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「あの…………申し訳ございません…………突然あのようなことを……………………」

「いやまあ、俺は全然気にしてないんで」


あれから数分

掴まれていた手がほどかれ、互いに気まずい雰囲気が続いていた


「えっと、取り合えずどうしてこんなところにいるか聞いても?」

「は、はい、えっと…………」


緊張しているのかわからないが微妙に要領を得ない話し方

なんとなく聞いた感じ、向こうは急に消えてしまった稀人について調べるためにここへやってきたみたいだ

稀人は皆この場所、この世界の人たちの間では『聖地』と呼ばれる場所から現れるからだ

一応稀人はもう戻ってきていると伝えると


「よかった」


そういって安堵の表情を浮かべていた

それ以外では


「私以外にも共に来た者たちがいるのですが…………」

「はぐれてしまったと」

「……………………はい」


そうなると、この崖の上辺りから探した方が良さそうだが


「……………………」


見上げてみると、崖は途中から微妙に外側に反った形をしている

なんだっけ『…………オーバーハング?』そうそれ

そんな感じなので走って登るのは厳しい

となると


「取り合えずここから出ようか、他の人たちも流石に一度戻ってくるだろうし」

「…………そ、そのことなのですが」

「ん?」


まだ何かあるのか


「『聖地』から出入りするためには、私の持つ鍵が必要なのです。ですから…………」

「ああ…………」


そういや扉閉まってたな

つまり向こうはこの人を見つけないと出れないって思うわけで


「じゃあ探しに行くか」

「…………よろしいのですか?」

「流石に置いて行ったりはできないし、それに…………あー」

「?」


ちょっと気まずくて視線を逸らしてしまった

向こうは首を傾けて疑問顔


「…………(一応俺にも責任が無いってわけじゃないし)」

『……………………うーん』


そしてさっきからお前はどうした

ずっと思案顔してるが


「…………まあ最後まで責任を取るってだけだ」

「……………………本当に、ありがとうございます。あなたはやさしい人なのですね」

「そんなんじゃないって……………………」


両手を組み、祈りをささげるかのような姿

やっぱり聖職者かなんかみたいだな


「といっても、どこから探したもんか…………」

「……………………あの、それなら」

「ん?」


何でも、森の道をそのままずっと進んだ場所に崩れた建造物があり、そこを調査のための拠点として使っていたみたいで、そこにいけばもしかしたら見つかるかもしれないらしい


「なるほど、んじゃあ早速…………あっそういえば」

「はい?」

「俺の名前はヒカル、そっちの名前は?」


立ち上がって土を払い、マップを開こうとしたところで思い出した

特に何かあるわけでもなく、普通に名前を聞こうとしただけだったのだが


「えっ!な、名前ですか?!」


妙な反応が返ってきた

地面に敷いた布団に座ったまま変な風に手を動かしたり身体を揺らしたり、不規則な行動を繰り返している

目を逸らして挙動不審になった姿に困惑していたら


「な、名前をその…………ご、ごめんなさい!言えません!」


急に頭を下げて断られた

どういうこと?


『……………………フラれた?』


どういうこと??



ーーーーーーーーーー



案内はシロに任せて俺は一先ず護衛まがい

狼は突撃の入りを抑えて処理、魚は弾いてその辺に吹っ飛ばす、鳥は俺が気づいているからなのか襲ってこない

ありがたいことに、蜘蛛はまったく見かけなかった

しばらくすると道に出た

ただの土の道とはいえ踏み均されたものの方が幾分か歩きやすい


「ヒカルさんは、お強いのですね」

「え?いや、そうか?」

「はい、貴方に見つけてもらい、私はとても幸運なようです」


嬉しそうに笑う金髪の人

なんだかなぁ


「まあ取り合えず行こうか」

「はい!」


出発するにあたって、俺はHPを回復し、地面に置いたものなんかを片付け一応向こうにも回復薬を渡しておいた、本人は遠慮していたがなんかあった時のためにもと言ったら受け取ってくれた

名前に関しては結局聞けずじまいだが、向こうにも事情があるようなので詮索はなし

そういえばまくらを仕舞う時に変な視線を感じた


『……………………欲しいのかな』

「(人の命を吸い取ってきたある意味いわくつきなんだが)」


そんなこんなで森を進んでいるが、別に何かあるわけでもなく順調に進んでいた

俺が最初にスポーンした辺りを超え、途中いくつか段差を登り、たまに休憩を取ってはまた進む

そんな時


『……………………ヒカル』

「(どうした?)」

『…………そういえば、大丈夫なの?』


シロが心配そうに声をかけてきた

何の話だ?


