27近いようで遠い
「これは…………どうなってるんだ?」
目の前にあるのは開かれた扉
もう感覚的には一年前の記憶だが、忘れることは無い
アキラと一緒に初期エリアを進み、イデアモンスターを倒した後、エリアボスであろう「ブラック・アント」を倒した先にある、石造りの大扉
内部には誰かが住んでいたような小さな部屋があるはずなのだが
「無くなっている?」
扉の先には暗い通路があり、奥からは向こう側の森の景色が一部見えているだけだった
困惑していると変化が訪れる
『…………どうするの?』
「……………………」
石扉がゆっくりと音を立てて閉じ始めた
考えを巡らせても答えは見つからない
本来初期エリアからは一方通行のはず、それが開いているということは
「誰かが出ていったようには思えない」
ログインした瞬間に周囲に人の気配は無かった
俺と同じように初期エリアをクリアしたわけではないのだろう
「なら、入った」
アキラから再度入れるなんてことは聞いていない
俺がログインしてから開いたわけでもないだろう、音が響く
もし初期エリアに何かまだ秘密があるというのなら
「……………………行こう」
『…………うん』
ーーーーーーーーーー
部室の内部は広く、奥にはもう一つの部屋がガラス張りで見えるようになっていた
左右にある二つの部屋にはベットと鍵のついた箱がいくつか、中にはヘッドギアが入っている
部屋の中央には長テーブルが正面から見て縦に一つ置かれ、そこには既に三人の人間が椅子に座っていた
二人の男性に一人は女性
「部長」
「おう、きたなお前ら」
その中の一人、眼鏡をかけた真面目そうな男性———深山蓮———が手を上げてこちらを見る、何やら作業中のようだった
「うっす深山先輩、それに旭に片倉先輩…………あれ、健は?」
「彼なら今日は用事があるといって帰ったよ」
「いいのか?結構重要な話って聞いたけど」
「問題はないよ、一応今日は情報の共有ってだけの話だし」
二人で話し込んでいる
二人とも性格が真逆のはずなのにどういうわけか昔から仲が良い幼馴染なのだ
隼人はいつも旭の方を優先する、ライバルだ
「…………どうしたんだい、鈴音」
「…………別に」
視線が絡み合う
向こうは特に気にしている様子はない
「えっと、部長」
「あっちょっと待て……………………よし、いいぞ」
「あの、アヤ先輩、どうしたんですか?ずっとその調子みたいですけど」
視線を部長の隣に向ければそこにはこじんまりとした体型の女性が呻きながら机に突っ伏している
片倉綾子、部長の恋人だ
「あーまぁその辺は説明するから取り合えず座ってくれ、見てもらいたいものがある」
「は、はぁ」
促されるようにして移動、座る順番は左側に部長とアヤ先輩、右側に上から旭、隼人、私の順だ
部長は座る私たちの前にパソコンの画面を見せる
どうやら動画ファイルのようで、日付は一昨日
「部長、これは?」
「…………先日あった新人戦の動画、ですね?」
「ああ、見てくれ」
再生ボタンが押されると、音と共に画面が動き出す
流れているのはクランホーム内にある戦闘用の会場を撮影したもの
二人のプレイヤーが戦っており、一人は短剣をいくつも投げ飛ばしていて、もう一人はそれらを避けたり防いだりしている
「おっ、ヤケジャケさんじゃん」
「えっと…………確か予選突破の人よね」
「うん、投擲系アイテムをよく使う人みたいで金が無いってよく言っていた」
「どうやってあれだけ買いそろえたのかしら……………………」
「確か、最近見つかった『魔抗石』の採掘でお金を用意したらしいって聞いた」
試合は続く、というか
「こっちの黒髪のプレイヤーが誰か知ってる?」
「いや?」
「僕も知らない、予選で見かけてないってことはスカウト組のはず」
「……………………」
しばらく見てると試合が終わった、勝ったのは黒髪のプレイヤー
初期装備だったので、正直勝てるとは思っていなかった
次に映ったのは、今見た黒髪プレイヤーと全身甲冑のプレイヤーの戦闘
どうやら二回戦のようだ
これは甲冑プレイヤーの勝ちだろう、先ほどは軽装のプレイヤーが相手だったため上手く意表を突いて倒したけれど今度は堅実タイプ、木刀じゃあ文字通り刃が立たない、部長はさっきから一体どういうつもりで―――
「え?」
「ん?」
「……………………」
一瞬目を離した隙に、気づいたら試合が終わっていた
地面に落ちた頭部、黒髪プレイヤーの勝ちだ
「ちょ、ちょっと今見てなかったから」
失礼を承知でマウスを掴みバーを動かす
試合開始の瞬間から始め、今度は目を離さない
「……………………」
終わった
その後実況席の方から解説が入り、試合は終了
次、いやその前に
「部長、この人、『適応者』ですか?」
「…………俺も最初はそう思ったんだがなぁ、まぁ次が最後だ」
そう思った?違うってこと?
