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16.疑似餌8

 2話投稿しています。前話未読の方は前からお読みください。

 今話で『疑似餌』終わりです。

 宜しくお願いします。


 最後の言葉回しを少し加筆しました。特に違いはないです。

 ヨウコさんが、くふふ、と含み笑いをしている。見上げて首をかしげると「珍しいものが見られたよ」と、わかむうを見てにやにやしていた。


「螺旋ちゃんの力に(おび)えて、皆、三竦みの大群の裾を狩るしかできなくって。周囲の統率に向かってた実動部隊や、ここの補助に戻ったわたしが動けるようになるまでの彼の落ち着きのなさったら、」


 ヨウコさんはぷくく、と頬を膨らませて楽しそうに笑う。


「そしたら、徐々に螺旋ちゃんの力が弱まっていくでしょう?三竦みも減ってはいたけど、皆まだ螺旋ちゃんの側まで行き着けないし。あの人、平静なふりして無茶苦茶狼狽えてたよ!ここの指揮を放っていつ飛び出ていくかと、皆ヒヤヒヤ・・・」


「ヨウコ殿、楽しそうだなあ?」


 朱い霧が・・・。わかむう、笑顔だけど威圧がパない!



 青くなったヨウコさんはお口にチャックの素振りを見せて、私を差し出した。私は生け贄か!


 私を受け取ったわかむうが朱い霧を引っ込めたので、皆ほっと息をついた。わかむうは私を片手で抱っこして、私の頭の上両端に結ばれたちょろりん癖毛を指でいじっている。


「某は約束を違えたりしない。ただ、そなたの安否が少々気掛かりであった。今後はこのような無理はしてくれるな」


 もっと皆を頼れ、と言われた。約束って、大地をお願いしたことか。ご迷惑、ご心配お掛けしました。


「わかむう、大地を守ってくれてありがとう」


 見上げると、わかむうは柔らかく笑っていた。


 わかむうモヤモヤの後、ようやく狩に加わった実動部隊とヨウコさんが運動公園の山を捜索し、ちょうど倒れる私を見たようだ。三竦みを蹴散らしながら私を確保して、他の妖怪に見られないように布にくるんだ。実動部隊の小鬼がソレ()を抱えて妖狐になったヨウコさんの背にのってココに駆け戻ったそうだ。


 ヨウコさんや組合員達にたくさんお礼を言いながら、私は気になったことを呟いた。

「私さあ、ねむらないたち(・・)ナンだけど、いっきに力ちゅかうとたおれりゅんだね?」


 わかむうにほっぺたをつままれた。ひてて。


「急激な力の消耗は存在の消耗でもある。妖怪であろうと肉体及び精神に響くぞ。永く居るのに知らなんだとは」


 そんな力使うことないもんね? え、皆あるの? そう、弱い時に経験するの。へぇ~。


「誠にけったいな存在だな、螺旋のは」


 自分でもどういう存在かわかんなくなるトキあるよ。


「何胸はってるんだ?」


 大地が手洗いから戻ってきた。顔つきが普通になっていて、胸を撫で下ろした。


「私という存在について自慢?」


「螺旋の存在?・・・ウチの座敷童子は凄いよな」


 大地の素直な称賛に、一瞬付いていけなくて私は目を(まばた)いた。言葉を理解して顔がじわじわ熱くなる。私、大地に凄いって言われた!?


「螺旋ちゃん、顔真っ赤!」


 しばらく悶えてるうちに、周囲はすっかり日が傾いている。空と地の境が藍色を帯び始めている。()()(とき)が始まる。


「大地殿、見晴らしの良いところに急ぐぞ!」


 わかむうの声に、ハッとなった。そうだった!今日、この時のために皆頑張ったんだから。


「ゆうぐ!せの高いみはらしのある、すべりだいがありゅよ!」


 皆で遊具のある場所に走る。公園の敷地内だからすぐに着いて、滑り台に登った。立てる場所は狭いから、大地と私を抱っこするわかむうに、ヨウコさんでもういっぱいだ。他は思い思いの部分にしがみついている。滑り台は妖怪で山のようだ。


