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10適応者



『始まりました二回戦!まずは巧みな立ち回りにより初期装備でも十分戦えることを見せつける技巧派、ヒカル選手!』

『一回戦は上手くいったけど、今回はどうかな~?』

『対するは全身甲冑!一回戦ではその場から一歩も動かず相手に打ち勝った不動の騎士メッカク!』

『相手の魔法もしっかり相殺、攻撃を凌ぎきる耐久力もある堅実なプレイヤーだな』


二回戦が始まり、両者が会場で相対する

決闘申請を終えカウントダウンが開始

メッカクは両手剣を構え、ヒカルはそのまま立ち尽くす


「…………どうかなされましたか、ヒカルさん」

「……………………え?」

「いえ、どうも上の空のご様子、なにかございましたか?」

「えっと、大丈夫です。すいません」


ヒカルは木刀を手に取り構える

しかしその構えは一回戦とは違い、切っ先を地面の向けた脱力した姿


「……………………ふむ」


時間が過ぎ、試合が開始される


「『イクイップチャージ』!」

「……………………」


開始後スキルを発動し即座の疾走

甲冑姿とは思えない程の速さ、VIT以外にAGIにもステータスを振っているのであろう


『おーっと!!メッカク選手一気に肉薄!ヒカル選手動かない!』

『あちゃー』


両手剣が振り下ろされ、強烈な一撃がヒカルを吹き飛ばす姿が想起される


「………………………………なんと……………………」

「……………………風よ眼前を切り開け『ウィンドスラッシュ』」


しかし空を舞ったのは、光沢を持ったバスケットボール状の物体

放物線を描き地面へと落ちる


『あれ?』

『……………………おや?』

『……………………』


甲高い金属音が響き、地面に倒れる甲冑姿が粒子状となって消えていく

舞台に立っていたのは左手を掲げたままのヒカル


『し、試合終了…………勝者は、ヒカル選手…………』


観客の一部がざわめく中、ヒカルはそのまま退出

実況のホットサンド860も何を喋ればよいのか困惑している


『スキルの仕様を逆手に取られたな』

『あ~そういえばそうだね、スキルっていっぱいあるし忘れてた』

『えーと、説明をお願いしても?』

『ああ』


レントはマイクを手に取り話始める


『『イクイップチャージ』は自身の装備重量に応じた距離を移動できるスキルだ』

『でも必ず決まった距離と方向に移動するまでスキルは止まらないよ』

『ああ、そうした仕様の中にスキル効果中は装備重量がゼロになるというものがある。自分で使ってみないとわからないがな』

『メッカク選手はしっかり距離を把握してギリギリで効果が切れるよう調整してたけど、ヒカル選手はその仕様を知ってたみたいだね』


このゲームのスキルは星の数ほど存在し、似たようなスキルも多く存在するためすべてのスキルを把握、その効果の仕様まで理解しているプレイヤーは少ない


『スキルが切れる前に踏み込み、重量が無くなった両手剣の軌道をズラしそのまま首を狙って魔法を発動』

『しかも今回は動きの洗練さが全然違かったし、一回戦の戦い方はわざとかな?』

『メッカク選手も同じことをしていたようだが、運が悪かったみたいだな』

『なるほど!お二方解説ありがとうございました!二回戦でここまでの戦いを見れるとは、次の試合が楽しみになって参りました!』


解説が終了、司会が締めの言葉を終え次の試合の準備が始まった

そんな中実況席にいたレントが立ち上がり


「悪いアヤ、少し出てくる」

「は~い」


そういって会場を後にした



ーーーーーーーーーー



「……………………くっ……………………」


なんだ?

なにが起きた?

