35程度の差
戦士ギルドを出た後、特に何かあるわけでもなくそのまま依頼人の元へたどり着いた
場所は央都の外円部
見た感じ普通の雑貨屋といった形で、内部には家具や小物など、表にはアクセサリー類なんかが綺麗に並べられていた
馬車が二台ほど待機しており、その直ぐ近くには恰幅の良い男性が他の従業員であろう人達に声をかけていた
「すいませ~ん」
「いいか、絶対に傷は付けるんじゃないぞ!……………………おや、もしやギルドからの?」
「は~いそうで~す。わたし~ミルラっていいま~す」
「これはこれは、私はここの店主のホライオと申します。今回の依頼を受けていただきありがとうございます」
ミルラ先輩が男性に話かけると、ホライオと名乗った男性はにこやかな顔でこちらへ挨拶をしてくる
視線がこちらを向いたのでこちらも挨拶
「どうも、ヒカルといいます」
「そうですかそうですか。では依頼書の確認をさせていただいても?判を押さなくては」
「わかりました~ヒカル君は待ってていいよ~直ぐに終わるし~」
そう言って二人は店の中に入っていき、俺は何をするわけでもなく従業員が荷物を運ぶのを見ていた
木箱や大型の家具などが馬車へと運ばれていく
「……………………ん?」
よく見てみると、少し妙だ
帽子を目深に被り、表情の見えない従業員たちが黙々と作業を進めているのだが、彼らの動きが、なんとなくおかしい気がする
それに、馬車は二台あるのだが、荷物を積んでいるのは小さな方ばかりで大きい方にはまったく手が付けらていない
もう積み込み終わった?
いや、それになんだか
「……………………」
視線が馬車の後部を向く
布が完全に閉じられておらず、少し隙間が空いている
気になって、少し近づいた
「……………………ッ」
「おや、どうかなさいましたか?」
覗こうとしたその瞬間、背後から声がかかる
後ろを振り返って見れば、そこにはホライオさんが立っている
表情はにこやかで特に違和感は無い
頼む
「ああいえ、少し気になって。護衛依頼なんて初めてで、自分が何を守るのかなと…………すいません、勝手なことをしようとして」
「そうですか…………」
「えっと、ミルラ先輩は?」
「彼女でしたら少し店の中を見てみるとおっしゃいまして……………………それはそれとして、もしやヒカル様はこちらの世界に来たばかりなのでは?」
「え、ええまあ」
稀人が別世界から来たっていうのを一般人は理解しているのか
ホライオさんは納得がいったような顔で笑みを浮かべてる
誤魔化せたみたいだ
「もしよろしければ、中をご確認いたしますか?」
「えっ」
「稀人様はあまり家具類などにご興味が無い方が多いようで、我々の商品に少しでも興味を持っていただけるのなら、少し見るくらい問題ありませんとも」
相手は自信満々でこちらへ提案をしてきている
嘘は言っていないように思えるし、考え過ぎか?
「……………………いや、流石に止めておきます。高そうなものばっかりですし、下手に傷とか付けても手持ちが心もとないんで」
「おや、それは残念です」
「それに、もしいつか家具とか買う時に、印象が悪いのは良くないんで」
「ほっほっほ、それはそれは。まあ何が縁になるかはわかりませんからなぁ」
そう笑って、ホライオさんはお店の中に戻っていった
俺も馬車を離れて店の壁際へ
もし何もないなら普通に失礼だし、これ以上は何もせず待機
「……………………(どうだった?)」
『……………………暗くてよく見えない…………それに荷物もいっぱい』
シロが馬車をすり抜けて戻ってくる
聞く感じ、変なものは無さそうだが
『……………………でも、何かいる』
馬車に生き物を乗せているのか
だが、看板には「ホライオ雑貨店」と掲示されている
店主のあの感じ、その何かを乗せる理由に関しては問題ないってことか
『……………………うーん』
「……………………(うーん)」
俺、これ一応初依頼なんだけど、本当に大丈夫か?
もう既に嫌な予感が凄いする
『……………………大丈夫』
そのこころは
『……………………全部…………斬ろう』
シロが両手を握りしめてガッツポーズ
脳筋が過ぎる
ちょくちょく物理的なのはなんなの?
「ヒカルさん、そろそろ出発の時間です」
「わかりました……………………えっと、あの人達もついてくるんですか?」
積み込みが終わったのか、ホライオさんが声をかけてくる
馬車を見てみれば、小さい方に何人かの従業員が入っていくのが見えた
入りきらない方は個別で馬に乗っている
「ええ、荷下ろしには人手が必要ですから」
「あー」
そっか~
シロ?
