8一番最初に出会ったのは
初期エリアを抜け、石畳を歩いていると人影
槍を手に鎧を着た二人組が、門の前に待機していた
遠くから声をかけてみる
「こんにちわー」
「……………………」
「……………………」
返答なし
でもこっちのことを見てる、しっかり認識してるな
今度はもっと近づいてみる
「……………………稀人だな、名前は?」
目の前までくると反応があった
こちらをジッと見据え警戒しているのがわかる
話しかけてこない方が懐から紙とペンを取り出してこちらに渡してきた
「えっと、名前を書けばいいんですか?」
「そうだ」
紙面を見ても特になにかあるようには見えない
契約書ってわけじゃなさそうだ
言われた通り名前を入力して紙を返す
「ヒカルだな、詳しいことはこの門を抜けてまっすぐ進んだ先にあるギルドに行け。これを持って行けば問題はない」
今名前を書いた紙を茶封筒に入れて渡してきた
触った感じ、それ以外にも入ってる気がする
「世界観」
銃がある時点で今更か
しばらくしていると門が開けられ、向こうの景色が見える
まさしく異世界といった具合
「…………おおー」
今いる場所は小高い丘の上で、その先にある広い大都市を一望できた
古い純白の建物に、レンガ造りの家、偶にある三階建てのビル、瓦屋根まで見える。プレイヤーが建てたのだろうか
そんな時代も様式も違う建築物があるこの大都市だが、乱雑といった雰囲気はまったく無く美しさすら感じられた。最初から計算しつくされて建てられたのだろう
マップを確認すれば都市名は『カラルナーツェ』となっている
「お、なんか市場やってる」
丘を下ると大通りへ着いた
人がごった返しておりNPCかプレイヤーかの区別はまったくつかない
武器や防具なんかが売られており、どこもかしこも賑わっている
少し歩いていると美味しそうな香りが漂ってくる
この辺りは屋台がメインらしい
「おうそこの兄ちゃん!良かったらうちで食ってかないか!一本200コール、三本で500コールだぜ!」
声をかけられたのは、串に肉や野菜を刺して焼く串焼き屋
美味しそうなスパイスの香りと食材を焼く音が食欲を刺激してくる
「…………取り合えず一本くれ」
「まいど!」
渡された串焼きにさっそくかぶりつく
そうして気づく
「…………カレー味……………いやスパイスが同じだけか」
「お、あんた稀人か?」
「え、何で分かったんだ?」
「稀人はどいつもうちの串焼き食べるとカレーって言いやがるんだ。必ずな」
「ああ…………」
このゲームの人口比は日本人がほとんど、そりゃ馴染みの味がすればつい口に出すこともあるだろう
しかも刺さってるのが肉、たまねぎ 人参といった具合、後ジャガイモがあればほぼカレーである
それはそれとして美味いなこの串焼き
「もう一本、いや二本頼む」
「あいよ!」
串焼きを焼く店主を見る
今の会話もそうだが普通の人間にしか見えない
AI特有の違和感もない
食べ物の触感から匂い、熱まで本物そのものだ
このゲームを作った九条開発の技術は一体どこまで進んでいるのだろうか
周囲を見渡す
多くの人が暮らしている
この中のどれくらいがプレイヤーでどれくらいがNPCなんだろう
「…………少し聞きたいことがあるんだけど」
「ん?ちょっと待ちな…………ほれ」
「どうも」
串焼きを食べつついろいろ聞いてみる
「最近この辺りで変わったことってあった?」
「変わったこと?なんだぁ、お前さんも人探しか?」
