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聞くも謎 語るも恥



 着信、三件。

 メール、二件。


 いわく、「そーじゲンキか?」

 ……柳井くんらしいラブリーな絵文字付き。

 学校側には母さんが病欠の連絡を入れてくれているけれど、その他は誰とも連絡をとっていなかった。ただ単に心配してもらってるのは、すごく嬉しいことだと思う。本当に本当の意味で学校を休んでるんだったら、心配してくれてありがとう大丈夫だよ! くらいの返信をしていただろう。

 ただ、二件目。

「学校終わったらお見舞いに行くな、ミツカと!」

 と、くれば、あたしは準備せざるを得ないだろう。


 逃亡の。





 十夜さんとコタローとも臨場感あふれる遭遇を果たしたというのに、また同じ目に合う気はさらさらない。結果オーライに持ち込むにはリスクが高すぎる。

 なんといっても、十夜さんとコタローはもとの宗二と、妹の存在を知っていた。だからなんとか状況を理解してもらえたんだと思う。けれど、それと真逆に柳井くんと和磨はあたしである宗二しか知らない。こんな姿であったときに、どんなことが起こるのか、怖い想像しかできない。


 と、言うわけでせっかく外に出るなら何か手がかりをと、あたしの行動範囲をあたってみることにする。

 まあ、とはいえ、結局どこまでの知り合いに会っていいやら想像がつかないので、だいたいの人目を避けることになってしまうんだけどね。その中でどんな手がかりを探せと? あたしだってどうしたらいいか分かっていない。

 そんなこと考えていたら、やっぱり事情を理解していくれている人たちのもとへ自然と足が動くわけで。

 気づいたら、十夜さんとコタローが通う高校、つまり過去には田中兄妹も通っていた高校までたどり着いてしまった。


 時間としては、授業は終わる頃だろう。ただ、二人は部活動をしているから帰るにはもう少し時間がかかる。

 待つかどうか思案していたときに、たまたま視線が合ったのだ。校門でヤンキー座りをしていた、赤髪とスキンヘッドに。



「んだあ?」



 心底イラついたような声と共に、ガン飛ばされた。

 反射で、ヒィッと肩が上がる。この対応、明らかに宗二に対するそれじゃないので、どうやら他人扱いされている様子。図らずも一つ確認事項クリア。

 ……しかし、まったくの他人にこんな態度を取るものなのか。



「あの……」



 怖いは怖いが、あたしとしては知らない人間じゃないので、緊張しつつも声をかけてみる。二つ目の事項を確認したい。



「ひ、人を探しているんですが……た、田中そう」

「宗二さんを知ってるのか女!」



 ヒイまだ全部言ってない! なんだこの食いつきっぷりは!

 驚く間もなく、赤髪が俊足をもってして距離を詰めてくるやいなや、肩をがくんがくんと前後に振る。あががが。

 泡吹きそうな勢いに達したところで、スキンヘッドがたしなめるように赤髪の頭を軽くこづいた。



「やめろ、モモ。おい、女」

「うえっ、うう、はい……」

「汚えっ! 吐くなよ!?」



 誰のせいだと思ってんだあんた……! 赤髪野郎のなんともフリーダムな言動に怖さ通り越して憎しみだ。

 口元を抑えて、どうにか踏みとどまると、それを見届けた上でスキンヘッドが大丈夫かと聞いてくる。さすが、前々からうっすら気づいていたけど、こっちの人の方が常識人っぽい。



「おまえ、宗二さんの何だ? どうして探している」

「あの、お二人も……知ってるんですか?」

「ああ、事情があって直接会うことは許されてないんだけどな」



 良かった、ちゃんと宗二を認識している……。

 しかも、近寄るなっていうあたしの一方的なお願いを律儀に守ってくれちゃっているらしい。男ならルールは守るんだぜ、とか赤髪野郎がきらきらした目で宣言している。ふうん、意外と男前なこと言うじゃないですか。なんだかんだ素直ないい人たちだよやっぱり。



「おまえ、宗二さんと親しいのか?」



 関心しているところ改めて聞かれて、迷いながらもとりあえず頷く。すると、赤髪にやっぱり肩を掴まれぐるぐると前後左右に振り回される。それをさっきと同じ流れでスキンヘッドが止めて解放されて、って何度やるのこれ。コントなの。



「本当だろうな!? だったら宗二さんと会う約束を取り付けろ!」

「ええっ」



 命令だ。完全に命令された。身を引こうにも、人質のように頭部のポニーテールをわしづかみにされて、身動きできない。



「悪いな、こっちも真剣なんでね」



 スキンヘッドがさっきまでの落ち着きっぷりを剣呑なものに変えて、じりりっと距離を詰めてくる。さらに退路を断たれた。

 こ、これが不良の真骨頂!

