23World Idea Fragment
会場を沈黙が支配していた
レントさんは瞑目し、さっきまであれほど叫んでいたマトさんも押し黙ったまま動かない
「…………目的はなんだ?」
「交渉したいんです、俺自身わかっていないことがたくさんあるんで」
トップクランとはいえやはりイデアモンスターには食いついてきた
それにレントさんはよくわかっている
『…………え、売られた』
「お前じゃない」
あの時表示された内容は恐らく俺しか見ていない、だから『ハイドラッカー』だったということに誤解させる。なんせ俺が倒したイデアモンスターについてとしか言っていない
「そっちの聞きたいことを話す代わりにこっちも聞きたいことがあるんです」
「俺たちがわざわざお前の言うことを聞くメリットは?」
「三つ、渡します」
スポットへの入場権限、十個の内三つをレントさんたちに譲渡する
どんなイデアモンスターであろうとも、貴重な素材を手に入れられるメリットはある
「駄目だ、全部渡せ」
「?!」
「お前は一人だ、それを有効利用できない。宝の持ち腐れだ」
「……………………っく」
レントさんが言うことはもっともだ
個人で入場権を売買するのはリスクがある、PKに狙われることだってあるだろう
キルで取られる心配は無くても粘着し続けられる可能性はある
「…………最悪二度と戻らない可能性もありますよ、五つ」
「だったら尚更渡して貰いたいんだが…………九つだ」
この世界から離れるつもりは全くないが可能性を提示するくらいはできる
何か他に提示できるものはあったか?
『…………渡して困ることがあるの?』
別に困るってことは無い、というより今は立場を明確にすることが重要なんだ
交渉するってのに言われた通り全部渡したんじゃ何も変わらない
ある程度対等だって示さないと
「俺がマジックストライカーになる時に行った方法、六つ」
「…………………………………………八つだ」
シロが俺に行った鍛錬方法、MP操作で相手の身体の魔力を操作する方法
俺自体はMPの直接操作はできないが方法は伝えられる
そしてもう一つ
「…………二世の狭間、七つです」
「……………………それでいい、話を聞こう」
証拠はある
そこで倒したモンスターの素材がいくつかインベントリに詰まっていたのはさっき確認済み
時間加速については言わなくてもどういう場所だったかは伝えられる
「レントさん!正気ですか?!」
「ああ?別にいいだろ、入場権を渡す代わりに相手の要望をいくつか聞くのもクランじゃよくあることじゃねぇか」
「それでも向こうは―――!」
「PKかどうかはカルマ値確認すればわかることだ」
「嘘だったら?!」
「そん時はそん時だ、つーかお前少しは冷静になれ、別にこのまま帰すってわけじゃねぇ、それを確認するために今から話を聞くんだよ」
レントさんたちは色々と話し合っているみたいだがこの感じなら何とかなるだろう
入場権を七つも渡すのは痛いが結局使い道も無かったし誤解が解けるなら安い
一応アキラにも確認するべきなんだけど非常事態なんで許してくれるだろう、今度会ったら謝っておこう
「はぁ~~~」
『…………おつかれ』
「ああ」
色々とわからないこともあるがシロがそこにいて、俺も全部覚えているんだ
レントさんと敵対するつもりもないしさっさと交渉して帰ろう
「ってことだ!わかってるとは思うが他言無用だ、いいな!」
レントさんが会場のみんなに声をかける
その近くにいるマトさん
「……………………」
俺あの人に何かしたんだろうか
確かにチケットを勝手に使ったのは俺が悪いがPK疑惑に関してはカルマ値を確認すればわかるのにどうしてなのだろうか
正直あそこま敵視される理由がわからない
「会議室空いてたよな」
「はい、今は誰も」
「そうか……………………おいヒカル、ついてきな!」
「あっはい!」
レントさんに呼ばれ、一歩踏み出した瞬間
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!