『…………あの娘と距離が近かったり、普通に触ったりしてるけど、気分は大丈夫?』

「…………………………………………そうじゃん」


体調に変化はない

吐き気もしない

痙攣も頭痛もない

これは、一体


「あの、どうかしましたか?」

「えっあっいや、特に問題はないな、うん」

「?……………………そうですか」


咄嗟に声を出してしまったからか後ろから疑問の声

適当に誤魔化したが特に気にしている様子はない、セーフ

それよりも、まさか


「(克、服、した?)」


そんな馬鹿な

というかこの子女の子だったのか


『え?』


いや待ってくれ全体的にゆったりとした服で体型が分かりずらいし、歩き方も判断がつかないんだよ


『…………顔、女の子にしか見えない』

「……………………」

『…………………………………………なんか、ごめんなさい』


自分を指差したら気まずそうに視線を逸らされた

ちくしょう結構気にしてんだよ

いやそれよりも、だ

つまるところ俺は


「(普通に、女性と会話、できている?)」


快挙では?


『…………私は?』


いやお前は何というかちょっと違くね

こう、自分の半身っていうか、いて当然みたいな存在だから、また別だな


『……………………ならいい』


なんかいいみたいだ

よし、このままトラウマを乗り越えてもっと普通になれるように頑張ろう



ーーーーーーーーーー



なんだか、変な気分です

清澄な顔立ちは女性のようにも見えますが、声からして男性のようにも思えます

稀人ではよくあることのようですが、彼からはそのような違和感はありません

彼には聞こえないよう小さく呟く


「今、何を考えていらっしゃるのでしょうか」


周囲から襲い掛かってくる怪物たちをなんて事の無いように退ける後ろ姿

背でまとめた、この国では珍しい黒い髪が、武器を振るうのに合わせてゆらゆらと揺れています

彼の戦い方は、聖騎士の方たちと似ているようで少し違います


「…………皆さん」


考えて、思い出した

彼らとはぐれる少し前に見た、あの光景を

アレを見た瞬間思わず息を飲みました


「……………………」


ヒカルさんが今戦っているあの怪物たち

それらが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その中からはぐれた個体がいくつか襲い掛かり、私は聖騎士の皆さんが助けてくださったおかげでどうにか逃げ延びることができましたが、この場所ではどういうわけか一切『神聖術』が使えません