 つか、あたしが言うことじゃないけど、これ、この人たち、あたしが嘘ついてるって思わないのかな! ああ、どっちにしろ強引にねじ伏せるってことか!?



「宗二さんとの約束は大事だが……そうなると、宗二さんと会って話すこともできねえんだよ。どっちもとりたいが、どっちもとれねえ……分かるかこの複雑な男心!?」

「いやその分からないですすいません!」



 いや、やっぱりただの純粋すぎるひとたちだ! こんだけの気概あって約束破って会いに行くとか選択肢ないの? そんな理不尽な約束させられてる抗議するとかさあ!

 行動が恐ろしいだけで、思考回路一般人よりピュアじゃないですかもしかして!?

 ……そう考えると、まさに恐ろしくないな。

 そもそもあれだよね、あの宗二を慕ってるって時点でそうなんだよね。本来な宗二もだけど、宗二インあたしのときでさえ態度変わらなかったんだから、恐れる理由はどこにもない。



「コホン。えー、分かりました。すぐには無理だけど、宗二に会わせてあげます。その代わり、あたしのお願いを聞いてくれます?」



 宗二さんがどうのこうのといつの間にか自慢大会みたいなことになっている二人に、調子に乗って人差し指を立ててみせる。



「あたしを隠して中に連れて入ってください」





 そして、いともあっさり。言うことを聞いてくれちゃった二人のおかげで、こうしてコタローと十夜さんを捕まえることができた。部活終わるまで待ってるつもりだったけど、ちょうどタイミングよく二人が出てきてくれたから助かった。あれ? 部活ちょうど終わってたんだよね? あれ? まだ体育館から音してたけど。

 近くのカラオケ店に着いたときには、不良二人組は役目を終えたとばかりに帰って行った。もともと十夜さんを宗二のことでとっちめるつもりで校門にいたらしい。じゃあなんで座ってたのかと思ったら、カードのトレードがどうのこうのとかなんか言ってたけど、しょうもなさそうだ。ちなみに携帯にモモとセンとかいう名前で勝手に番号を登録された。



「何歌います?」



 ほい、と曲の検索機渡されたけど、あたしはそのまま脇に置く。……と思ったら、十夜さんのおひざの上に乗せてしまった。怪訝な顔して、ぽいと放り投げられた。

 あ、なんかすごい音したけど大丈夫か。

 じゃなくて。なんで当然のように真横を陣取ってるんだこのひと。



「ちょっと、何しに来たと思ってるんすか」



 コタローもこの状態の不自然さが目に余ったらしい、離れてくださいよ! と間に割って入ろうとするが、あえなく十夜さんの足蹴を食らって撃沈した。



「あのー、何しに来たって、あたしが一番聞きたいわ。ここには密談しに来たんじゃないの? ねえ? 歌うとかさ、ケンカとかさ、そういうのじゃなくてさ」



 誰にも話を聞かれない個室って考えて、思い当たるのがカラオケしかないって言ってここに入ってこなかったっけ?

 なんでさも当然のように歌おうとしているのか。言っておくが、あたしは音痴でありながら歌うの大好きという、友達にいたら一番厄介な逸材だぜ。歌ってやろうか? おお?



「そうでしたね、ついはしゃいじゃいました……」



 起き上がったコタローがあたしの足元で正座しながら頭を下げる。

 ……いやだから、これも違う気がする。バスケのユニフォームを着たでかい男子が、きゅうと耳を垂らして小さくなっているのなんて、これ何プレイだ? ちょっとここ監視カメラとかついてないよね? 変なお客様きたとか思われてないよね?

