ハルトはいちいち解説してくれて便利だから序盤から仲良くさせる必要がある。
ゲーム全体的にはそうだ。
でもハルトとしては、彼が頑張る大変さを知っているからだ。
彼がこの年齢で当主という重荷を背負っているからこそ、頑張る人間を無視できないのだ。
皆その部分を無視して、メタ視点でばかり彼を見た。
便利、ちょろい、……二次創作だとポンコツ化も珍しくない。
……思い出したら辛くなってきた。
人気がそこまであるわけじゃないから扱い雑でも誰もなにも言えないし。
公式まで若干ネタにし始めた時は辛すぎて泣いた。
うっ、この世界線のクラリスがハルトに優しい人でありますように……!
「ありがとう! あの、早速なんだけれど、明日のレクリエーション……。」
「レクリエーション、ですか? ええ、勿論。僕もちょうど……。」
2人は雑談しながら廊下を歩いて行った。
レクリエーション……つまりクラリスはハルトと行動するのか!
いや。まあ。うん。
幼馴染であるロミオとアーサーが強いかと思っていたが、最初から親切なハルトの方が頼みやすいものな。
ほう……良い事を、良い事を聞いた!
……ハルトルートに行くかな。
クラリスに選ばれて、幸せになってくれるのなら、それに越したことはない。
この世界線のハルトは、幸せになってくれるだろうか。
クラリスに、主人公に、選ばれてくれるだろうか。
「ブランカ。」
「ほわぁは!?」
ぼんやりとしているところに声がかかる。
上を見上げると顔色の悪い第二王子、アーサーが立っていた。
「なんだ、アーサーくんですか……。」
隠れていた場所から出て、廊下に戻る。
頭に花びらがついていたらしく、アーサーがはらってくれた。
べしべし雑にはらわれたので、やっぱり私はモブなんだな、と思った。
ヒロインにはもっと丁寧に接するでしょ。わかってるぞ。
ん? あれ、待てよ?
「なんでアーサーくんがここに!!?」
君、引きこもっているんじゃありませんでしたか!?
「クラリスが……明日のレクリエーションのメンバー決めてきなさい、と。」
「そのクラリス嬢は?」
「自分と組むのじゃ意味がない、だそうだ……。」
あ~、断られたのか。
ならクラリス嬢はハルトと誰を選ぶのだろう?
フランは無理だとして……。
ロミオか残りの1人か。
ふむ。
「ブランカはもう決まっているのか?」
「えっ、いやぁ……。」
まだ一人決まってない。決まっていないが。
私は周囲を見渡し、念のため音を遮断する魔法を使った。
「あのですね、私は王子達に情報を提供する役割がありますけど、表向きは一般生徒なんですからね?」
学校では関わっちゃダメなんだよ?
本当はね?
そこらへんわかってる?
「ならなおのこと明日のレクリエーションは一緒じゃないと駄目だろう。明後日からの授業、お前がいないと駄目だ。」
「えっ」
「俺が1人で授業を受けられると思うのか! ……レクリエーションで偶然組んで、仲良くなった事にすれば一緒にいてもおかしくはないだろう?」
oh……。
「授業はクラリス嬢でもよいのでは?」
「あいつはすぐフラフラどっか行くから駄目だ。」
おお……。
確かにゲーム的にどこでも行く子だな主人公もといクラリス……。
「頼む……俺の盾になってくれ!」
「王子……。」
ここまで来れたんだから1人でも大丈夫、と突き放す事も出来るが……なんかそれも可哀想に思えてきた。
クラリス、アーサーを部屋から引きずり出して放置は流石に駄目じゃないか……?
ゲームでもそうだったっけ?
いや、そもそもゲームだとレクリエーションのメンバー決めは当日に行ったはず。
こうしてアーサーが出歩くはずない。
……ゲームと少し行動が変わっている?
もしかして、あのクラリスは……。
いや、決めるには早計だ。
私が既にシエロを確保しているからその影響が出たのかもしれない。
しかし、アーサー王子か。
……まぁ、戦力的には優秀だし、いいか。




