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10 二人の王子




ロミオ=ラ=トラヴィスは大層不機嫌であった。




クラリスが転入してくる、と報告したからである。

勿論ゲーム情報ではなく、情報の事実確認を完了させてある。

現在地は生徒たちに解放されている学習室の1つ。

第一王子は嫌悪を隠すことなく私に視線を寄越した。




「目的は?」


「引きこもった第二王子ですよ。」




主人公・クラリス=シュガーは12歳の時に王子達とは疎遠になり、そのまま女学院へ入学する。

だが第一王子が第二王子をいじめ、第二王子は引きこもりになってしまう。

その問題を解決するために送り込まれてしまったのがクラリスだ。




「…………へぇ。」




ロミオ王子の表情が絶対零度のものになってる。

一般人が見たら思わず「ひっ、」と悲鳴をあげてしまうだろう。


まぁでもそうだろうねぇ。

面白くないだろうねぇ。


改めて、ロミオ=ラ=トラヴィスの情報を整理しよう。




彼は歴代の王家が継いできた銀の髪に、宝石のような美しい深い青色の瞳を持ったメインヒーローだ。

容姿にも才能にも恵まれ絶対的なカリスマを有する理想的な跡取り。

しかし、その言動は悪役そのものである。

弟を「不要のスペアくん」と呼び、「なんでそんなことも出来ないのかな?」と取り巻きと一緒になって笑い、根回しは徹底的にやる。

よくある物語であれば絶対退治されてしまうだろう悪役っぷりである。


乙女ゲームでヨカッタネ。


常に余裕のある微笑みを携えているのが余計に悪役っぽい。



主人公に対してもとても冷たく、「君はどうしてここにいるのかな」とか「君は随分時間に余裕があるようだ」とか「ご機嫌とりのつもりかい?」とか嫌味をばんばん言ってくる。

