24暗闇を覗き込む
「うっわ~どうなってるの?あれ」
実況席から動かず会場で繰り広げられる戦いを眺めている
最初は直ぐに終わると思っていたが黒髪の彼、意外と粘る
「不意打ちにも気づいてたみたいだし、普通の新規ってわけじゃないよね~」
一応彼が使ったチケットは一ヶ月以内のプレイヤーでなければ登録自体ができないよう組まれているため彼がまだそこまでプレイしていないことはわかる、この前のデビュー戦も出てないし
「あっ二人目やられたー」
あの銃あれじゃん、威力が高くて当てやすいけど弾の値段が一発1000コールとかいう金食い虫
あれでヘッショされたら流石に死ぬよね
「装備…………初期装備だよねぇアレ……………………」
このゲームで最も手っ取り早く強くなるには強い装備を着て補助ステータスを上げること
プレイヤーが最初から持つ基礎ステータス
装備によって増える補助ステータス
その乗算が最終的なステータスになる
「いくら今戦ってるのが三等星だって言ってもよくやるよね、ほんと」
例えば彼が装備してる胴装備は補助VITが0.2増える、元々の数値と合わせて1.2になり初期ステの20と計算して24になる
初期ステ×(初期補助ステ+追加補助ステ)=ステータス
平均ステータスが30を超えれば初心者脱却って言われてて、三等星のみんなはそれ
彼の装備に偽装が無ければステータスはほとんど初期ステと変わらないはず
「どうしよ、使おうかな」
右目に触れ、そこに込められた能力を思い出す
許可なしの使用は止められてるけどちょっと気になる
「う~ん…………あっ、トマト煮込み君やられた」
この戦いを始めた人物
彼がどうしてあそこまで敵視するのかその理由もわかってる
最近二等星になったばかりだし、頑張っているんだろうなぁ
「うん……………………その目に映るものは何処へ」
心を静め、目を閉じれば今もあの時を思い出せる
今の内に詳細を知っておけばマト君への説得も、逆に有効手も考えられるはず
詠唱を始める
ーーーーーーーーーー
「……………………ふぅ」
今のは危なかった
一瞬で詰め寄ってきたマトさんの攻撃をなんとかギリギリで『切り流し』て反撃できた
アレも使ったし、初見じゃなければ普通に負けてた
なんかもう二度とあんなことは起こさないとか言ってたけどなんの話だ
『…………もっと冷静なら多分ヒカルじゃ勝てない』
「だよな」
シロが攻撃の詳細逐一教えてくれなきゃ今頃とっくにベットの上だ
『…………でも、ヒカルもちゃんとやってる』
「なら、いいんだけどっ!!」
シロと比べたら自信なんて無くなる
立ち位置を変え、フェイントで誘導し、先読みで相手の攻撃を中断させ、とどめを刺す
最初のと合わせてこれで十一人目
このゲーム基本的にPⅴEだから軒並み威力が高いしプレイヤーは脆いから助かる
コッキングして今のマガジンを捨てる
「ここだッ!!」
「!」
「リロードさせるな!!」
たたみかけるように集まる敵
弾切れを狙った攻撃、これ装弾数は十発なのでもちろん今捨てたマガジンは空っぽでリロードする隙はない
攻撃を凌ぎつつ真っ直ぐ突っ込んで本命の攻撃を与えようとする相手を見据え、発砲
「は」
薬室に入っていた最後の一発
それが頭部を貫いてプレイヤーがまた一人消えていく
「なっ、どうやって?!」
「あの銃の装弾数は十発のはずじゃ」
引っかかるとは
最初のリロード、決闘後はアイテムが全て決闘前に戻るのでもちろん弾丸も元に戻る
向こうが困惑している中シロが渡してくれたマガジンを銃に差してコッキング
『向こうで詠唱してる』対処法は『……………………』
「…………シロ?」
『……………………ない』
「へ」
『…………走って』
会場の壁際にいるプレイヤー、俺の持つ武器じゃ射程がまったく足りない
なりふり構わず走り出した瞬間周囲の地面から膨大な熱量が放出され始めた
『使うのは火、八節『バーストバーン』』
「やっばっ『ウィンド』!!」
周囲の味方ごと巻き込んだ広範囲魔法
流石に間に合わないので使う
右脚に意識を集中して一気に力を籠めて蹴り抜く
―————『越境』!!