皆さんご無事だとよいのですが


「……………………おっ、もしかしてあれか?」


ヒカルさんの声に我が返ると、視線の先には半壊した建造物

急いで確認しに行きましたが、そんな私の願いも虚しく

そこには、誰もいませんでした



ーーーーーーーーーー



まず最初に思った感想は


「劇場?」


階段状の観客席と中央には半円の舞台、その背後には巨大な円状の飾りがついた壁がある

本来建造物を覆うはずの外壁は半分以上崩壊していた

劇場は円状の形で、無事な方の外壁に回ってみると、一部がせり出した屋根を利用したテントがいくつか点在していた

テントには荷物が転がっているが、周囲には誰もいない

一度内部の方にも足を運んでみたが


「…………人の気配はないな」

「……………………そのようですね」


探しに行ったなら数人は残していくだろうし、誰もいないってなると戻ってきてないのか

荷物の方をチェックするため、一応許可を取ろうと視線を隣に向けるが


「……………………」


劇場の中、暗い表情のまま何かを考えるようにして俯いている


「…………ちょっと疲れたな、休憩しよう」

「……………………えっ?」


折角座りやすそうな椅子もあるんだし、少しくらい気を抜いたって罰は当たらない

『うんうん』神様だってそう言ってる

ある程度埃を払い、インベントリから綺麗な布を取り出して椅子にかける


「どうぞ」

「えっと、ありがとうございます」


二人揃って座り、一息つく

椅子はまあ、ノーコメントで


「そういえば、どうしてこんなところに劇場なんてあるんだろうな」

「私には、何とも言えません。一度も来たことがありませんから」

「そうか」


ま、まだだ


「……………………」

「何というか、大事にされてるんだな」

「え?」

「いやほら、一緒にきた人たちみんなで探しているんだろうなって」

「そう、ですね…………そうだと良いのですが……………………」


何気ない会話も上手くいかない

沈黙がその場を支配する


「「……………………」」


どうしよう

こんなことならもうちょっと他人と関わる回数増やしとくべきたったか

自分の対人経験の無さが憎い


「……………………私」

「ん?」

「…………先ほどから、ずっと思っているんです」


黙っていたら向こうから話しかけてきた

その表情は外壁から漏れる光が逆光になっていて、良く見えない


「皆さんとはぐれて、逃げ延びて、でも崖から落ちてしまって」


声からはどこか悲痛な思いが感じ取れる


「目を覚まして、生きているとわかって、貴方を見つけられて、とても嬉しかった」

「……………………」

「…………けれど、この場所に着いた時、誰もいないことに気づいた瞬間、思ってしまったんです」

「……………………」

「そのような、私にとって何もかも都合の良いことが、現実に起きるはずがないと」

「それは……………………」

「聖騎士の方々は、皆優秀です…………もし何かあったとしても、私よりも早く、まずここへ戻ってきているはずです」


どうしてそう思ったのかは、俺にはわからない


「私たち以外、誰もいない世界」


「本当は、私はとっくにあの場所で死んでしまっていて、夢でも見ているのではないのかと」


「そのようなことを、思ってしまったんです」


まるで懺悔のようで

夢を見ること自体が罪だと思うような、そんな考えだった


「……………………ごめんなさい、おかしなことを言ってしまいました。忘れてください」

「…………いや、俺もそんなことを考えたことがある」

「……………………貴方も、ですか?」

「ああ」


彼女が今言ったことは、俺にもわかる


「何もかも上手くいかなくて、それでも何とかもがいて、仮に不幸なことがあっても、いつも通りのことだって、思ってしまっていたんだ」


馬鹿だよなぁ、そんな風に考えるよりも先に、やるべきことはいっぱいあったはずなのに


「なのに、最近急に運が良くなってきて、どうしたらいいかのずっと悩んでた」


少し視線をズラせば、そこには膝を抱え、上下逆さまで浮かんでいるシロ

なにしてんだ


『……………………ヒマつぶし』


楽しそうでなにより


「今の自分と、過去の自分、その違いが大きすぎる所為で、自分が本当に自分自身なのかわからなくなってたんだ」

「……………………どうやって、解決したのですか」


彼女は俯くのをやめ、こちらへ向き直った

その目には縋るような、期待するような、そんな思いが籠っている気がする


「そうだなぁ」


この答えを、彼女がどう思うかはわからない

俺は向き直って、右手を持ち上げて見せた


「?」

「さっき、掴んだろ?」

「えっあの、その…………」

「まあまあ、ほら」


言われるがまま、彼女は俺の手を掴んだ

そうだ、これなんだ


「どう感じた?」

「えっと、温かいです」

「そうだ、この温かさが、現実なんだ」

「!」


今あるものは夢なんかじゃない

自分の存在は、他人が証明してくれる

幸せな自分は、確かにそこにいる

彼女は、そこにいる

そして


「俺は夢なんかじゃない、大丈夫だ、ちゃんとここにいる」


安心できるよう、精一杯の笑顔で答えて見せた


「……………………ッ」


目が潤んできた

流石にまた泣かれるのは困る、なので


「よっと」

「きゃっ!」


手を引っ張って一緒に立ち上がる

びっくりしたのか涙が引っ込んだ


「ここに来たことが無いって言ってたよな?」

「えっと」

「ちょっと探索しよう」

「たん、さく?」


そう、探索

自分の知らないものを探しに行こう


「自分の知らないものが夢に出てきたりはしないだろ?だったら探しに行こう、現実を」

「それは……………………ふふ、そうですね、見つけましょう!」


手を放したあと、彼女は嬉しそうに笑い、歩いて行った

階段を下りる彼女の足取りは軽い、さっきまでとは大違いだ

追いかけようとした瞬間、シロが声をかけてきた


『…………ヒカル、女の子とあんまり喋ったこと無いって…………』

「え?ああまあそうだな」


どうした急に

確かに中学時代は途中で他人と関わるのをやめたし、高校に入ってからはそもそも誰も近づいて来なくなったしな

女性以前に人と話してない


『……………………治らない方が良かったかも、恐怖症』


は?何で?


