エピソード9.
「七瀬君、」
「っ世良さん。」
一番想定していなかった声を聞いて、七瀬は一瞬だけ驚いたようだった。
夏休み、椿、純恋、西村、七瀬の四人は、待ち合わせをして、夏祭りに行くことにした。
「ごめんなさい、待った?」
椿が待ち合わせ場所に着くと、既にそこには七瀬の姿があった。
「いや、そんなことない。........鏑木さんと一緒じゃないんだね。」
「うん。準備に時間かかってるみたい。」
純恋と、一緒に待ち合わせ場所まで行く約束をしていた椿だったが、純恋から遅れるとの連絡がきて、先に向かっていた。
「...西村君は.....」
「あー、あと10くらいで駅着くって、連絡きました。」
「.....そう、」
偶然、二人きりの時間ができてしまった。
この気まずい時間をどうにかしようと七瀬が口を開いた。
「先、回る?」
「.........うん。」
そうして少しの間、二人きりで回ることになった。
「世良さん、お腹空いてない...?」
「....私は大丈夫。七瀬君の欲しいものがあれば、待ってるから、買ってきていいよ。」
「僕も、大丈夫....」
会話はぎこちなく、すぐに終わってしまうが、不思議と、二人で歩いていることに悪い気はしなかった。
「あっ、七瀬君、ヨーヨー釣りしても良い?」
「うん。」
そう言って椿がヨーヨー釣りの屋台に向かって歩いて行く。
「一回お願いします。」
「はい、300円ね。」
「ありがとうございます。」
椿は、屋台のおじさんからこよりを受け取り、近くにしゃがんだ。
「一回お願いします。」
「はい、300円ね。」
「ありがとうございます。」
その様子を見ていて、七瀬もやりたくなったのか、椿のすぐ隣にしゃがみ込み、水風船をすくい始めた。
「....」
「....」
少しの間、二人は同じ世界にいた。
「......っ、とれた....」
椿の手には黄色の水風船があった。
その表情は、まるでそれが世界で一番価値のあるかのように見えた。
「はいありがとね。またきてね。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
二人は手に水風船を持ってその場を後にした。
「....」
「....」
「......七瀬君、純恋、ついたって。ちょっとここで待っててもいい?」
「うん。僕も、西村に連絡とってみる。」
二人で歩いていると、純恋から連絡が入り、少し待つことにした。
「椿ー!ごめん遅れちゃってー!七瀬くんもごめんね!」
「大丈夫?走ってきたの?浴衣、可愛いじゃん。」
自分たちが歩いてきた方向から、走ってくる女の子の姿が見えた。
純恋の息を切らしている姿を見て、心配になった椿が声をかける。
「は?惚れるんだが?」
「何言ってんの。....七瀬君、西村君来れそう?」
椿は西村からの連絡を確認している七瀬の方に振り向いた。
すると、七瀬の返事を待たずに、声が聞こえた。
「あっいたいた、ごめんね〜遅くなった。」
声のする方に視線を移すと、西村がいつも以上にのほほんとした顔で歩いてくる。
「おっ!全員揃ったことだし!行くか!」
「あんたもさっき来たとこでしょ。」
「へへ、バレました?」
「はぁ、行くよ。」
全員が揃ったところで、純恋が声をかけて歩き始める。




