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17.煩う

4/22に投稿したものです。時系列に合わせて疑似餌後に並べ替えました。

エロはないです。

 幾つも積み重ねられた箱のせいで本来の広さがなくなり、やや圧迫感のある屋根裏部屋で私は声を上げる。


「あっ、やりすぎ・・・!そんなトコまで、・・・ぅん、あっ・・・!」


 大地の手が止まる。大地の額にはうっすら汗が滲んでいる。顔はやや上気し、半分伏せた目で私を見つめた。ちょっと色っぽい。


「・・・続きは?」


 急かした私は頭を(はた)かれた。お(ふだ)ではたくなよぅ。


「っ。ナニすんのっ」


「なんか、とてつもなく紛らわしいんだよ!」


 ナンなのさ!


 私は唇を尖らせて、最後の仕上げを待つ蛇の目傘の胴を撫でる。今日は日曜日で、朝から大地と蛇の目傘を仕上げようと試行錯誤しているのだ。


 今は、最後の最後、傘の頭に付ける頭紐の長さを決めていた。この微調整が大地は苦手みたいだ。札にこめる力と思い浮かべるモノが釣り合わないのだ。長すぎたからと縮めると、詰まりすぎてしまう。

 大地からの『奉納』を具現させながら、もどかしさに声が出てしまっても仕方ないでしょ。


 ・・・まあ、力加減とか私も苦手だけどさ。


 大地は奉納台に両手をついて、ああもうっ、とこぼしながら立ち上がると、「今日はあっついな!窓開けるぞ」と、シャツの胸元をパタパタさせながら窓辺に向かった。


 確かにまだ午前なのに、部屋の空気は暖かさが強い。『天気予報』によると、今日は『夏日に近い陽気』になるらしい。春はもう終わったのか。


 首もとを涼やかな風が通る。外は風がある分、室内より涼しそうだ。


「いー天気だなあ」


 あ、猫通った、と窓から通りを見下ろして大地がいう。屋根裏の出窓は低めについている。私が開け閉めしやすいように、家を作ったときの当代が考慮したんだ。出窓のカウンターには長座布団が敷かれていて、クッションが転がっている。


 大地がしているように、横壁に背中を預けて座ってもいいし、私だったら横になれるから、完全に寝てしまってもいい。・・・寝ないけどね。必要ないから。寝ないけど、横になったまま不確定な時間纏まりのナイ思考の海をさ迷う時もナイことはない。



 蛇の目傘を作るのは本当に大変だった。良く考えたら、私が具現させるモノはいつも実物ありきだったから。消えてしまったお気に入りの蛇の目傘は、私に奉納されたモノじゃない。昔、知り合いに見せて貰って、その場で具現させた(コピーした)モノだ。奉納無しに触れられる珍しさもあって、ついやった。


 パクり(窃盗)じゃないよ!

 いいよ、て言われた後に貰ったから!

 御揃いだねぇ、て喜んでたし、あのヒト。


 ・・・だから、屋根裏の荷物(変なモノの山)には無い。無いモノを出すなんて、初めてのことだった。


 お札に込めた想いだけで変化させられたのも初めてだけど。


 大地の横顔を見て思う。服にしろ傘にしろ、まともな変化にして欲しい、と。まあ、服は私に可愛く似合ってるから許す。


 で、大地も私も、蛇の目傘なんて知識に無かった。わからんモノを言葉で説明したことがあるか?アンコのかかった串団子を、『アンコ』とか『串』とか『団子』とかお互い知らないとして説明してみよう。


「黒い物ののった三つの丸い物体に、細い棒が刺さっている」


 もはやだんごじゃない。むしろたこ焼き?



 そう、蛇の目傘試作一号はがっかりなモノができた。・・・なんていうか、傘の形をしていたけどちょっと寒気のするナニかだったな・・・。その後私が記憶から無理矢理具現させた試作二号は殺気さえ漂うモノだったから、こまとしぃが逃げ出した。


 正しく伝えるにはより細かな情報が必要だ。


 私と大地は勉強した。蛇の目傘について。大地が昔の生活用品が書かれた本を学校でかりてきて、家ではインターネットで調べた。部品の名称に画像に、使えそうなページは印刷した。判りにくい部分は、大地が職人に電話して聞いていた。


 そういえば、勉強に飽きた私が「実物を手に入れたらいいんじゃね?具現が楽だし」と軽く言ったら、マジ勘弁して下さい!と大地が土下座した。ユキチというモノが五人は居なくなる、みたいなことを(つぶや)いていた。今の世は、蛇の目傘を得ようとするとヒトが死ぬのか・・・?


