12絡まった思い
「……………………」
「……………………」
あれから少し経ち、今いるのはベットがあった部屋を出た先にあるリビング
少女とは木製のテーブルを挟んで座っている
あんなに大笑いしてしまったので正直かなり気まずい
「……………………」
「……………………えっと、悪い、別に倒れた姿を笑ったわけではなくて、いろいろあってさっきので緊張の糸が切れたというか……………………ごめんなさい」
沈黙の空気に耐えられず、謝罪の言葉を口にする
なにを言っていいかわからず、言い訳じみたことを言ってしまった
「……………………」
「……………………わたしも」
また沈黙が支配しそうな中、少女の方も口を開く
「……………………あんなもの食べさせて、ごめんなさい」
「ああ、うん…………」
互いに謝って、この話題は終わらせる
え?残っていたおかゆはどうなったかって?
スタッフの胃に叩き込みましたよ
ほんと痛覚なくてよかった
「取り合えず、色々聞きたいことがあるんだがいいか?」
「…………うん」
空気を変えるためもあるが、さっきから色々気になっていることを聞いてみる
「ここは、一体どこなんだ?俺はさっきまで中央都、カラルナーツェにいたはずなんだが」
「……………………ここは二世の狭間」
「……………………」
「…………二つの世界の間に点在する場所…………貴方は世界の外に出ようとして偶然ここに入り込んだ」
二世の狭間
二つの世界とはゲーム内とリアルのことだろう
確かここにくる前、休憩のためにログアウトしようとしていたのでおそらくその時に
「ここから出たいんだが出る方法を知らないか?ログア…………本来の方法では出られないんだ」
あれから十時間以上も経ってもう日もまたいでいる頃だ、このままログアウトできないなんてことになれば流石にいろいろと不味いことになる
「…………貴方と同じようにここに来た人のことは知ってる」
「本当か?!」
「……………………でも気づいたらいなくなっていたから、元の場所に帰れたかどうかはわからない」
「…………どれくらいでいなくなったか覚えているか?」
「……………………一ヶ月くらい」
「いっか?!」
一ヶ月
ここに来ていたのはNPCだったのだろう
もしそんな長い間ログアウトできないようなことになれば、確実に死ぬ
今は夏休みが始まったばかり、しかも定期的に連絡を取り合うような人も俺にはいない
「……………………はぁ…………」
「……………………どうしたの?」
「……………………いや、まあ余命宣告されるのってこんな気分なのかなって…………」
「……………………?」
首を傾げて不思議そうな顔をする
NPCからしたらそりゃ変な話だ
「ええと…………俺の本体はここにあるわけじゃなくて、別の世界から意識だけをこの身体に移していて、元の身体は意識を失っているんだ」
「…………うん」
「だから一ヶ月も意識がない状態で放置されればその身体は間違いなく死ぬ」
「……………………」
「そして俺の意識もその身体から完全に切り離されているわけじゃないから、身体が死ねばもちろん今いる俺も死ぬ……………………どうしようもない」
「……………………」
少女は黙ったままただこちらへ視線を向ける
もしかしたら質問に答えたことで罪悪感を覚えているのだろうか
そうだとしたら申し訳ない、彼女は何も―――
「…………大丈夫」
「え?」
「…………ここは二つの世界より時間の流れが遅いから、貴方が死ぬことはない」
「時間の流れって…………いやそんなわけ…………」
「…………貴方と同じような人…………その人も最初は信じなかったけど、二週間くらいで信じてくれた」
「いやでも…………ええ?」
時間の流れが遅い
つまり時間加速ということだが、本当に?
俺の脳みそが通常よりも遥かに早いスピードで思考し、一秒を何倍にも引き延ばしているというのか?
