40良し悪しとは、気づかぬ内に過ぎ去って
口も無いのに言葉を奏でる古時計は規則的な音を立てながらゆらゆらと振り子を揺らしている
握りしめた手に感じる汗の感触が、今は妙に強く感じられた
『———さあ、受け取るといい』
空から差し込む光
視線を向ければ四角形の輝く何かがゆっくりと目の前に降りてくる
手に取れば段々と発光が落ち着いていき、それが何なのか理解できるようになった
古く、ごわごわしていくらか黄ばんだA4サイズの羊皮紙
紙には文字が少し
「……………………」
それからいくら待てども、話は進まない
まさかとは思うが
「………………………………終わり?」
『うん』
「…………読めないんだけど」
『ガンバ』
紙に書かれた文字はどこの国の言語とも似つかない未知の言語
古時計は結局それ以上は喋らず、沈黙を貫いている
「……………………」
『……………………』
―——よし
「夢想差し込む木漏れ日安寧の日々」
『ちょちょちょちょちょ待った待った待った待った待った!!!!』
理不尽には理不尽で対抗するべきだろう
呪術を発動しようと詠唱し、腕から吹き出た黒いもやが周囲を漂い始めた瞬間古時計が焦った様子で止めてきた
一旦止める
『…………あぶっねぇ……………………というか僕に呪術撃とうとするとか、正気?』
「いいからちゃんと説明しろポンコツ、頭のねじ外れてるのか?」
『……………………僕、結構偉い立ち場なんだけどなぁ…………まあそのまんまの意味だよ』
古時計は身体の半分をぐんにゃりと曲げて地面に付きげんなりとしている
物体としての法則すら無視できるらしい。もう時計の形をした別の生き物だろコイツ
『その紙には問題が書いてあって、解読して内容の答えを僕に伝えればクリア』
「読む方法は?」
『それも含めて試練だよ♪』
「…………チッ」
『し、舌打ちされた…………』
なんかコイツ見てると妙にイラつくんだよな
シロの偽者を出したことを無しにしても
まあ一先ずは
「……………………こっちの住人なら読めるのか?」
紙に書かれた文字を見れば、なんとなくこっちの世界の文字に似ている気がする
誰かに聞けばわかるのだろうが、それだと読めなくした意味がほぼ無いし、もう一捻りくらいあるだろう
頼めそうな知り合いだと、旅の宿にいる二人は、ちょっと怪しい。聖女様くらいか
『読ませてもいいと思うなら、いいんじゃな~い?』
「……………………おまえさ」
妙に含みのある言葉
おどけたような口調の古時計を睨みつけるが、反応はない
確かにここで渡されるようなものを安易に他人に、しかもこの世界の住人に見せるのはあまり良くないかもしれない
「はぁ…………まあいいか」
考えても答えは出ず、一先ず紙は折りたたんでインベントリへ
試練とやらは聞いた。次はこっちだ
『まだなにかあるの?』
「あるに決まってるだろ。そもそもこっちは何で試練を受けないといけないのかも、Aルートが何なのかもわかってないんだ、説明してくれ」
『…………何で知らないの?』
「?」
古時計はおかしなものでも見る?かのように身体を揺らし、時計の針をぐるぐると回しながら思考を巡らせている
『いや、あんな出会った瞬間こんにちは!死ね!してくる連中に対してどうやって何も知らずに好感度を稼いだの?』
「好感度とか言うな。ゲームじゃ…………いやまあゲーム…………」
頭を振って余計な思考をシャットアウト
いいから話せと古時計に視線を向ければ
『試練をクリアすれば、僕は君にイデアモンスターに関する秘密を教えられる。例えば、彼らの成り立ちやどうして存在するのか、とか』
「……………………」
『Aルートが何なのかについては…………まっ試練をクリアしていけばわかるものさ。んじゃ、お帰りはあちらでーす』
背後で扉が開く音が聞こえ、有無を言わさぬ流れを感じた
これ以上は無理か。クソ、碌に情報を得られなかった
結局こいつの言う試練をどうにかするしかない
「待て、最後にシロがどうなっているのか答えろ。安全なのを確認するまで出るつもりは無いぞ」
『えぇ?もーめんどくさい……………………ぬぉい!!』
甲高い叫びと共に、軽い何かが弾ける音
煙が立ち込め視界が真っ白に染まる
『これ結構疲れるんだからねーサービスだよー』