 ドリンクはまだ頼んでいないので助かった。

 とにかく、となんとか三人一定の距離をとって座る位置を決めると、本題に入ることにした。



「まずは、おさらいをしたいと思います」



 ストローでウーロン茶をちゅうっと吸って喉を潤す。明かりは暗めにしたままだけど、画面の音を限りなく小さくしているので、大きな声で話せない内容を語るには十分な環境だ。



「あたしは、田中宗二の双子の妹です。本当は電車にひかれて死んだはずだけど、気がつけば宗二の体に入っていて、妹という存在もなくなっていた」

「でもオレはちゃんと思い出したっす」

「うん、十夜さんは覚えててくれてたけどね」



 会ったことはないけど、存在していたということは覚えててくれた。ちらっと十夜さんを見ると興味ないと言いたげにふんぞり返っている。いやまあ大人しくいてくれるだけですごいことだなあと随分前に暴れた事実が記憶としてよみがえってくる。



「うう、オレ、負けないっす」

「それはさておき、現状ね。今あたしは宗二の体を乗っ取って、あたし本来の体として作り変えている。これはあまりにも非科学的すぎるのであたしたちで現象を解明できるとは思っていない」

「秘密組織に伝わろうものなら、実験体っすからね!」

「うん、ひみつそしきって何? 漫画じゃあるまいし」



 なんか、コタローの意気込みが空回りしている。どうもあたしが不良たちを伴って迎えに行ったときから余計なほどテンションが高い。いいから静かにと目だけで訴えると、コタローは分かったのか大人しくメロンソーダをすすった。



「今、あたしが宗二の体にいるのは宗二ではなく妹だって知っているのは、コタローと十夜さんだけ。理解してくれたのは、兄妹の存在をもとより知っていたからだと思う。つまり、どちらか一方しか知らなかった人間はこの外見だけを認識するんじゃないかな」

「えーと、それは、今の先輩を見たら宗二とは別の女の人だと思うってことっすか? でもそれも間違いじゃないっすよ?」

「そうだね、でも、体は宗二のもの。それは、あたしがよく分かってる。宗二の意識体があたしの中にあるのも、夢で話したから分かる。だから、本来は兄ちゃんの体なんだよ、あたしの体はもう事故で無くなっちゃったから」



 本当に摩訶不思議すぎて理解不能。でも事実であると確信はできる。コタローが納得のいっていない表情だが、ここはスルー。熱く議論したいのはここじゃない。



「コタローはさ、あたしを一目見たとき、きちんとあたしのこと思い出したでしょう? 不良のひとたちはあたしを見つけたとき、宗二とは別の人だと思った。妹の存在を知らないからね。そこで、あたしは気づいたんだけど」

「先輩しか、知らない人間っすか?」

「うん。宗二を知らなくて、この見た目を知っている人間。そのひとたちに会うと、どうなるか分からないよね?」

「久しぶりってなるんじゃないっすか?」

「そうかな? この世界で、両親ですら妹の存在はなかったことになっているのに? そうじゃなくて、もっと……」

「世界の理がねじ曲がる」



 うん、そう、イエス!

 指をぱきんと鳴らしてウインク飛ばしたいくらいのテンションだったけど、そんな次元じゃない上に、まさか言葉の主が十夜さんとなると、そうもいかなかった。脳みそも本能で満たされてるのかと思ったけど、意外と分かっていらっしゃる。

 がじがじとストローを噛みながら、あたしの視線をにらみで跳ね飛ばした。



「だいたいそういう理屈はどうでもいい。いいから宗二を呼び戻すぞ」

「えっ、ちょっと待って下さい部長! さっきのって……」

「端的にいうと、世界規模で何か起こるか分からない、それだけだよ。もしかしたらなんてこともなく知らない人間と思われる可能性もあるしね。あくまで憶測だけど注意するにこしたことはないよ」