「……………………大丈夫」
理解できない現実に困惑するなか、少女は俺を安心させるようにやさしく告げた
「…………貴方は死んだりしないから、安心して」
「……………………」
理屈もなにもない、ただの気休めにしか聞こえない言葉
けど、不思議とそうなんじゃないかって思えるほどの何かが彼女の言葉から感じられた
「取り合えず、信じる」
「…………うん」
自分が今どうなっているのか全然わからないが、それでも彼女の言葉は信じてみようと思う
結局のところ、なるようになるしかない
いつもと同じだ
「といっても、どうしたもんか…………」
「?」
「いや、この辺りでどこか住めそうなところに心当たりはないか?食事は問題ないが、眠気はどうにもできないっぽいし」
危ないところを助けてもらったし、流石にこれ以上世話になるわけにはいかない
布があればテント代わりにできるが最悪木の上でだって眠ってみせる
「……………………?…………ここ」
少女は理解ができないといった風に首を傾げ、その後地面の方を指さす
「いや、流石にそれはまずいっていうか…………」
「…………どうして?」
「それは、個人的な理由というか…………」
「…………でも、この辺りには森しかない」
「…………森の中でだって暮らそうと思えば暮らせる、はず…………」
「……………………霧が出てくるからやめた方がいいと思う」
「霧?」
「……………………霧の中にずっといると、怖いものを見る」
「!」
思い出すのはあの時の光景
森の中を立ち込める霧と、あの人の姿
急激にこみ上げる吐き気をなんとか抑える
「……………………だから、ここにいた方がいい」
「でも、それは…………」
「…………それにここは私の家じゃない」
「え、そうなのか?」
「…………昔からあったから、勝手に使ってるだけ…………気にしないで」
「……………………」
葛藤は、ある
けれどあの場所で暮らし続けるというのは絶対に無理だ、心が壊れる
「……………………いや……………………?!」
突如として眼前に表示されたウィンドウ
眼の前の少女も驚いたようで少し固まったが直ぐに復活し、身体を逸らしてウィンドウの側面から顔を覗かせている
____________________
滞在しますか?
YES/NO
____________________
表示される選択肢に少し悩むがやはり自分にはできない
「…………悪い、ありがたいけどやっぱり」
そうして指を伸ばしてNOをクリック、したはずが
「……………………は?」
なぜか俺はYESをクリックしていた
「ん?あれ、どうなって……………………うん?!」
困惑して視界を動かしていると表示されたウィンドウの上部を掴む何かが見えた
手だ
「おま、何して、というか、どうやって」
よく見ればウィンドウの位置がさっきとは違う
俺から見て少し右側にある
少女がウィンドウを掴んで移動させたのだ
俺の抗議に相手は答える
「……………………死んじゃう」
「—————」
少女の心配そうな声
顔はウィンドウの奥に隠れて見えない
俺は、そんなにひどい状況だったのだろうか
きっと、そうなのだろう
「わか…………った…………しばらくここで暮らさせてもらう」
「…………うん」
「でも、もしかしたら俺がそっちに迷惑をかけることがあるかもしれない。その時は言ってくれ、直ぐに出ていく」
「……………………わかった」
最後の言葉には渋々といった具合で頷いたが、こればかりは譲れない
少女は立ち上がって先ほど俺が眠っていた場所を指さす
「…………部屋はあそこを使って」
「ああ、ありがとう……………………そうだ」
「?」
そういえば一番大事なことを聞き忘れていた
「俺はヒカルっていうんだ。そっちは?」
少し悩んだが、この世界での名前を
「……………………私は、シロ」
シロ
そのまま過ぎてなんといっていいのか
「よろしく、シロ」
「……………………うん、よろしく、ヒカル」
不思議な場所での、不思議な少女との出会い
ゲームの中なのにおかしなことばかり
正直かなりしんどい
それでもどうしようもない以上、いろいろと腹をくくるしかない
ずっとそんな風に生きてきたのだから
ーーーーーーーーーー
Day-3
あれから三日が過ぎた
お腹は空かないし、ヘッドギア側からの警告文も飛んでこない
やることもなく、ただ小さな丘の上に建った家で時間が経ったら眠る毎日
「……………………」
今も家の外で寝転がり、青い空と流れる雲を眺めている
暇だ
「…………………………………………」
別になにかあるわけではない
誰かが悪いわけでも、特別な理由があるわけでもない
ただ―――
「………………………………………………………………なあ」
「……………………なに?」
「なんでずっとこっちのこと見てんの?」
「……………………なんとなく」
そうかなんとなくか
「……………………」
「……………………」
空を見る
静寂が訪れ、またなにもない時間が過ぎていく
あの雲の形、なんだかウサギみたいだな
「…………………………………………………………………………………………………………」
いやおかしいって
なんなの?
なにがしたいの?
なんでずっとこっち見てるの?
俺に対しての新手の拷問かなんかなの?
「……………………」
流石に部屋の中まで入ってきたりはしないけどさ
それでも四六時中ずっと見てくるのはおかしくない?
