エピソード7.
「椿ー今日家行ってい?」
「............いいよ。」
「今、間あったよね。」
「そ?」
今日は、午前授業の日。そんな日は頻繁に椿の家に行く。
初めて椿の家に招いてもらったのは、小学5年生の時。椿の家の近くの公園で遊んでて、半強制的に連れて行かれた。あれがあったから、きっと今でも関係が繋がっているのだろう。
そんなことを思いながら自宅で着替えを済ませ、椿の家へ向かう。
「ピンポーン」
「いらっしゃい。上がって。」
いつも思うが、おさげでメガネをつけてる椿はなかなか見慣れない。さらに部屋着には、かわいいパイナップルが描かれている。
「お邪魔しまーす。あ、お菓子持ってきたよ。」
「ありがと。出すね。そこ座ってて。紅茶で良かった?」
「うん。」
そうして椿は台所に向かい、紅茶とコーヒーを淹れる。
「はい、紅茶。」
「ありがと。」
純恋は椿からコップを受け取り、両手で包んでふーふーと冷まし始めた。
「ちょっと待ってて。」
「はーい。」
「ごめん。最近更新してなかったから。」
「ぜーんぜん。....続けてんだ、書くの。」
「うん、本読むと書きたくなってくるんだよね。」
椿は高一から、小説の投稿を始めた。
どんな話を書いてるのか、私にはさっぱりわからない。読ませてもらったこともない。
だけど、それでいい。椿がちゃんと、自分の意思で、言葉で、物語を綴ってくれてるのなら
「ほんと尊敬だよ。」
「私はやりたいことをやってるだけ。それも、背中押してくれたのは純恋でしょ。」
椿は、なかなか自分の本心を見せたり、話したりしてはくれない。だから、あの時も、自分の気持ちを一生懸命抑え込もうとしていた。
というより、自分の気持ちに気づかないようにしていたのかもしれない。
一度だけ、椿と喧嘩したことがある。いや、喧嘩とも言えない、私が、自分の思いを押し付けた時があった。
『椿はさ、何になりたいの?』
『.....何もないよ。』
『じゃあ、何がしたい?何がしてみたい?』
『..............笑わないでよ』
『笑うわけないじゃん』
『........小説を..書いてみたい。』
『......そうなんだ。』
『うん。』
『........それじゃあ小説家になるの......?』
『いや、小説家にはならないよ。』
『...え、なんで...?』
『私に小説を書く才能はない。ちょっと妄想するのが好きなだけ。全てを諦めて、生活を苦しくしてでも小説に打ち込む覚悟はないんだよ。』
『....書いてみたら、売れるかもしれないよ?』
『その可能性は限りなく0に近いでしょ?それに、小さい頃から小説家を目指して努力してきた人だってたくさんいる。そんな人たちと戦えるほどの努力は、私にはできないと思う。』
『そんなこと、ない。』
『そんなことあるよ。』
『そんなことない!椿は、いっつもそうやって自分のこと押さえつけてんじゃん!私の知らないところでも飲み込んだ言葉はたくさんあるでしょ!?家族にだって、見せてないんでしょ!?本当に椿のやりたいことを、椿のやりたいことだけを、やればいいじゃん。人の目なんて気にしないで。』
『.......ありがと、純恋。』
今ではもう、どんな思いでその言葉を椿にぶつけたのかは思い出せない。
思い返してみると、恥ずかしいし、きっと椿にとっても迷惑だったと思う。
だけど私は、椿に小説を書いていて欲しい。今でも、その思いは変わらない。




