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37/42

37小さな行動は大きな結果を生む時がある



大地を駆け抜け、流れていく景色

地面を足裏全体でしっかりと踏みしめ、身体を押す力が暴れないように制御する

最初はそよ風程度だったそれは、いつしか全てをさらおうとする暴風へと変わっていた

姿勢を低くし、時折流すようにして風の影響から少しでも逃れようとするがもはやそんな小細工程度ではどうにもできなくなっていた


「んぎぃ…………ッ!」


右手には木刀、左手にはその辺で拾った石

下手に崩すと一気に吹っ飛ばされる可能性がある以上、体勢は変えられないが


「こいつで、最後ッ!!」


そのまま体当たりするようにして最後の従業員に石を叩き込む

単なる石だろうが、この速度でぶつければ立派な凶器だ

砕け散る石と共に地面にぶっ倒れる従業員

こちらもバランスを崩し、身体が吹き飛んで地面の染みになる秒読みといったところ


「『越境』!!」


踏み込んだ右脚が地面を捲りあげるようにして滑り続ける

三秒を以て制御、体勢を立て直して走り出す


「危っぶな…………あと六割か」


先程使用した魔法『テイルウィンド』

前方から吸収した空気を背後から放出することで自身の速度を上げる、補助魔法

ただし前に出れば出るほど速度は上がり、その度に吸収される空気の量も加速度的に増えていく

そうなれば曲がることはおろか、ただ真っ直ぐ走ることさえ難しくなる

基本的には移動用で、こんな狭い空間、しかも戦闘中に使うだなんて正気じゃない

最低でも三分は経過しないと解除はできない癖に、延長だけはできる、ある種欠陥を抱えた魔法でもある

ま(・)あ(・)も(・)う(・)既(・)に(・)五(・)分(・)以(・)上(・)は(・)経(・)過(・)し(・)て(・)い(・)る(・)が(・)