しかも日を追うごとに少しずつ距離が近くなってきてるし、もうマジ勘弁して欲しいぃ
「……………………?どこにいくの?」
俺は身体を起こして丘の上を下っていく
シロの疑問に俺は
「ちょっと森の方を見てくる」
「……………………危ないよ」
「別にずっといるってわけじゃない。なにもすることもないし、少しでも早くここから出られるようになにか手掛かりでもないか探すだけだ」
正直このままただ時間が過ぎ去るのを待つだけじゃ色んな意味で精神衛生上よろしくない
あの霧も、入って直ぐ出てくるわけじゃないだろうし
「……………………わたしもいく」
「え?!…………いや、別に気にしなくていいぞ。直ぐに戻ってくるし」
「……………………危険、それに迷子になる」
「さ、流石にそこまで心配する必要はないぞ」
「……………………一人でまたあの時みたいになったらどうするの?」
「うぐ…………」
「……………………それに、ちゃんと戻ってこれる?」
それを言われたら何も言い返せない
じっとこちらを見つめるシロ、表情は変わってないはずなのにこちらを心配する感情がひしひしと伝わってくる
「……………………わかった、好きにしてくれ」
「…………うん」
結局また、ジッと観察される状態へと戻った
逃走失敗
実際あんな状態を見られたわけだし、ここまで心配してくるのもおかしくはない
それでもシロの言葉を断り切れない自分が、とても情けない
「…………はぁ」
「?」
ーーーーーーーーーー
で、なにこれ
「……………………」
「……………………」
森の中を歩き続けてしばらく
霧も出てこないし、前はしっかり見てなかった木や周囲のものを調べていたのだが、そこで変なものを発見した
「…………ウミウシ?」
「…………いっぱいいる」
海にいて平べったく背中に触覚がある、いろんな種類がある生き物
本来森の中にいるような生物ではないのだが、ちゃんと見てみると普通のウミウシとは違うことが分かる
「ダジャレかよ」
全身が白と黒の色の体毛で、頭部を見ると触覚ではなく角が生えている
ウミウシというか、ウミウシの形をした牛だ
サイズも牛サイズでなんかでかい絨毯みたいにも見える
「…………どうするの?」
「一応モンスターみたいだが…………」
なんというか温厚そうに見えるし、わざわざ近づく必要はない
探しているのはここから出るための手がかりだし
「やめとく、戦う意味がない」
「……………………そっか、じゃああれはどうするの?」
「あれ?」
シロが指をさした方向には、こちらへ全速力で走ってくるウミウシの姿が
あの身体でどうやってあれだけのスピードを?!
「えちょ、はや―――」
「あ」
気づいた時にはもう遅く
地面を走るウミウシの突撃が俺の身体へ襲い掛かる
腹部を抑え込まれたまま持ち上げられ、そのまま背後の木まで押し込まれる
「ぐふぇ…………」
木が折れるような音が聞こえ、背中を襲う衝撃
HPがそのままゼロになり、俺は死んだ
ーーーーーーーーーー
気が付くと冷たい水の感触と、馴染みのない匂いが漂ってくる
俺はいつの間にか、波打ち際で立ち尽くしていた
「……………………うん?」
俺はウミウシに殺されたはず、それなのになぜ海に?
理解できない現状に思い悩む暇もなく、なにかが俺の腹部を掴む
「え」
それは生臭く、赤くてギザギザした巨大な甲殻
後ろを振り返ってみるとそこにいたのは
「……………………カニ?」
巨大な蟹の姿だった
蟹は自身の爪で器用に俺を持ち上げると、そのままゆっくりと自分の顔の方まで持って行き
「へ?」
口を開いてそのまま俺を飲み込んだ
ーーーーーーーーーー
「カニィィィ???!!!」
飛び上がって目を見開く
身体は無事で、周囲に巨大な蟹はいない
場所は海ではない森の中だ
「…………起きた」
「え、一体なにが…………」
シロが心配そうにこちらを見つめている
「ゆ、夢?」
また悪夢だ、空から落ちる夢といい、最近はよく悪夢を見ている気がする
「…………うん、ヒカルが一回死んだから」
「死んだ…………ああそういえば吹き飛ばされてたな」
「…………ここでは死ぬようなケガをしても、代わりに悪夢を見るだけで済む」
「そう、なのか。なるほどそれであの時も…………」
頭を銃で撃ち抜いたのになぜか生き残っていたのはそういうことだったのか
てっきりぎりぎり生き残ってシロが治療してくれたのかと思っていた
「そういえばさっきのウミウシは?」
「…………そこ」
シロが指をさしたのは俺、の真下
「うお?!」
なんか柔らかいと思ったら俺は気絶したウミウシの上に乗っているみたいだった
びっくりしてついウミウシの身体を押して飛び降りる
その衝撃がとどめになったのか、アイテム入手のウィンドウが表示される
「あっやべ、倒しちゃった」
他のウミウシに報復とかされないよな?