いや、わかってる

全部しっかり記憶している


「…………はぁ…………はぁ…………」


二回戦が始まったあの瞬間、急に迫ってくるの甲冑に驚いて反応できずにいたはずなのに

相手の武器が迫ってきた瞬間

()()()って思ったんだ


「……………………ッ…………」


そう思った瞬間、身体が勝手に動いた

実際に軽かったし、それで攻撃を逸らして懐に入り込めた

でもどうしてそれに気づいたのかがわからない

ぜんぶ、しっかり覚えているのに


「……………………」


身体がおかしい

頭痛が酷くて、足元がおぼつかない

なんとか壁に手をついて歩いている

まるで他人の身体を動かしているかのような強烈な違和感が襲ってくる

気持ち悪い


「…………とり、あえず…………ログアウトを……………………あ…………」


不快感が一気にこみ上げ、身体から力が抜ける

バランスを崩しそのまま地面が近づいてきて―————


「おっと」


地面に倒れる前に、腕を掴まれる

気づかないうちにだれかが近くにきていたらしい


「うぐっ………………なにが…………」

「いいから、あんま無茶すんな。ほら、肩貸しな」


身体を支えられながら歩き、近くにあったソファーに座らされる

今いる場所は小さな休憩所のような場所のようだ


「ありがとう……………………ございます」

「流石にそのままってわけにはいかねぇよ」


目をつむって呼吸を整えしばらく、だんだんと体調が回復してくる

気分が落ち着いてきてようやく自分を助けてくれた人がだれなのか理解した


「貴方は、確か実況席にいた…………」

「おう、いくらか回復してきたみてぇだな。大丈夫か?」

「えっと、はい、大丈夫です」


目の前にいたのは蒼い髪をオールバックにした目つきの鋭い男性プレイヤー

今自分がいるクランホームを使っている「夜の星(ナイトキャンサー)」そのサブリーダーレントだった


「あの、すみません、ご迷惑をおかけして」

「気にすんな、さっきも言ったがそのままにしちゃおけねぇし、なんならこっちもお前に用があったからな」

「え」


まずい、チケットのことがバレたのか?

言い訳のしようもない、完全な不正利用だ

いや理由がないわけではないが黙っていた時点で同じことだ

いますぐ土下座すればどうにか許してもらえないだろうか

そんな不安を抱えていたが、相手の口から飛び出してきたのは予想外の言葉だった


「さっきの戦い、なかなか良かったぜ」

「へ?」

「動きに淀みがないきれいな戦いだ。ほとんど始めて間もないってのに」

「……………………」

「一回戦じゃまぁまぁだと思っていたが、二回戦は別もんだ。同じくらいのやつであそこまで動けるやつはそうそういねぇよ。スキル周りの仕様も把握してたみたいだしな」


こちらの糾弾ではなく、ただ俺を評価する称賛の言葉

嘘をついている気配はなく、本当に俺の戦いを良いものだったと言ってくれている

でも


「…………違うんです」

「ん?」

「俺にも、よくわかってないんです」

「…………言ってみな」


俺は話した

二回戦が始まる前から妙に意識がぼんやりしていたこと

相手の動きに反応できてなかったこと

相手の武器が軽いと思ったこと

自分の身体を別の誰かが動かしていたかのような感覚についても


「……………………やっぱりか」

「え?!なにか知ってるんですか?!」


レントさんは合点がいったという雰囲気で頭をかいた

自分にいったい何が起こっているのか、レントさんは少しずつ話始めた


「『適応者』って知ってるか?」

「適応者?」

「まあ俺たちの間で使ってるだけで、実際そういう名前かどうかはわかんねぇんだが」

「はあ…………」


フルダイブ式のVRは、今ある感覚を切った後、脳が微弱な電気を流し別の感覚を使用者に感じさせることでなりたっている

今自分の視界には休憩所の景色が映っているが、実際の肉体は自室のベットで目を瞑ったままだ


「VRにも向き不向きがあってな、今じゃもう調整されているが昔はヘッドギアの起動が上手くいかないってやつが何人かいたんだ」

「えっと確かP3R、でしたっけ」

「そうそう、よく知ってるな」


疑似現実性拒否反応

名前の通り、本来とは違う感覚に対して身体が拒否反応を起こすといったものだ

それが起きた人は、身体の感覚を完全には切ることができず微妙に元の感覚が残ったままになってしまう

そうなるとVR内の肉体感覚と、現実の肉体感覚両方が混在してしまい機械がきちんと起動しなくなってしまう

このゲームが始まったばかりの時期にどこかで聞いた気がする


「つまり、俺がP3Rの状態にあるってことですか?確かに気持ち悪かったですけど…………」

「いいや逆だ」

「逆?」


レントさんは俺の疑問に対して首を横に振り、一つの仮説を話した


「お前のそれは感覚が残っているんじゃなくて、このゲームとの相性がめちゃくちゃ良いってことなんだ」


疑似的な現実を拒否するのではなく、逆に完全に受け入れる


「あんなに体調を崩したのにですか?」

「それは最初だけだ、お前と同じように適応者になったやつは最初に最悪な気分を味わう、そうなったやつにも直接聞いた」


適応者はP3Rの人とは違い拒否反応を起こすのではなく、逆にVR内での感覚に完全に適応したもののことを指す言葉で、場合によっては超人的な感覚を手に入れる人もいるらしい