部長はそう言いながら次の動画を再生させる
対戦相手は
「カントラさん…………」
「優勝候補の一人だね」
カントラ
新規の中では有名株、何ならスカウトしたのは私
格闘技の経験があるみたいで、対人戦は結構強かったはず
しっかりとした大人の男性といったイメージがある
「『フィティ』を知らない?」
「魔法防御用の盾なんて対人やってたら知らないわけないと思うけれど」
戦闘が開始され、撃った魔法が盾に弾かれる
メッカクさんの時とは違い、戦い方に少し精細が欠けている
「相殺…………『滞留の呪い』ね」
「魔法型はかなり珍しいね」
互いの間ではじけ飛ぶ魔法
風魔法は火魔法より一節分威力に差がある
『滞留の呪い』には威力上昇効果と減少効果があった、相殺の理由は恐らくそれ
「…………無茶な戦い方してるわね」
「偶に軽戦士がやってるけど、上手く風の勢いに乗るのが難しいって言ってたよ」
作られた土壁をかがんだ状態から撃った魔法で飛び上がる
魔法を有効活用した上手い使い方だ
「?!」
「…………呪術」
黒いもや
抑え込まれたものがにじみ出るようにあふれ出すあの感じは呪術だ
あのプレイヤーは呪術持ち、けど
「あっ」
「…………カントラさんの方が一枚上手だったみたいだね」
地面に落ちた木刀が弾き飛ばされ盾のスキルで身体が吹き飛ぶ
そのまま壁にぶつかり動きが止まった
「終わりみたいだね……………………部長、見せたかったものはこれですか?」
「確かにちょっとあれだけど、これだけじゃ別に」
「まだだ」
「……………………え?」
部長の声が響く
良く見れば映像はまだ終わっていなかった
ーーーーーーーーーー
「特に変化はないな」
『…………普通の森?』
初期エリアに入ってからしばらく、内部は前来た時とあまり変わりはなかった
「ブラック・アント」が再度出現するようなこともなかったし、出てくるモンスターも同じだ
デスペナルティでステータスが半分になっているのが少し辛いが今さら負けることはない、それに後少しで元に戻る
『…………ちょっと見てくる』
「頼む」
シロが空に浮かび上がって森の上へ
そういやどれくらい離れられるんだろうか
壁とかすり抜けられるし音も聞こえる、なんか悪いことに使えそうだな
『……………………(変態?)』
何言ってんだ、覗きなんてしたらひどいことになるぞ、主に俺が
鍵のかかった扉の中が見れたり盗み聞きとかできそうだなって話だ
「いやまあそれも良くないが」
森を歩いていると最初の頃を思い出す、近づいてくるモンスターに気づかないとかダメダメだったよな俺
視線が地面に生えてる薬草に移った
「そういえば」
アキラはどうしているのだろうか
一応フレンドにはなってはいるが、ここはエリアが離れているからチャットを送っても同エリアに入るまで保留状態になるし―――
『ヒカル!!走って!!』
「『ウィンド』!!」
シロの声が聞こえると同時に魔法を起動
散っていた思考が一気に冴えわたる
初速を稼いで前方にダッシュ
方向は?
