9 差し込まれる異物
クランと聞いて思い浮かぶのはなんだろう
そのままの意味だと仲間とか、コミュニティとかになる
なんとなくだけど、プレイヤー同士で作った会社、みたいな感じだと思ってる
ある程度方針を決めて、お金を出し合い、目的のため行動、クランを維持しつつ人数や規模を拡大してく
そんなもので、クランホームというものはそのままクランの立場や規模なんかを象徴してると思っている
「…………なんか、デカくね?」
歩いて数分
そびえ立つのは東京ドームに匹敵する巨大な建物
現代的なデザインで、正面入り口は自動ドアだ
チケットの座標を何度見返しても間違いはない
ここまで巨大なクランホームを手に入れるにどれだけのお金が必要だったのだろうか、考えたくもない
「…………周りには誰もいないし、一先ず受付の方へ行ってみよ…………」
自動ドアを抜けて、受付の方に人がいるのが見える
こっちをジッと見つめているみたいだが、どうしたのだろう
「あのーすいません、このチケットなんですけど―————」
「来た!やっと来ましたね!」
「え?」
「お名前は?」
「えっと、ヒカルです」
「よし登録完了!」
手に持ったチケットをひったくられる
受付の人はチケットの詳細を確認した後、俺の腕を掴んで引っ張りだす
「ちょ、ちょっと待て」
「ほら、もう時間ギリギリなんですぅ!他の皆さんはもう待機室で待っているんですよ」
「いや、だから話を」
「はいはい話なら後で聞かせてもらうので一先ず待機室に行ってからにしてください」
「力強?!」
話をする暇もなく、待機室と書かれた部屋の中へ放り込まれる
かなり勢いがよく受け身を取ることもできず、そのまま尻もちをついてしまう
「痛っ!、くはなかったわ…………」
痛覚が無いので痛みが走ったりはしないが、衝撃や痺れはある
どうしたものか、流石に不味いし一回部屋の外へ
「なんだ、ようやく最後の参加者がやってきたのか?」
「時間ぎりぎりなんてずいぶん余裕だな」
「……………………」
「げっ」
部屋の外へ向かうためにドアノブを掴もうとしたところで背後から複数人の声が聞こえてくる
後ろへ振り返るとそこは広い部屋の中、たくさんの武装した人間がそれぞれ好きなようにくつろいでいた
「ほとんど初期装備じゃねぇか、ほんとにスカウト勢なのか?」
「でもほら、鞘持ちだよ?」
「だからって初期装備まんまってのはないだろ」
「PSに自信があるんだろう。それに初期装備は耐久値減少しないからな、ほとんどのリソースを鞘入手につぎ込んだって考えればおかしなことはないぞ」
「……………………」
「まあプレイ期間一ヶ月以内限定って考えればしかたないかもねぇ。私も頭装備に関してはそのまんまだし」
「お前それに関しては他の装備がダサいからとか言ってなかったか?」
「そうだっけ?」
会話が弾む待機室内、内容から和やかな雰囲気を感じるはずなのになぜだか冷や汗が止まらない
なんだろう、殺気みたいなのが出てるんだろうか
何も言えずに立ち往生していると、一人の男性が手を振ってこちらに近づいてくる
「やあ」
「こ、こんにちは、えっと…………」
「時間に関してはあんまり気にしなくていいぞ。遅刻ってわけじゃないからな」
「ああいやその」
「俺はカントラだ、君は?」
「ひ、ヒカルです」
カントラと名乗ったプレイヤーの恰好は、俺とは比べられないほど豪華でレアリティの高そうな装備をしている
あんなに大きなクランホームを持った夜の星の新人戦に出るくらいだ、かなり強いんじゃないだろうか
「周りはみんな殺気だっているみたいだが、緊張する必要はない。別にこの試合で負けたからといってクランに入れなくなるわけじゃない、予選でしのぎ合った面子とは違い、俺も君のようにスカウトされた口だからな」
「予選…………」
「ん?知らないのか…………ここにいるほとんどは先日行われた予選試合を抜けてきたプレイヤーで、残りはクラン幹部から直接スカウトを受けて試合に参加している」
よく見れば、待機室内の一部の人達は二つのグループで固まっているみたいだ
一つは着ている装備の雰囲気が揃っていないグループ、おそらく性能で選んだためあのような形になったと思われる、もう片方のグループを睨んでいる気がする
もう一つは目の前のカントラさんと似た雰囲気を感じるグループ、普通に仲良く談笑している様子で、装備の色合いが揃っていてどれも強そうに見える
