エピソード5.
「ねえ。今日時間ある?」
「え、」
「ちょっと、付き合って欲しいんだけど.....。」
「ああ、わかった。」
終礼が終わり、帰る準備を整えていると、世良さんに声をかけられた。
何に付き合わされるのか、見当もつかない。
「どこにいくの?」
椿は少し笑って答えた。
「本屋さんだよ。」
本屋さんなら学校を出てすぐのあそこだろうか、それとも違うところなのか。
僕は色々な思考を巡らせながら世良さんについていった。
駅の改札を通り、二人並んで電車を待った。
「あの本、読んだよ。『海月のコエ』。七瀬君も垣瀬リナ先生の本好きなの?」
「.....う..うん。そう、だね。」
「そっか。」
急に話しかけられたのでびっくりして変な返事になってしまった。
僕はこの会話を途切れさせないように口を動かす。
「どうだった?」
「うん。優しい話だった。海月が何を思って生きてたのかはわからないけど。本当に綺麗だった。」
「僕も綺麗だと思った。」
そう。本当に綺麗だったのだ。まるで僕の心にいる彼女のようで。そこにいるのに、存在が透き通っていて、見えなくなってしまいそうな彼女のようで。
僕は世良さんをみた。
夕陽に煌る彼女の横顔が幻想的だった。
「ここ、来たことある?」
そこは、学校から二駅離れたところにあるショッピングモールだった。
「僕は、ないかな。」
世良さんの表情からは少しの安堵を感じた。
「ここの本屋さん大きいの。」
世良さんについて、エスカレーターに乗り本屋さんへと向かった。
たしかに、本屋さんは大きかった。学校を出てすぐの書店よりも。
世良さんは、少しだけ瞳をキラキラと輝かせている。宝の山を目の前にした子供のように。
「世良さん、各自で見るってことで良かった?」
「うん。じゃあまた後で。」
そうして僕たちは別々で本屋さんを回ることにした。
中を回っていて気づいたが、外から見るより相当本の数は多く、通路も広く、確かにここは良い。
世良さんが瞳を輝かせるのもわかるような気がした。
ふと、時計を見ると、19時を回っていた。
「時間が経つのは早いな。」
僕は手に持っていた本を棚に戻し、世良さんを探すことにした。
そうして歩いていると、気になるタイトルを見つけた。
「あ、世良さん。」
「七瀬君。」
「そろそろどうかな。」
「うん。そうだね。」
世良さんも時計を見て帰り道へと足を進める。
「本買わなくて良かったの?」
「うん。.....そうだ、七瀬君、」
世良さんはさっき僕が見つけた本を手に取って僕に見せてくれた。
「この本、面白かったよ。」
その本は僕も読んだことのある『甘い煙草屋』という、垣瀬リナ先生の本だった。
「世良さんも読んだことあったんだね。」
「あ、七瀬君も読んだ......?」
「うん。」
「そっか。」
帰りの電車は本の話で盛り上がった。と思う。




