11 ハルトと課題とフラン
資料室のあの日から、学園でハルトをちょくちょく見かけるようになった。
このクリスベル学園は学年制ではなく単位制に近い方式で運用されているので、クラスという概念がない。
なので4月の間いなかったくらいでは誰も気にしていないようだった。
今まで受けてた教科が違ったのかなくらいの認識だろう。
実際気配を極力消していただけで居たんだと思う。
第二王子が読み終わった本を図書館に返却する帰り、廊下の向こう側からハルトが歩いているのが見えた。
ハルトもこちらに気付いたようで、目があった。
そういえば新しい課題は用意してもらえたのだろうか。
前回頂いた初級の魔術解除はすでに終え、ハルトに渡してある。
表向きには関わりがない方がいいのかなと、通りすがりにサッと受け渡した。
なんだかスパイの気分で楽しかった。
実際、機密情報部隊ってスパイみたいなものか。
「ブランカさん。」
「ん?」
「これ、課題です。次からは普通に渡して下さいね。」
……普通に話しかけられて驚いていたら普通に接しなさいと釘を刺された。
あ、あれ? いいのかな?
「私と仲良くするの、迷惑じゃない……?」
「嫌いとは言いましたけど、一緒に居て不快なんて事ありませんから。普通に、お願いします。……ね?」
子どもに言い聞かせるように優しく言われた。
む、むう。
私の考えすぎであったか。
「でも、この課題って周囲には知られない方がいいんじゃ……。」
「ああ、それでしたら……。」
「ハールト!!」
首に回そうとした腕が、空を切る。
サラッと腕を避けたハルトは、ジト目で相手を見やる。
避けられた本人は気にするでもなく、コロコロと人懐っこい笑みを浮かべた。
「おお、やるなハルト! あの子犬みたいなお前が少し見ないうちにこんなに立派に成長しちゃって~。」
「ちょ、フラン、やめて下さい! 髪が、こら!」
フランシス=ボールドウイン。
愛称はフラン。
突如として現れたこの美少年はぐしゃぐしゃとハルトの頭を撫でまわしていた。
……そういえばこの二人コンビだったな。
トラヴィス物語では、先に紹介したロミオとアーサーのように、攻略対象者同士で対……コンビになっている。
攻略対象のライバルキャラクターのようなものだ。
まだ紹介していない二人にしてもそう。
フランはハルトとコンビなだけあってシナリオにちょくちょく登場したんだよなぁ。
主人公の事を応援するハルト……少し寂しそうな顔をするハルト……。
辛くなってきた……。
「で、それなに?」
「!」
フランが私の持つ課題に興味を示した。
封筒に入っているし見られるとは思わないが、取られてしまいそうでぎゅっと抱え直した。
「イグナーツ家の魔法ですよ。フランも取引しますか?」
「げ、興味あるけどそればっかりは俺の一存では決められねぇな。」
なるほど。
家に伝わる魔法は生徒同士で取引されることが稀にある。
そう考えると私とハルトのやり取りも普通……うん、多分普通だ。
……それにしても、なにか、忘れているような。
うーん、ちょっとフランシスについて、今一度思い出してみよう。
フランシス=ボールドウイン。
父親が騎士団長の先輩キャラだ。
同じ学年だからかロミオとの会話も多い。
性格はお節介焼きのお兄さん。
ただし、初対面ではそっけない。
幼馴染のハルト(ここ数年は私と同じく連絡が取れていなかったみたいだが)にこそ明るい態度だが、それ以外にはとことんそっけない。
アーサーに対しても冷たいわけでも優しいわけでもなく、ロミオの暴走っぷりには特に触れず。
初見だとなんだか感じの悪い人、なのだ。
だがしかし。
実際に彼と関わるとその評価は一変する。
まず、主人公が雑用を引き受けていたり、困っていると呆れながらも手助けしてくれるのだ。
この時点でもう良い人である。
「あまり俺と関わらないほうがいいぞ。」
訳あり顔でそう忠告する姿はクールなのだが……。
フランは話しかけ続けていれば、即落ち2コマのごとくそっけない態度を投げ捨てる。