「スカウト勢はよっぽどのことが無い限りクランに入るのが決まっているからな、落ちる可能性がある予選突破勢とは険悪になってしまう」
「それは、大丈夫なんですか?」
「まあトップクランだからな、どうしてもキツいところはある」
「……………………」
別ゲーではあんまりガチ勢といった雰囲気の人を見ることはなかった、まあ過疎ゲーだったし普通はこういうものなのだろうか
いやそうじゃない、早く誤解を解かないと
「あの―——」
「おーいカントラさーん」
「おっと悪い、そろそろ行かないと…………それと」
カントラさんはこちらに向けて右手を差し出してくる
「ヒカル君、同じスカウト勢でもPVPの時は互いに全力で挑もう、その方がきっと楽しい試合になる。よろしくな」
「…………………………………………ハイ……………………」
名前も顔も覚えられたし、なんかもう人違いですとか言える雰囲気ではなかった
握手に応じた後、俺は一人その場で項垂れるしかなかった
ーーーーーーーーーー
『さあ始まりました第何回目かの夜の星新人戦!!』
『今回の実況はわたくし夜の星広報部、ホットサンド860と!』
『解説の夜の星サブリーダーのレントだ』
『同じく夜の星『観測眼』のアヤノールだよ~』
『こちらのお二人でお送りします!』
会場に響き渡る声
まばらに点在する観客のざわめき
今いる場所はクランホームの第三会場
広さはまあまあといった具合で、学校の体育館より広くはない
進行はトーナメントで行われ今は俺の一回戦
新人戦始まってから一番最初の試合である
おそらく予選突破勢であろうプレイヤーが今回の対戦相手だ
「あ~」
何やってるんだろ俺
たまたま拾ってきたチケットを届けに来ただけなのにこんなことになるなんて
殺気の籠ってそうな視線が痛い
対人戦の心得が無いわけじゃないけど、どれくらいやれるだろうか
ステータスを開く
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NAME:ヒカル
JOB:旅人
所持金:305810コール
HP(体力):100/100
MP(魔力):100/100
EP(燃料):200/200
SP(霊気):15
STR(筋力):20
MAG(魔法干渉域):20
DEX(器用):28
AGI(敏捷):20
VIT(耐久):24
LUC(幸運):20
装備
右手:至不の木刀 付:【死の踏駆音】
左手:機構式TOS斥力銃
頭:飾り紐の髪留め
胴:巡遊の旅装
右腕:皮籠手 付:揺らめく篝火の指輪
左腕:皮籠手
腰:巡回の旅装
脚:行脚のブーツ
[魔法]
『風魔法』
→ウィンド 1MP
→ウィンドスラッシュ 3MP
→ダウンバースト 7MP
[機構]
『斥力機構』
『背追機構』
[スキル]
『全身全霊』
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アキラから貰った指輪は付けておく
風魔法の直撃時、周囲に発生する暴風はダメージが無い代わりに発生するのはノックバックのため、指輪の威力上昇とは相性が良い
新しく買った銃弾を込め、鞘に関しては見られた以上そのままに
向こうの装備は重量の少なそうな皮装備が基本で、各部に投擲用であろう短剣が収められている
見た感じは、防御が低い代わりに速度を重視した軽戦士だろうか
「悪いが一回戦で落ちてもらうぜ、スカウト勢だろうが俺の踏み台になってもらう」
「……………………」
「だんまりか。余裕だな」
余裕があるわけじゃないんです
変に喋ったらボロ出しそうで黙るしかできないんです
互いに準備を終えた辺りで実況が喋り出す
『片や予選突破第7位!ヤケジャケ!』
『片や、ヒカル!』
『見た感じヤケジャケ選手の方が有利に見えるな、ヒカル選手は近接タイプのカタナ使い、カタナ系のスキルには遠距離攻撃が存在するが、軽戦士に当てるのは厳しいな』
『でも予選である程度手の内を見せているヤケジャケ選手と違って、ヒカル選手は一切情報がないから、そこがこの試合のキモかな~』
『解説ありがとうございます。それでは両者、決闘申請を!』
ウィンドウを表示させ目の前のプレイヤーに決闘の申請を送る
程なく受託され、視界の上部にカウントダウンが表示される
両手に投擲アイテムを持ち、腰を下げるヤケジャケ
こちらは少し半身になる程度
「「…………………………………………!」」
