霊感と家族を見つけました。6。
後ろの分からない気配が無くなったのは、ソレから少し経った後だった。
俺は2階のナースステイションの前まで、いつの間にか来ていたみたいだ。
振り返って、今走って来た廊下を見つめるが何も変わった事は無い。
でもまだ、寒気はしていてブルリと体を震わせた。
「危ないよ・・・・」
不意に耳元に声がする・・・いや、したんだ。タクト君の声が・・・?
声のする方へ振り向いてもそこにはタクト君はいないんだけど、確かにタクト君の声で、
「そこはダメ」
ほら、また聞こえた。ダメ、ダメなの?どうして?
俺が声をあげて聞く前に、また何かが後ろで崩れる音がする。
「―――ッ!?」
今度は確かな大きな音だった。
俺はまた反射的に走り出してソレから逃げる。
いけない、さっきよりも大きな崩れる音だった。確かに、危ない・・・頭の中は危険を知らせる警報が鳴り始める。キンキンと頭が痛くなる気がした。
どうしよ?どうしよ?どこにいけばいい?
隣の病棟にいっても音はして、頭は先ほどよりもずっとキンキンして痛くて、また元の病棟に戻って、エレベーターなんて待っていたらダメな気がして、下に行ってしまおうと階段に出たら、下の階から上ってくる転がるような音がして・・・・・・上ってくる、転がるような音・・・・?
上ってくる、うん、確かに階段を転がる様に上る音が確かに、すぐ下から・・・・・
下にはいけない、そう思った瞬間上へと俺は1段飛ばしに上る。
途中の階に出て行く事は考えなくて、1番上まで上って、再び屋上へ飛び出す。
そこに知らない小さな後姿を見つけた。
「お姉さん・・?」
そんな訳ない。お姉さんがしゃがんでもこんなに小さくなれない。
お姉さんみたいに長い髪を後ろで1つに縛って、小さな女の子は俺に背中を向けてしゃがみ込んで、空を見上げている。
俺の声が聞こえたのか、女の子は振り向くと俺と目が合った。
数秒ほど見つめあったのちに、女の子は悲しそうに目を伏せながら笑った。
『パパじゃないね・・・』
女の子の小さな唇が、確かにそう呟いたのを俺は感じた。
パパじゃない?この子はパパを探しているの?
迷子なら可哀そう・・・寂しいんだろうな、泣いたような目をしている。
でも、なんだろう。この子、誰かに似てる気がする・・・・・
「カナ、ちゃん・・・?」
そうだ、あの公園の前の男の人と目元が似ている気がするんだ。
「パパは、来てないみたい?」
女の子はうつむくと、小さくて赤く汚れた麦わら帽子を抱きしめた。
帽子、女の子のカナちゃん・・・・
「カナちゃん、パパ、公園で探してたよ」
「こうえん・・・?」
「そう、あの日パパと一緒にいた公園に。パパはカナちゃんを探してる」
あれ、そういえば屋上に出る前までしていた頭痛がなくなってる。
そんな疑問を持ちながら、カナちゃんと思しき女の子に手を差し伸べる。
女の子は、しばらく俺の手を眺めてからゆっくりと手を重ねた。
あぁ・・・やっぱり手は冷たいんだね。
でもしっかりその小さな手をにぎると、俺の体温が伝わっているのか、ほんのりと温かくなったような気がする。
「カナちゃんだよね?」
再度確認すると、女の子はしっかりとうなづいてくれた。
本当なら、このままあの人の所まで手を引いて連れて行ってあげたいけど、俺は屋上の扉の前で少し悩んでいる。
あの崩れるような音も転がるような音も頭痛も・・・タクト君の声も、屋上に出てからピタリと止まってしまった。
もしかしたら、病院に入るとまた同じ事が起こるのかもしれない。
そうしたら、また俺は怖くなって病院中走りだすかも・・・カナちゃんをソレに巻き込むのはどうかと、今さら思い込む。
「いこうよ」
俺が躊躇していると、しびれを切らしたのかカナちゃんの方から俺の背中を押した。
まぁ、階段を1番下まで一気に降りてしまえばいいかな。
きっと大丈夫と自分に言い聞かせながら、俺は屋上の扉を開いた。
こう良い対策が思いつかなくても、とりあえず意気込んでいざやってみると拍子抜けしてしまう事って意外とあるよね・・・?
まさにその通りで、覚悟を決めて屋上から病院にまた入って、今は1階まで降りて来たんだけど・・・あれはなんだったの?って聞きたくなるくらいいつも通りの普通で何も寒気を感じるような物なんて起きなかった。
そう言えばお姉さんはどこにいってしまったんだろうと思ったら、1階のロビーで腕を組んで何か悩んでいた。
声をかけると驚いていたけど、俺が連れているカナちゃんを見るとさらに驚いた顔をした。
何処で見つけたのか、すごく聞かれたけど屋上でたまたまとしか答えられなくて困った。
お姉さんが飛び出して行ってから、変な音とタクト君の事を、俺が見た物を話しながら病院を出る。
病院前の信号機は赤色で、たくさんの車が通り過ぎて行く。
なんとなく、本当になんとなく、俺は病院の方に振り返ったんだ。
誰かが、見ている気がして・・・
俺が退院した時みたいにさ、ね、タクト君。




