36救いたいと願ったのなら
『ねぇ~お兄ちゃん~これどう思う~?』
『いいんじゃね?』
『も~ちゃんと答えてよ~』
―————なんで
『ご、ごめんなさい』
『マジかーまあしかたないか』
―————なんで今、思い出してんだ
『お兄ちゃん…………わたし』
『大丈夫だ!なんとかする』
―————どうして
『これでもう安心だな』
『うん、ごめんなさい。迷惑かけて』
『何言ってんだ、当たり前だろ?』
―————オレは
『—————』
『なんだよ…………これ……………………なんなんだよっ!!!』
―————クソッタレ
ーーーーーーーーーー
「捕まえろ!!」
「……………………チッ」
奥から見える人影から、こちらに対して怒号が響き渡る
左右を岩壁に覆われた渓谷
いくつもに分岐し迷路のような姿を見せる山岳地帯を走りながら敵を退け続けていた
「『ピンポイントショット』」
「ぬぉぁ!!」
スキルを放ち、崩れそうな岩肌を破壊し落ちてきたがれきが集団の行動を阻害する
開いたままのマップを横目に急いでその場から走り出す
「クソ…………このままじゃジリ貧だな」
手持ちの武装は基本使いのものばかりで特殊なものはほとんどないし、使うにしても時間が足りない
どうせ普通のクエストだからと碌に補給していなかったのが裏目に出た。数が心もとない
「だが、もう少しで」
走って、走り続けてどれだけ経っただろうか
プレイヤーは肉体的な疲労は感じない、そのためこの辺りの地形をぐるぐると周り続け、向こうの体力を奪うつもりだったが、どうにも向こうは中々根を上げない
こっちはそろそろ精神的にキツイ
自分が負けた後、こいつがどうなるのかを考えればプレッシャーを感じざるを得ない
いくらプレイヤーが死んでも大丈夫だからって、一度こいつらを見失えば見つけられるとは限らない
最悪、証拠隠滅のために殺される可能性だってある
「—————ゥァ」
うめき声のような音が耳元へ届く
首輪による『契約』でまともに喋ることが出来なくなっているのだ
ふざけた方法だ。きっと無理やり契約に同意させたのだろう
「……………………よし」
「ゥゥ」
「大丈夫だ…………必ず助ける」
走り続けてたどり着いたのは、ある程度大きな広場のような場所
出入り口は前と後ろに二つあるが、一つは先程この場所を通った時に手持ちの爆弾で塞いだ
岩陰に隠すよう背中から下してやり、魔法で壁を作る
銃を取り出し、戦闘用意。できることは全てやった、後は実行するだけだ
しばらくして入り口から集団が入り込み、従業員がこちらを警戒するように武器を構えている
「いい加減観念してくれましたか?」
「んなわけねぇだろ、今からテメエらをぶっ潰す素敵な策を用意したところだ!」
「なんとも諦めが悪いのですねぇ」
壁を背に、深呼吸
もう少し時間が欲しい
「それよりテメエら一体どういうつもりだ?!獣人をモノ扱いだなんて、教会に喧嘩でも売るつもりなのか?!」
先程まで背負っていた獣は、しばらくして赤茶色の頭髪に、犬のような耳、獣の尻尾を持った人型の姿へと変わっている
手持ちの衣類で身体を隠しているが、確認すれば全身に傷があることがわかるだろう
顔を少しだけ出し、視線をホライオへと向ける
「知りたいのですか?」
「そりゃあな!」
獣人
一般的な人間に、動物的な特徴を携えた、今や滅びたと言われて久しい特殊な種族
生まれつき特殊な魔法を習得しており、それを使うことで完全な獣の姿へと変身できる
今はMPが切れた所為で元の姿へと戻っているが、再使用できるまで回復すればまた強制的に変身させられるのだろう
MP切れは、この世界の住人にとっては倦怠感とキツイ疲労を与える拷問のようなものだ
「ふっふっふ…………単純な話です。『扉』を開くためですよ」
「…………扉…………?」
そういって、ホライオは語り始める
それは思ってもみない内容だった
「かつて存在していた■■ども」
「我らから■■を奪い取り、挙句の果てに逃げ出した臆病者」
「死を否定している癖に、生への執着を捨てきれなかった哀れな怪物」
「■■■■■、我らを下した■■からの■■■」
なんだ、なんの話をしている?