試合開始と同時に投げられる短剣
狙いは頭、腰、脚の三本
避けるために右側へ身体を動かすが即座の投擲
今度は五本
二本は直接、残りは移動を制限するためのもの
「風よ『ウィンド』」
魔法を最も近い短剣が当たるようにその場に置いてそのまま後退
短剣が魔法に衝突し、本来よりも威力が高い暴風がまき散られ後続の短剣が吹き飛ばされる
「まだまだあ!」
視界の左端に映った動くもの
咄嗟に身体を反って回避
「!」
目の前を通り過ぎるのは回転する刃
そのまま右側に流れていき、円周状の軌跡を描きながらヤケジャケの手元へと帰っていく
「チッ、勘が良いな」
最初の攻撃は全て陽動で、本命は今の曲がる投擲
しかもこっちが後退するのを読んでの攻撃
「……………………はは」
なんだか懐かしいな、この感じ
「まだまだこんなもんじゃないぜ!そらよ!」
ーーーーーーーーーー
実況席は大いに盛り上がっていた
『ヒカル選手、ヤケジャケ選手の絶え間ない攻撃を避ける!避ける!避けていくぞぉ!!』
『さっきの曲がる投擲は少し危なかったが、それ以降はしっかり対処しているな』
『うわっ、何あれ。側転しながら回避してる』
『軽戦士さながらだな。目で見て避けているというより、相手の狙いをしっかり理解して回避先を選んでいる』
『事前に予習でもしてたのかな?』
『一応予選の映像は公開されているからな、おそらくは』
実況席から下部に見える決闘場
投擲される短剣を回避するために走り回り、それをさせないために立ち位置を調整し続ける両者
最初に大きな動きがあったのはヤケジャケ選手の方だった
「『スプレッドナイフ』!!」
上空に跳躍後、緑光が煌めかせ投擲
両手から放たれた十本の短剣がそれぞれ十本に分裂、もう一度分裂して合計千本の短剣となってヒカル選手に降り注ぐ
『おーっと!ここでヤケジャケ選手スキルによる雨のような物量攻撃ー!ここまで一度も当たらなかったヒカル選手も流石にこの攻撃を無傷で避けることはできないぞー!』
魔法を使い吹きとばそうとしたが、「スプレッドナイフ」で分裂した短剣は物質ではなくエネルギーのような状態のためただの風の影響を受けない
少しでもダメージを減らそうとしているのかしゃがみ込み、武器を盾にする
『あ』
『お』
攻撃が止んだ後、いくらかダメージを受けた状態のヒカル選手が立っている
落ちてくるヤケジャケ選手を見つめながら、手に持った木刀を肩の方へ持って行く
スコンッ、と音が響く
「おいおいマジかよ、なんでわかるんだよ」
「多分このタイミングかなって」
木刀の刀身には細長い刺突用の刃が突き刺さっており、本来であればヒカル選手の首の後ろに命中したであろうもの
会話からして偶然木刀に刺さったわけではないことが分かる
『なんと!ヒカル選手、ヤケジャケ選手が仕込んでいたスローナイフの奇襲をしっかり見抜いていた―!
!』
『ほえーよくわかったね』
『思った以上に対人慣れしてるみたいだな、派手なスキル攻撃に目を奪われず対処しきった』
スローナイフ
投擲用の中でも別格の価格をした特殊な武器
どれだけ力強く投げられようが一定の速度を保ちながら移動するという効果を持つ、威力はそのままのため奇襲や陽動などに使われる
「ナイフがまだ余ってるならいくらでも付き合うけど。どうする?」
「……………………はんっ」
ーーーーーーーーーー
危なかった
昔「君はウィリアムテルになれるか!真っ赤なのはリンゴか頭バトロワ」を経験してなかったら即死だった、こっちは全方位から狙われて一時間耐えきってるんだ舐めんな
といってもこのままじゃジリ貧なんでできれば挑発に乗ってくれないかな
「接近戦がお望みなら付き合ってやるよ!」
「……………………ッ!」
「『天翔剣』!『飛剣』!」
投擲アイテムを仕舞って両手に直剣を装備しスキルを発動、飛ぶ斬撃を前にしてこちらへ突っ込んでくる
『ヤケジャケ選手、ここで接近戦へ移行!しかも予選では使用してない『両利き』のパッシブスキルまで使っているぞ!』
『『両利き』はもう片方の手でもスキルが発動できるようになる超便利スキル!』
『本来は利き手でしかスキルは使えねぇからな』
「風よ、眼前を切り開け『ウィンドスラッシュ』!」
一つ目の斬撃を躱し、二つ目は魔法で相殺
剣を振りかぶった相手の構えは、左側から放たれる両手の切り払い
後ろに下がって回避するがしつこく追いすがってくる