今あった不快感も、急激に身体が馴染んだ所為で発生した違和感が顕在化しただけで最初以降なることはない、らしい


「それは才能ってやつだ、実際さっきの戦いでは動きが全然違かっただろ?」

「……………………はい」


二回戦の時の動きを思いだす

実感は無いが、確かにいつもより動きやすかったのを覚えている

相手の剣が軽いと気づいたのも、超人的な感覚というものなのだろうか


「俺らが新規のプレイヤーを限定してスカウトしてるのも、実はお前のような適応者を探すためでもある」

「そう、なんですか…………」

「急にこんな話しても受け入れられるとは思ってねぇ。ただ、俺がお前を評価してるってことだけ覚えてくればいい」

「……………………」

「悪い、そろそろ時間だ。悪かったな、急にこんな話して」


レントさんはそういって立ち上がり会場へと戻っていった

取り残された俺は、一人ソファーに座って考え込んでいた


「適応者……………………」


言ってることはわかる

拒否反応を起こす人が存在するということはその逆だって存在する可能性はある

人間の身体の仕組みなんて今でもわかってないことはいっぱいあるし、そもそも今現実の俺が頭に被っている機械の仕組みだって俺は理解していない

相手は一応強クランのサブリーダー、わざわざこんな嘘をつくメリットもないし、どっちというとデメリットの方が大きい

でも


「ええ……………………俺が…………?」


俺は正直全然納得がいってなかった



ーーーーーーーーーー



三回戦の時間がやってきた

会場で待ち構えていた対戦相手は見覚えのある人物


「やあ」

「カントラさん…………」

「まさか、本当に戦うことになるとはな」


カントラさんは困ったようにかたをすくめている

まあ初期装備のやつがここまで勝ち進むとは思わないだろうな

俺もそう思う


「まあ、はい、よろしくお願いします」

「こちらこそ…………お互い悔いの無い試合にしようじゃないか」


決闘申請を承認、カウントダウンがスタート

木刀を引き抜き構えを取る

カントラさんが取り出した武器は


「大盾に、片手剣…………」


細かい装飾が入った大盾と剣、両方とも似た雰囲気のデザインで一見すると儀礼用にも見える

しかしそんなわけがあるはずがなく、武器から漂ってくる威圧感は凄まじいの一言


「いやなんで威圧感とかわかるんだよ俺…………」

「?」


頭を振って思考を切り替える

今は取り合えずどうやってあれを攻略するかだ

カントラさんは左手の剣をこちらから隠すそうにして盾を構えている

試合が開始されても動きは無い

どうやら待ちに徹するみたいだ


「風よ眼前を切り開け『ウィンドスラッシュ』」


この距離ではダメージが下がってしまうがあの大盾を持ってどれだけ動けるのか気になる

風の刃が飛翔、なぜかカントラさんは盾を構えたまま動かない


「げっ」

「二節魔法では『フィティ』の防御を抜けないことは有名なはずだが、どうも知識に偏りがあるみたいだな」


魔法が盾に直撃したがカントラさんはダメージを受けている様子はない

マジか、いや無い方がおかしいけど魔法防御用の武器もあるのか

そうなると勝ち目が一気に無くなる

俺の手持ちで一番撃ちやすくて威力が高いのが魔法くらい

そうなると呪術を当てるしかない


「では、こちらからも行くぞ!『ウェポンシャード』!」


スキルが発動、片手剣を振り回されそこから小さな金属片のようなものが空中に向けて放たれる

数は一つ、速度はまあまあ

これくらいなら―————


「やっばっこれは無理!」


放物線を描き、頂点から落ち始めた時点で一気に嫌な予感が膨れ上がる

着弾地点から離れるために前方へ走り出して数秒

背後から爆発音と共に強い衝撃

こんな戦略兵器対人戦に持ち込むなよ!


「ハアァッ!」


前に出ればもちろん待っているのは剣戟

振られた剣をなんとか逸らすが勢いは消しきれず吹き飛ばされる

地面を何度か跳ねて停止するが追撃がやってくる


「火よ、飛球となれ『ファイアーボール』!」

「風よ、眼前を切り開け『ウィンドスラッシュ』!…………ぐっ」


放たれた魔法を相殺しようとするが衝撃を殺しきれてない

こっちは威力が上がってるはずなのに


「風魔法の同節で威力を相殺している…………カラクリはその指輪だな」


バレるのが早すぎる

こっちから仕掛けるのは厳しいがどうにかして隙を作らないと


「土よ、隆起し、障壁となれ『アースウォ―ル』」


土壁を作った?


「火よ、灼熱よ、大火となり、この大地を染め上げよ」

「そういうことかよ!」


土壁は自分が巻き込まれないようにするため

巻き込まれないように壁に向かって走り出す


「『ボルケーノ』!」

「うおおおおおお!!」


壁の奥から巨大な火が上空に向かって飛び出した

今度は爆撃か?やってられない!