「人探し?」
店主はうんざりしたような顔をして話す
人探し。誰かいなくなった人でもいるんだろうか
「なんだ違うのか。あんたら稀人が、昨日から都市中を駆けずり回って誰か探してるって話だよ。うちの店にも聞きにきたが、なんも知らねぇとわかったら何も買わずにすぐどっか行きやがる」
「それは…………なんか申し訳ないな、同じ稀人として」
「いやいや、お前さんに文句言ってるわけじゃねぇよ」
「じゃあその聞いてきた稀人はどんな人を探してたんだ?」
「あ~なんつったか、別に細かい恰好とかで聞かれたわけじゃねぇ。なんか妙に羽振りのいいやつとか、珍しいもの持ってるやつを見てないかとかそんな感じだ」
「ふーん」
思ったより曖昧だな
そんな人どこにでもいる気がするけど
「そういやなんでそんなこと聞いてきたんだ?稀人には知りたいこと直ぐに知る方法あるんだろ?」
「え、ああいやほら………実際に色んな人から直接話を聞いておきたいんだよ。こう見聞を広めるために、ジョブも旅人だし」
咄嗟に自分のジョブを思い出してなんとか言い訳をする
こうやって直接聞くことに慣れてた所為か稀人としては違和感を与えてしまっただろうか
「旅人…………そういたよく見たらそんな恰好してるな」
「だろ?」
良かった、通じた
安堵したのも束の間、店主は妙なことを口にする
「珍しいな、稀人の旅人なんて」
「え、そうなのか」
「ああ、俺が知ってる中じゃお前さんが初めてだ」
旅人のジョブを選ぶ人、少ないんだろうか
そういう俺もランダムで決まったジョブだから詳しいことはわからないけど
「まあいいや、串焼き美味かったよ。また来る」
「おう!今度はもっと買ってくれよ」
店を後にしてまた大通りを歩きだす
ホットドックや肉まんといった片手で食べられるものなんかが多い
いろいろ他の店を渡り歩き、情報を集めていく
いくら食べても問題ないみたいだが、こんなに食べても一切栄養が得られないというのは逆にもったいない気がしてきた
「まさか銃弾が自販機で買えるとは…………」
しばらく歩いて、購入したものを確認中
切れていた銃弾を補充し、他消耗品なんかを買いあさる
所持金に関してはほとんど減っていない
初期エリアのモンスターはお金しか落とさない仕様だったが「ブラック・アント」の報酬がこんなにあるとは思わなかった
他にも買いたいものはあったが、機構関連は専用の店で買った方がいいと教えてもらった
「というか、イデアモンスター討伐したら討伐したってバレるんだな…………」
市場で聞いた限り、他プレイヤーが探しているのはどうやらイデアモンスターを討伐したプレイヤー―————つまり俺のことだ
討伐者の名前は出ないみたいだが、討伐するとプレイヤー専用エリアでわかる仕様らしい
何で探しているかまではわからなかったが、この様子だと鞘を付けてるのもちょっと危ないかもしれない
流石にハイドラッカーのものだと気づかれるとは思わないが
今のところ公言するかは保留かな
「そろそろギルドに向かおう、寄り道し過ぎた」
マップを開いてギルドの場所を探す
直ぐ近くの路地裏を通れば近いみたいだ
「なんか雰囲気あるな」
中に入ると雰囲気がガラッと変わる
路地裏は日が入ってこない所為でかなり薄暗い、しかもいろいろなゴミや汚れなんかが点在している
人が酔いつぶれてたり、柄の悪い人がたむろしてそうな雰囲気を感じる
「でも実際そんなこと起きたりしぐべらっ?!」
鳩尾ッ鳩尾にダメージが!