表示されるのは食肉や牛乳など普通に牛から取れるアイテムばかり、ウミウシ状だった意味は?
「あれ、消えない」
「…………悪夢を見てる」
「ああ、こいつらにも適用されるのか…………」
倒したモンスターは粒子状になって消えるはずだが、この世界のルールでモンスターも本当に死んだりはしないようだ
しばらくするとウミウシが飛び起きる
悪夢を見ていたためか、恐怖に怯えて直ぐにその場から逃げ去っていく
「…………というかシロ、その手に持ってるのって…………」
「…………これ?」
シロの右手には半透明の青白い剣が握られている
それは確か初めて会った時にも持っていた
「それ、さっきまで持ってなかっただろ?どこにあったんだ?」
「……………………えっと」
シロは手に持った剣を落とす
するとそれは崩れ去り、剣を形作る輪郭が一本の糸になって手の中に吸い込まれる
「…………こうしてる」
手から出てきた糸が剣の輪郭を形作り、掴む
それは一本の剣となってシロの手に収まっていた
「こんなものまであるのか…………」
「……………………はい」
「え…………お、おう」
興味本位で剣を見つめていると、シロが剣を手渡してくる
手に取って詳細を確認してみる
____________________
・「空掴の糸」
種別:■■
それは空を定めし後に残されたかつての抜糸
役割を終えようがそれは確かに空を掴む
持ち手が愚者を傷つけようとも、その命が潰えることはない
空の高さは汝の罪
汝が罰を拒むのならば、汝の空へと堕ちるがいい
____________________
「……………………」
詳細から漂ってくる超激レアアイテムの気配
空を定める?
かつての抜糸?
なんか見ちゃいけないものを見てる気分だ
「……………………取り合えず返す」
「……………………?」
さっきのウミウシが少し押しただけで死んだのは詳細にある、命が潰えることはないの一文からこの武器で止めをさすことができないのだろう
「……………………ヒカル」
「どうした?」
「…………この赤いのって、なに?」
「赤いのって…………牛肉のことか?」
「…………うん」
シロはさっきのウミウシのドロップアイテムの牛肉を手に持っている
一体どこから出したんだ
「なにって言われてもな、ただの食材だろ?」
「……………………食べられるの?」
「ああ、というか肉を食べたことがないのか?」
コクリと頷く
珍しいが、別に悪いことではない
まあそういう人もいるのだろうと思っていたら
「ちょっと待て?!何してるんだ?!」
「…………え?…………食べられるって」
シロは手に持った肉をそのまま口に入れようとしていた
すぐさま制止し、肉を回収
「そのまま食べるとお腹を壊すぞ、ちゃんと火を通してからじゃないと駄目だ」
「……………………そうなんだ」
シロは不思議そうにこちらを見つめている
まさかとは思うがこいつ―――――
「?」
「…………いや決めつけるのはよくない」
こんな可愛らしく首を傾げる奴がそんなひどいイメージを持つわけがない
頭を振って邪念を晴らす
取り合えず当初の目的であるこの場所からの脱出方法を探して―――——
「え?」
なにかが俺の腹部を掴む
それは生臭く、赤くてギザギザした巨大な甲殻
後ろを振り返ってみるとそこにいたのは
「は?」
蟹
「ちょ、なんでここに?!」
悪夢で見た蟹がなぜかまた俺を掴んで持ち上げる
こいつ実際にいるのかよ!
「ってことはこの後は…………」
食われる!