「何が…………?」
『………………………………』
「シロ?!」
煙が晴れると、そこには膝を抱えて眠りにつくシロの姿が
特に問題はなさそうで、偽物の気配もない
『…………油揚げ…………ひき肉…………醤油…………シンプル…………おいしい…………』
「よかった、本物だ」
『…………そこなの?』
この言動は本物、間違いない
少し歩けばゆっくりと付いてくる
さっさとここから離れよう
『バイバイヒカル君。また会おうね』
「……………………チッ」
『やっぱなんか君僕に対して当たり強いよね?何で?』
知るか
ーーーーーーーーーー
『…………信用できる?』
「(正直よくわからん。それに知ってる前提っぽかったし、どうなってんだか)」
扉を抜けた後、気づけば原理の庭にあるどこかの路地裏に転移していた
運よく周囲に人はいなかったため、転移の瞬間を見られることはなかった
今はシロに記憶を見てもらい、情報を共有している
近くの壁に背を預け、雲一つない空を見上げていると何とも言えない気持ちになる
「結局ふり出しに戻ったな~」
強制アプデが起きた時点でイレギュラーであったことはなんとなくわかるが、それでももう少し分かりやすい情報があればよかったんだけど、どうもままならない
『…………解読するの?』
「(そうなるな。手がかりは無いに等しいけど)」
とはいえ方向性がある分、全然マシだ
イデアモンスターの秘密とやらは気になるし、そこからシロについても知れるかもしれない
「Aルート…………A」
旅の書を開けば、あの時一瞬映った文言を再確認できる
イデアモンスターアクセプト
アクセプトは受け入れる、承諾するって意味
つまりイデアモンスターを受け入れるってことなんだろうけど、そうすることで何が起きるのか
ハイドラッカーを倒した時はブレイキング、破壊
頭文字はB、つまりBルート
『…………壊すと、手に入る』
壁に背を付けているため、今は足に沿うようにして縦に向きを変えている鞘
壊す、砕く
破片、断片
フラグメント
イデアモンスターの、フラグメントを宿した鞘
青のフラグメント
「シロはフラグメントをもう持って無い」
シロはそれを手放したかったし、わざわざそのためにあそこまでした
Aルートは、イデアモンスターがフラグメントを捨てること?
いや、思考の向きまで同じにするのは違う。全員が全員捨てることを目的としているわけで無いだろう
そもそもシロのフラグメントは元々神獣の物
「そういえばフラグメントは…………」
視線をシロに向ける
シロもイデアモンスターなので、本来では元々のフラグメントを持っていたはずなのだが
『…………覚えてない』
「だよな」
記憶がしっかりしだしたのは神獣を殺してから
それより前はぼんやりしていて記憶も朧気
最初の記憶は森の中で老婆に出会ったことだ
複製も、使う時は燐光は出てなかった
「…………」
現状の情報から考えると
Bルートはイデアモンスターの断片を力として手に入れること
Aルートはイデアモンスターと、融合?合体?すること
Bは力が残り、Aは意識が残る、Cはそもそもよくわかってない
そもそも発生条件、Aルートの意味は
『……………………条件は』
「ん?」
シロが隣で小さく呟いた
『…………神様の力も…………『複製』の力も…………凄く便利だったけど』
こちらに視線を向けず、顔を逸らしている
『…………全部捨ててでも、一緒にいたいって思ったからじゃ、ないの?』
「—————」
無意識に避けてた言葉を思い出す
好感度をどうやって稼いだ、とか何とかあの古時計は言ってた
「いや、まあそれは…………」
な、なんだろう、妙な気持ちで、心臓の音が近い
それ以上上手く言葉が出ない
なんとか出てきたのは上ずった声だけで
「…………ふ、古時計もなんか変なこと言ってたし、た、多分?」
『……………………それだけで、いいのかも』
「そう、か?」
俺何考えてたんだっけ?なんか全部吹っ飛んだ
今すぐシロから離れたいような、それは嫌なような、複雑な気持ちになる
なんだろうこの気持ち
先程までの真面目な雰囲気はどこへ行ったのか、おかしな空気が俺とシロの間に漂い始める
『……………………』
シロもなんかずっと向こう向いてるし
大丈夫だよな?心読まれてないよな?