 公園自体が少し丘になっているから、街がよく見渡せる。間に合ったみたいだ。


「話していた、『端午の節句の自浄作用』が始まるぞ」


 音の消えた一瞬に、静かなわかむうの声が響く。そして、ずずず、とも、ぞぞぞ、とも聞こえる、重いものを引き摺るような音が、遠くから波のように寄せてくる。


「虫は『親の欲』。虫は子に(たか)ると話したな。ならば、子に似せた別物を用意したら?・・・それが欲から子を救う、端午の節句の始まりだ」



 ぞぞ、ぞああああぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ



 町の一角から、黒い帯が勢いよく空に登る。


「な、に・・・」


 息を飲む大地の目の前、町のあちこちに色々な帯が伸びる。色も太さもバラバラだ。その身はよく見れば、粒々としたナニかの連なりだ。残り僅かな夕日を浴びてツルツル、てらてらと光を返すソレは・・・。


「あれ、全部虫か!?」


 大地の叫びにわかむうが返す。


「もっと、先を良く見よ」


 目を凝らすと、帯の先端に丸みをおびたナニかが付いている。はっ、と大地が息を吐いたのが分かった。身を乗り出し必死に帯を凝視している。


「子供?!の、顔が・・・違うのか?」


「アレは、こいのぼり、だよ」


 私が答えると、大地は呆けた顔をした。


「魚の顔の凹凸は、人のソレと似ている・・・からか、たまたま身近な魚にしたのか定かではないが、あれは(こい)が元だ。子に似せて虫に喰らわせ、身に纏わせたまま空に登る。そのまま逢う魔が時に開く狭間の世に連れ込むのだ。あとは狭間の妖がそれらを喰らって仕舞いだ」


 要は疑似餌だな、とわかむうが言う。



 格のある家の主が子を思い、虫を祓う術を腕の立つ者に頼んだ。その効果は確かで、真似する者が増えた。何せ、簡単だったから。鯉に似せた物を棒に付けて飾ればよい。子供向けの縁起物として瞬く間に広がり、それならばと飾る日が定められた。それが端午の節句のおこり。



「鯉は龍になり空に登る・・・?」


 そう言われれば、アレ、龍に見えなくもない?かな?


 大地の呟きに頭をかしげる。見渡す景色は、色とりどりの龍が舞っていた。きらりきらりと鱗を煌めかせ。

 空が宵闇に沈むまで、何十と何百ともいえる龍を見送った。


「仕組みはよくできているものよ。・・・綺麗なものほど含みがある。そして思いも過ぎれば欲深さになる。身につまされる日よな」


 うおおおおおぉん、と、恐らく、天に昇る最後の鯉を見て、妖怪達が歓喜の声を上げている。地を揺する怒号が響いて、わかむうの声は掻き消された。聞こえたのは抱っこされてた私くらいだろう。








 わかむうとヨウコさんがナニやら話し込んでいるけど、二人に声をかけて公園を後にした。

 やや放心した大地を連れて、暗い中を帰宅する。

 連れて、てゆか、私は大地の背にしがみついて帰った。私に重さはない、ハズ。重いとも首が辛いとも言われなかったし。



 玄関には先代(大地母)が待っていた。大地をみて、ほっとしたように息をついて、ご飯できてるよ、と声をかけた。


 家の中は、もうカーテンも目張りも外され、いつもの様子に戻っていた。


 居間はやっぱりいつも通りの風景で、見慣れた机に、茶碗に皿、箸・・・暖かい食卓だ。箸を進めるウチに、大地もいつもの調子が出てきたようだ。



「あら、今日は暑かったから・・・」


 先代がニュースを見ながら喋っている。今年初の夏日になり、各地で熱中症とみられる症状で倒れる人が相次いだ、と聞こえた。大地が目線をテレビに向けたまま、


「母さん、」


挨拶するみたいに呼ぶ。先代は「どうしたの?」と言いながら目を丸くしている。


「・・・うん、何でもないわ。あんたの息子は、今日一日、見て聞いて深ぁく考えて過ごしたんだよ」


 不思議そうに大地を見ながら、へぇ~生意気言うね、と先代は笑っていた。


 こうして見ると大地は先代にそっくりだ・・・。大地の背中にしがみついたまま、二人の声に耳を傾けて私はまた微睡みにのまれていった。







閑話挟んで新章に行きたいな、と考えてます。

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