片方だけなら武器耐久を犠牲にギリギリ逸らすことができているが、両手の攻撃は流石に押し負ける
だったら
「どうしたぁ!防いでるだけじゃ勝てないぞ!」
「……………………風よ」
「ッハ、この距離で撃てると思うなよ!」
詠唱を始めるが即座の攻撃、二節は間に合わないし剣が触れても爆風が発生する前に切られる
狙いはお前じゃない
「『ウィンド』」
「ッ!…………自分に?!」
後ろへジャンプすると同時に手を胸に当てて発動、ヤケジャケから一気に距離を取る
指輪の効果で人一人吹っ飛ばす威力はある
急な衝撃に一瞬悶えるがなんとか堪え、地面から浮きながら木刀を鞘に納める
「チッ、ようやく『抜刀術』をお披露目ってとこか」
着地後即前進
鞘を左手に構え、右手で木刀を握りしめる
悪いがそんなものは持っていない、なので
「『ロック』」
「は?」
「『セット』」
「なんで機構…………うっ」
溢れる青い燐光
鞘から引き抜かれる刀身はまるで月光のように輝いてる
光に怯えるように一瞬身体をこわばらせるヤケジャケ
アキラと検証したが、この機構は起動時、威力に関係なく一瞬相手に死の気配を感じさせることができるらしい。自分でどれくらいかはわからないが
「……………………くそっ」
向こうは回避ではなく迎撃を選択
両手を左上部に振り上げ、上から抑え込むつもりだ
緑光が煌めき、スキルが発動される
「『グレートインパクト』!!」
振り下ろされる剣
抜き放った木刀
互いの一撃がぶつかり合う瞬間
「んなっ?!」
手を放し、吹き飛ばされ転がっていく木刀
当たり前だが【死の踏駆音】の威力上昇は一切無い
攻撃をすり抜けて姿勢を低く、相手の懐へと潜り込み腕を取って勢いよく引き寄せる
「『全身全霊』!」
スキルを発動
誤差だがないよりはマシ
相手の力を利用しそのまま持ち上げ地面に打ち付ける
「…………!グォッ?!」
HPはほとんど減りはしないだろう
だが銃を取り出す
「待っ」
「待たない」
引き金を引く
銃弾は頭部に命中、ゼロ距離のヘッドショット
『YOU!WIN!』
『試合終了~~!!ヒカル選手、なんと投げ技での決着!』
『おー珍しいの見た』
『目立つ技をブラフに隙を作ったか、スローナイフの意趣返しにもなったな』
『一回戦から中々良い戦いでした!この後の試合にも期待が高まります!』
『次の試合は―————』
実況の盛り上がるを背に歩き出しそのまま控え室を通り抜けて自分の待機室へ
備え付けのソファーに身体を預けて息をつく
「……………………はぁ」
対人では常に余裕の態度を保つことなんて教わったが正直かなりキツかった
決闘のシステムのおかげでHPやアイテムみたいなものは決闘前の状態に戻っているが「スプレッドナイフ」を喰らった時点でHPは既に半分以下を切っていた。そこからなんとか凌いで限界ギリギリ、あそこで向こうが挑発に乗らず安定取ってたらそのまま負けてた
「…………まあ一回は勝ったんだし、もういいだろ」
今の俺の状況を見ると、スカウトされてもないのに拾ったチケットでデカいクランの新人戦に潜り込んだ身の程弁えないやつだからな
まぐれで勝ったと思われそうだが勝ちは勝ち、手違いが判明しても文句はそんなに出ないと信じたい
二回目は流石に勝てないだろうし
「次の試合は…………二十分くらいか」
まだ時間あるし、ちょっと休憩しよ
ログアウトボタンを押し身体が粒子状になってそのまま消え―————
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
「……………………あ…………れ………………?………………」
『ヒカル選手、次の試合が開始されます、控え室にて待機をお願いします』
部屋の中のスピーカーから無機質な電子音が響く
ソファーに座り、呆けた顔をするヒカル
「えっと……………………俺、何してたんだっけ?」
立ち上がり、周囲を見渡す
場所は夜の星クランホーム待機室
『ヒカル選手、次の試合が開始されます、控え室にて待機をお願いします』
「……………………あっいや試合だ試合」
ハッと我に返り、急いで扉を開けて控え室まで走り出す
『————————————————————』
誰もいなくなった控え室
先ほどまでヒカルが座っていたソファーの前
いつからあったのか、小さなウィンドウ
そこには、ただ一言
『……………………Loading』