脚にかかるキツい痺れ、減少するHP、力が膨れ上がり一気に前へ飛んでいき、魔法の圏外へ
瞬間空へ向かって伸びる炎の柱、あと少し遅かったら丸焦げだった
「……………………あっぶなぁ!!」
地面を何度か転がって立ち上がる、周囲に敵影は無し
よくわからないがいつの間にか習得していたアビリティとかいうもの
使うと最大HPが削れるが多分ステータスが一時的に上がってる
「…………流石にジリ貧だな」
ぞろぞろと集まってくるプレイヤーを見つつ呟く
ここは向こうのクランホーム
デスペナルティはあるがリスポーン地点は直ぐそこだ、敵が減らない
戦ってればこっちの手札はバレてくるし直ぐ対応され始める、そろそろ無茶が出来なくなってきた
『……………………ん』
「まあシロが一緒にいる以上、負けるつもりはない」
『……………………ちょっと一人でかんばってて』
ん?
「えっ?!シロ?!ちょ待っ」
気が付いたらシロがいない
周囲を見渡しても影も形もなく、声も聞こえなくなったしあいつ一体どこ行った
「死ねええええええええ!!!」
「う、うおおおおおおおお!!!」
首狙いの一撃を紙一重で回避
困惑を他所に向こうは普通に襲い掛かってくる
何とか逃げたり回避しているがどうしても被ダメが増えてきた
「なんかよくわからんが急に動きにキレが無くなったぞ!!」
「今だ!やっちまえ!」
流石に厳しいって
ーーーーーーーーーー
「その目に映るものは何処へ」
「三天は等しく均され」
「虚空を叩く」
「視線の先」
言葉が紡がれ、赤い燐光が瞳の周囲で輝きだす
「遠き道」
「遥かな暗闇」
「千里を見通し」
「万里を示す」
かつて私たち『夜の星』が倒したイデアモンスター『三次を開く虚空の瞳』
それが持つフラグメントの一角、私たちがトップクランと呼ばれるようになった理由の一つ
「渦に飲まれし我が虹彩」
「晶より出で」
「無を貫き」
「瞳を開く」
その力は相手の力を読み取り、発動者に理解できる形で目の間に表示させる特殊な魔法
通常の魔法を超えた十三の節
あらゆる情報を映し出す解析の魔眼
「我が意をここに…………【観テ測ル眼】!」
視線が目標を捉えて赤い燐光の輝きが最高潮に達した瞬間
____________________
NAME:ヒカル
JOB:旅人
所持金:305809コール
HP(体力):57/80
MP(魔力):39/100
EP(燃料):148/200
SP(霊気):5389
STR(筋力):20
MAG(魔法干渉域):20
DEX(器用):28
AGI(敏捷):20
VIT(耐久):24
LUC(幸運):20
装備
右手:至不の木刀 付:【死の踏駆音】
左手:機構式TOS斥力銃
頭:飾り紐の髪留め
胴:巡遊の旅装
右腕:皮籠手 付:揺らめく篝火の指輪
左腕:皮籠手
腰:巡回の旅装
脚:行脚のブーツ
[魔法]
『風魔法』
→ウィンド 1MP
→ウィンドスラッシュ 3MP
→ダウンバースト 7MP
[機構]
『斥力機構』
『背追機構』
[スキル]
『全進壮来』⇄『緩去全戻』
____________________
「よし!成功!」
眼前に表示されるステータス画面
MP消費が高いし場合によっては失敗する時もあるので上手くいって良かった
一応わかるのは名前くらいで詳細情報は無理だけどけどそれでも十分凄い魔法だ
「…………うーんやっぱりステータス低い…………所持金めっちゃある…………SPも……………………装備は…………あっ!イデア装備!」
木刀のアクセサリー枠に表示された特殊な表示
【死の踏駆音】と書かれたこれはイデアモンスターのフラグメント、あの真っ黒な鞘、それをさっきのリザルトで手に入れた?