『…………うーん……………………手斧、短剣、後は…………鉈?』
従業員をよく見れば、皆どこか重心が偏っている
シロが言ったような武器を、皆隠し持っているのだろう
人数を数えてみればざっと十人ほど、正直護衛とか要らない
ホライオさんはそのまま馬車に乗り込んだ
「ほら~早く行くよ~」
「はいぃ…………」
後ろからミルラ先輩の声が聞こえてくる
もうダメだ
いや、これが普通なのか?
護身用、きっと護身用なんだろう
きっと何も起きやしないさ、多分
ーーーーーーーーーー
「ふ~ん♪ふふっふふ~ふん♪」
流れていく景色を眺めながら、馬車の側面にある微妙な出っ張りに二人で座っていた
ミルラ先輩は足を揺らしながら、どこかで聞いたことがありそうな歌を歌っていた
「護衛って…………以外と暇っすね」
「ん~まあ今のところはね~モンスターの生息域じゃないし~」
視界に映るのは普通の草原
進行方向を覗いてみてもモンスターの姿形もない
「そういえば~」
「はい?」
「戦う時は~どうする~?」
ミルラ先輩は手に持った銃を振りながらこっちを覗き込んでくる
「普通に…………ああいえ、前に出ますよ。そういうスタイルなんで」
「自信満々だね~いいこと~」
とはいえマジストは止めとこう
あれ便利なんだけど、ずっと頼り切りだと魔法が使えなくなった時困る、今の内から慣れておかないと
「う~ん『怪物索敵』~」
「それは?」
「範囲内のモンスター検知だよ~」
馬車が林の中に入った辺りで、ミルラ先輩の周囲で緑の燐光が走る
しばらくうんうん唸った後、ミルラ先輩がマガジンを銃から一度取り出して確認、再装填
立ち上がって馬車の上部を掴みそのまま逆上がりの要領で天井に乗り移る
「そろそろ~準備してね~」
「あっはい」
突如、馬車が急停止
その慣性に合わせて俺も馬車から飛び降りる
林の奥に視線を向ければ
「よっと……………………おお、ゴブリン」
「稀人の皆さま!どうかお願いし――――」
――———タァン!!
ホライオさんが警告を終える前に、甲高い銃声が聞こえてきた
目の前にいた、緑色の肌を持つ小柄で人型のモンスターが後ろに吹き飛んだ後、粒子となって爆散
右前方側から新手が飛び込んでくるのを、後ろに下がって回避
持っていた小さな剣が地面に突き刺さり、動きが止まる
「グギャ?!」
頭を蹴り上げ、大きく後退させる
落ちた武器を左手で引き抜いて投げつければ、胴体に深々と突き刺さり、ゴブリンが粒子に変わる
「弱っ…………先輩!銃弾もったいないですよ!」
「大丈夫~気にしないで~」
馬車の天井で、こちらとは逆方向に向かって膝立ちのミルラ先輩
右手で銃を撃ちつつ、左手では弾切れの銃の弾倉を変えていた
「見ないでやってるよ…………すげー」
『…………きたよ』
「(ああ)」
林の中からさらに数匹、ゴブリンが現れた
斧が二、弓が一、甲冑を着て剣を持ったのが一
斧持ちが迫る、奥では弓が引かれる
「ガギャギャ!!」
「……………………フッ!」
木刀を斧に当てて力強く弾くと、斧持ちがバランスを崩した
身体を掴んで、次に来た斧持ちその二の進行方向へ
「ギャ?!」
避ける間もなく、絡み合うようにして地面を転がる二体のゴブリン
その後、飛んできた矢を弾き飛ばすと
「ひぃ!!」
「あっやべ……………………すみませ~ん!!」
矢が馬車の御者台の近くに突き刺さる
甲冑ゴブリンが大きく剣を振りかぶって近づいてきた
木刀を鞘に納めて、準備
「……………………カウント2」
相手の剣はこちらの左狙い
こちらは左足を下げ、半身になるのに合わせて拳をフック気味に剣の側面に向かって解き放つ
「『マルティプルフィスト』」
空気が弾ける音と共に、剣を持つゴブリンの腕が外側に向かって大きく開かれる
「ギャ?!」
数瞬後、二撃目が襲い掛かり今度は剣が手元から飛んでいく
振り切った右手をそのまま鞘に納めた木刀へ
「『断』」
緑の燐光と共に振り抜いた木刀をゴブリンに叩き込む
ノックバックによって地面を何度かバウンドした後、そのまま消えていく
「うん、いい感じだ」
甲冑着てても結構飛ぶし、『マルティプルフィスト』も時間差で出るのはいいな