藻掻いて爪の中から抜け出そうとするが思った以上にしっかり掴まれて抜け出せない
口が開かれ、口元へ
「うおおおおおおおおお!!!…………お?」
蟹の動きが止まる
一瞬の浮遊感の後、掴まれた爪ごと地面に落ちていく
「痛った…………くはないな」
頭を打ってHPが少し削れるが、特に問題はない
起き上がって爪から抜け出し目を向けるとシロが剣を振り抜いている
蟹はカタカタ震えながらそのまま逃げだす
「…………これも、食べられるの?」
「…………一応」
シロは興味深そうに切り落とした蟹の爪を見ながら聞く
蟹の爪は粒子となって消えていき、ウィンドウがシロの目の前に出てくる
もうなんなんだよ一体
てかインベントリ使ってないかこいつ
ーーーーーーーーーー
ある程度森の中を探索してみたが目ぼしいものは見つからず、あるのは妙な見た目のモンスターや素材アイテムばかり、霧に関しては数時間程度なら出てこないらしく日が傾いた辺りで切り上げ今は家の中
「……………………なにしてるの?」
「もうちょっと待て、あと少しでできる」
「……………………白い…………」
手元の鍋には白い液体がお玉でかき混ぜられながら湯気を出している
液体の中には肉やにんじん、ブロッコリーなどの食材が一口サイズで入れられている
シロは作業を続ける俺を不思議そうに見ているが、問題があるわけではないのだろう
一応食べられないものがあるか聞いてみたが首を傾げるだけだった
「よし」
鍋から適当な器に移し、リビングのテーブルに並べる
調理物自体は簡単だが、右手で道具を持てないのがかなりきつかった
何も考えず右手に持ったら突然木刀が飛んできて、包丁を首元スレスレで吹き飛ばしてきた時は流石に肝が冷えた
判定が厳しすぎる
「……………………これ、なに?」
「シチュー、だな一応」
流石に市販のルーは無いので牛乳を使ったが、元々はこういう料理だ
シロは物珍しそうに器の中身をのぞき込んでいる
「いただきます」
「……………………いただきます」
手を合わせて感謝を
実際に命を奪ったわけではないが一応
一口食べてみるが特に問題はない、ちゃんとできている
「……………………」
シロも一口、また一口とシチューを口に運んでいく
肉を食べたことが無いみたいだったのであまり肉の主張が激しくならないよう工夫したがどうだろうか
表情が変わらないのでいまいちわからないが、嫌そうにしているわけではなさそうだ
「?!…………ど、どうした一体」
「……………………え?」
気づいたら、シロは泣いていた
目からポロポロと雫が零れ、水滴が器の中に落ちていく
本人は今気づいたかのように目元に触れ、自分の状況にひどく驚いているようだった
「わ、悪い、そこまでになるとは思わなかった。不味かったなら無理して食べなくていい」
俺は驚いてシロの前にある器に手を伸ばそうとするが、シロは取られまいと器を俺から遠ざける
どういうつもりかわからず、そのまま黙り込んでいると
「…………………………………………よくわからない……………………」
シロは少しずつ、少しづつ、絡まった糸をほどいていくように丁寧に言葉を紡いでいく
「…………………………………………初めて食べるもので、美味しいかも、不味いかも、わからない」
俺はそんなシロを見つめ、次の言葉を待っている
「…………………………………………ただ、温かくて……………………うれしい」
その言葉に、俺は
「……………………別にそれくらい、いつでも作ってやるよ」
「え?……………………」
シロが顔を上げ、こちらを見る
少しだけ目を見開き、初めてわかりやすい表情を浮かべる
「……………………いいの?」
こんなもの、偶然材料が揃ったから気まぐれで作っただけのものだ
シチューなんて食えないくらい失敗する方が珍しいだろ
別に料理が凄く上手いってわけでもないし、俺より上手いやつだっていっぱいいる
「ああ…………別に一人分作るのも二人分作るのもそんな変わらない、気にすんな」
どうせやることもない、単なる暇つぶしだ
だから、こんなよくある普通のものを、初めて宝物を貰ったかのような反応をするのはやめてほしい
「……………………ありがとう、ヒカル」
シロは、涙に濡れながら、悲しそうに、嬉しそうに、自分の思いを吐露するように言葉を伝え
―————小さく微笑んだ
「?!」
……………………卑怯だろそんな顔
「……………………」
「?」
俺はテーブルに突っ伏して、自分のぐちゃぐちゃな感情を整理するのに手いっぱいでろくに食事に手を付けることができなくなった
シロは気にせずそのままもぐもぐ食べている
俺、一体なにしてるんだろ