いま読まれるのは何故かちょっと困る気がする
「と、取り合えず今日はもう戻るか」
『……………………』
足早に歩きだしてここから離れようとする
ダメだ、早く空気を変えないと
この狭い路地裏で二人きりはなんかマズイ
何かがマズイ
この状況で俺のセンサーが一切反応していないのがなんかマズイ―——!!
「キャッ?!」
「うぇ?」
角を曲がろうとした瞬間に何かが腹部にぶつかってきた
飛び散る色とりどりのガラス瓶と倒れそうな誰か
掴んで引っ張り、バランスを取った後離し、落ちてくるものを順繰りにキャッチ
見た感じ割れたりはしてないな
『…………うん。訓練の成果』
「…………?…………??」
隣で満足げなシロと、真っ直ぐ突っ立ったままの女性プレイヤー。緑色の前髪で目元が隠れている
自分がどうなっているのかよくわかっていないのか、周りをキョロキョロ見渡したり両手を握ったり離したりして困惑している
「悪い、大丈夫か?」
「えっあっえっとその…………………………………………」
無事そうなのを確認すると、相手は焦ったように身体を動かした後、口を半開きのまま固まってしまった
沈黙が続く
「……………………あ」
「あ?」
「あっうどぅえっののあっこここここりえべべべべ」
『…………わ』
なんかバグった
ラグ、あるんだ
「あっ、あの、あのあのあのあのあの」
「お、おう。どうしたんだ?」
「ひゃぎゃみっみみみみみみ」
この感じは多分あれか、人見知りか?
少し近いみたいなので、取り合えず数歩下がってみる
「……………………へふ…………えと、あの、ありがとう、ございます」
残像が見えるほどの震えが止まり、深呼吸した後ゆっくりと話し出す
「その、ごめんなさい。ぶつかってしまって」
「いや、俺もちゃんと見てなかったしな。こっちこそ悪い」
「いっいえいえ、私が下向いてばっかのダメダメだからダメなんです本当に申し訳ございません私なんて床のシミで充分ですぅ」
「えぇ…………」
なんと自己肯定感の低い
どうしたものか
気づけば壁のちょっとした隙間に入り込み膝を抱えて座り込んでしまった
手に持ったもの返したいんだけど
「…………ああ…………いいですねここ…………ジメジメしてて薄暗い…………落ち着く……………………」
このままキノコでも生えそうなほどどんよりとした雰囲気
流石に放置はできないよな
『……………………栽培できそう』
「(やめんか)」
シロがキノコをインベントリから取り出し、気づかれないように相手の頭の上に乗せている
プレイヤーを養分にしたキノコとか誰も食べんわ
「あー。取り合えずこの薬?ここに置いておくぞ」
「……………………あっ、それは!」
「うおぁ?!」
近くの箱の上に物を置いた瞬間、一瞬で詰め寄ってガラス瓶を確保していった
なんという気配の無さ
「ああよかった、どれも割れてない……………………あの、本当にありがとうございます!」
「い、いや、まあいいんだけど」
何度も頭を振ってお辞儀をする女性
近い近い近い
「はぁ…………もし壊したりなんてしたらまた師匠に怒られちゃう…………」
ガラス瓶の中身を見る限り、回復薬や止血剤、マヒ耐性といったポーション各種が揃ってる
背中には他にも薬類が入ったバックを背負っており、恐らく錬金術師なのだろう
「薬売り、でいいのか?」
「あっはい一応…………といってもまるで売れてないんですけど…………うぅ」
手に持ったポーションは値札以外にも三割引きや、何なら六割引きのシールまで貼られている
それでも売れていないようだが、まあそれも無理ない
ポーションといった回復薬は内容量が多いとあまり売れない
戦闘中に使う場合数秒の時間が命取りになるため、必然、量が少なく効果量も高いものが重宝される
飲まずに頭から被ればいくらか効果を発揮するが、効果量は半分ほど下がる
前線の錬金術師、つまりヒーラーをやる人は、如何に回復量が高い回復薬を作れるのかいつも苦心しているらしい