「……………………あれ、でも一回戦の時からあったよね……………………もしかして昨日の!!」
昨日現れたイデアモンスターの討伐者、恐らく彼のことなのだろう
今ホームにいないウチの他のメンバーが必死になって探しまわっているはずの人物、まさか向こうから来ているなんて誰も思わない
「……………………おっと、今は『A』ルートについて調べるんだった!」
他にもおかしな点はいくつかあるがそれは一旦保留、一応スクショは取っとく
ステータスで負けているにも関わらずさっき攻撃を押し返していた燐光を伴わない不思議な現象、おそらくアビリティ
きっと他にも色々情報があるはず
「さてさて、一体どんな秘密が隠されているのかな~」
ちょっと不謹慎だがこうやって他人の秘密をこっそり覗き込むのは背徳感があって結構好き、悪いことに使ったりはしないし、何ならモンスター以外に使えることは秘密なので言ったら逆にこっちの立場がやばい
スクロールして下の方を確認しようとしたところ
『』
「……………………あれ?変だな、動かない」
画面が固まったかのように動かない
タップ、ダブルタップ、拡大、縮小、もう一度スクロール
どんなに画面を操作しても一切変化がない
「もしかしてラグ?でもこのゲームでそんなの聞いたことないし……………………」
周囲を見渡しても不具合は無いし、メニューの時計も正常に動いてる
こんなことは始めてだ
『 』
「う~~ん?もしかしてそういう隠蔽系のフラグメント?」
『 』
「でもそれならそもそも表示されなかったり文字が見えないとかになるだろうし…………」
『 』
「他人から見られた場合だけ表示をバグらせる能力?……………………イデアモンスターならありそうかも」
『 』
「でも結局見れないし…………そういえばレン、戦闘に参加してないっぽいしちょっと相談してみようかな」
『 』
開かれたステータス画面を見つつ椅子から立ち上がろうとして
「怒られそうだけど、これ自体がおかしな状況だしちょっとは多めに見てくれるは―――」
―——ピシッ
「…………………………………………え?」
妙な音が耳に入り込んできた
割れるような、音
「何、今の」
眼下の喧噪じゃない
ガラスにヒビが入った時のような音が、直ぐ近くで聞こえてきた
―——ピシッッ
「え?え?」
また聞こえた
今度はもっと強く、高く、耳障りな音が
「…………どこ?」
周囲を見ても、周りには音が出るようなものは何もない
何かを踏んづけたかと思い足元を見てもそんなものはなかった
―——ピシッッッ!
「—————あ」
気づいた
表示されたステータス画面の上部、そこに細長い白くて綺麗なものが四つある
「…………ゆ、ゆび……………………?」
指、というよりも手が画面を掴んでいる
さらによく見れば画面にはヒビが入っており、今までの割れるよな音の原因はこれなのだろう
「ど、どうして…………?」
この画面、一見普通のステータス画面に見えるのだが実際は他の人には見えず、私にわかりやすく伝わるようこういう形を取っているに過ぎない、仮に分かったとしても触るなんてもってのほか
よく見れば画面の背後に誰かがいる
「誰っ?!」
『—————』
言葉は返ってこない
その代わりというように指に入る力がどんどんと強くなってくる
―——ピシッ!ピシピシッ!
「……………………ッ!」
目の間にいるのは、何なのだろうか
立ち上がって回り込めば、見れる
けど、よく考えるとおかしい
いま自分がいる場所は円形客席の一番内側にある実況席、手すりを乗り越えればそのまま一階部分に落ちる、つまり目の前で画面を掴んでいる相手は宙に浮いていることになる
このゲーム、長時間の浮遊は特定の場合を除き、もって数秒程度
どうなって
『—————!』
割れる
―——ピシッ!パリンッ!!