『……………………いつか刺されそう』


刺されそうってお前、彼女が?

いや無いだろ、あんなやさしそうな娘が刺しにくるとか

手だって武器とか握るような感じじゃなかった、それに


「もうとっくに刺されただろ」

『…………?』


何をいまさら

おう首傾げんなって


『二回目はしっかり防いだぞ』

『………………………………………………………………なるほど、確かに』


思い出したのか左手に右こぶしを置いて納得

そもそもこっちで刺されようが死ぬことはないし、なにより神を殺した一撃以上の衝撃なんて他に無いだろうしな


「ヒカルさーん、こっちに何かありましたよー」

「ああ!今行く!……………………行こう」

『うん』


視線の先では舞台の上でこちらに大きく手を振る姿

そういや結局、この劇場って何のために建てられたんだろうか



ーーーーーーーーーー



「はぁ…………」

「いやまあ、俺も本人がそのままやってくるとは思わなかった」


アヤ先輩が撮っていたヒカルのステータスに表示されていた【死の踏駆音】は、ウチのデータには無いイデアのフラグメント

直近の討伐は、事件の前日

捜索のためにとなりの都市まで急いだのは無駄足だったみたい


「むぅ~」

「いてっ…………おいアヤ、やめろって」

「むぅ~!」


アヤ先輩が部長をポコスカ殴っているが、筋力が絶望的なのでまったくダメージはない

何でもヒカルに【眼】を使った時怖いものを見たらしく、その後部長が構ってくれなくて少し不機嫌みたい


「ったく、ほれほれ」

「あっ…………もうっ、子ども扱いしないで!」


こうして見ると、身長差エグイわね

部長が180センチ、アヤ先輩が140センチ辺りと考えるともはや犯罪レベルである

頭をウリウリと撫でられ、口では嫌がっているようだが表情がもう緩んでいる


「駅前、限定パンケーキ」

「!」

「トッピングも好きにしな」

「…………しょ、しょ~がないな~レンは~、一人でお店に入るのが恥ずかしいからって~」

「ああそうなんだ、一緒に来てくれ、頼むよ」

「しかたないな~」


ちょろすぎるわよアヤ先輩

というか部長、駅前の限定パンケーキってお店の予約ほとんど取れないはずなのに一体どうやったのかしら

てか他所でやってください


「……………………そういえば旭」

「なんだい?」

「研究はどうなってるの?ほら、マナポーションが配布されるって話じゃない」

「ああ、半分程度だったけど、完成品があれだけあれば一気に進むはずさ、とはいえ素材に関しては目途が立てばいいのだけれど」

「錬金術って面倒くさいわね」

「ヒーラーなら皆そういうものさ、地道に行くしかない」


このゲームのヒーラーは面倒くさい

なにせ回復魔法みたいな便利な代物が一切無い

機構で追加HPを増やしたり、他人に補助系スキルを使ってダメージカットを付与するものもあるが、結局のところ生命線はアイテムによる回復が主だ


「マナポーション、出来ればあんまり不味くないのにして欲しいんだけど…………」

「良薬はなんとやら、効果は保証するから我慢しておくれ」

「たまに味覚が完璧なのが疎ましく感じるわ…………」


時計を確認すればもう五時半、隼人は隣の部屋でログインしているためいない

もう一度ステータスを確認し、動画を再生する


「あんたならどうやって勝つ?」

「うーん、ここまで速いとなるとアイテムぶつけるのにも一苦労だからねぇ、やるならそこら一帯を沈めないと…………」

「あんたいっつもやることが派手よね」

「いやぁ、大規模な仕掛けが上手くいくと楽しいからね……………………君だってそうだろ?」

「私は普通よ」


どれだけ速かろうと関係ないわ

見た感じ、広範囲の攻撃に対する備えはあまりないみたいだし


「普通に不意打ちで爆撃するだけだから」

「……………………普通ってなんだろうね」

「このゲームじゃ普通よ」


純魔なんてだいたいそんなものだし、対人じゃ出禁なんてよくあること

というより何発当てても死なないモンスター側が硬すぎるだけよ


「そういえばこいつが持ってる木刀って、呪われてるわよね」

「ああ、『不渡』と『不滅』みたいだね…………ってことは」