『……………………む』

「おのれ…………ならばこれならどうだ!」


全員を倒し後はホライオのみだと思ったところで、奴が杖を振った背後に突如として大穴が開いた

穴は冷たく淀んでいて、見続けていたらそのまま吸い込まれてしまいそうな不安感を感じるほど深く暗い


「あれは…………」


穴から白い巨大な塊のようなものが滑り落ちた

地面に激突してバラバラになったそれは独りでに動き出し、身体のパーツを組み立てるようにして大量の人型へと変わる

それぞれが武器のようなものを持ち、こちらに向かって走り出してくる

数にして、ざっと五十匹は超えていた


『…………スケルトン?』

「モンスターの召喚とかマジかよ……………………延長だな」


大きく息を吸い込み、前方に飛び込んで宙返り

風の吸収によって速度が上がり、制御が不可能になるというのなら、一時的に吸収させなければいいだけのこと


「…………『緩去全戻』」


スキルの効果によって俺のMAGが一まで減少、魔法の影響力が一気に下がり前方から空気を吸収できず後ろからの風も減少、速度がある程度リセットできる

これが俺がこの魔法をギリギリ制御できている理由

とはいえそんな都合よくは行かず



―——状態異常『酸欠』



空気の吸収は収まったものの、魔法は継続中

前から吸えないというなら、そのすぐ近くから吸えばいいとでも言うように俺の体内から空気が余すことなく吸い取られ、HPが割合ダメージでどんどんと削られていく

プレイヤーは呼吸無しで三十分以上潜水できるっていうのに数秒と持たないとは


「ッ……………………『全進壮来』!!っはぁ!!」


着地する瞬間にスキル使用、息を吸い込み直し再度走り出す

正直かなり怖い

下手すればスキルを宣言する息が足りず、最悪そのまま酸欠で死にかねない


「……………………よし」


速度の減少は慣性も加味すればまあまあといったところ

まだまだ戦闘は長引きそうだが相手はモンスター、しかも体重の軽そうなスケルトンだっていうならやり方は色々ある

回復薬を飲み、武器を構え直した


「さあ、行くぞ!!」



ーーーーーーーーーー



「…………あいつ」


再生成した壁に乗り上げ銃を構えつつ警戒していたが、敵がこちらまで来ることは無く、いまの状況に対して呆気にとられるしかなかった

姿勢を低く集団へと突っ込んでいく後輩

身体を回し、背で弾ける風を周囲にばらまきながら集団の反対側に抜けて方向転換

スケルトンはそのまま放射状に吹き飛ばされ、地面に落ちて砕け散る

時折飛び上がっては何かスキルを使用し、何度も何度も集団に飛び込んでは切り崩していく


「笑ってる…………?」


従業員を相手にしていた時とは違い、戦いを心底楽しむかのように口角を上げて敵を見据えていた

一つ間違えればそのまま吹き飛んで地面の染みになるっていうのに、どんな精神構造しているんだあいつ


「ぐぅぅぅ…………たかがこの程度に奴に……………………」


気づけばスケルトンはほとんどいなくなっていた

ホライオが先ほどまで浮かべていた柔和な表情は既に消え、余裕を失い奥歯を噛みしめながら憎悪の籠った視線を後輩に向けている

一瞬杖を振るう手を躊躇ったかと思うと、迷いを捨てるようにして振り切り、途端にまた背後に大穴が開いた

『空間魔法』現状完全な入手方法が判明していないレア魔法

空間同士を繋げ、距離を無視して物体を運ぶことができる


「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ—————カハッ!……………………せめて取り戻せてさえいれば……………………」


咆哮を上げ魔法を完遂するホライオ、だが本人にとってもかなり無茶だったのか口から血反吐を吐き、地面へと膝を着く

穴の中から出てきたのは、各部に青いラインの入った薄青色の巨大な球体だった

球体は数度転がった後その場でピタリと止まり、青い燐光を発したかと思うと異音を響かせ動き出す


「権限レベル2の『自動機構』兵器?!」


全長は二メートルほど

球体の下半分が甲殻類のような四脚へと変形し、上半分ではセンサー類を伴ったモノアイ、横部に開いた穴からはセントリーガンやミサイルランチャーなどいった兵器群が出現している

重心を取るようにして全身をアジャスト、モノアイを光らせ索敵を開始した


「ッ!おい後輩、こっちに来い!このままじゃハチの巣にされ…………?」


追加の魔法を準備しつつ後輩を呼ぼうと視線を向けるが、どこを見渡しても見当たらない

風の音は聞こえるのにいったいどこへ―――



「———されど汝、咎を刻む」



咄嗟に上に視線を向けた

そこには兵器を足場に飛び越え、身体を逸らしながらもその頭部に向かって落ちてくる後輩の姿

左手に鞘を持ち、右手で木刀を掴んだ抜刀の構え

落下に合わせ『テイルウィンド』の加速も相まったその速度は、彼我の距離を直ぐに消し去った



「『越境』抜刀」



抜き放たれた刀身は、黒



「『断』!!」



―————カァァァンッ!!!



物体同士激突した音、と同時に木の砕ける音がこの周辺一帯に響き渡った

下方向への強力なノックバックが関節部に襲い掛かり、地面に衝撃が走った

四本あった脚の内三本がはじけ飛ぶようにして外れ、バチバチと異音を奏でながら地面に倒れ込む機構兵器

向かってくる砂埃を腕で庇っていると、後輩が地面を削るようにして速度を落としながらこちらへと滑ってくる

魔法は既に解いており、右手には持ち手のみを残して砕け散った木刀


「まさか、一撃で…………?」

「まだだァァ!!」


ホライオは咆哮を上げると、倒れていた機構兵器の目に光が灯る

動きは遅く、もほや壊れかけといった様子だが、それでも傾いた身体で照準を定め、目標を狙う

後輩は壊れた木刀を見ながら


「流石に『越境』込みじゃ一撃かぁ…………」


と、のんきな顔でため息をついていた


「何言ってっ…………くっ!」


手持ちの武装じゃ今すぐ装甲は抜けない

急いで後輩の方へ向かい、走りながら魔法を詠唱

全砲門が解放され、いままさに発射されようとするその瞬間


「『剪涕の離罰』」


いつの間にか元に戻っていた木刀を相手に向けていた後輩が、呪術を使用していた

頭部で黒いもやが爆発、装甲が砕け散る

内部のパーツが露出し、壊れかけだった機体が完全に沈黙、地面へと沈み込んだ

呆気に取られるホライオ

魔法で加速した後輩が杖を盾にするホライオに向かって木刀を叩き込んだ


「お、おのれええええええええええええぇぇぇぇ!!!」

「じゃあ、おやすみ」


ホライオは壁に叩きつけられ、そのまま力なく倒れ込んだ


「…………は」


思い出したのは、先日スレに流れた初期エリア攻略者の情報

アキラと名乗ったプレイヤーと、偶然現れた名称不明の謎のプレイヤー

スキル魔法機構の全てを使用

初期武器での『剪涕の離罰』、つまりは四色(フルカラー)