主人公の話を聞いている時も、最初は興味なさげに「ふーん」とか言っているのだが、続きが気になってそわそわしだすわ「それでそれで」と先を促すわ「マジで!?」と大げさに反応してくれるわ……。
お前にクールキャラは向いてないよ、無理すんな、と言いたくなるほど、ボロッボロ素面が出てくる。
そうこうしているうちに、主人公の押しに負けたフランは「悪かった、これからは普通に接する。」と約束してくれるのだ。
聖星祭では照れながら「一緒に参加して欲しいんだが……駄目か?」とお誘いしてくれる。
ちなみに了承した時の笑顔がとっても可愛い。にぱーって笑う。にぱーって。
それからしばらくして、主人公は廊下で他の生徒たちに呼び止められる。
それは「彼とは関わらないほうが良い」という忠告だった。
「フランシスは昨年の闘技会で、反則をして決勝まで勝ち残った。」
「決勝で反則行為がバレて失格になった。」
忠告を影でこっそり聞いていたフランは、また主人公とぎくしゃくしてしまう。
それでも主人公はいつも通りフランに接し、「過去は過去、大事なのは今のフランだわ。」と告げる。
その言葉に勇気づけられたフランは、今年の闘技会に参加する事を決める。
見事優勝を果たすが、「どうせまたイカサマしたんだろ、」その声は消える事はなかった。
フランが反則行為をするとは思えない主人公は、ハルトに真相を尋ねる。
尋ねられたハルトは、「彼はもう吹っ切れてる様ですから。」と、話す事を許した。
率直に言って、彼は騙されたのだ。
友人だと思っていた相手が託した魔法を、彼は迷わずに使用した。
それが反則だと知らずに。
しかし、その真実を周囲に話す事は他でもないフランに止められる。
「証拠があるわけでもない、お前の評判が悪くなるだけだ。」
「それに、」
「分かってくれるやつがいるから、俺はそれで充分だ。」
その笑顔に、もう影はなかった。
いやここハルトが出るからプレイしてる時辛かった……。
好きな子だから協力してくれるんだよねわかるよ、わかる。
その後は他キャラと同じく、暴風の魔女に乗っ取られたロミオとの対決だ。
魔女はどんどん他の生徒を生け捕りにしていく。
主人公とフランは生徒達を解放しながら魔女の元へと急いだ。
その過程で、フランはかつての友人を助ける。
「どうして助けた」と尋ねる友人。
「俺は……お前を、」
「なんで、って言われても、理由なんてねぇよ。」
「……。」
「まぁ……強いて言うならさ。お前だけ助けないとか、そんなのみみっちくてカッコ悪いじゃん。」
「っ、」
「どうせなら、カッコよくありたいだろ?」
ニカッと笑う、このスチルがなーいいんだよなー。
この後、友人は「そうだな、……俺はすげぇカッコ悪い。」と返す。
そして事件が解決したのち、友人はフランの反則は仕組んだ事であったと全生徒に説明し、謝罪をする。
こうしてフランの汚名は返上されて、ハッピーエンドを迎えるのだ。
フランルートの面白いところはやっぱり中盤の主人公にそっけない態度とろうと頑張ってるところだなー。
選択肢1つで手のひらぐるっぐる返すというかちょろいというか……見てて面白い。
さて、フランに対してはこんなところか。
……うん?
忘れている事なんてあっただろうか……?
「それにしても、ハルトが家の魔法を教えるなんてな……。婚約者か?」
「違いますよ。部下だったら欲しいですけど結婚相手なんて嫌です。」
え、告白もしてないのに振られた。
なんて事を聞くんだフランシス。
「フランも会った事あると思いますけれど……。」
「俺が? んーと……。」
「そう、でしたか……?」
「ほら、僕が初めてブランカに会った時……。」
「あっ!」
ビシィ、とフランの指が私に突き付けられる。
「お前、俺に勝負を挑んできたお嬢さんか!」
はっ、そういえばそんな事もあった。
うん? 確かあの時、「今日はこの辺にしといてやる、」って……。
「よし、決めた。」
うんうんと、何度か頷いてフランは真っ直ぐに私を見た。
自然と背筋がピンと伸びる。
なんだか、嫌な予感。
「お前、俺と勝負しろ。」
なん、ですとぉーーーーー!!?