それに今、なにか
「■■■■■■、■■かけた■■■■■■して■■■■のですよ」
「それらを■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■」
「確かに■■■■ではあるが、■■■■■■■■■■」
まるで壊れたデータを無理やり再生させているかのようなひどい音割れ混じりの言葉
聞いているだけで不安と不快感が背中を撫でているよう
「??」
「わかりますかな、もはや記録にも残らず、存在すら否定された我らの苦しみが!!」
「奴らはわざと私を生かし、このような醜い人の姿を取らざるを得なくさせました」
「なんと傲慢極まりない!!」
「奴らに復讐するためにも、■■■へと逃げた獣人を殺したいのですよ。奴らは獣人に対して妙な執着がありました、ゆえに彼らを殺せば奴らは来る!!」
「だからこそ、『扉』を開くため、その畜生の血が必要というわけなのです!!」
仰々しく両手を空に掲げ、熱の入り混じった言葉を叫び続けるホライオ
「何が言いたいんだテメエ!!」
「…………………………………………その様子だとあまり伝わっていないようですね、残念です」
重要な箇所はノイズ混じりで聞き取れないし、何が言いたいのかも理解できないが、最後の言葉が答えを示していた
「……………………結局、こいつを殺すつもりか」
「まあ、結果としてはそうなりますね」
まるでよくあることのような口調で手を顎に当てて告げるホライオ
その姿に、命を奪うといったことへの罪悪感は一切感じられなかった
「貴方も理解していただけませんか?それとも、復讐は何も生まないなどと、そのような世迷言をのたまうのでしょうか」
「死ね」
復讐だがなんだか知らねぇが、ガキ一人使ってまでやることじゃねぇだろ
イカレたクズの主張に耳を傾けてやる義理はない、ぶっ潰して大地の肥やしにでもしてやる
「しかたがありませんね……………………お前たち、行きなさい。ただし殺してはいけませんよ、拘束すれば教会への知らせがその分遅れますから」
「……………………チッ」
じりじりと迫ってくる従業員共
どういう理由で従っているか知らねぇが、向こうだって覚悟はできてんだろ
「後悔すんじゃ、ねぇよ!!」
銃を携えて地面を滑るように壁から飛び出し、両手に持ったサブマシンガンの引き金を引き、弾丸を扇状にばらまく
地面や壁に跳ね返りながらも、いくつかの弾丸が何人かに命中するが
「—————」
「クソッ!加減なんてできねぇからな!」
無傷の奴が一人特攻してくる
一般人とは思えないほどのスピードで近づき手に持ったナイフを突きつけてくる
「『ガード』!!」
燐光を伴った左手の銃がナイフと激突
発動した場所で触れた物体からダメージを軽減し、いくらかの弾き効果があるスキル
ナイフを弾き、さらに踏み込んで今度は左回し蹴り
「『シュートストライク』!!」
『ストライク』の順当進化の一つ、ノックバック強化版だ
蹴りが腹部に突き刺さり、身体がくの字に曲がって吹っ飛び、地面を削るように転がっていく
「—————」
「『スライディング』!」
数人がこちらを取り囲むよう集まる前に、スキルを使用して地面を滑るようにして一気にその場から離れていく
「なんなんだこいつら」
膝を付いたまま背後へと振り向き、困惑するように呟く
いま蹴り飛ばした奴ならまだしも、身体に銃弾が命中した奴らはいくらか痛みに悶えているはずだ
なのにいま目の前でうめき声一つ発さず立っていられる理由は一体
「どうしましたか?このままでは負けてしまいますよ」
「……………………ハッ!」
煽るような言葉を鼻で笑い飛ばし、少しずつ近づいてくる従業員共を睨みつける
周囲を確認、立ち位置を問題ない
タイミングは今
「……………………その余裕の顔を崩してやるよ!」
手に持ったものを一気に引き切る
「何っ?!」
地面から鋼糸が飛び出すようにして張り詰め、従業員共に絡みつく
設置していた機構が糸を引き絞り、全員をまとめて拘束する
「……………………なるほど、先ほどですか」
「ああ」
さっきこの場所を通った時に仕込んでいおいた
特定の地点にいる奴らを問答無用で拘束するトラップだ
ホライオは少し驚いたかのように見えるが、すぐさま表情を戻し
「その程度では無駄ですよ―――」
従業員が拘束を解こうと、力任せに糸を引っ張っていく
肉が裂け、骨が折れる音が聞こえるが構わず動こうとしていた
一本、また一本と糸が千切れていくが、このトラップの本命はそれじゃねぇ
懐から最後のピースを取り出す
「それは、ライター?」
その辺の店でも買える使い捨てライター
ただし、ちょっと改造して一回付けたら手を放しても火が消えないよう細工してある
着火し、大きく振りかぶって従業員のいる方へとぶん投げる
「……………………まさか?!」