まさか


「…………後輩おまえ、初期エリア攻略者の片方なのか?」

「えっなんでバレ……………………はて?」

「おい!そこまで言って誤魔化すな!」


驚いたようにこちらへ振り向いた後輩が、冷や汗を流しながら目を逸らした

苦笑いを浮かべつつ、両手を広げてこちらを落ち着けようとしてくる


「まあそれよりも、さっさとその子連れて行きましょう。またなんか起きるのは面倒ですし」

「いやその前に、あいつの首輪外さねぇと、ホライオの野郎が持ってるはずだ、それを回収する」

「じゃあそっちはお願いします」


後輩が倒れた従業員の方へ歩くのを見送り、こっちはホライオの方へ

壁を背に俯いたまま微動だにせず、背中から生えた腕も力なく揺れている

懐や腰の辺りを探り目的のものを探していく


「……………………おっ、あったあった」


胸ポケットから小さな鍵束を見つけ、引っこ抜く

ざっと十本ほどの鍵束でそれぞれに名前が記されており、見た感じどれがあの獣人の子のものかはわからない

まあ全部試してみればわかるか


「よし、後は―――?!」


突如としてホライオの腹が膨れ上がった

血しぶきを上げ、突き破られた胴体からは先程の黒腕よりも遥かに凶悪で巨大な手が出現し、こちらに向かって伸びてくる


「ぐあっ?!」

「先輩?!」


拳が胴体に命中し、空中へと吹き飛ばされるオレを、後輩がギリギリのところでキャッチ

黒腕はそのまま地面を這うようにして動き回り、従業員の方へ


「■■■■■■■■■■■■!!!!!」


ノイズのような声が頭に響き、不快感を与える

黒腕は従業員を掴んだままホライオの腹の中へと戻っていく


「な、なんだ?」

「……………………」


ぐちゃぐちゃと気色悪い音、肉が裂ける音、骨が砕ける音、それらが数秒聞こえたかと思うと、ホライオの身体が風船のように急激に膨れ上がった

今度は二本の腕が腹の中から伸び、他の従業員を掴んでは腹の中へ、その度にまたホライオの身体が巨大化していく


「おいおいおい…………ッ」



—————!



グチャリ、と十メートルを超える巨大な肉の塊になったホライオが、開いた

腹を中心に花弁のように開かれたそれは、まるで巨大な手のような形をしていた


「アァ…………メンドウです……………………ホントウにメンドウですねぇ……………………」


鈍重な速さで動き出した巨大な手が上から落ち、ここら一帯をドーム状に覆うように全方位塞いできた

内側は腐った肉のような色合いを持ち、真っ黒な骨格が内部を支えるようにして点在し、いくつもの腕が触手のように蠢いている

中央には巨大な目がギョロギョロとうごめき、黒目に該当する箇所には先程も見た黒い宝石のようなものが巨大な状態となって存在していた


「モハヤコレマデ……………………ナラバ、キサマラまとめて道連れにしてくれる!!!」



―——ドクンッ!



心音のようなものが聞こえてきた

目の中心にあった宝石が光り輝き、周囲の肉塊が脈打つように胎動する

じ、ばく?