『そのまま真っ直ぐ!急いで!』
「……………………チッ」
まだデスペナルティが残って、いや
「『全進壮来』!」
半分だったステータスがスキルによって元に戻り身体に力が入る
森の中を駆け抜け、時々魔法で速度を上げるが微妙に緊張感が走る
このスキル、デスペナルティを無視できるがこの状態でもう一度死んだら
「ビビるな!」
自分を叱咤するように声を上げる
デスペナルティ中にもう一度デスペナルティを受けると今度はステータスが半分どころか全部一まで落ちる、しかもスキルも魔法も機構も使えなくなる
それでもシロが急げって言ったんだ、こんなところで震えている暇はない
『このまま左に逸れるように進むと森を抜けて切り立った崖が見える』
「ああ」
俺が前に通ってきた道を大きく外れた場所、視線の先には森の切れ目から岩肌が見える
『そこを右側に登って』
「了解」
森を抜ける瞬間身体を左に傾けて勢いをつけ、一気に右に身体を逸らす
「『ウィンド』」
魔法を使い飛び上がって崖を斜めに登る
横は無理だが斜めなら行ける
突起が多い分登りやすいが滑る可能性も増えるから気を付けないと
斜めの視界には崖の上部と青い空、そして
「!!」
揺れる枝とそこから手を放してしまったのか、落ちる一人の人間
この高さはマズイ
「『越境』!!」
自分と高さがギリギリ迫る瞬間、一瞬アビリティを使い脚で崖の壁を蹴り砕いて飛び上がる
手を伸ばし、何とか腕を掴んだ
そのまま抱き留め全身で身体を守る
「ぐあっ!…………ぐぅっ!……………………『ウィンド』!」
地面に身体が激突しHPが大きく減っていく
勢いがついた所為で何度か地面をバウンドするが、背中で魔法を使って衝撃をいくらか減らす
「いぎっ…………痛った~」
ゴロゴロと地面を転がり最終的には木に頭をぶつけてようやく止まった
頭がズキズキする
HPを確認すれば残りは13、死にかけだ
それよりも
「だい、じょうぶ、そうか」
抱き留めた人物を見た感じ、ケガのようなものは見えない
とはいえ衝撃で骨折とかはあり得るので取り合えず身体を起こす
『…………ヒカル』
「ああ」
背中と足を持って持ち上げる
目を瞑っていて声をかけても意識はない、気絶している
「取り合えず、寝かせられるもの出してくれ」
『……………………うん』
シロがインベントリを操作してアイテムを出す
地面に布団と枕が出現し、そこに寝かせる
こういう両手が塞がっている時には便利だな
「……………………はぁ~~」
緊張感が抜けそのまま地面に座り込む
『…………ありがとう』
「まぁ流石に俺も死なせていいとは思ってないし、よかったよ、助けられて」
視線を向ければそこには眠る人物
全体的にゆったりとした白い服装で、高そうな装飾がいくつも付いている、生地も多分高い
髪色は金髪で綺麗な顔をしている
「プレイヤーじゃ、なさそうか?…………ってかシロ、これ…………」
『…………まくら?』
眠る人物が使っているまくらに指を指す
羊を模したまくらで両脚を伸ばした可愛らしくデフォルメした姿をしている
よりにもよってなぜこれを
『…………前使ったけど大丈夫だった』
それはそうだが、このまくらを作った時の素材元を考えるとちょっと心配になる
二世の狭間では珍しくダジャレじゃない帽子を被っただけの見た目が普通の羊なのだが、その毛に触れるとちょっとマズイ
「触った瞬間強力な睡眠デバフを与えて、毛の中に引きずり込んでHPを吸収してくる羊の毛使ってるんだよなぁ」
生態がこう、食虫植物みたいな
実際何回も死んだ、寝心地が良さようなのがいけない
一応死んだら吐き出されるので詰むことは無かった
心配なのでちょっと顔を覗き込む
「…………えへへ」
「……………………」
大丈夫そうだった
ニコニコしてるしよだれも垂らして寝言まで
てか寝相悪
『……………………まくらに抱き着いてる』
「取り合えず起こさないと」
何でここにいるのかとか色々事情を聞いておきたい、多分入っていったのこの人だろうし
肩に触れて揺らしてみる
「んぅ~…………ぅん?」
「えーっと、大丈夫か?」
しばらくして閉じた瞳がゆっくりと開かれる、だが微妙に寝ぼけているのか半分だけ
「……………………初めましてぇ」
「ああうん、初めまして」
「ん~?初めましてぇ~」
意識がぼんやりしているのか言葉もどこかふわふわしている
まくらを抱きしめる力が強くなったのか羊が苦しそうだ
どうしたものかと悩んでいると向こうが口を開く
「…………私、ごめんなさい…………」
「え」
「…………ゆるしません…………私、置いていって…………」
「ん?」
置いていく?ゆるさない?