「多分呪いを解くために「教会」に行くと思うのよね…………その辺見張ってれば見つかるわよね?」


教会とはある程度いい関係を築けている自信はあるが、それでもいざこざは避けたい

実際に話してみるまでどういうやつかなんて判断つかないし、どうしたものかしら


「まあその辺の動向はウチの忍者に任せよう、彼、仕事はしっかりこなしてくれるから」

「…………そうね、仕事だけはね」

「今日は来れなかったけどログインすれば会えるはず、そろそろ僕たちも行こうか」

「ええ」


そこまで長く入れる余裕は無いが、軽く程度なら問題はない

他のクランメンバーたちとも少し話し合いたいし

それぞれ左右の部屋へ別れ、ベットの方へ

机に置かれた箱に専用のカードキーを差し込めば鍵が開く、中にあるヘッドギアを取り出して思った


「……………………いくらウチの学校に開発元がお金を出してるっていっても、普通ここまでやるかしら」


広い部室に最新の設備、ガラス張りの向こうに見えた部屋はAR技術を使った撮影用だ、プレイヤーを中心として周囲の景色を内部に出力できる

成績優秀者、面接、その他いろいろな厳しいチェックを乗り越えることでようやく入部することができる

何でも、VRの技術を広めるには子供の時代から慣れておいた方がいいから、なんてお題目を掲げてはいるが


「正直モルモット扱いな気がするのよね……………………」


それでも文句を言えるようなものではない

機器に関しては全てタダだし個人所有にもう一つ貰っている

毎月のレポートでお金まで渡されているのだ


「あんまり深く考えてもしかたないか」


隼人と同じ部活に入るために頑張ったのだ、今さらやめるつもりはない

ヘッドギアを付け、ベットに倒れ込む


「ゲームスタート」



ーーーーーーーーーー



「これは…………」

「鍵穴、ですか?」


探索することしばらく、舞台の壁にある円状の装飾に奇妙な穴を発見した

覗き込んでみたが向こう側は暗くて良く見えない

形から鍵穴であることはわかったが


「鍵なんて特に見つからなかったしな」

「うーん……………………あっ」

「おっ、何か思いついたか?」


しばらく悩んだ後、懐から小さな物体を取り出した

それは四角く薄いが、辺の一つに筒状のものがくっ付いた金属製のものだった

大きさは指の第二関節程度


「これ『聖地』に入るための鍵なんです。でも…………」

「それじゃあ無理だな」


どこかで折れたのか、先端部分しかない鍵だと挿しても回せない

持ち手がないと―――


『……………………なかった?』

「あっそういえば」


インベントリを開く

リストをスクロールして下の方へ行き、目的のものをタップ


「…………それは」

「やっぱり…………」


初期エリアを抜けた先、謎の部屋で見つけた先端の無い鍵

刻まれた装飾がまったく一緒だ

互いをよく見てみればこれらは折れていたわけではなく仕掛けで外れるようになっていただけだった

先端を受け取り差し込むと、カチッという音が聞こえ鍵が出来上がる


「……………………挿してみる」

「……………………はい」


慎重に挿し込むと、鍵はすんなりと入った

ゆっくりと回してみる、すると



―————ガチャン



軽く音を立てて、鍵が回り切った


「……………………」


少し後ろに下がると、鍵を中心に、壁全体に対していくつも光の線のようなものが走った

鈴のような音が響き、円を割るようにして一本の縦線が入った後、ゆっくりと扉のように左右に開き

開、いて?


「え―――」

「『ウィンド』!!」


黒いもやが見えた瞬間、急いで彼女を担ぎ飛んで後方へ

扉は開くのを止め、中からあふれ出したもやが一塊となって舞台に落ちる

そこにいたのは


「…………黒い、騎士?」


真っ黒に染め上げた全身甲冑の人型存在

ぼろぼろで、鎧として機能しているか疑問なレベルだ

ゆらゆらと身体を揺らし、腰にあった剣を引き抜いた


「ォォォォォォオオオオオオ!!」


咆哮を上げると突如突風が吹き荒れて、もやが劇場を包み込む


「…………ゾクメガ……………………ヨクモ」

「…………喋った?」


黒騎士からしわがれた声が聞こえてくる

人間?