「……………………先輩」

「なんだ……………………コレ」


こんなモンスター、見たことねぇぞ

逃げる?もう遅い

魔法で防御?持つわけない

頭の中が真っ白になって上手く働かない

身体から力が抜け、目の前が真っ暗になっていくような絶望感

一体、どうすれば


「先輩!」

「うぇっ?!…………後輩?」


固まったままだったオレを、後輩の声が現実に戻してくれた

後輩は特に気負った様子もなく


「先輩は爆風で飛んできた破片とかが来ないよう穴を掘ってあの子と一緒に隠れた後、さっきの土壁をもう一度」

「……………………」

「こっちは取り合えず爆発の威力を少しでも軽減できないか色々試してみるんで、よろしくお願いします」

「……………………おまえ、まだ戦うつもりなのか?」


オレのそんな疑問に、後輩はごく当たり前のように答えた


「はい、まだ死んでないんで、最後まであきらめませんよ」


その言葉に、こちらは顔を引きつらせるしかなかった

この数分に色んなことが起き過ぎて、こっちはもう頭がどうにかなりそうだってのに、こいつはそんなことも意に介さず普通の態度で過ごしている


「…………………………………………はぁ~」

「先輩?」


もういい


「後輩」

「はい」

「手を貸せ」


なんか一周回って冷静になった

やれるだけやってやろうじゃねぇか



ーーーーーーーーーー



「…………ぐおっ」


インベントリから取り出したのは、巨大なジュラルミンケース

重すぎるため地面に下せば、ドスンと大きな音を立てる

中を開いた


「……………………」


入っていたのは、三つの物体

その中でも一際長い物体を取り出し、その先端に太めの鉄パイプのようなものを装着

そして三つ目を手に取る


「頼んだぞ、相棒」


ストックとトリガー、それといくつか穴のようなものが空いた銃のパーツ

手に取った瞬間、応えるようにして黄色の燐光を発生させる

それを先ほど組み立てたバレルに装着、さらにバレルから伸びたホースのようなものを銃に空いた穴へとねじ込み固定していく


「……………………よし」


出来上がったのは全長700mmを誇る、対物ライフル

銃を設置し、構える

大きく息を吸い込み、深呼吸


「すぅ…………はぁ……………………排気開始」


まず青い燐光がバレルからあふれ出す

『排気機構』

二つの出入り口から空気が流入しないよう空気の層を作った後、バレルに入った空気を放出し、内部を真空状態に変える

放出された空気はホースを通って銃の中へ


「……………………ぐぅぅぅ」


『契約武装:蜂熱』

『契約』を用いることで特定の装備をそのプレイヤー専用の特殊装備に変化させる、いわばユニークアイテム

だが、デメリットもある



―——状態異常「やけど」



銃を抱えた全身が焼けるような熱を持ち始めた

こいつは空気を圧縮して発生した熱を使い弾丸の発射エネルギーに変える能力を持っている

その熱量は吸収した空気の量によって決まるため本来威力はまあまあなのだが、それを『排気機構』で無理やり増幅させている

HPが勢いよく減少していき、あと数十秒も持たない

事前に耐熱薬を飲んでもこのザマだ


「……………………チッ」


瞬間、周囲にあった黒腕が邪魔者を排除しようと迫りくる、だが


「先輩が意地を見せてくれるんだ、邪魔するなよ!」


後輩がそれを魔法や木刀で弾き飛ばす

こっちが何かすれば絶対に向こうは妨害してくる

後輩は前方で待機、対処は全部任せる

HPがジリジリと減っていく中、狙いを定める

過度な集中の所為で周囲の音がまったく聞こえなくなった



―——足元がおぼつかない



―——汗が止まらない



―——外せば終わり



―——死ねばあの子も死ぬ



―——手が、震える



―——仮に当たったとしても、倒せるのか?



