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Duct35 ダクトテープと連係攻撃

 俺はセシルと骸骨野郎エネジスの間に割って入り、エネジスの虚無の眼差しをセシルの代わりに受け止めた。

 異形の戦士を目の前にしても不思議と恐怖心は湧いてこない。

 今は怒りの方が強い。


「俺が相手だ!」


 たんかを切ると、エネジスは「ほう」と感心したような声を上げた。


「勇者殿は戦いを嫌っていると聞いていたが、実際は好戦的なようですな。結構な心意気! ただし、我が輩には姑息こそくな目隠しも口封じも通用しませんぞ。なにせ、目も肺もありませんからな」


 エネジスは歯をがちがちと鳴らしながら高笑いした。

 明らかに嘲笑している。


「こいつ!」

「待て、リョウ! 挑発に乗るんじゃない。単騎で突っ走っては相手の思うつぼだ」

 

 グラが俺の腕をつかんで止めた。


「エネジスは六将軍筆頭。悔しいが私の実力では勝てない。リョウとて1人では同じだ。私とリョウ、そしてセシルの3人で戦うんだ」

「魔王様を裏切り、人間の味方をするとは恥を知れグラスネージャ。誇り高き氷女族も地に落ちたものだ、母上や姉上もさぞお悲しみだろう」

「もはや、あれは母上でも姉上でもありはしない。エネジス、それ以上の侮辱は許さんぞ」


 グラがキッと深緑の瞳をエネジスに向けた。


「勝ち気な性格は変わっていないようだな。まことに結構! さあ、遠慮せずに3人まとめてかかってこい。相手に不足はない。六将軍筆頭として全力でお相手いたそう!」 


 俺とグラが同時にセシルを見た。

 セシルは強い瞳で俺たちを見つめ返してきた。


「リョウ様、戦闘の前に一つだけ確認したいことがあります」

「なんだ?」

「本当にエネジスと戦っていいんですね? それは、きっと勇者にはなりたくないというリョウ様の思いに反します」


 なんだ、そんなことを悩んでいたのか。

 律義なセシルらしいといえばセシルらしい。


「あのな、セシル、よく聞け。俺は自分から厄介事に飛び込みたくないと言ったんだ、今回のように相手からやって来た厄介事は全力で排除する。俺の平穏な暮らしを守るためにな」


 俺はセシルを安心させるために笑みを作る。


「それに、社畜っていうものは、普段は愚痴ばかりでも、やらなきゃいけない仕事はしっかりとこなすもんなんだ。社畜の名前は伊達じゃないぞ」 


 セシルは少しだけ頬を緩めるとコクリと一度だけうなずいた。

 どうやら俺の言葉を、緊張をまぎらわすための冗談と受け取ったようだ。

 本当のことなのにな……。

 

 まあ、いい。とにかく、これで俺たちの意は決した。

 俺たち3人はあらためてエネジスと対峙する。


「いくぞ骸骨野郎! ダクトテープの万能性を思い知れ!!」


 俺はスキルを発動させ、厚さ4メートルのダクトテープの巨大な壁をエネジスの前後左右、そして上方に出現させた。


「押し潰れろ!」


 五つのダクトテープの壁をエネジスに向けて一気に放出する。

 壁の厚さは4メートルで、エネジスの剣の長さよりも長い。

 つまりは、奴の剣技では俺のダクトテープの壁を分断できないはずだ!


「こんなに心躍る戦闘は久しぶりですな!」


 超高速で接近するダクトテープの壁の包囲網の中で、エネジスがわずかに背を曲げたのが見えた。

 次の瞬間、奴の背中から4本の腕が伸び出てきた。

 それぞれの腕にはやはり大きな剣が握られている。

 これで奴の腕は6本!


 エネジスは6本の腕を頭上に掲げ上段の構えを取ると、間近に迫ったダクトテープの壁に向かって一斉に振り下ろした。


 エネジスの一撃を受けたダクトテープの壁は、見事に真っ二つになり。

 その衝撃で壁そのものが崩れ、四散していく。

 奴は斬撃により、剣の届く範囲以上の物も切れる能力があるようだ。

 なるほど、先ほどの四方からのネットをぶった切ったのもこの能力か!


 壁による圧死作戦は失敗!

 だが、奴に剣を振り下ろさせることには成功した。

 剣士の弱点、それは、剣を一度振るえば、それを振り上げなければ次は同じ攻撃ができないということだ。


「冷撃よ我が下僕として敵を滅せ……白狼咆哮!」

 

 ダクトテープの壁が切断された直後、間髪を入れずにグラの呪文詠唱が完成する。

 氷でできた6匹の狼たちが、鋭い牙を青白く光らせながらエネジスに向けて殺到した。


「無駄ぁ!」


 エネジスが振り下ろした6本の腕を、斜め上に向けて一気に突きだした。

 その突きは1剣ずつ確実に氷の狼を捉え、衝撃によって氷の狼たちが霧散して消えていく。

 

 そうだ、腕を振り切った剣士には突きによる攻撃が残されている。

 しかし、これでエネジスはその一手も失った!


「覚悟!」


 空中にきらめく氷の粒の中を、セシルとともに1本の光の線が走った。

 エネジスに足さばきをする間を与えない速さ。

 そのセシルの剣の軌道の延長には、エネジスの首があった。


「甘い!」


 エネジスが伸びきった6本の腕をセシルに向かって一斉に振った。

 足さばきが間に合わずに突きの連続技が奪われた剣士に残された最後の1手、横なで斬りだ!

 しかし、その腕に握られた6本の剣は、セシルに届く寸前にわずかに動きを止める。


 俺のダクトテープとグラの氷の魔法によって、エネジスの腕と腕をしばりつけ、動きを封じたのだ!

 だが、エネジスはその豪腕を持ってして、ダクトテープも氷の魔法もすぐに引きちぎってしまう。

 ダクトテープと氷の効果は一瞬だった。

 しかし、それは、セシルにとっては十分な間だった。


 斬!


 セシルの剣と身がエネジスの背後に降り立つと、エネジスの兜首がゴトリと地面に向かって転がり落ちた。


「よしっ!」


 俺は握りこぶしを作る。

 俺とセシル、グラの以心伝心による連係攻撃が見事に決まった!

 これは超気持ちいい!


「リョウ様、まだです!」


 しかし、セシルは緊迫した声を上げた。

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