「その糸は特別製だぜ」
火が糸に触れた瞬間、内部に編み込んでいた「炸裂蚕の爆糸」が甲高い音を立てて起爆
周囲に張り巡らせた糸が連続して爆発を繰り返し、最終的に一塊に拘束された従業員を全員巻き込んだ大爆発を引き起こした
黒い煙が周囲を漂う
「……………………なんと」
「これで終わりだ」
銃を向け、ゆっくりと近づいていく
ホライオは特に目立った武装を持っているようには見えない
「……………………ははは、まさかここまでできるとは、困りましたねぇ」
「負け惜しみか?」
「いえいえ……………………そうですね」
ホライオは困ったように頭を掻き、胡散臭い笑顔を浮かべている
「どうですかミルラさん、500万で手を打ちませんか?」
「……………………はぁ?」
片手を開いて数字を示す
一瞬、言われている意味が理解できなかった
「ふむ、では1000万でどうでしょう」
こいつ、この期に及んで金を払うから手を引けって言ってやがるのか
ふざけた提案を銃弾を薙ぎ払うように地面に撃ち放ち一蹴する
「おおっと」
「金なんかで今更手を引くとでも思ってやがるのか」
後ろに下がったホライオは、手に持ったハンカチで汗を拭った後、両手を上げて降参のホーズを取る
ため息をついて、肩を落とした
「面倒ですねぇ…………では、私もひと肌脱ぎましょうか」
そう告げた瞬間、ホライオの身体がガクンと落ちる
全身から力が抜け、両手が垂れさがり、俯いている
「今更何を…………ッ?!」
―——グギュッガッゴリッ
不快感を与える気味の悪い音が耳の奥に入り込むように流れてきた
固いものが擦れ削れるような音、粘質さを感じる水音、普通ではあり得ない音が身体から聞こえてくる
ホライオの肩や腕が跳ね、本来曲がるはずのない方向に関節が動くなど、不規則な反応を繰り返す
「—————」
そうして三十秒ほど経った辺りで、背中の一部が膨れ上がるように破裂した
「……………………ァ~」
凝り固まった身体をほぐすように、それは自身を蛇のように唸らせ肉感的な動きを見せる
長さは一メートルを超えるだろうか、それはホライオの背中から伸びるように生え、表面は黒く、ゴムのような質感を感じさせる肌を持っていた
先端は短く五つに分かれておりまるで人間の手のような、いや、おそらく手なのだろう
人差し指に該当する場所には、真っ黒な宝石が爪のようにくっついていた
「おまえ…………人間じゃ、ないのか…………?」
「心外ですねぇ……………………一応人間ですよ、まだ」
宝石が一瞬輝いた後、気づけばその黒腕には杖のようなものが握られていた
それを地面に突き刺した後、ホライオは告げる
「やりなさい」
「何を…………うぐッ?!」
突然背後から衝撃が襲い掛かり、HPが大きく削れ地面へと倒れ込む
何が起きたのかわからないまま混乱していると、全身を抑え込むようにして拘束されてしまった
正体を確かめようと視線をそちらへ移すと
「なっ」
そこにいたのは焼け爛れた肌を持つ、人間のような何かだった
表情は固く、全身のやけどを意にも介さず、何の感情も感じさせない瞳でこちらを見つめている
「テ、テメエら、なんでっ?!」
服はもうボロボロで原型を留めていないが、確かにこいつらは先程爆発に巻き込んだ従業員共だった
ありえねぇ、あの威力を受けてまともに動けるわけが
「テメエ、錬金術師か?!いや、仮にそうだとしてどうして『怪物索敵』に…………」
錬金術師ならグールやゾンビといったアンデット系のモンスターを使役していてもおかしくはない
だが、それでもモンスターなら引っかからないはずがない
さっきのゴブリンとの戦闘中にも一切反応がなかったのに
「そのようなものと一緒にされては困りますなぁ」
ホライオは分かりやすいように頭を横に振り、落胆の意を示す
「ゾンビとは、人間を改造し本能だけを残した獣のようなものです」
黒腕が指を立て、こちらの考えが甘いとでも言うように何度か振っていた
「逆にグールは死体に低級霊がとり憑いた、レイスやスケルトンに近い存在ですよ。彼らとは違います」
地面から杖を引き抜き、説明を続けながらもゆっくりとした歩みでホライオはこちらへ近づいてくる
見下ろすような視線には、蔑視の色が見えた
「だったら、こいつらは」
「私と『契約』した普通の人間ですよ」
契約
互いに取り決めた内容を遵守させる、この世界では一般的な事象の一つだ
「普通の『契約』でここまでおかしくなるわけが…………」
「いやはや、中々の味わいでしたよ」
ホライオは細長い目を少し開き、昔を思い出すかのように舌なめずりをしていた
「家族を楽にさせるため。病気の恋人の治療費。ギャンブル。事業への投資。他にも色々理由はありますが、怠けるためにお金を得ようとする人間は簡単に『魂の契約』に応じてくれて助かりますよ」
魂の、契約?