何の話だ?
『……………………ヒカル?』
「待て、俺に心当たりは一切ない、誤解だ」
俺が無実なのはわかるだろ
「…………うらんでいます……………………ごめんなさい」
言っている言葉がさっきから支離滅裂だ
うらんでるって言ったり、逆に謝ったり感謝したり
もしかしてさっきの衝撃で頭やったか?
「おーい、起きろって、もう朝…………じゃないけど、こんなところで寝るなって」
「ん~…………眠くないです」
「ああうん、眠くないなら起きてくれ」
「眠りません~」
「眠らないなら早く起きてくれって…………」
もう一度肩に触れ、今度はもう少し強く揺さぶってみる
すると段々と意識が戻ってきたのか
「んぅ~…………………………………………あれ、どうして」
『…………起きた』
こちらに気づいたのか目を大きく見開いた後起き上がり、周囲を見渡している
「え、え?私…………あっ!」
突然何かに気が付いたかのように自分の口元を両手で抑え込み、そのまま黙り込んでしまった
「……………………」
「えーっと、大丈夫か?」
「……………………」
反応が無い
俯いたまま何か考え込んでいるようにも見える
焦ったような感じで目がキョロキョロと周囲を見ているとこっちに視線を向けて、また逸らす
そんなことを五分くらい繰り返した辺りだった
「…………あ」
「あ?」
口元から手を放し、恐る恐るといった具合で話始める
「貴方、は」
「俺?」
「ッ」
俺が自分に指を指して言うと、向こうは頷いた
「稀、人…………なんです、か?」
「ああうん、そうだな」
答えると、相手は驚いたかのように肩を跳ね上げ、眼が見開かれる
そうしてしばらく震える自分の身体を抑えるように抱きしめていると
「ぃ……………………み」
「み?」
「右手、を」
そう言われて右手を出してみた、その瞬間
「———ッ」
「え!ちょ」
両手で包み込むように右手を掴まれてしまった
祈るように、何かを願うように
「よかった……………………よかったっ……………………ここに、ここにいました……………………!」
「……………………」
目に涙を浮かべ、この世のすべてに感謝し、安堵するように
目の前の人物は、ただそこにいた
「……………………私は……………………私はっ……………………うぅ」
そのまま俯いて大粒の涙を流すその姿を、俺はただ見ていることしか出来なかった
ーーーーーーーーーー
「「「……………………」」」
画面の映像が途切れる
強制ログアウトにより内部の情報がシャットアウトされたのだ
今見たものが、昨日起きた「A」ルート事件の真相なのだろう
黙り込んだ私たちの中、旭が真っ先に口を開いた
「彼の消息は?」
「さぁな」
「…………いいんですか?野放しで」
部長は特に気にしてないみたいに言うが、そういうわけにはいかない
「そのまま放置なんて断固反対です!何か起きてからでは遅いじゃないですか!」
「わかってる…………だがな、俺たちが表立って動き回るのはマズイ」
「ど、どうしてですか!」
納得いかない
イデアモンスターの別ルート
確かに「C」とは違うみたいだが、それでも事前にこっちで確保するべきだ
「俺たち夜の星は、一応「C」…………主に呪いによる悪影響を何とかするために結成されたクランだ。まだ部活メンバーで組んでた頃、「スバル」の時とは違う。今回に関しては一応「A」だ」
「それは」
「その辺りで色々他クランから融通してもらってる立場だ、対等とはいえちょっとバランスが崩れれば批判の的だ」
「じゃあ、どうするんですか」
「一応少人数で追わせるつもりだが、接触は無しだな。あいつが何かしら呪い関係で事件を起こしたってなら話は別だが」
「……………………」
何も言えずに黙り込んでいると、旭が口を開く
「新人がPKに襲われたって名目がありません?」
「あるにはあるが、もう一押し足りない。一応まだクランに入る前、未所属扱いだからな」
「呪術を使っていたことは?」
「それじゃ解釈次第でプレイヤー全体に干渉できることになっちまう、「呪研」と張り合ってられない」
旭もいくつか案を出してはいるが、簡単には首を縦には振ってくれない