いやな想像が脳裏をよぎり、手に持った銃が何どもブレる

呼吸がままならない

心臓が破裂しそうだ

そんな中ふと、あいつの言葉を思い出した



―————『あの子にとっては一生の傷になりますよ。もう、誰かに助けを求めるなんて思わなくなるくらいに』



今もなお諦めず、敵に対処する後輩の姿

会ってから数時間も経っていないのに、今ではもう命を預けるような状態にまでなっている

あの言葉には、後悔と怒りと、そして、確かな実感が伴っていた



―——あいつにもきっと、何かある



それなのに会ってから今まで、あいつは特に気負っているようにも見えず、ごく自然にそこにいた

そんな風に、いつかオレもなれるだろうか


「……………………」


気づけば、震えは止まっていた



―——特殊複合型対物狙撃銃「三連破致(ミツバチ)」発射



「ッ」


身体が爆発するような衝撃と共に、銃弾が発射される

圧縮された熱と空気が銃弾を押し、銃身の中央にある二つ目のパーツに搭載された三重『斥力機構』が銃弾をさらに加速

真空状態のバレル内部を通り、巨大化したホライオへ音速を超えた速度で向かっていく

目標はあの、黒い宝石


「■■■■■■■■■■■■!!!!」


全身を震わせながら大量の黒い腕を射線上に構え防御の姿勢を見せるも、そのほとんどが間に合わず、仮に間に合ったとしても一瞬で吹き飛ばされる

真っ直ぐ弾丸は飛翔し、目玉に直撃

そのまま突き進み、内部を削り続け、最終的に


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■??????????!!!!!!!!!!!!!!」


宝石に、直撃

めり込むようにして宝石全体にヒビが入り、ホライオの絶叫が響き渡る


「たかがァ……………………『天魔』の紛い物如きにィィィィィィィィ!!!!!!!」


まだ死んでいない。だが、撃ち込んだのは青いラインの入った、機構を搭載した特殊弾丸

内部に搭載した機構は専用に組んで威力を跳ね上げた『炸裂機構』

それが今、起動する


「アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


銃弾が爆発、その衝撃によって、めり込んだ宝石も粉々に砕け散った

胎動がゆっくりと収まっていき、肉塊の色も徐々にくすんでいく

全身が灰色に変わりきった瞬間、ホライオは砂のようにボロボロと崩れ去っていった

いくら待とうとも、復活する様子はない


「……………………勝った…………のか」


身体から力が抜け、地面に向かって仰向けに倒れ込んだ

気色の悪い肉塊は消え、雲一つない青い空が目の前に広がっている

気分は、悪くない


「先輩!なんですかアレ!!あんな奥の手あるんですね!」

「あ~もううるさいうるさい。今はいいだろ、もうちょっと余韻に浸らせろよ…………」


近づいてくる足音と共に、騒がしい声が視界の外から聞こえてくる

後輩の指摘に、右手に握った銃を確認すれば、頭の中から追いやっていた現実が襲い掛かってくる


「……………………はぁ」


バレルはひしゃげ、銃身は融解、お気に入りの服も熱で焼け焦げてるし、修理理費用は計り知れない

弾丸は機構そのものを撃ち込むので特注品だし、次の発注まで時間も金も掛かる

肝心のクエストは依頼人をぶっ殺したので無し、実質タダ働きだ


「大赤字だぜ……………………クソッタレ」



ーーーーーーーーーー



「まあ、こんな感じだった」

「そうですか、ホライオといった方が何者かについては、追って調査を行いたいと思います」

「聖女様でも、わからないのか」

「ええ、残念ながら」


伏し目がちに、頭を横に振る聖女様


「…………一先ず皆さんがご無事な様子で安心しました。稀人のお二人にこう言うのは、少々おかしな話かもしれませんが」


ホライオを倒してから次の日

俺は聖女様と二人でお茶をしつつ、『旅の書』を見せながら昨日あったことについて詳細に話し合っていた


「いや、心配してくれるだけ助かる。それに俺たちがやられてたら、獣人の子も不味かったし」

「まさか、獣人がまだ生き残っているとは思いませんでした」

「色々と助かった、流石に女の子一人抱えるのは俺も先輩も厳しいので」


昨日はあの後、獣人の子を連れてカラルナーツェまで戻り、聖女様を頼って獣人の子を保護してもらうように取り計らってもらったのだ

夜も近く、時間が無かったので色々ショートカットするために先輩はギルドに報告、俺は教会に直行し、一人聖堂でお祈りしている聖女様に向かって俺渾身のスライディングドリフト土下座をお見舞いしたところ、普通に怒られてお説教を食らった