「風よ!『ウィンド』!」


壁の手前に飛び込んで左手で地面につく

魔法を発動して壁を飛び越え、向こうの相手に木刀を叩きつける


「オラァ!」

「…………ッ!やるな」

「防ぎながら、言うなっ!」


上からの奇襲も盾で受け止められる

反動で相手の後ろに回り込んだ後前に転がる

背後から空気を裂く音が聞こえ、髪が少し切れた


「風よ!『ウィンド』!」

「くぅぅぅぅ!!」


反転し突撃

胴体へ放った左手の掌底は盾で受け止めれるがそのまま魔法を発動

互いに吹き飛ばされ向こうは土壁に激突、こっちはすぐさま木刀を捨てる


「夢想、差し込む木漏れ日、安寧の日々!」


吹き飛ばされながら詠唱を開始

右腕から黒いモヤが漏れ出す

呪術の発動に観客席がざわめきだす


「眠る『私』!永遠の楽園!」


チャンスはここ

防御が硬そうな相手にどれだけ効くかはわからない

目前には体勢を立て直したカントラさんの姿


「呪術っ…………だが!…………『ピンポイントプッシュ』!」

「されど汝—————?!」


落とした木刀を拾うため走りながら身を屈めた瞬間、伸ばした手から木刀がすり抜けた

カントラさんを見れば、踏みしめた脚に緑の燐光が宿っている


「少しの範囲で、小さな衝撃しかを与えられないが―————」

「まずっ」


大盾を構え、一気に踏み込んでくる

こちらは急なブレーキで重心が前に出過ぎてる

この距離じゃ逃げられない


「—————地面に落ちた武器を弾くには十分だ『シールドストライク』」

「—————!!」


全身を襲う衝撃、大盾が叩きつけられその勢いのまま舞台の壁まで吹き飛ばされる

右腕から漏れ出ていたモヤは静かに消えていった



ーーーーーーーーーー



「…………少し危なかったな」


壁際まで吹き飛ばされたヒカルを一瞥する

動きはない、もう諦めてしまったか


「……………………」


正直驚いてばかりだ

初対面の時は偶然迷いこんだ新規プレイヤーかなにかかと思ったが、二回戦の戦いを見てそれは勘違いだとわかった

惜しむべきは装備品と手札の少なさ

使っていた装備が修理中だったのだろうか


「……………………なんだ?」


観客席の様子がおかしい

がやがやと騒がしい声の中からどういうこと、タイミングがおかしい、などと困惑と驚きの言葉が聞こえてくる


「なにが…………?!」


周囲を見渡す中、ある一点に目が留まる

壁に寄りかかるように座り込んだヒカル、彼は俯いたまま気づいてはおらず、その目の前に信じられないものが浮かんでいる

見る機会の少ない特別な仕様のシステムウィンドウ


「イデアモンスターの討伐リザルト?!」



ーーーーーーーーーー



「くっそ…………やっぱり駄目か…………」


壁に寄りかかりながら項垂れる

まだHPは残っているが流石にこれ以上はジリ貧だ、初見のメリットを失った以上呪術の発動は許されないだろうし普通の攻撃じゃ防御を抜けない


「はぁ……………………」



—————ヒカルは、才能あると思う―――――



前にそんなことを言われた気がするが、そんな簡単にはいかないよな

……………………ん?


「あれ、いや……………………だれに言われたんだっけ……………………ッ?!」


頭が痛い

吐き気が、する

また気分が悪くなってきた

胸の奥で何かが沸き上がってくる

身体がいうことをきかない


「ヒカル君!」

「…………?」


カントラさんの焦ったような声で意識が前に向く

前方にはこちらを見るカントラさん、じゃない


『■D■A ■ON■TE■S ■■■■■■!!!』


「イデア、モンスター…………?」


なぜ、いま?

今は、新人戦の、最中で

イデアモンスター、なんて、どこに


『RESULT』


頭痛がどんどんと酷くなっている

視界の端に強制ログアウトの警告が走る


『貢献者』


眼が、痛い

視界に幕のようなものが広がりびりびりと広がっている


『稀人:ヒカル MVP』


倒されたイデアモンスター

そいつは、その名前は、一体


『個体名』


心臓が、痛い

心が、痛い

この世界には、痛みなんてないはずなのに

その名前を見た瞬間、頭がはじけ飛んだ気さえした





















『No.■ いつか見た、誰か(二ーヴァ・イノセンス)





















「……………………ああ……………………俺、何やってんだろ……………………」



『ability:『越境』を習得していました』



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