「……………………やっぱり私に接客なんて無理ですよぉ…………師匠~」
見た感じ量も多いし、瓶の形も試験管タイプではなく丸底フラスコ
それだとインベントリに入れず懐に持つのは難しい。咄嗟に取り出せない
師匠というのはその辺りを理解していないのだろうか
「…………まあ大変そうだけど、頑張れとしか」
「うへぇぇ…………」
俺にはどうもできない、はずだったんだが
『…………ヒカル、全部買って』
「それ、全部買わせてくれ」
「……………………はい?」
キョトンとした顔で首を傾げて固まった
多分俺と同じ気持ちだ
ちょっと唐突過ぎた
「えっと…………え、え?」
「売り物なんだろ?」
「あの、その、そう、ですけど?」
「じゃあ買わせてくれ」
「……………………ぜ、全部、ですか?」
無言でうなずく
理由は知らん
だがわざわざシロが買えって言ってるんだ、問題はない
「……………………じゅっ、十七万五千コール、です?」
「あいよ」
売買用のウィンドウ現れ、金額が表示される
迷わずYESボタンを押すと、インベントリに大量のポーション類が投入された
「ほ、ほんとに買ってもらえた……………………」
空いた口が塞がらないと言った具合で固まり、穴が空くほどウィンドウを確認している
段々と現実を直視してきたのか、こちらを再度確認すると勢いよく頭を下げ
「あ、ありがとうございます!!ほんっとうにありがとうございますぅ~!!」
「ああうん、それじゃあ」
「私えと、っていいます!ありがとうございましたぁ!!」
向こうは満面の笑みのまま、路地の出口へと勢いよく走り去っていく
所持金の半分がふっ飛んだ
というか名前、なんて言った?
『……………………えと?』
「エト、でいいのか?」
ーーーーーーーーーー
血の滴る音が聞こえる
カラルナーツェの、ここはどこだろうか
日の光すら届かない暗い暗い路地の底
「……………………あ、ああ」
擦れた声はどこにも届かず、ただ暗闇に飲み込まれていく
いち早く逃げねばならぬのに、脚は動かない―――否、動かすべき脚はとうに失ったのだ
「だれか、た、たすけ」
両手を懸命に動かし、重い身体を引っ張るようにして前に進もうとするも、全身から血が抜け、身体の力が入らない状態では碌に動くこともできない
「ゆ、ゆるしてくれ、悪かった!悪かったからぁ!」
背後から聞こえてくる緩慢な足音
まるでこちらに恐怖を刻みつけるがごとく、カツン、カツンと、一歩一歩噛みしめるように歩いてくる
歯がガチガチと鳴り、死の恐怖が文字通り迫ってくる
「……………………ククッ」
闇を溶け込ませたかのような長く黒い髪
暗闇を裂くかのように開く、愉悦に染まった口元
「あ、あ、ああ、ああああああああああああ!!!!」
手に持った棒状のものが振り上げられ―――――
「—————」
―————今日もまた、一人
ーーーーーーーーーー
「(で、どういうこと?)」
『……………………ほら、それ』
原理の庭の出入り口
転移門の順番が空くまで待ちつつ、さっきポーションを買った理由について聞いてみた
シロが指差したのは、俺が取り出していた回復ポーションの、その蓋となっているコルク部分
「…………これって」
コルクを抜き取りその下側を確認して見ると、そこには特徴的なマークがコルクの表面を削るようにして刻まれていた
シロの記憶を思い出してみれば、それは確か魔女が使うものだったはず
『…………魔女の秘薬』
なるほど、確かにそれなら全部買ったって損は無さそうだ
何より他プレイヤーが買わなかった理由もわかる
アイテム詳細を開く
____________________
・回復ポーション
淡く発光した緑色の液体が入ったガラス瓶
使用するとHPが回復する
____________________
見た感じ普通のものにしか見えないが、この魔女の秘薬、普通に使うとあまり意味がない
