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11いつか見た、



「……………………?」


木漏れ日が差す天気の良い森の中

曖昧な意識のまま、俺はその場所に立ち尽くしていた


「あれ、俺何やってたんだっけ…………?」


少なくとも覚えている限り夜の星のクランホームにいたことは間違いじゃない

ならばなぜ俺はこんな森の奥深くに?


「森……………………もしかして俺一回死んだのか?」


そういえば他の場所でセーブとかしてなかった筈、キルされて初期のセーブ地点に戻った?


「いや、そしたらあの扉の前に戻るはず…………」


初期セーブは初期エリアを抜けた時点で強制的に扉の前で固定だってアキラが言ってた

もしかして初期エリア攻略者はセーブ地点の変更が行われないのか?


「…………………トップクランのホームで殺人、というかPKが現れるのは変だな…………」


しかも大事な新人が集まるタイミング

いやだからこそ?


「そもそもあんまプレイヤーをキルする理由がないような……………………」


プレイヤーキルが行われると、キルした相手はカルマ値というものが溜まり、溜まり過ぎた状態でキルさ

れるとカルマ値がゼロになるまでインベントリが使えなくなるデメリットがある

キルされた側は精々手に持ったアイテムを落としてしまうくらいで装備品などは適用外、正直やる意味がない


「いや、それよりどこだここ?」


今の現状を確認するよりこれからどうするか考える必要がある

位置を確認するためにマップを開く、もし俺が自分で森の中まで歩いてきたのなら直近の道が表示されるはず


「……………………だめ、か…………」


表示されるのは真っ白な画面のみ

他にもいろいろ手を尽くしてみたが有用な情報は一切得られなかった


「……………………」


マップは使えない

GMコールは反応がない

フレンド通信はそもそも同エリア内でしか機能しない


「……………………ログ、アウトも、できない」


ボタンを何度もタップしてみても一切反応がない

なにより一番気になっているのがメニューの時計機能

アナログで針が三つあるタイプだがそのすべてが動きを止めており、その時計に重なるようにして横倒しの砂時計アイコンが表示されている


「これ、どうなっているんだ?」


想像は、できる

だが突拍子が無さすぎてありえるとは思えない


「……………………」


考えても考えても答えが出てくることはない

どうすることも出来ず、おもむろに銃を取り出してこめかみに当てる


「……………………いや、やめよう……………………」


あり得ないとは思うがどうしても嫌な予感をぬぐい切れない

古い作品だが、俺でも知っているくらい有名な話だ

これは最後の手段で、一先ず周囲を散策してみよう

もしかしたらあっさり解決するかもしれない



ーーーーーーーーーー



何もない


「……………………」


あれから十時間以上歩いただろうか

時計が機能していないため、魔力の回復時間を使って時間を計った

魔力は赤のフラグメントが一つ増えるごとに回復効率が上昇し、一つだと三分で一点回復する

定期的に魔法を空に向かって放って誰かが気づいてくれないか試しているが、正直期待していない


「……………………」


どうしてこんなことになっているのだろうか

地面に落ちたチケットを返そうなんて考えなければ良かったのだろうか

実際ラッキーだって思ったんだろ?

トッププレイヤーと戦ってみたいって思ったんだろ?


変に欲を出したからこうなる


あのときだって、お前が余計なことをしなければ


「うるさいっ!!」


幻聴だ

正直かなり眠い

ずっと歩き詰めだったんだ、疲れもする

少し休憩しよう

休憩して元気を取り戻して、ここから出る方法を探そう

きっと大丈夫、なんとかなる


「……………………?霧…………?」



―—————————?



「……………………なにか、聞こえる」



―—————————?



霧の奥深くから小さいが確かになにかが響いている



―————————ん?



「…………………………………………え?」



―———————さん?



「いや……………………うそ、だよな……………………」



―——————若葉さん?