「(せっかく魔法使ってドリフトまでして、通常ではありえない土下座を見せつけたのに……………………解せぬ)」

『……………………自業自得』


ガチの聖職者の説教ってこう、かなりメンタルに来た、普通に頭が痛くなるくらいに


「それと…………はいこれ、見つけてきた」

「はい、確かに」


手渡したのは、幾人かの名前が記された名簿のようなもの

説教の後、俺は先輩を迎えに行き、聖女様が呼んでくれた聖騎士の人に二人を任せ、ホライオ雑貨店を漁り従業員リストを確保していたのだ

その理由は一つ


「一応、見舞い金に関しては俺も出そうとは思っているんだけど…………」

「いいえ、お気になさらず。これも教会の仕事の一つではありますから」


教会では通常の殺人や犯罪行為に巻き込まれたのとは別に、普通ではない異常な出来事に巻き込まれた人の関係者に見舞い金を払う行為を行っている

一応証拠は必要で、保険とか保証に近い


「こうして詳細な記録や名簿を持ってきてもらえるだけでも、充分お力を頂いていますよ」

「……………………うーん」


「魂の取引」によって人形になっていた従業員たち

最終的に俺が殺したかどうかも確認できなかったけれど、関わっている以上無関係ではいられないし、他人の命を天秤にかけたんだ、罪悪感もある

俺の微妙な様子に聖女様は慰めの言葉をかけてくれる


「いくら何度でも蘇る稀人であっても、命の危機に対して無抵抗であれとも、すべての人を救えとも言えません。私たちと稀人の皆さんも同じ人間ですから、完璧ではいられませんし、それにお二人は他者を無償で助けようとしていましたし、それは、とても大切なことだと思います」

「……………………そう言ってもらえると、ありがたい」


沈んでいた気持ちが、少し楽になった気がする

カップに入った紅茶を飲み、気になっていたことを聞く


「そういえば、獣人の子は今どうなっているんだ?」

「あの子でしたら、今は孤児院の方へ。訳ありの子に対して理解のある方々がいてくれていますし、彼女…………ミルラさん、も既に向かっているご様子です」

「そうか、なら良かった」


獣人

既に絶滅したと言われていた種族

周囲に馴染めるか心配ではあったけど、先輩やベテランの人たちもいるなら大丈夫だとは思う


「ただどういう影響か、上手く言葉を話せなくなっている様子で。首輪の『契約』に関してはもう切れているはずなのですが」

「それは治る、のか?」

「はい、それについては私が責任を以て必ず。伝えたい言葉を伝えらないなんて、そんなことは絶対にいけませんから」


聖女様は決意に満ちた様子で心強い返事をしてくれた

やっぱり、聖女様はいい人だって思う

そういえば『契約』で思い出した


「そういえば聖女様、『天魔』って何か知っているか?」


ホライオが最後に口に出していた言葉

俺たちのことを『天魔』の紛い物とか言っていた


「それは…………稀人信仰に関わっていますね」

「稀人信仰?」


自分に対して指を指すと、聖女様は頷き、神妙な面持ちで話し始めた


「昔からある、いわば民間伝承といったもので、私もあまり詳しくは無いのですが」


曰く、彼らは善性と悪性を持ち合わせ、どちらにでも簡単に転がり落ちる

曰く、虚空から道具を取り出せる

曰く、死ぬことがあっても、直ぐに生き返ることができる

曰く、突如別世界からやってきた、異界からの来報者である


「それって…………」

「稀人の皆さんのこと、ですね」


こんな伝承が、昔からある?


「(……………………あったか?)」

『……………………なかった』

「(だよな)」


つまり、シロがいなくなってからプレイヤーがこの世界に来るまでの間に、他の稀人がこの世界にやってきていたってことか?

運営か、それとも―――


「そんな彼らのことを、伝承では天と魔の間を彷徨うもの『天魔』と呼んでいたと」

「……………………」

「参考に、なりましたか?」

「ああ、ありがとう」


天魔

ホライオの紛い物発言

伝承

ダメだ、全然足りない


「(まあでも、いま考えてもしかたないか)」


どうせこの情報量じゃ考えても答えなんて出ないし、出たとしてもなんかあるか?


『……………………出自?』


別世界から来たのに出自も何もあるか?