試しに別のポーション、マヒ耐性のポーションを取り出し、両方のポーションの中身を同時に頭から被る
周囲からぎょっとした視線が向けられるが気にしない気にしない
全身がびしょ濡れだが、どうせすぐに気化して渇く
少しして、左上のHPバーの下にアイコンが表示された
―——『マヒ無効』一回 3:00
文字通り、三分間の間に受けたマヒの状態異常を、一回だけ無効化してくれるもの
魔女の秘薬は二種類のポーションを組み合わせ、同時に被ることでそれに応じた特殊な効果を発揮する
普通に使うんじゃ効果が物足りないし、量も多いから敬遠される
因みに同時に飲んでも効果は無い、浴びた時だけ。知っている人だけが使う特異な代物だ
「(そうやって生き残ってきたんだろうな)」
シロのいた時代で魔女は既に異端の烙印を押されていた
魔法は神の奇跡で、外様の奴が使うのはかなり危ない、迫害されていたし
薬を作る時はかなり気を使い、普通のアイテムに見せかけた素材アイテムとして販売していた。効果が強力過ぎると直ぐに目を付けられるしな
実際回復ポーションの原材料の薬草とか、普通に使っても回復はできる、その特性を利用した便利アイテムだ
カラルナディアでは魔女は一人くらいしかいなかったし、シロも許可を出していたので問題はなかったが
『…………ちょっと似てる』
「(ああ、このマークな)」
その一人の魔女が使っていたマークと、コルクに刻まれたマークが似ていた
本人ではないだろうが、恐らくその系譜に連なる人
そうなるとさっきの緑髪のプレイヤーも魔女の弟子ってことになるのか
「(なんで秘薬は広まってないんだ?)」
プレイヤー間で秘薬を使っているっていう情報は聞いたことがない
魔女の秘薬は重複せず、ここからさらに使っても意味は無いが、制限ありとはいえこの世界で無効効果はかなり貴重なレア効果、正直もっと広まっていてもおかしくないと思うんだけど
『…………あの娘、口下手』
「(…………説明してなさそうだな)」
『…………親近感』
お前はどちらかと言うと、なに喋ろうか悩んでる間に相手の話が進むタイプだろ
「おっ空いた」
気づけば転移門辺りの人が一気に減った
どうやらパーティー単位で飛んだ人が多かったらしい
近づいて門に触れれば、光と共に身体が消えていく
ログインした時の似たような気持ち悪さと共に、カラルナーツェ中央ギルドその中庭へと転移した
「やっぱり広いよな、ここ」
『……………………人、いっぱい』
中央ギルドは、かなり広い
サッカー場のような場所の中央に十メートルを超える巨大な門が鎮座。地面は一部石畳で、上から見ると門を縦に貫くように正面玄関まで続いている
周囲を囲うようにして建築物が建てられ、所々にレンガ造りの塔が―――門の古さと比較して、後から作ったのであろうそれが―――が点在
それぞれが各種ギルドに該当し、一番高く広い正面の塔が中央ギルド本部
七つの塔と壁のような建築物に囲まれた中庭に建つ石造りの門、それが中央ギルドの姿である
「ギルドでやることは、なかったな」
正面玄関に向かって歩いていると、何人かの人とすれ違う
プレイヤーもいるが、もちろん現地民もいる
所属が恰好によって分かりやすく、ローブを着た人は魔術師、軽装で武器を携えているのは戦士で白い特徴的な制服はギルド員
皆思い思いに過ごし、日々の業務に追われている
依頼の窓口では人が対応するものと、タッチパネル式のもので二つ、技術はこっちの方が便利だけど、持っているフラグメントによってできることが違うせいで、元の世界と似たようなことになっているのはなんだか奇妙な話だ
「…………あれ、ミルラ先輩?」
「あん?…………ああ後輩か」
建物の中を抜け外へ出た辺りで階段をを登ってくるミルラ先輩と鉢合った
先輩は手に大きめの茶封筒を抱え、怪訝そうな顔でこちらを見ている
「どうした、なんかあったのか?」
「ちょっと庭に用事があって。先輩の方は?」