「……先輩」



 からっと笑って告げると、何故かコタローが切なそう。あたしはすぐに話の方向性を変えるべく、早口で続けた。



「でね、そう、問題は、いつまでこの状態が続くのかってこと。一番なのは、十夜さんが言うように、宗二に戻ること。これなら、今まで通りでしょう?」

「あ、そう、そうですね。ちょっと残念っすけど、今はもうどんな姿をしていても先輩だってわかる自信があるっすよ!」



 変態じみた言い様だけど、それはどうもありがとうと言っておく。コタローが単純で良かった。十夜さんは何か言いたげな目で見てきたけど、知らんふりをする。



「でも、もとに戻るためにどうすればいいのか、結局分からないんすよねえ……参考までに、今の姿になったのは何かきっかけがあったんですか?」

「え? そうだね、何度か女の姿には戻ったけど、そのときは……」



 言われて確かにそれは重要だと気付く。記憶をあさって、女の姿になるたびに共通していた事項がなかったかを探ってみる。

 一番最初に戻ったのは、十夜さんが襲来してきたとき。確か、和磨と逃げて、個室のトイレに駆け込んだんだった。それから、狭い空間で息をひそめて……密着。その瞬間乳帰る。

 ん?

 二度目以降は、寝起きによく戻っていた。和磨と喧嘩したときに、都合の良い妄想夢を見たときなんかもそう。あのときは和磨に好きだと言われて興奮して飛び起きたんだった。で、乳帰る。

 んん?

 他にも、その和磨と仲直りするときに、急な熱を出した和磨を押し倒してしまったときにも同様……乳帰る。一番最近でいうと、つい昨日、泣きわめくあたしをなだめるために抱きしめてくれた際に、我が物顔でやはり乳が帰ってきた。誰に抱きしめられたって、和磨に。

 んんん?


 ……あれ?

 ちょっと待てよ、何かものすごく確固たる共通項がありませんかね? 疑いようもなく当たり前のようにその固有名詞が鎮座してますけど、それってまさか、ねえ?



「先輩? 固まってどうしたっすか?」

「か、和磨」

「かずまって三ツ瀬先輩の方っすか? それがどうしたんです?」

「あたしが女に戻るときって、いつも和磨が関わってる気がする……!」

「ええっ?」



 そうだ、そうに違いない。口にしてみてはっきりと確信した。

 和磨が関わっている……正確に言うと、和磨と恥ずかしいことになった後!?



「どういう意味っすか? 三ツ瀬先輩が、この件に何か影響を与えてるんですか? ……それなら、今この状態でもう一度三ツ瀬先輩に会えば何か手がかりが掴めるかもしれないんですね!」

「いや待てコタロー!」



 善は急げとばかりにメロンソーダを飲み干して出て行こうとするコタローの手首を必死で握る。

 イカン、この状態で突っ走ったら危険すぎる。あの、あのときのトラウマがまがまがしく蘇ってしまう……!

 何が何でも、この姿で和磨には会いたくない!



「……コタロー、ちょっと、あたし。試してみたいことができたの。今はそれ、ちょっと待ってくれない?」

「先輩、何かいい案が浮かんだんですか?」

「うん、ある一つの可能性が浮上したわ。そしてそれが本当だった場合、打ち砕かなければならない……」

「先輩!? なんか目が据わってるっす! 打ち砕くって、何を!?」



 あたしはコタローが何かをわめくのを、意識の遠くで聞き流しながら、その可能性について考えていた。

 どうして今まで気づかなかったんだろう。どうして思い当たらなかったんだろう。それとも、気づいていたのかもしれない。もっと早くそれを信じていれば、こんなことにはならずにすんだのかもしれない。


 静かに部屋を出て行こうとするあたしを、十夜さんの低い声が留めた。



「宗二と、話はできんのか」

「今はもうまったく反応はないですけど」

「宗二とおまえは、同じことを考えてるんじゃねえのか。まったく違う、同じことを」



 なんの謎かけ?

 あたしは首をひねって、分からないことを伝えた。十夜さんは舌打ちをして、余計な真似はすんなと投げやりのように言い放った。本当に分かってなんかない。

 またしても分かりにくいけど、心配してくれてるんだろうなあ。

 同じく分かっていない様子のコタローにも、大丈夫だからと頷いて、あたしは部屋を出た。


 目指すは。

毎度お待たせしております。ボキャブラリーが貧困すぎてこの意味不明な展開が伝わっているのか不安です申し訳ない。雰囲気で、うん。雰囲気で。


伝わるもなにも忘れてるわってひとも多いかとは思いますが……とりあえず次は早々に更新したい。二か月以上更新がありませんの表示が出る前には……!orz

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