まあいいや、この話は未来の俺に託そう


「……………………あの、ヒカルさん」

「ん、どうした?」


聖女様が少しバツが悪そうに質問してきた

どこか緊張していて、言いづらそうだ


「ミルラさんという方とは、一体どういったご関係なのでしょうか?」

「はい?」

「今日お話した時、ヒカルさんのことをかなり信用なさっていたご様子だったので、少し気になりまして…………あの、えっと」


どういうご関係って


「いや、普通にギルドで会った先輩ってだけだけど…………まあ互いに助け合ったし、信用って点では俺もしていますよ」

「そ、そうですか」


どこかよそよそしい態度で視線を逸らす聖女様

一体どういうことなのか


『……………………ヒカル』

「(ん?)」

『……………………そういえば、あの子に対しては触っても大丈夫って言ってたよね』

「(ああまあ、よくわからんけど)」


カップを運んで紅茶を飲む

うーんやっぱり上手い、どうやってこのレベルの味を


『……………………じゃあ聖女って、男の人?』


超むせた


「んぐッ?!……………………んごぁ」

「ひ、ヒカルさん?!大丈夫ですか?!」


左手で口元を抑えてカップを置き、吐き出さないようにゆっくりと飲み込んだ


「大丈夫…………ちょっとむせてだけだ」

「そ、そうですか、びっくりしました」

「ああうん、大丈夫大丈夫」


今世紀最大のポーカーフェイスで誤魔化しつつ、俺の内心は荒れに荒れ狂っていた

急に何言ってんのシロサァン?!


『…………違うの?』

「(違うよ?!)」

『…………じゃあ、どうして?』


いやそれは、本当によくわからないとしか言いようがないんだよなぁ

聖女様を見る


「……………………?」


綺麗とも可愛いとも言える、中間といった顔

金色の髪はしっかりと手入れされていて見る者を魅了する、妙な雰囲気をある

体格はこじんまりとしているが、それが逆に守ってあげたいという保護欲のようなものを感じさせている

俺の感覚が、彼女は女であると確信してるのだ

逆に不快感や嫌悪感も襲ってこないのが俺にとって不思議なくらいなんだ


『……………………うーん』


流石に実は男なんですかなんて聞けるわけもないし、ゆったりとした服装でその辺りも把握は難しい

シロだって俺の記憶からなんとなくはわかるだろ?


