Duct36 ダクトテープの新たな力
「今のは斬ったのではありません! 斬らされたのです!」
どういう意味だ?
俺は首をかしげながら、地に落ちたエネジスの兜首をもう一度見つめる。
その時、エネジスの兜首に向かって、何者かの足が振り下ろされた。
「どうして動いているんだ!?」
頭を失ったエネジスの体が独りでに動いていた。
そして、自分の首を蹴り上げたのだ。
その首は、元にあった場所に向かって放物線を描いた舞い上がる。
――ガチリ。
金属のギアを合わせたときのような無機質な音が響いた途端、聞き覚えあのある渇いた笑い声が白黒の顔から聞こえてきた。
「惜しいですな、セシル姫。我が輩の首を獲るのであれば、骨を砕かねばなりませんぞ。骨は斬っても無駄であると、父上と我が輩の戦いを見ていたあなたならば知っているはず。ああ、失礼。父上と同様に我が骨を砕く剣技を持ち合わせていないのですな」
巨大な骸骨戦士が再び、先ほどと同じ姿で俺たちの前に立っていた。
「それにしても結構な戦いでした。カナタ城の殲滅戦の際、ワザとあなたを逃がしておいて正解でした。楽しませてもらった。しかし、お遊びもこれで終わりです」
エネジスはそう言うと、右側の1本の剣で上空を指した。
そこには、先ほどまで空を埋めていたワイバーンの大群が姿を消していた。
「敵直下への降下作戦を中断し、わずかに後退してから降下するように指示を出しておきました。今ごろ部下たちはワイバーンから降り、森の中で陣形を整えているところでしょう。じきに、ここに攻め寄せてきます」
なるほど、将軍が自ら敵陣へ単騎駆けした理由は、味方が降下する時間を稼ぐためだったのか。
俺たち3人をまとめて相手にすると宣言したのも、そのためだ。
己の剣技、戦闘力への絶対的な自信がなければできない作戦。
「さて、勇者にセシル姫、裏切り者よ。3人総掛かりでも我が輩に勝てなかったのに、さらに魔王軍の精鋭90人を相手にできますかな?」
エネジスが再び嘲笑した。
「貴公らにできることは、一つだけです。魔王様のために絶望して死ね!」
その時、森の奥から木々を揺るがすようなときの声が上がった。
魔王軍がこちらに近づいて来ているようだ。
セシルとグラが血の気を失った顔で森を見つめた。
絶望的状況とは、まさにこのような場面を指すのだろう。
しかし、俺の気持ちは穏やかだった。
小さい頃にテレビにかじりついて見ていた戦隊シリーズやライダーシリーズ、そして中学生のときに熱中した異能バトルもののラノベを思い出していた。
ああ、そうだ、まったくもって小さい頃からずっと疑問だったのだ。
――どうして、物語の悪役は戦闘の途中に、自分の弱点を自ら語るのだろうか?
今までは、それは物語のご都合主義のせいだと思っていた。
しかし、違うのだ。
実際は奢りのせいなのだ。
そして、俺は知っている。
この奢りをみせた悪役たちの末路を。
――ダクトテープを信じろ。
今日、初めて神様の声が脳内に響いた。
言われるまでもない。
俺のダクトテープは万能で最強だ!
「おい、骸骨野郎! お前の負けだ!」
「貴公は自分たちが置かれた状況がわかっているのか? それとも、あまりの恐ろしさに気が触れたか?」
「気が触れたのはお前だよ。かわいい部下たちが到着する前に無様に死んで、ただの屍に戻れ」
「黙れ!」
エネジスが俺の方を向き直ると、6本の剣を振りかぶってみせた。
俺と奴の距離は約15メートルほど。
「部下たちと一緒になぶり殺しにするつもりだったが、気が変わった。今すぐ殺してやろう」
エネジスが俺に向かって一歩を踏み出した。
すると、奴と俺との間にセシルとグラが立ちふさがった。
「リョウ様、ここはわたしたちが戦います。その間に、フィアさんを連れて逃げてください」
「ということだ。リョウ、ぐずぐずするなよ。もって5分ぐらいだと思っておけ」
セシルがあくまでも穏やかに、そして、グラはいつもにように少しおどけ調子でそう話した。
2人が俺を思う気持ちは嬉しいけどさ。
俺が2人を置いて逃げるわけがないだろう!
「2人ともどいてくれ。俺が1人で戦う」
「でも……」
「ダクトテープを信じろ!」
「は、はいっ!」
セシルがグラの腕を引っ張って、横方向へと大きく跳び退いた。
「ちょ、リョウのダクトテープはあいつに効かなかったじゃないか! どうすんだよ!」
「グラスネージャ! ダクトテープを、なによりもリョウ様を信じましょう」
セシルがグラに柔らかくほほ笑みかけた。
いつもの笑顔だ。
「くっ、わかったよ! 信じるよ! リョウ、負けたら許さないからな!」
グラが俺に向かって怒ったような声を上げた。
でも、その口調には激励の意が込められていると俺にはわかっている。
「勇者殿はとんだ愚か者のようだ。3人がかりで勝てなかったのに、1人で我が輩に勝てるものか!」
エネジスが六つの腕を前方に突き出すと、その剣先を一点に集中させた。
六つの剣による同時突きによって、一気に俺を屠ろうというわけだ。
「ダクトテープ!!」
俺はスキルを発動させる。
イメージするのはネットでも壁でもない。
ダクトテープを固く固く丸め、密度と強度を極限にまで高めた直径9ミリの弾丸だ。
密度は質量を生み、質量は力を生む。
骨を砕くっていう言葉で思い出したことがある。
あるアメリカ人が言ってたぜ!
ダクトテープを高密度でガッチガッチに固めれば砲弾の代わりになるってな!
そして、俺が出現させたダクトテープの弾丸の数は1万発。
これを敵の周囲に隙間無く浮かべる。
「なんだ、これは!?」
エネジスが己の周囲を覆う灰色のカーテンにいぶかしげな声を上げた。
「骨を砕けば死ぬんだろ? ならば、完膚なきまでに粉砕してやる!」
俺はダクトテープの弾丸1発1発に高速の回転を与える。
回転こそは破壊の力の源だ!
この高速回転が、今までの俺の攻撃にはなかった破壊の力をダクトテープにもたらす!
――ギュウウウン!
1万発の弾丸が悲鳴を上げるように空気を切り裂きながら回転速度を上げていく。
そして、回転がピークに達したとき、弾丸のケツに爆発的な推進力をくれてやった。
「砕けろ!!」
存分に力をためこんだ1万発の弾丸が敵に向けて突進する。
ダクトテープの弾丸の一斉射撃!
その速度はもはや音速に近い!
「ぬっ!」
エネジスは6本の剣を周囲に振るおうとしたが、とても間に合わない。
ダクトテープの弾丸はエネジスの剣を水あめのように貫いていく。
そして、1万発の弾丸がエネジスに達した瞬間、その身体は一瞬にして木っ端みじんに破壊された!
全ての弾丸が轟音を上げて大地に着弾。周囲に壮大な土煙が上がった。
その土煙が風に吹かれてなくなると、そこには、ただの白い粉となって崩れ落ちたエネジスの無残な姿があった。
「やったあ!」
「すげえ……」
俺の耳に届くセシルの歓声と、グラの感嘆の声。
そして、もう一陣の風がエネジスの骨の粉を吹き飛ばす寸前、確かに奴の声が聞こえてきた。
――結構、結構! 見事なり勇者殿。だが、それでも魔王様には敵うまい。
エネジスの満足げな高笑いが風に吹かれ、消えていった。