 とにかく、細部まで(こだ)わった。大まかな素材は知っていたけど、細い骨や骨を繋ぐ糸、上下はじき、手元ろくろ、・・・調べた当時の材質と私の覚えてる質感とかから当たりをつけて決めていく。


 毎日、調べる、決める、念じる、具現・・・の繰り返しだった。資料があってもモノが無いんじゃ、難易度が違う。でも、作る度にキチンと改善する大地のイマジネーションには脱帽だ。


 基本の蛇の目傘を具現できるようになったときは、結構な達成感で、もういいカナとか思いかけた。それはこまろと大地が許してくれなかったけど。お二方とも決めたらやりぬくヒトだもんね、似たモノ同士に挟まれて逃げられなかった。しぃまろは近くでごろごろしていたな。


「さて、仕上げるか」


 大地が戻ってきて、奉納台の前に胡座をかいて座る。


「せっかくだから、ちょっと遊びを入れていいか?」


 そう言って大地はお札に手を触れて目を閉じる。大地の念が流れるのにつられて、私は傘を具現させる。白黒の渦がぎゅぎゅぎゅ・・と凝縮していく。


 完成間近な蛇の目傘。胴は絹と紙の羽二重、中入りに灰色の輪がみえる。さらに全体は濃い灰色だけど、良く見ると中入りとは別で、頭から軒にやや薄灰色の桃の花びらで渦のような末広がりの帯が描かれている。灰色の濃淡の変化が小さいから気づきにくいけど。


「・・・?さっきまでとナニが違う?」


「あぁー、灰色になったわ。も一回な!」


 ん? んんん? ちょっと、うわ、念が濃いって!


 流れてくる針のような念に圧されて、慌ててまた傘を具現する。だいぶ思い入れが強い念だ。痛いような熱いような、暴れる白黒渦を逃がすように傘を作り上げて、ふううと息をついた。


「もう!ビックリするじゃん」


 ぶーと口を鳴らすと、満足げな大地の顔が見えた。


「ナニ・・・」


 蛇の目傘を閉じて下ろして、絶句した。

 傘の頭紐が、薄紫にも見える桃色の捩花(ネジバナ)になっていた。


「いっこくらい色付きでもいいだろ?」


 大地はイタズラが成功したとばかりに得意気だ。でも、わかってない。どんなにコレが凄いことなのか。

 大地は頭紐を捩花にするコトが狙いだったんだろう。色が付かなかったからやり直してうまくいったと。


 私の持つ存在の色は、白と黒。今までどんなに他のモノの気を取り入れても、色が混じることはなかった。(あやかし)なら、まず当たり前のことだ。生まれ持つ色は変わらない。特に私は顕著で、具現する持ち物全て白黒灰色だ。


 これって、食べ物みたいに、私の一部とみなされてナイのかも?と思い、傘を消して、大地の念無しに傘を具現し直す。


 奉納台にモノがある時、元のモノから気を一部貰って具現する。その時は色が付くけど、現物が現存しない場所で具現すると灰色か白黒になる。私の気だけで作るからだな。そうすると、奉納台にモノを置きっぱなしならずっと色付きで具現できるのかな、気の続く限り。


 ・・・できた蛇の目傘の頭にはしゃらりと桃色の捩花が揺れている。


 色が、ててて定着した・・・!?


 にやにやどや顔の大地を気にする余裕もなく、蛇の目傘の気を探る。こういう繊細な作業、苦手なんだけど・・・。





 っあ!わかった。


 細い細い、木綿の糸のような繋がりがあった。私と大地に。

 この蛇の目傘は、大地と繋がっている。あり得ないにも程がある。私と繋げるなんて。


 ふと先月の芽出る宴を思い出す。大地は、形式もなく想いだけで神に応えて貰っていた。わかむうが、古き昔の奉納だと言っていた。


 純粋な、想い。・・・力押しだな。


 だけど、大地がこの世からいなくなるまで、この蛇の目傘は色を付けるだろう。細い繋がりから大地の想いが届く、螺旋らせんの花に。

 小花の連なりに小さく震える指を這わせる。


「完全に戻せなくてごめんな」


 顔を上げると、しょぼくれた大地がいる。


「ずっと、お前元気なかったろ。俺がふざけて、蛇の目をフキにしてから」


 どんなに調べても、私の記憶を元にしても、完全に同じに戻ることなんてナイ。わかってる。消えた時から。


 ・・・気落ちしてるように見えたのか、私。



 蛇の目傘を手に儚く微笑む古い知り合いの姿が浮かぶ。

 ヒトならざる私と対峙して、一ミリも態度が変わらなかった珍しいヒト。あのヒトならば・・・。



「もっと時間をかけて、近付けていくから・・」


「大丈夫!アレはちゃんと覚えてるから。これはこれで、わが子のように可愛いよ」


 嘘じゃナイ。想いだけで作るって、途方もない努力を知ってる。私もだけど、暇さえあれば大地は資料を読み込んでイメトレしてたんだ。足りないと思ったら更に掘り下げて調べていたし。

もう一ヶ月はそんな生活だ。


 何でもナイ顔をしてたけど、キツかったよね。ヒトは相手の心まで大事にしようとするから。私まで気にすることないのに。


 最初は確かに同じモノを作ろうと躍起になってた。だけど、何度も何度も大地と作り損じて、納得できたんだ。あの傘は、今が消える時だった。そして、私は覚えてる。・・・それでいいんじゃないか。 


 うん、ほら、(ふき)傘も案外楽しかったし。この蛇の目傘は苦労した分、強いモノになった。大地は無意識にしたのかもしれない。だけど、コレは、私の力になる。


「いいモノを、ありがとう」


 私が笑っても、大地の顔は晴れない。


 うーん、どうしたもんか。ほんとにもう気にしてないんだよね。妖は基本、感情に疎いというか、あんまり思い煩うコトないんだよねー。熱しやすく冷めやすいし、他を気にしないし。


 うーん、うーん、・・・あ、


 私は悪い顔を作った。ごすろり童女の小悪魔顔だ。


「じゃあ、ちょっと、散歩に付き合って」


 大地がビクッと肩を揺らした。


「般若みたいな顔すんな!」


 あれ?



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