でもイベントで一緒に行動するときは真面目だし、取り巻きが主人公に嫌がらせをした時はすごく怒り、主人公に謝罪もするのである。

「勘違いはしないでくれ、君の為じゃない。俺は最低限やってはいけない事のラインは理解しているつもりだよ。」

そう、ツンデレである。

そもそも彼は主人公が好きなのである。

しかし12歳の時、彼は自分が魔女の呪いによって死ぬ事、弟のアーサーと主人公がお似合いであると思ってしまった事で拗らせてしまう。


俺が欲しいものは、全部弟が手に入れる。


そうした思い込みから、彼はこの悪役っぷりに変貌してしまったわけだ。



ルートが確定になる聖星祭のお誘いも「君は俺の言う事を聞いていればいいんだよ。」と半ば強引に髪飾りを押し付けてくる。

しかし、一緒に参加するパートナーがいる証明でもある髪飾りを受け取って主人公は喜ぶので、ロミオ王子のペースは乱されまくりである。

ルート確定後は第二王子の引きこもり問題も解決して平和になっているのだが、主人公はロミオを構う。

ここからロミオは露骨に嫌そうな顔で主人公の相手をする。


「君はなにがしたいのかな。」


そうして時折、寂しそうな表情を見せるのだ。



学園祭のイベントで主人公はロミオと演劇を観覧する。

しかし、その内容はユリウス王が暴風の魔女を倒す物語であり、ロミオは最後まで見ていられず席を立つ。

どうしたのかと尋ねる主人公にロミオは事情をぽつぽつと話し始め、二人は困難を共に乗り越える約束を交わすのである。

ここからロミオ王子がツンを捨てる。

これまでの冷たさが嘘のようなデレデレっぷりにあまりに多くのプレイヤーが沼に突き落とされた。

……気持ちは分かる。ギャップ萌えの威力はバカに出来ない。

「もう少し、君と一緒に居たい……かな。」と話す時の照れ微笑みの表情差分、攻撃力が高すぎる。

やはり担当の絵師が天才である。

ロミオは笑顔の表情差分の多さがすごい。

作り笑顔に挑発している時の笑みに心から安堵しての笑顔、愛しい人を見つめる微笑み……。

感情が伝わってくる、と評判が良い。

声もね、めちゃくちゃ優しい声になるのよね……。

これまた品のあるキャラを演じさせたら右に出るものはいないとまで言われる人気声優が担当してるから破壊力が凄まじい。



後の展開はなんかこうらぶらぶぱわーで暴風の魔女なんとかする。

魔女が負の感情を集めていたように、感情は大きなパワーを持っている。

恋のパワーはその中でもピカイチなのだ、みたいな感じの展開です。

ここら辺はどのルートでも大体同じ。



この子こそ主人公が選んであげないと駄目な子じゃん、と友達は言う。

違うんだって、ロミオはメディアミックス化した時にメインヒーローだからほぼ絶対選んで貰えるじゃん。

選んであげないと駄目とかじゃなくて選んで貰えるキャラじゃんロミオはー。

そういう現実だったらどうなる? をシミュレーションした時にハルトは絶対選ばれないじゃん、って事に私は泣いてるんだよちくしょう。

どんなに主人公が好きでもお助け要員で終わる……悔しみ……。



ロミオのシナリオが嫌いな訳じゃないけれどね。





王子は何かを考えこんでいる。

ロミオ王子にとってクラリスは初恋の人で、今も思い続けている人だ。

……そういえば王子が悪役やってる時の裏工作って私がやるんだろうか。

情報提供だけに徹したいのだけれども。




「……報告ありがとう。引き続き学園内の情報収集を頼むよ。」



「かしこまりました。」




本当は、変えられるのなら何かしたほうがいいのかもしれない。

けれどもそれをしないのは、それらがゲームのクラリス視点の情報だからだ。

ブランカ視点で、モブの私が出来る事はなんだろうか。

せいぜい主人公が上手くいくように後押しをするくらいじゃないだろうか。



出来るなら皆幸せになって欲しいと思う。

推しが一番だけれど、どのキャラも魅力的であったから。



学習室を退室し、隠し通路に向かった。

クリスベル学園は広大で徒歩の移動が大変なのだが、自動で目的地に向かってくれるボードがあるので皆歩かない。


この地下通路でも同じだ。


目的地は男子寮の一室。















「アーサーくん。」


「うっわぁあ!?」



男子寮、王子専用の部屋にご到着である。




「あんた、魔法でいい感じに前触れとか出せないのか?」


「無理ですよ王子。バレます。そしてこちらがご所望のものです。」



頼まれていた本を何冊か渡す。

第二王子は礼を言って本を受け取った。

そして読み終わった本の感想をいくつか聞かせてくれた。



現在引きこもり中の第二王子は、「何も考えたくないから思考領域を他のもので埋めたい……」と本を読み漁っている。

でも部屋は出られないので本来情報収集が仕事の私に頼んでいるのである。



「勉強もするんですよ?」


「……分かっている。」


「そうそう、クラリス様がいらっしゃるそうですよ。」


「え。」



アーサー王子が嬉しそうな声を出す。

しかし来る理由を察して空気はどんよりと沈んだ。



「俺は……何をしているんだろうな。」



アーサー=ラ=トラヴィスの情報も今一度確認しよう。

輝く金の髪に、幻想的な翠の瞳の第二王子、セカンドヒーロー。

容姿はTHE☆王子様といった感じのイケメンだが、前髪が長めで顔が隠れがちになっている。

天才である兄と常に比べられるが、彼も決して悪いわけではない。むしろ優秀な部類である。

何をするにしても自信がなく、悲観的。

主人公に引きずられるようにして部屋から出るようになるが授業をサボりがちである。


序盤は常に己を兄と比較してしまい、

失敗を恐れるあまりに何をしても小さくまとまってしまいがち。

そしてまた自己嫌悪の悪循環に陥ってしまう。

主人公はアーサーを励まし、一緒に努力することで、自信を徐々に取り戻していく。

兄の嫌がらせや周囲の嘲笑にくじけそうになりながらも、彼は確実に成長していく。

そして聖星祭では、「俺は俺、兄さんは兄さんだ。」と壁を乗り越え、ロミオ王子の嫌味もさらりと躱すようになる。


バッドエンドでは彼が魔女にとりつかれてしまうが、それ以外ではロミオと戦う展開が多い。

覚醒したアーサー王子はまっすぐで男前な頼れる存在となり、生徒達の間でもたちまち人気者になる。


勿論女子生徒にもモテ始め、主人公は周囲の女子に疎まれるようになった。

……学校では身分は関係ないと言っても公爵家によくやるよなぁ。

学園祭のイベントでは、距離を置くべきだと単独行動をしていたところ、嫌がらせで水をかけられ、突き飛ばされてしまう。


足をくじいて動けない主人公を、水をかけてきた女子生徒はみっともないと笑い、周囲は関わりたくないと見ているだけだ。

「みっともないのはどちらだ?」

そんな言葉と共に、困り果てた主人公の元に颯爽と現れるのがアーサー王子である。

王子は主人公にマントをかけ、立てない事を察すると抱き上げる。

お姫様抱っこだ。

絵に描いたようなかっこいい王子様展開。

ここで主人公を守り相手を言い負かす展開はスカッとする。

アーサー王子のイベントでも特に人気のエピソードだ。

その後二人はまた一緒に行動するようになり、兄……暴風の魔女に共に立ち向かい勝利するのだ。


アーサー王子は主人公と同い年なのだが、弟属性持ちだからか『年下の男の子感』がすごい。

「あんたと一緒で嬉しい。」とか「お揃いがいいな。」とかドストレートに甘えてくる。

闘技会でペアを決めるときの「俺にしとけ、俺は頼りになるぞ。」(ドヤッ)がはちゃめちゃに可愛い。

「俺を選んで正解だっただろう?」(ドヤッ)も可愛い。

頭なでなでしたい。



正直ハルトの次に好きなキャラだ。

ハルトは人生の推しなので歴然とした差があるけども。


ちなみにハーレムルートであってもアーサーは覚醒する。

他のルートでは流石に自信のない男の子のままだが。



……自信をつけさせるのであれば、少しは力になれるかもしれない。

主人公もといクラリスが転校してきたら検討してみよう。



「ぼんやりと人生を浪費して……、俺はなんて駄目なやつなんだ……。」


「ゆっくり休むのも人生には必要ですよ。慌てない、慌てない。」



さて、あの二人の様子はどうか。

残り二人の攻略対象の情報収集、クラリスが転校してくるまでに集めておかなくては。




ストックなくなったのでここから更新はゆっくりになります~。

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