「ニガシハ、セヌゾッ!!」

「マズッ!」

「きゃあ!!」


舞台を囲むように左右から炎が沸き上がった

速すぎる、咄嗟に舞台の外へと放り投げた


「っく…………ヒカルさん?!」

「『ウィンドスラッシュ』!!……………………駄目か」


炎がある場所は、手で触れてみると見えない壁のようになっていた

魔法を撃ちこんでもヒビ一つ入らない

どうやら逃がすつもりはないみたいだ


「早く逃げろっ!」

「で、でも」

「いいから早くしろっ!!死ぬぞっ!!」

「~~~~~!!!」


悲痛な顔で階段を駆け上がっていく

黒騎士と相対

こいつからそこまでの強さは感じないのに、嫌な予感がずっとしている

取り合えず彼女は逃がした、これなら最悪俺が死んでも大丈夫———


「オロカナ!!」

「きゃあ!」

「?!」


炎が燃え上がる音が再度聞こえた

視線を上げればそこには劇場を囲うようにして燃え上がる炎の壁

ここだけじゃないのか!!


「クソがっ!何のつもりだ!!」

「ハナスコトナド、ナイッッ!!」


剣を構えて襲い掛かってくる

だが、遅い


「そんな、ものでっ!」

「グゥゥ!」


向こうの脚運びは最悪、剣もまともに振れていない

剣を避けた後、胴体に回し蹴りを食らわせ、顎を殴り飛ばした後、詠唱


「『ウィンドスラッシュ』!!」

「—————!!」


胴体に命中し、鎧が粉々に砕け散った後舞台のギリギリまで吹き飛んだ

まともな人間には思えないが、殺してはいないはず


『ヒカル!!』

「なにっ?」

「ォォォォォオオォオォォォ!!!」


倒れた騎士が起き上がり、咆哮

砕け散った破片が浮かび上がって黒騎士の方まで飛んでいく

まるで逆再生のように鎧が元に戻り、そのまま切りかかってくる


「くっ…………」


避けきれず木刀で受け止める

ヒビは入ったが直ぐに元通り

鍔迫り合いが成立するなら、ステータスは高くない

視線が階段の上へ移る


「—————」


『ヒカル』


やるしか、ない


「うおおおおおおお!!!」

「ヌゥゥ!!」

「『ウィンド』!!」


剣を外側に弾き飛ばして腕を開かせ、魔法を撃って加速、空いた正面からこぶしを顔面に叩き込んで詠唱


「眼前を切り開け!『ウィンドスラッシュ』!!」

「—————」


風の刃が黒騎士の頭部を、首元を切り裂いた

丸い物体が転がっていき、騎士が膝をついて倒れ伏す


「……………………っ」


殺した

このままじゃあの娘だって殺されたはずだ、炎の壁だって俺じゃ壊せない

相手はモンスターにしか見えない

だから


『まだ!!』

「なっ!あぐっ?!」


突然飛び上がってきた腕が俺の首を締め上げる

立ち上がった頭の無い騎士

首を斬り飛ばしたはずなのに


「ソノテイドデ、ワレヲコロセルトオモッタカ」


転がった頭から声が聞こえてくる

先程と同じように浮かび上がり、元あった位置へと戻っていく


「シネ」


同じように手に収まった剣を構え、そのまま突き入れる

まだ死ねない


「『越、境』!!」

「ムゥゥ!」


アビリティ使用、最大HPは残り八割

掴んだ左腕を握りつぶしねじり取る、地面に落ちて転がるように即退避

首についたままの腕を外して放り投げれば、それはそのまま黒騎士のもとへと戻っていく

立ち上がり、息を整える


「はっ、不死身とかふざけんなよ」

『…………でも、関係ない』

「ああ」


俺が死ぬのはいい、どうせ生き返る

だが俺が死ねばその次は彼女、それだけは絶対ダメだ

思い出すのはさっきの会話



―————私はとっくにあの場所で死んでしまっていて、夢でも見ているのではないのかと



見つけた現実

ああそうだこれが現実だよ

理不尽で、どうしようもなくて、こっちの事情なんてお構いなしだ

そして何よりも


「—————」


膝をついて呆然としている彼女の顔

そんな顔をさせたくてあんなことを言ったんじゃない

ただ、少しでも助けたかっただけなんだ、だから


『…………ヒカル』


ああ


「こんな、こんなクソッたれな現実は、俺がぶっ壊してやる!」



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