飛んでくる矢を捌きつつ起き上がったばかりの斧持ちを順々に蹴り飛ばして倒していく
「まだまだ来てる」
一匹、また一匹とゴブリンが湧いてくる
馬車の進行方向を覗いてみると、木の柵なんかが置かれてて身動きは取れなさそう
全部倒す必要があるが、銃もMPも、使うのはもったいない
「地道に削っていくしかないか」
ーーーーーーーーーー
「(アイツなんなんだよ)」
こちら側の進行が収まった少しの時間、馬車の上からこっそり覗く
木刀一つでゴブリンの集団を殲滅していく黒髪の後輩
その一挙手一動作がこう、癪に障る
「(はぁ~???)」
このゲーム、プレイヤーの初期ステータスが思った以上に高い
本気で殴ればコンクリの壁には穴が空くし、十メートル程度の高さならしっかりと着地すればダメージも一切受けない
人間の限界レベルの能力を持った特別な身体をしている
その所為か力み過ぎて速度が落ちたり、逆に早すぎて足を滑らしたり、ステータスに振り回されるプレイヤーも少なくない
武器の耐久値にも関わる
戦闘系クランに入った新人が、まず力加減の調整から覚えることなんてのもよくあることだ
自分はその中で、力加減が上手くできなくて後衛に移行したタイプの人間である
「(マジでキレそう)」
なんなんだよアイツ、しっかりし過ぎだろ
武器が手からすっぽ抜けることもないし、勢いでモンスターに体当たりしちまうこともない
足取りが軽いし速度も維持、立ち回りだけでゴブリンどもを翻弄してやがる
「(クソが。夜の星に放り込むか?)」
新人戦は終わったばかりだが、あそこには知り合いもいるし、紹介すれば感謝もされるだろうよ
その恩を使っていくらか頼み事をやらせれば
「(いや、まだ早いな…………やるにしてももうちょっと好感を稼いでからだ)」
下手に離れるとこっちのことなんて眼中に入らなくなる
それじゃ困るんだよ
「『クイックリロード』」
またやってきたゴブリンを数匹排除し、両手の銃を持ち替えた辺りでさらに増援が来たのでスキルを使う
マガジン一本を消費して、その半分だけを即座にリロードできるスキル
両手の銃で弾丸をばらまきモンスターを殲滅していく
「……………………はぁ~」
後ろを見れば思わずため息、向こうもちょうど終わったところ
数に押される後輩を颯爽と助け、頼れる先輩を見せつけ尊敬させる作戦がパァだ
一先ず前に行って障害物を撤去しに行くか
―————
「ん~?」
馬車の上から降りようとした瞬間、違和感を感じた
周囲を見渡しても気になるものは無い
スキルにも引っかからない
まあ『怪物索敵』はモンスターにしか反応のない異質スキルだから、他に何かある場合はわからないんだが
「……………………まあいいや~」
さっさと依頼終わらせよ
ボディタッチを増やすか、それとももっと可愛いくいくか
クール系に弱いとかだと少し困る、その辺りは専門外だ
ーーーーーーーーーー
ゴブリンを殲滅させた後、さらにしばらく馬車に揺られて一時間
周囲は岩肌が露出する山地、馬を休ませるために辺りで休息を取っている
椅子にちょうど良さそうな石があったので座っていると、ミルラ先輩が隣に来た
「さっきはなかなか良かったよ~思った以上に強いんだね~」
「そうですか?だったら良いんですけど」
隣に座って会話を続けていると、先輩が不満げな表情を向けてくる
「これじゃあ先輩として面目が立たないな~ヒカルくんしっかりしてそうだし~」
指先でこちらの脇腹を軽くつつかれる
ちょっとくすぐったい
「いやいや、俺はちょっと戦えるってだけで他のことにはあんまり詳しくないですし」
「じゃあわたしから教えてもらいたいことってなにかある~?」
そう言われ少し考えたところ、思いついたことがあった
「俺も一応拳銃使うんですけど、その辺色々聞いてみてもいいですか?」
「どんなの使ってるの~?」
「これっすね」
銃を取り出した瞬間、気のせいか先輩の目の色が変わった気がする
顎に手を当て、無言で銃をジッと見つめてくる
「へぇ~ヒカルくん銃も上手いの~?」
「全然っすよ、近距離での火力枠です」
「まあ斥力銃だもんね~カスタムとかもしてないみたいだし~」