割れた
「……………………」
最初に目に入ったものは、白色
垂れ下がった白く長い髪が俯いたその人物の顔を覆い隠している
空中に浮かびがったその身体は、割れた画面を周囲に散らばらせた後ピクリとも動いていない
「な、なに…………?」
目的がわからない
一体この存在は、私に何をしようとしているのか
『—————ァ』
「喋っ―――」
『『『『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』』』』
「ひぃっ!」
どこのものともわからない理解不能な言語
子供、大人、老人、男、女の声が同時に聞こえてくる
「ア、アヤノールさん?!」
「ど、どうしたんですか?」
周りの人達はアレが見えていないのか困惑した表情でこちらを覗き込んでくる
もう頭がどうにかなりそうだった
『……………………』
白い髪の女は首を傾げて黙り込む
そのまま首を傾げて、傾けて、傾けて、そして
―——ゴギッッ!!!
傾げた首が回り、骨の折れるような音とともに頭が180度回転する
長い髪が重力に従ってめくれ上がり、隠された顔が露わになる
「—————ぁ」
黒
黒い穴
真っ黒で、深くて、何もない
本来顔があるべきその場所に穴が開いている
手を伸ばせばそのまま飲み込まれてしまいそうな暗い深淵
綺麗な白い髪と、悍ましい黒い穴
そのコントラストが今の現状の不可解さを加速させている
『——————————ミタナ』
「…………ぃ」
ーーーーーーーーーー
「うぎぎぎぎぎ」
死ぬっもう死ぬっ
もう限界でもう死にそう
今も鍔迫り合いで壁際に押し込まれている
「よくもそんな装備で足掻けるなぁ…………けどもう終わりだッ!!」
「ま、だっ!『ウィンド』!」
剣ごと押し込まれる瞬間、勢いを利用して背後の壁に脚をつき後方宙返り、さらに魔法で背後に回り込む
「眼前を切り開け『ウィンドスラッシュ』!」
背中から飛び出した魔法が相手を倒すが、一息つく暇もなく横へと飛び込む
着弾した銃弾が地面をえぐり、土埃が舞う
「くっ!」
銃弾はとっくに切れた
MPも残り少ない
「はああああああああ!!!」
それでも敵はどんどんやってくる
「やばッ!」
前と後ろからの挟撃、避けきれない
ここまで―――
「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「?!」
絶叫
会場の一角、二階部分の実況席から女性の悲鳴が聞こえてきた
周りのプレイヤーたちも尋常でない状況と判断したのか手を止めて声の方向へ目を向ける
「な、なんだ?」
「アヤッ!!」
集団から一人のプレイヤーが走り出す
戦闘には参加しないが、止めることもできないまま立ち尽くしていたレントさんが観客席の方へ
他のプレイヤーもこちらを見ていくらか逡巡したが結局観客席の方へと走り去っていった
「は…………助かった、のか?」
身体から力が抜けそうになるが残り時間を確認して気を引き締める
まだ半分も過ぎていないし、またすぐに戻ってくる可能性がある
早く逃げよう
『…………ヒカル』
「あっシロ、お前いったいどこにぃぃぃぃいいいいいいいい???!!!」
『?』
背後から聞こえてきた声に後ろを振り向くとそこには思った通りシロの姿、ただし顔に真っ黒な穴が空いた過去の都市で見たあの状態になっていた
「お、おまっ、顔!顔ッ!!」
『……………………ア、コレ?…………んしょ』
シロはなんて事の無い風に言いながら顔に手を添えると、ポンッ、という音と共に黒い穴が空いた顔が仮面のように外れる
「えぇ…………?」
『…………逃げないの?』
「あ~…………まぁいいか」
捨てられた仮面が消えていくのを横目に人がいなくなった会場の出入り口へと走る
さっきの絶叫は気になるが、今は命が大事