しばらく奥に進んで十字路を曲がったところで突然の衝撃、ダメージは無いみたいだが体勢を崩して後ろに倒れこむ
どうやら誰かとぶつかってしまったようだ。変だな足音はしてなかったのに
あっスタン入ってる
「うぐ…………どいてくれ…………」
「……………………!」
身体の上には灰色のなにか
顔は見えず、どうやら全身をフードで覆っているみたいだ
なんとか身を起こし、向こうも離れる
「お~い見つかったか~」
「こっちにはいないみたいだ~」
「!」
路地の向こうから誰かの声が聞こえてくる
フードの人物は声が聞こえたのがわかると目に見えてオロオロしだしキョロキョロと周囲を見渡している
立ち上がって走り出したかと思うと今度は自分のフードを踏みつけて盛大に転ぶ
凄い痛そう、顔面からいったよ
「~~~~~~?!」
「ん?なんだ」
「……………………!」
声の主がこっちに近づいてくる
どうも見つかるわけにはいかないみたいだ
ーーーーーーーーーー
暗い路地裏を歩く
さっき見つけた人物はそう遠くには行っていないはず
相方の方では見つかっていないみたいだ、しばらく歩いていると
ビターンッッ!!
「ん?なんだ」
少し先の十字路の左手側から大きな音が聞こえてきた
すぐさま駆けつけて通路の方へ眼を向ける
「女?…………おーいそこの人ー」
「え…………えっと、どうかしたんですか?」
通路には腰まで長い髪を後ろで結んだ一人の人物が立っていた
顔は女性にしか見えないが、声からして男性
ネカマか?
「いや、こっちから大きな音がして来てみたんだが、なにかあったのか?」
「ああいや、ちょっとそこで転んでしまって…………」
指を刺した方には木箱や麻袋に入った荷物なんかが雑多に置かれており、おそらく脚を引っ掛けたのだろう
よく見ると服や髪に汚れがついているのは見て取れる
「そうか…………あんたも稀人か?どうしてこんなところに?」
「えーと、今日始めたばっかりなんですけど、いろいろ散策してたら遠くまで来てしまって。ギルドまで行くにはここを通るのが一番近かったんですよ」
確かにこの路地を通ればギルドまで着く
装備を見る限り初期に得られる旅人装備
珍しいが、嘘を言ってる気配はない
「そうか…………少し聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「えっと、特に問題はないです」
「ありがとう。実は人を探しているんだが、全身をフードで隠した女性を見てないか?」
「全身フードの女性、ですか?」
少し驚いた顔をしつつ腕を組み、しばらく考えこんだ後
「…………見ましたよ」
「ほんとか?!どこにいったか分かるか」
「ああちょっと待ってください。見たっていいましたけど二人居たんで、そちらが探しているのがどっちかわからないんですよ」
「なに?」
フードを被った人物が二人?
どういうことだ?
「…………小柄だった方、いや両方どこへいったか聞かせてくれ」
「はあ、わかりました」
聞くところによると、一人目は路地に入ろうとした瞬間唐突に飛び出してきてそのまま走り去ったと、二人目は少し前、向こうのT字路から右に曲がるとき、この通路から右に曲がって走っていったと
「わかった、情報感謝する」
「あの、それはいいんですけど」
「ん?なにかあるのか?」
「その探している人って何かやらかした人とかなんですか?PKとかだと流石にちょっと不安なんですけど」
「まさか!」
とんでもないことを言いだした
いやしかし、始めたばかりなら不安になるのもしかたないか
「大丈夫だ、流石にこんな街中でPKする輩なんてそうそういない。直ぐに騎士団が鎮圧しにくる」
「そうですか、なら安心ですね」
「それじゃ失礼する、助かったよ」
「……………………」
もしうまくいけば俺も―————
ーーーーーーーーーー
走り去るプレイヤー
足音が聞こえなくなった辺りで近くの木箱をノック
「もう行ったぞ」
箱の上部が開き、恐る恐るといった具合で中からフードの女性が頭を出す
周囲を確認するとのっそりといった具合で箱から出てくる
「……………………?」
「ん?…………なんとなくで、特に理由はないよ」
どうして助けてくれたのか、といった雰囲気を感じる
「……………………」
「まあなんというか、暇だし必要なら逃げるの手伝うけど」
女性は首を横に振った後、頭を下げてそのまま別の道へ去っていった
「……………………アレ?確かあの先って……………………」
ギルドに向かうためにもう一度マップを開く、マップには詳細な情報が事細かく書かれており、行き止まりや高低差、現在地座標のXYZまで確認できる3Ⅾ仕様だ
そうして道順を確認しているとつい、さっきの女性が向かっていった場所に目がいった
とある店の裏壁側につながっており、両側は別の店の裏側
つまり三つの店の背部でコの字型の隙間ができた道なのだ
後ろを振り返る
「……………………」
目の前にはフードの女性
表情がまったく見えないのに凄い気まずそうな、申し訳なさそうな気配がビシビシ伝わってくる
「えーと、やっぱりいる?案内」
「……………………」
力なく、うなだれるように頭を下げた
彼女が進んだ道は、行き止まりだった
ーーーーーーーーーー
―————何も感じない
「……………………?」
「ああいや、何でもない」
マップを見せて目的地を教えてもらい、一緒に歩くこと数分
つい気になって彼女のことを見過ぎてしまった
「……………………」
正直かなり怪しい
全身フードで顔がまったく見えないし、さっきから一切喋らない
女性だってのも全然気づかなかった
何なら足音までしないのは一体どうなってるの?