「彼らは魂を失った人形、私の命令には絶対です。あなたのスキルに反応が無かったのは、一応彼らが生きた人間ではあるからでしょうね」
「……………………おまえ、なんなんだよ」
身体から生えた奇妙な腕
魂の契約
見たことも聞いたこともないものが思考を混乱させている
ホライオはオレの疑問に、おどけたような態度で答えた
「■■■■■■■、■■■■■■■ですよ。ははは」
「ッ!待て!…………クソッ!離せ!!」
身体を拘束しているのは六人、それ以外の四人がたどたどしい歩みでその場を離れていく
このままじゃ連れていかれる
「もったいないですねぇ。私は約束は守りますので、お金ならしっかりとお支払いしたのですが」
「クソがッ!!やめろ!!あぐッ」
頭を掴まれ、地面へと押し付けられる
押さえつける力を強くなり、脚からゴキリと鈍い音が聞こえ、HPがさらに減少した
どんなに身体をよじっても、ガッチリと掴まれてまったく動かすことができない
「~~~~~~~!!」
叫び声は届かない
土の味を噛みしめながら、ただ何もできずに見ていることしかできない
手に持った武器が何度も叩きつけられ、魔法で作った壁をゆっくりと破壊していく
ヒビが入り、砕け散っていく
それはまるで、オレの中にある何かも同時に壊れていくような、そんな痛みを伴う光景だった
「(……………………ッ!)」
壁が完全に崩れ去り、その手があの子に伸びる
「(オレは……………………結局…………また……………………)」
身体から力が抜けていく
何も、でき
「よっと」
―————ゴシャ
「…………………………………………?」
突然、視界の中にいた人影が一つ、吹っ飛んだ
淀んだ空気を払うように、髪をさらうようなそよ風が吹く
地面に着地し、従業員と入れ替わるようにして獣人の子の前に立つ、一人の人物
「やばい、蹴る必要はなかったか……………………あっ先輩」
長く黒い髪を簡単にまとめた、女のような顔の男
左腰に追従する鞘に納められた武器は、どういうわけか木刀
数時間前に出会ったばかりの、何も知らなそうな後輩
「……………………おまえ、ヒカルか?」
「ああはい。えっとその、今どうなってるんです?」
首を傾げて不思議そうに周りを見つめる後輩は、なんてことないような調子でそう言った
ーーーーーーーーーー
マジで一体どうなっているのか
思ったよりも時間がかかり、十五分どころが追加で十分も遅くなってしまった
申し訳なくて急いでログインしたら、周囲に誰もいなくなってて頭を抱えた
もしや置いて行かれたと途方に暮れていたところ
『……………………はい、これ』
「マジかシロ!助かった!」
シロがマップを開いて見せてくれると、パーティー機能だったのかそこにはミルラ先輩の位置が表示されていたのだ
「……………………んん?」
地形が迷路みたいに入り組んでいたので上に登ってショートカット、一直線にミルラ先輩の方へ向かったところ、なんかおかしな状態になっていた
ミルラ先輩は従業員の人たちに押さえつけられてるし、ホライオさんの背中からは変な気持ち悪いのが飛び出している
従業員が半裸の子供に手を伸ばしているのを見て事案かと思い、つい蹴り飛ばしたところで今に至る
「何っておまぅぐ?!」
ミルラ先輩が喋ろうとしたところ、従業員がそれを黙らせる
かなりの力で頭を押さえつけられていて、結構キツそう
「貴方もですか?」
ホライオさんが微妙に不機嫌そうな雰囲気でこちらへ声をかける
黒い腕がうねうねと動き、まるで威嚇でもしているかのよう
先ほど蹴り飛ばした従業員を含め、四人がこちらを囲うように近づいてくる
「ちょちょ、ホライオさん。流石に蹴り飛ばしたのは申し訳なかったですけど、いまどうなってるんですか?どうしてミルラ先輩を?」
「……………………いえ、もういいでしょう。さっさと捕まえなさい」
「えぇ…………」
ちょっとマジで今どうなってんの
「そいつぁあそこにいる獣人の子を殺すつもりなんだよ!!」
ミルラ先輩の声が聞こえた
獣人?殺す?