「カスタム?」
先輩が自分の銃をいくつか取り出して見せてくる
「これがフロントサイト~照準ね~それからこっちがフォアグリップで~ああでもヒカルくんはハンドストップの方がいいかな~普通にグリップ替えるだけでも変わるよ~ヒカルくんの銃じゃあれだけどハンドガードもおしゃれでいいかな~」
細かく銃を分解しながらパーツに関して話が続く
話し方はゆるく見えるがなんだかすごく熱がこもっている
しばらく長々と説明を受けた上で俺の口から出てきた言葉は一つだけ
「色々細かいパーツが多いんですね」
下手のコメントは控えた
けど、こういう何かに没頭できるっていうのは羨ましいなって思う
「そうなの~場合によってはもう作られてないパーツなんかもあって~高すぎてお金がいくらあっても足りないの~」
「俺は買うとしたら照準くらいです」
「いいの~?ヒカルくんお金持ちそうだし~もっとカスタムとかしない~?」
「お金持ち?」
そんな素振りは見せてなかったはずでは
「だって~機構式の弾って高いから~」
「あ~まあそうっすね」
今使っている銃は一発1000コール
一マガジンではない、一発である
普通の銃はマガジンが買える値段でかなり差がある
「わたしもお金に困らない日々が欲しいな~」
「このゲーム金銭の要求が激しいですもんね」
現状問題はないが、後々困る日が来るんだろうな
装備なんかも更新したいし、魔法書だってもっと買う、手持ちのコールなんて直ぐに溶けていくだろう
先のことに思いをはせていると、リアルの方の用事を思い出した
「まだ休憩の時間ってありますよね、少し落ちますけど大丈夫ですか?」
「落ちる~?ああログアウトね~大丈夫だよ~わたしの方で伝えとく~」
「ありがとうございます。十五分くらいで戻るんで」
ーーーーーーーーーー
「(意外といいモン選ぶじゃねぇか)」
机代わりに置いた木箱に布を敷き、銃をバラしてメンテナンス中
さっき後輩が見せた機構銃、アレはイイ
値段の関係上あまりそっちを使う機会はないが、あの手の無反動系は好みの部類に入る
手動が面倒だとか無粋なことを言う奴がいるが、高威力のロマン武器なんだ、そういうのがいいんだろうが
「……………………」
銃のメンテ不要論も、LUK下げてくる敵と戦ったことねぇから言えることだ
定期メンテしてない奴のLUKが下がった瞬間、まともに銃が機能しなくなる
結局はプレイヤーのLUK値に助けられている面が強い
ジャムるならいい方で、最悪暴発
そういう面で斥力銃は金に余裕がある初心者に持たせるにゃちょうどいい
あいつのジョブは旅人っぽいし、ある程度節約すれば使えるんだろう
「……………………ふぅ~」
メンテナンス終了
一通り組み立てて試し撃ち、はいいか。別の銃を使えばいい
そろそろ時間が気になったので立ち上がって依頼人を探しに行くが、どうにも馬車の周りには誰もいない
「どこ行ってんだ……………………ああ?」
二つある馬車の内、大型の馬車の後部
その地面に何かが落ちているのが見えた
拾ってみると、それは小さな花飾りのアクセサリー
見た感じ汚れも少ない、落ちてからそう経ってはいないだろう
「誰のだ?」
今回の護送にこんなの持ってた奴はいないし、従業員の奴らは話しかけても不愛想に返すだけだ
後輩でもないだろうし、依頼人のか?
―————
「……………………?」
ふと横を向けば、そこには馬車の荷台
布に少し隙間が出来て中が覗けるようになっている
内部にはいくつかの家具類にアクセサリーもあった
「荷物か」
なんかの拍子に零れ落ちたのだろう
適当に置くとまた落ちてきそうだし、どこかしっかりとしたところに置こうと思い内部に入る
「……………………なんだ?」
荷台に入って、どこか異様な雰囲気があるのに気が付いた
といっても、ただ普通の家具やらが置かれているだけに過ぎず、内部はきっちりと布で締め切ってよく見えないため、奥に進まないとそれ以上はわからない
「(いや、待て)」
妙な匂いがする
前に自分で弾丸を作ろうと、薬品類を調合する時に保険として嗅覚系を強化するパッシブを取っていたのを思い出した
獣臭い、モンスターが入り込んだのか?