それになんだか
「部長、なんだか楽観視してません?」
部長の様子がどうにもゆるい
いつもよりも雰囲気が張り詰めていないというか
何か用意しているのだろうか
「んぁ?…………あーすまん、最初に言うの忘れてたな」
部長は頭を掻きつつ申し訳なさそうな顔をして答えた
「あいつ、普通にフレ申請してきてな」
「「え」」
つまり
「それは、何というか…………実はナメてます?」
「その辺り判断つかないんだよな」
「……………………」
このゲームのフレンド機能は結構複雑
フレンドになったプレイヤー同士は同エリア帯にいるフレンドの座標を確認できる
これくらいだったらまあ他のゲームにもあるものはある
「まだ五時ですね…………じゃあ向こうに行ったら試すんですか?」
「一応な、とはいえ『断罪』までは無理だろ」
問題なのは、都市の『教会』に『法の天秤』という特殊アイテムがあるということ
天秤には二つ機能が存在し、一つは自分、もしくは自分のフレンドになっているプレイヤーのカルマ値を確認できるというもの
もう一つは、天秤の前で対象のプレイヤーネームと正確なカルマ値を宣言すると発動する
その人物のカルマ値が一定以上だった場合、最大HPを一まで下げた後拘束し、天秤の前まで転移させることができるというもの
しかもその状態でキルされた場合、アイテムとすべてのスキル、魔法、機構が全て天秤発動者に譲渡され、通常のと同じようにインベントリが使用不可になる
フレンド機能を使うということは、カルマ値を上げてしまう行為を絶対しませんと誓うような行為
「まあ少なくとも、悪事をすれば直ぐにわかる」
「デメリットを抱えたまま何かしようっては思いませんね」
部長が気を抜くのもわかる、とはいえ何の準備をしないというわけにはいかないはず
取り合えず他の、一先ず情報系クランと話しをするべきね
「……………………ん?」
そういえばさっきからうるさいのが静かだ
隣を確認すれば、隼人はずっとパソコンの画面を見つめていた
シークバーを操作し新人戦を、というよりもワールドアナウンスが起きた後の戦闘を見続けている
「あんた、一体どうしたの?」
「…………………………………………」
「ちょっと、聞いてるの?」
「深山先輩!!」
「うわっ!!」
突然立ち上がって大声を上げ、前のめりになって部長の方へ
「急に大きな声出さないでよ!」
「先輩!」
「わかったわかった、聞いてるからさっさと要件を言え」
「俺こいつと戦―――」
「却下」
まさに一蹴
私たちと違い取り付く島もなかった
「え~」
「えーじゃねぇ、話聞いてたのかお前」
「あれっすよね、他クランに示しがつかないから」
「しっかり聞いてんじゃねぇか……………………」
部長はため息をついて右手を頭に当てている、いつもの光景だ
隼人の思いつきを最終的にいつも部長が何とかしてくれている
「とにかくダメだ、というより向こうは一ヶ月程度の新規だぞ、そんな相手に勝ってどうするんだ」
「深山先輩だって戦ったじゃないっすか~」
「え?」
そういえば動画の最後辺りで走り出す部長の姿が映っていたような
でも相手が逃げているってことは
「部長、まさか負けたんですか?!」
「いや待て、本気でやってねぇよ!」
「深山先輩が負けるような相手、戦いたいっすよ!」
「こ、こいつ…………」
私の疑問にすかさず隼人が追い打ち
部長は苦虫を嚙み潰したような表情をした後またため息
「まぁ負けは負けだが…………ダメなものはダメだからな」
「え~」
「代わりに今度本気でお前と戦ってやるよ」
「えっマジすか!ラッキー!」
喜んで踊り出す隼人、意外とキレがあって上手い
最近の流行りはダンスのようね
「はぁ~」
「そういえば部長」
「ん?お前もなんかあんのか?」
今度はずっと考え込んでいた旭が口を開いた
組んでいた腕を解き、画面を指差す
「彼の名前は?この動画、会話は遠くて音が入ってないみたいなので」
「ああ、名前な」
踊っていた隼人を捕まえて椅子に座られせて話を聞く
一応私も気になっていた
「あいつの名前は、ヒカルだ」