視線を戻してホライオさんを見ると
「……………………本当ですか?」
「それが、何か?」
走り出した従業員が一斉に襲い掛かる
ナイフが突きつけられ、斧が迫る
俺はそれを
「……………………なに?」
「んー…………なんだこれ、ほとんど素人…………うん?」
弾き、逸らし、勢いを利用して全員地面へと弾き飛ばした
なんか動きがおかしいというか、ほんとに生きた人間か?こいつら
『……………………変』
「だな……………………『全進壮来』『ウィンド』」
抜刀
「『断』」
ホライオさんは説明する気がないみたいなので、事情を知ってそうなミルラ先輩から話を聞くために拘束していた従業員へ軽くスキルを当て、全員をノックバックに巻き込む。拘束に集中していて体勢が微妙だったのか、思ってたよりもよく飛ぶ
「大丈夫ですか先輩」
「…………おまえ」
ミルラ先輩は驚いた表情のまま固まっていたが、少しして我を取り戻したのか簡潔に説明をしてくれた
「さっきも言ったがホライオはあの子を殺すつもりだ。従業員共は『魂の契約』とやらであいつの操り人形。普通はそんなことできねぇしあいつはどう見ても人間じゃない」
「……………………」
「頼む、手伝ってくれ」
ミルラ先輩の目は真剣そのもの、嘘を言っているようには見えないし、ホライオさんの態度を見れば、まあまともじゃないのは分かり切っている
ただ、最後に一つ確認したかった
「ホライオさん」
「今更、一体なんでしょうか?」
「その、従業員の人たちって、どうなってるんですか?魂の契約って言ってましたけど、どうやったら元に戻ります?」
そんな質問をされるとは思っていなかったのか、ホライオさんは一瞬呆けた顔をした後、大笑いしながら答えた
「はっはっは!!いきなり何を聞いてくるかと思えば、無駄ですよ。彼らの魂はもうとっくに消化してしまいましたから、もはや私が死のうとも、二度と元には戻りませんよ!」
「……………………そうか」
食ったのか
まるで悪魔だな
「先輩。先輩はあの子のところへ」
「おまっ、一人でやるつもりか?!」
ミルラ先輩はすぐさま立ち上がろうとしたが、それを制して続きを言う
「戦ってる最中に人質にでも取られたら面倒ですし、それに…………」
先輩はあの子を助けようとしている
多分馬車の中にいた生き物ってのがあの子だったのだろう、だったら
「もし助けるのに失敗したなんてことになったら、あの子にとっては一生の傷になりますよ。もう、誰かに助けを求めるなんて思わなくなるくらいに」
「—————」
ミルラ先輩は何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込み、一目散に獣人の子の方へと走り出して行った
従業員たちが壊れた人形のような動きで立ち上がり、血を流しながらも武器を手に走り出してくる
『……………………ヒカル』
「こんなんばっかだな…………」
戻す方法も、もしかしたらあるかもしれない
けど、まずあの子を助けられなかったら本末転倒だ
だから
「悪いけど、殺すつもりで行く」
「戯言を!!」
ホライオが杖を地面に突き入れる
迫る武器を避けつつ、詠唱を開始
ぶっつけ本番、絶対に制御してやる
「風よ!駆け巡れ!汝のその身は!疾風の如く!」
シロが俺の装備していた「揺らめく篝火の指輪」を解除し、魔法の威力が元に戻る
風魔法四節、その名は
「『テイルウィンド』!!」