拳銃を取り出し、警戒しつつ奥の方へゆっくりと歩いていく
「—————」
荷台の奥の奥、そこにそれはあった
布で全体を覆っており、横幅が大きい長方形型の物体
少し布をめくってみれば、鉄でできた棒状のようなもの見えた、おそらく檻だ
中を照らすため、拳銃に取り付けていたライトを点灯しようとした時
「そこで、何をしているのですかな?稀人様」
「ッ!」
即座に振り向いて拳銃を向ける
荷台の入り口に立ち、外からの逆光によって表情は見えないが声から依頼人のホライオであることがわかった
相手はこちらが銃を向けた瞬間焦ったように両手を上げ、抗議を声を上げる
「おおっと、驚かせてしまったのは謝りますがどうかその物騒なものは下げていただけませんか?勝手に荷台へ入られ、そのようなことをされては強盗と変わりありませんよ」
「……………………どういうこと~?」
銃を下さず、そのまま質問を続ける
「これはなんなのかな~?」
「ほほほ、モンスターですよ」
勝手に喋ってくれたのはありがたいが、一応確認のためライトを点灯
檻の中を照らしだす
「……………………」
内部には赤茶色の毛をした四足歩行の獣が伏せるようにして檻の中で目を瞑っている
首元には真っ黒な首輪のようなものが付けれており、全身にはまだ新しい傷、見ているだけで痛々しい
「ストラグルドックです。ただ、珍しい毛並みをしているでしょう」
依頼人は雑貨店の店主であることは依頼書に明示されていた
モンスターを捕獲、運搬するクエストはよくあるものだが、依頼書に記述はない、物品のみだ
「今朝急遽頼まれたものでして、稀人のお二人に事前に説明がなかったことはお詫びしましょう。依頼に関してはキャンセルして頂いても問題ありません、料金に関してもお渡ししましょう…………ただ」
「……………………ただ?」
ホライオは仰々しく肩をすくめ、ため息をつく
「所詮はモンスター、稀人は当たり前のように殺しているではありませんか。どうしてあなた方はこのような形になった瞬間拒否の反応を示すのか、まったく理解が出来なくてですね」
その言葉には一応同意する
モンスターはプレイヤーを襲うし、その逆もそう
素材を集めるためにマップのモンスターを狩りつくすなんてのは日常茶飯事だ
モンスターを捕獲するのだって、カジノでモンスター同士で戦い合わせる賭け事や、ちょっとした労力に使うため、錬金術の素材に使う等々色々ある
だからこそ、弱弱しく倒れたモンスターを見て可哀そうだなんて言う奴は単なるバカか自分に酔ってるやつだけだ
「……………………別にわたしは~可哀そうだなんて一言も言ってないんだけどね~」
「…………ふむ?ではどうしてその銃を下してはいただけないのでしょうか、問題は無いはずでは?」
これが本当にただのモンスターならこっちだって何も気にせず普通に依頼を続けてんだよ
だがな
「それはね~………………………………『怪物索敵』」
緑色の燐光が走る
周辺のモンスターを索敵しマーキングしてくれる異質スキル
檻の中にいるそいつに、反応はなかった
「クソッタレが、地獄に落ちろ」
太もものベルトに挟んでいた物を取り出し、口でピンを抜く
投げつけるのに合わせて三節魔法
「隆起し、障壁となれ!『アースウォール』!」
手元から小さな小石が地面に飛び、着弾
瞬間そこから上に向かって石の壁が生えてくる
「ぬおおおッ?!」
投げつけたフラッシュグレネードが壁の外で炸裂し、甲高い音が響き渡る
石壁が天井を突き破り、馬車が大きく揺れる
手持ちの武器で檻を破壊し獣を担いだ後、布を切り裂き外へと飛び出す
「おのれっ!!逃げたぞ!捕まえろ!!」
馬車が石壁の自重によって崩壊する中、ホライオの叫び声が聞こえてくる
自分が馬鹿なことをしたと、もっと良い方法があるはずだと、自問自答する
けれど
「—————ゥ」
「……………………大丈夫だ」
かすれるような声が、耳に届く
この肩に伝わる体温と鼓動を、守りたいと思った