ありえない

あっていいわけがない



―————やっと来てくれたんですね―――――



霧の奥から現れたのは、見覚えのある女性の姿



―———ずっと、待っていたんですよ―――――



「違う!そんなわけない!」


身体が震えだす

脚に力が入らなくなり、フラフラと身体が揺れ動く

目の前の光景を理解することが出来ず、動悸が収まらない

心臓の音がはっきりと聞こえてくる

目を逸らすことができない



―————私を、愛してください―――――



「くるなっ!!」


銃を取り出してゆっくりと近づいてくる女性へと向ける

それでも相手は近づいてくる

気づかないうちに女性の服は消え去っていた



ゆっくり、ゆっくり


指先に力を籠める

撃てない



―———さあ――――



ゆっくり、ゆっくり


「やめろ」


女性はもうすぐ目の前まで近づいている

銃を握る左手が痙攣している

力を込めているのに引き金を引く指先はピクリとも動かない



―————若葉さん―――――



「ちがう、俺はちがうんだ」


そうじゃないんだ

頼むよ

お願いします

どうか

神様

どうして

なんで

やめて

頼む

どうか

気づいて



―————満さん―――――



「俺は、満さんじゃないんだよ……………………()()()


微笑む女性の顔

愛する人を見つめるその顔

その目は暗く濁っていて、まともなものを映しているようには見えない



―————ね?—————



止めろ


止めろ止めろ


止めろ止めろ止めろ


止めろ止めろ止めろ止めろ


止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ



()()()()()()()()()



今度は奇跡的にどうにかなる可能性なんて考えられないように徹底的に

手の中にある凶器の一弾をその眉間の奥深くまで叩き込め

俺が今それをすればあんなことにはならないんだ

そうすればもう誰も死なずに済むんだ

だから早くその銃の引き金を早く引くんだよこのクソ野郎がよォ!!



「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」





















銃口を向ける、()()()()