「……………………」
とはいえ、さっき会ったプレイヤーにPK疑惑をぶつけた時の反応から察するに、なにかしら犯罪を犯したから逃げているというわけではないのだろう
「……………………」
でももし本当は犯罪者で俺がやった行動が酷い結末を引き寄せたら?
「……………………」
「……………………まあ、そんときゃそんときだろ」
人助けしてる時に後先考えてたら何もできなくなるわ
「……………………!」
「ん?ああもう着いたのか」
色々考えていたら服の袖を引っ張られる
目の前は路地の終わり、明るい太陽が向こう側を照らしている
気づいたら目的地にたどり着いていたらしい
「やっぱり中央区は豪華なんだな」
着いた場所は都市の中央区
先ほどまでいた大通りとは違いほとんどが真っ白な建物群
貴族とか宗教の偉い人なんかが住んでそうな雰囲気を感じる
「……………………」
「ここまでで大丈夫か?」
「……………………!」
「んじゃ、これで」
何度も頭を下げてお礼を伝えて来る
結構勢いよく頭を下げているのにフードがまったく外れない
どうなってるんだろう
「今度は道に迷うなよー」
「……………………!」
少し離れた辺りで声をかける
ピタっと止まった後振り返ってこちらを恨めかしそうに見てくる
「……………………」
「ははは」
それでも直ぐに向き直って歩き出し、そのまま見えなくなった
マップを出さない、犯罪者じゃない、顔を隠す、声を出さない、プレイヤーが追っかけてる
やっぱり有名なNPCかクエスト関連かなんかだったんだろうか
流石にそこまで詳しくはないからなんとも言えないが、上手くやれば特殊なクエストとか発生できたりしたんだろうか
「まあいいや……………………うん?」
今出てきた路地から物音
もしかしてさっきのプレイヤーが追いついてきたのか?
そうなるとちょっと不味いな
「もう路地の中にいない可能性出しといたのに…………」
路地に戻り、こっそり曲がり角の先をのぞき込む
「あれ、誰もいない」
近づいて周囲を確認してみるが、人の気配は全くない
気のせいだったのだろうか
「幻聴?……………………」
そういう魔法とかありそうだな
そんなことを考えていたら地面になにか落ちているのに気付いた
夜の星新人戦優先者チケット?
誰かが落としていったのだろうか
裏返してみる
「会場は夜の星クランホーム、座標は—————」
マップを見るとここから歩いて直ぐの所にあるみたいだ
もし受付前で立ち往生とかしてたら可哀そうだし持って行ってみるか
「もし誰もいなくても受付の人に渡しておけば問題ないだろ」
そういえばギルドに行ったらどんなこと説明されるんだろう
やっぱりクエスト依頼とかなのかな