『……………………確信は、できない』

「(まあ、俺も最終的にはそうなんだけど)」


俺たちは聖女様を見つめ、じっくりと観察を続ける

どこかに隙はないものか


「……………………あの、あんまりそうジッと見つめられると、少々気恥ずかしいのですが…………その?」

「いや、聖女様は、なんというか」

「…………はい?」


そう


「俺にとって、最も手ごわい宿敵なんだなと、再認識したところだ」

「い、一体なんのことなんですか?!」


抗議の声を上げる聖女様

その姿もなんだか妙に可愛らしく、判断ができない

うーん難しい



ーーーーーーーーーー



「先輩」


孤児院に向かう最中ミルラ先輩と合流したのだが、何故か様子がおかしい


「あっヒカル君だ~やっほ~」

「……………………」

「おい反応くらいしろよ後輩」

「いや、何でまた女の振りなんてしてるんですか、必要あります?」

「バカ言え、他の連中にバレたら何されるか分かったもんじゃねぇだぞ?!」


先輩は周囲を警戒しつつ、場所を変えながら小声で話しかけてくるのだが、その表情はかなり焦り気味で余裕が無い


「オレは今まで女の姿して色んな奴騙してきてな…………正直お前には謝ろうと思ってたんだ」

「えっ?なぜ?」


先輩は申し訳なさそうにしながら、罪人が罪を告白するかのように呟いた


「元々、お前の持ってる素材や稼ぎを目的に近づいたんだ。お前にはかなり助けられたし、感謝もしてる。だったら筋は通さねぇと」

「は、はぁ…………?」


何言ってんだろこの人

ん?いやもしかして


「本当に悪かった、どうか―――」

「ストップ」

「…………あ?」


下げようとした頭を手で押さえ、謝罪を止める

先輩は不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいるのだが


「ネカマ程度なんて騙した内に入りませんよ」

「いや、女の姿で他人の好感を得たり、色々と融通してもらったりしてたんだぞ。普通に悪いことだろ、これは」

「……………………先輩、もしかしてですけど、ネカマと姫プを混同とかしてませんよね?」

「……………………あん?」


やっぱり

先輩は何が違うのかわからないといった顔を浮かべている

そのためいくつか質問してみた


「先輩、他のプレイヤーと共闘する時、後ろで応援するだけとかしてませんよね?」

「当たり前だろ、そんな奴いるのか?」

「じゃあアイテムとか融通してもらった時、後でそのプレイヤーには何します?」

「お返しに欲しいものとか喜びそうなもの渡してる」

「相手に無理難題を押し付けたりは?」

「ねぇよ」

「失礼先輩、MMO…………っていうかネットゲームってこれが初めてですか?」

「それは……………………まあそうだが」


まあそんな感じはしてた、ログアウト時の用語伝わらなかったし


「いいですか先輩、姫プっていうのはですね―――」


それから懇切丁寧に姫プレイとネカマについて説明した

先輩は時に頷きながら、時に嫌そうな顔をしながら聞いていると、段々と神妙な顔つきになり、最終的に黙り込んでしまった


「…………つまりオレがやっていたことは」

「単なるいい人っすね、尊敬しますよほんと。多分普通に男だってバレても問題ないっすよ」


先輩は今まで他人からよくしてもらえる理由が女の姿をしているからだと思い込んでいたようだが、見ず知らずの人に後輩だからって色々と細かい情報教えてくれたり、他人の誕生日覚えてわざわざプレゼント用意する人が姫プレイやってるとは思わないって

先輩はただ単純に女性の姿で警戒心を解いて、相手と仲良くなっているに過ぎない

別にネカマなんてよくあることだし


「最初に会った時、他プレイヤーに囲まれてましたけど、普通に女性プレイヤー混じってましたしね」

「……………………」

「姫プレイする人のこと嫌いな人多いですし、そもそも自分先輩が最初から男だって気づいてましたし、騙されたとは思ってませんよ」

『……………………あ』

「…………………………………………あ?」


多分ネカマを姫プって呼んでる人と、姫プの悪評だけ聞いてたんだろう

実際フルダイブのMMOが出てから普段ゲームしない層も入ってきただろうし、情報の混同に関してはしかたないとは思う


「へ~そうなんだ~へ~」

「え?あの、先輩?」

「最初から知ってたんだ~」


先輩の様子がおかしい

口調がまた戻っているし、何故か銃のマガジンを装填し始めていた

両手に銃を持ち、そして手首をスナップ



―————ジャコン!



同時に、コッキングした


「えっ…………いま、どうやって」

「あ~これ~?ほら~プレイヤーのSTRって人間離れしてるでしょ~だからちょっとコツがいるけど~こんなこともできるんだ~」

「へ、へぇ…………それはぜひご教授させていただきたいですねぇ…………」


ヤバい

なんかよくわからないけど嫌な予感がしている

なぜだ


『……………………情け容赦は?』

「……………………あ」


先輩はニコニコと笑顔を浮かべながらゆっくりと近づいて来る

目は笑っていない


「今までオレの演技を分かってて、内心笑ってたんだろテメエ!!」


一転、顔を赤くして殺意に満ちた咆哮を上げる

銃をこちらに向ける瞬間にダッシュで逃げた


「うおおおおおおおおおおお??!!」

「逃げんなあああああああ!!!!死ねえええええええええええ!!!」

「いやいやいやいや!先輩の演技を笑ったなんてそんな!!上手すぎてどう見ても女にしか見えなかったですってぇぇぇぇぇぇ!!」

「ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!というか避けんなぁぁぁぁぁぁ!!どうなってんだテメエぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


街中を走り回って逃げ続ける俺と、銃を乱射する先輩

その姿は色んな人に目撃され、後日


「えっ?!ミルラちゃんって中身男だったの?!」

「うそー普通に化粧品とかファッション系の話できてたのにー」


とか


「ミルラちゃんネカマか…………まあ別にいいか」


とか


「…………………………………………」

「お、おい、大丈夫か?」

「俺は言った。ミルラちゃんの見た目ではなく、中身に惚れたのだと」

「……………………そ、そうか。がんばれよ…………」


などなど


「この生意気なクソッタレ後輩がぁ!!」

「はははははははははは!!」


もう笑うしかねぇ


『…………嬉しそう』


そりゃもう

ノータイムで捕まった子供助けようとする人と仲良くなれたんだ

あの人とはまた違った意味で、尊敬できる先輩だよ、ミルラ先輩は


「お前の所為でなんかもう色々とおしまいだぁ!!チクショウが!!」



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