「オレはあれだ、ユーラの件で事情聴取。もう一週間だってのに、まだ色々確認したいことがあるんだと」
ユーラというのは先日助けた獣人の女の子
先輩が毎日のように孤児院に行って関わる中、筆談なら会話できそうだと考えたのだが獣人の文字は稀人にも現地民にも読めなかった
だが先輩は古い文献なんかを漁って獣人の文字が翻訳されものを発見、それを介してコミュニケーションを取り、名前を知ったらしい
「大変ですね」
「こういう時、旅人が羨ましくなるぜ」
「あーまあ」
俺も聴取を受けたのだが、旅の書を出したら一回で終わった
そう。見せたらではなく、出したら
デザインの違う旅の書を見たギルド職員が目を剥いてぶっ倒れた時は流石に俺もびっくりした
ただその後の職員の眼差しが、尊敬とかじゃなくてめんどくさそうな奴を見る目だったのがちょっと気になったけど
「あの娘の様子は?」
「今んとこ落ち着いてきてるみたいだ、友達もできたみたいでな」
「ならよかった。自分が行くとどうにも警戒されて」
「それ外したらどうだ?あの聖女様に対して伝手があるんだろ?」
最初孤児院で会った時かなり警戒された。てっきり緊張しているのかと思っていたが、先輩一人だけだと特に問題は無いらしい
何でも俺、というより俺が付けてる呪いの装備が苦手なようで、近づくたびに警戒心マックスで怯えられる
まあ攻撃とかされないだけマシなんだけど
「いや~正直かなり助けられたんで、もったいなくて」
「まあ気持ちはわかる。けど後のことも考えとけよ」
そこからしばらく談笑していると、ギルドの方から鐘の音が大きく響き渡った
さらに塔付近のスピーカーから
『中央ギルドよりカラルナーツェの皆さまへ、十四時の時刻を、お知らせします』
時報が鳴り、他にも市街の方でいくらか反響する音が聞こえてくる
幾人かの人が歩くスピードを速め、ギルドの外または中へと向かっていく
「じゃあそろそろ行く」
「すいません、引き留めてしまって」
「気にすんな。そういや最近物騒だからな、気を付けろよ」
「はい、それじゃあ」
先輩を見送り、階段を下りていく
眼前に広がる街並みを覆うように、日の光に照らされた教会から影が伸びる
ある程度ギルドが高い位置にあるとはいえ、それでもやはり教会は大きい
日照権とかどうしてんだろ
『…………今日も行くの?』
「(あー明日も来てくれって言われてたけど…………うーん)」
『…………最近ずっと…………というか毎日』
先日の依頼の件を聖女様に説明した後、教会の方であれこれ聞かれるようになった
旅の書も見せたが、聖女様が直接聞きたいということで最近よく話をしているのだが、ただ普通のお茶会しているだけで正直聴取されてるって感じは皆無
俺としても聖女様と話すのは楽しいし、こちらもお茶請けを用意したりといった形で特に問題は無さそうなのだが
「(いいのか?毎日でも来ていいですよって言われたけどいいのか?実は俺が勝手に真に受けてるだけで凄く失礼なことしてないか?)」
『……………………そんな風には見えない』
「(ただ、毎回途中まで案内してくれる聖騎士の人の眉間のしわが日に日に深くなってきている。正直そろそろマズイ気がする)」
『……………………じゃあもう行くの止める?』
「(それは……………………うーん)」
四日目くらいで一回提案しかけた瞬間見たあの聖女様の残念そうな顔
罪悪感がすごくて提案をすぐに取りやめてしまった
「いったいどうすれば…………」
『…………………………………………ふーん』
どうにかして傷つけずにお断りする方法はないものか
自分のコミュニケーション能力の無さに絶望しそうだ
なんか方法ない?
『…………………………………………ない』
「そ、そうかぁ」
きっぱりと言われた
いつの間にかシロの雰囲気もなんかトゲトゲしてるし、そっぽを向いている
異性との会話って難しい、俺には難易度が高すぎる
「一体何やってるんだろ、俺」
上手くいかないなぁ、色々と