「無理だ」



自分に撃つのに、躊躇いはない
































「…………………………………………え?」



きれいなおとがきこえた

空を裂く青い軌跡



「……………………大丈夫?」



きれいなこえがきこえた

温度が感じられない透明感のある声



「……………………聞こえてる?」


俺とは違う、汚れを知らない純白の美しい髪

肌は陶器のように綺麗で、瞳は宝石のようだ

手に持った半透明の青白い剣は、彼女が持つ神秘的な雰囲気によく似あっていると思った


「……………………???」


不思議そうにこちらを見つめる彼女の姿は作り物めいていて現実感がない

それくらい綺麗で、恐ろしくて、素敵で、眩しくて、綺麗だった

何もかもを忘れてしまうほどに


「…………………………………………ぅえ」

「……………………え?」


小さく呻いた俺の声を聴こうと彼女がすぐ傍まで近づいてきた

近い

やばい

ちょっと待って


「ちょ……………………あ」


頭の中を何かが通り抜けるような感覚

身体から力が抜け、そのまま膝から崩れ落ちる


「……………………あ」


焦って指に力が入ってしまった

俺は死んだ


「……………………どうしよう」



ーーーーーーーーーー



ぼんやりとして、ふわふわする

全身に感じられる強い風

視界には青い空


「……………………え?」


気づけば俺は何もない空中を落ち続けて―――――


「は?!ちょっ、嘘だろ?!」


落ちる


落ちる


落ちる


腕や足を振り回して藻掻いてもどうすることもできない

逆に変に動かした所為でバランスが崩れて身体が回転を始め、一切制御ができなくなる

ぐるぐると回る視界の中、一瞬見えた地平の彼方


「—————」


それは■■■と■■■を繋げる―――――



ーーーーーーーーーー



「………はっ!」


一瞬の浮遊感が全身を襲ったあと、気づけば身体は柔らかいなにかに包まれていた

気だるい感覚と、少しの温かさ

呆けるのはほんの数秒で、現実感が戻ってくる

視界には木製の天井、左側には窓から差す光が見える


「……………………夢…………?」


起き上がってさっきの出来事を思い返す

今自分がいるのは暖かそうな布団がかけられたベットの上

自分は空の上にいないし、全身を襲う風の感覚もない

どうやら、悪夢を見ていたらしい


「…………起きてる」

「えっ」


右側から扉が開く音と聞き覚えのある声が聞こえてきた

反射的に振り向くと、そこには十代後半くらいの白い髪の少女がいた

少女はそのままこちらへ近づき手に持ったお盆のようなものを手渡してくる


「えっと…………これは?」


反射的に受け取ってみると、お盆の上には土鍋にようなものと木でできたスプーンが載せられている

俺の疑問に、少女はあまり感情が乗らない声で答える


「…………作った」

「作った?」

「…………体調が悪い時に必要なもの」


土鍋の蓋を開け中身を確認するとそこにあったのは少し温かさを感じる粘り気がある白い物体


「…………おかゆ?」

「うん」


別に俺が倒れたのは体調が悪かったわけではないので、消化に良いものを食べる必要はないのだが


「………………………………………………………………」


こう横から刺さる視線というか、表情が一切変わっていないのに伝わってくる期待に満ちた表情というか

色々と聞きたいことがあるのだが、なんとも言えない微妙な空気に負け、スプーンを手に取る

よくわからないがわざわざ作ってくれたのだ、ありがたく受け取ろう


「……………………」


おかゆを掬い、口元へ持って行く


「……………………」


なんかすごい見てきて非常に食べづらいが、一先ず口の中へ


「……………………ん?なんか……………………」


即座に吐き出さなかったのは奇跡に近い


「???!!!」


しょっぱくて甘くて苦くて渋くて辛くてもうなんというかもうなんといってよいのか

噛むたびに味が変わり噛まなくても変わり自分が今まで感じてきた味覚の最大レベルが一気に押し寄せてくる感覚

どこをどうすれば真っ白なおかゆにこれだけの味を込められるのか理解できない

普通色味でなんとなく味のイメージってつくじゃん?

ちょっとまってこれ粘り気がある所為で余計に口の中に残りやがる

意識が遠のきそうなのを我慢しなんとか飲み込んだ


「……………………うぐ…………?!」


安心したののも束の間、胃の当たりから妙な違和感

なんかこう凄いむかむかするというか、凄く気分が悪い

飲み込んでからも襲い掛かってくる驚異の二段構え

痛覚が無くて心底良かったと思う

いったいどこをどう調理すればこんな殺人級の料理を作れるんだ


「…………どう?」


首をすこし傾け、表情は変わらず期待した雰囲気を醸し出す少女


「……………………え、っと……………………」

「………………………………」

「…………………………………………不味いっす」


俺は苦笑いしながらそう告げることしかできなかった

一応これでも一人暮らしで自炊を行う現役高校生

料理の苦労を知る以上、ここで変に誤魔化すことはできないっ!


「…………………………………………」


ガーンと、表情が一切変化していないのにショックを受けているのがなぜか分かる

すこし顔を下げ、なんだか気落ちしているように見える


「えっと、悪い。そんなに落ち込むとは思ってなくて……………………」

「……………………そんなわけない」

「へ?…………あっちょっとまてそれ俺が使った―――――」


顔を上げ、いつの間に取られていたのか気づけば手には木製のスプーン

止める言葉も間に合わず、素早い動きで土鍋からおかゆを掬って口の中へ


「…………………………………………」

「あーっと…………」


少女はスプーンを口に咥えたまま一切身じろぎをしない

表情も変わらない所為か、こうして見ると本当に人形のように見えてしまう


「…………………………………………」

「……………………だ、大丈夫か?」


しばらくするとプルプルと震えだし、顔からは少しだけ汗が出ている

それでも表情は変わらなかったが、変化はあった


「…………………………………………み」

「…………み?」


まず顔が真っ青になり、その後すぐ真っ赤に、緑になったと思ったらまた青に

表情は変わらないのに顔色だけが凄まじい速度で切り替わっていく


「……………………みず」

「あっちょっとおい!」


そのまま直立不動のまま後ろにぶっ倒れる

お盆を抱えている所為で咄嗟に動くことはできなかった

少女はそのまま倒れたまま微動だにしない

目は開いているので生きてはいるのだろう


「……………………ふ」


どうなっているんだろう


「ふふ……………………ふふふ」


気づけば森の中にいて、頼れるものが何もない状況


「くく、ははは」


何時間も森の中を彷徨って、そこでさらに追い打ち


「はははははは」


さっきまでの俺は、何もかも嫌になって自分からすべて終わらせようと限界ギリギリの状態だったのに


「あっははははははははははははは!!」


今目の前には、謎の美少女が自分の料理の所為で床に転がって悶絶している姿がある


「はははははははははははははははは!!!」


もう色々馬鹿らしくてしょうがない!

これが笑わずにいられるかよ!


「ははははははははははははははは!!!!」


本当に心の底から笑ったのは、いつぶりだっただろうか



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