「は?」
「なっ」
「———」
『……………………うるさい』
周囲に響き渡る甲高い金属音
困惑するレントさん
絶句するマトさん
耳を塞ぐシロ
そんな俺たちの感情を他所に、無機質な電子音が聞こえてくる
〈こちらは、ワールドイデアフラグメント、システムアナウンスです〉
〈すべての、稀人に、お知らせします〉
〈『A』ルート到達者が、確認されました〉
〈これより対象者に、ダウンロードを、開始します〉
Aルート
どんな意味かはわからない、だがアナウンスが起きた理由は明白
〈…………Loading〉
〈……………………Loading〉
〈………………………………Loading〉
〈………………………………………………………………〉
〈警告!!〉
〈現在の、バージョンに、非対応です〉
〈至急、アップデートを、行ってください〉
〈………………………………………………………………〉
〈警告!!〉
〈現在の状態ではアップデートを行えません〉
〈………………………………………………………………〉
〈すべての、稀人に、お知らせします〉
〈これより、緊急アップデートを、開始します〉
〈すべての、稀人は、申し訳ありませんが、安全のため、至急ログアウトしていただくよう、お願いいたします〉
〈十分後、強制ログアウトが、行われます〉
〈カウント開始…………10:00……59……58……57〉
視界上部に表示されたカウントダウン
突然の状況に上手く頭が働かない
『………………………………事前ダウンロード終了……………………表示開始』
「え」
『IDEA MONSTER ACCEPTION』
『RESULT』
『対象者』
『稀人:ヒカル』
「うぉい??!!」
即座に殴り砕いて周囲に散らばったウィンドウの断片
この状況でこんなの見られたら俺が何かやったってバレる
誰かに見られていないか周囲を確認する
「「「「………………………………」」」」
「……………………あー、えーっと……………………ちゃうんすよ」
まあこんなに目立つウィンドウが出ればバレるよな
視線を逸らして今世紀一番の言い訳をしていると、マトさんがわなわなと震えながらこちらに指を刺し、咆哮
「イデアモンスターの別ルート到達者だぁぁっっ!!!!殺せぇぇぇぇっっ!!!」
「「「「「—————!!!!!」」」」」
一斉に武器を取り出し臨戦態勢になる稀人たち
全員が殺気だって雄たけびを上げこちらを何としてでもキルするつもりなのかがわかる
レントさんが呆けた顔から戻っているが、この空気じゃもう止められないだろう
「あ~くっそっ!どうしていつもこうなるんだ?」
『…………ヒカルって運、悪い?』
「何言ってんだ、お前と出会えた時点で運勢最高だっての」
『!…………』
ちょっと待て今そういう雰囲気じゃない
少し顔を赤くしたシロを横目に木刀と銃を取り出す
「はぁ…………まあいいや」
構えた瞬間膨れ上がる敵意
何でか理由はわからないが向こうは殺る気満々、とはいえこっちも無抵抗なままやられるつもりはない
「やれるだけ、やるか」
ーーーーーーーーーー
薄暗い空間、本来であれば壁や机に設置されたモニターから出る明かりと機械の駆動音だけが存在するはずの小さな部屋
しかし今やこの場所では赤く固まった画面と耳障りな警告音がひっきりなしに鳴り響いていた
「………………………………クソがッ!止まらないっ!」
椅子に座る人影
握りしめた拳が机を叩く
モニターに表示される言葉は『権限が足りません』の一言のみ
「あいつ…………一体どれだけのブラックボックスを埋め込んでやがる!現バージョンじゃ絶対到達しないはずの『A』ルートにどうやって……………………システムッ!」
キーボードを操作するモニターとは別、黒い髪で木刀と拳銃を持った稀人が表示された画面を確認後、虚空へ向かって声を張り上げる
「ユーザーID■■■■-■■■■-■■■■のデータを呼び出せッ!」
『ID確認検索開始』
『……………………』
『……………………』
『……………………』
『……………………』
『データを表示します』
「どんだけかかってんだこのポンコツがっ!」
空中に表示されるウィンドウ、文字列が自動でスクロールし画面を確認する顔が驚愕の表情へと変化した
「……………………はぁ?!ゲーム開始日が昨日で累計ログイン時間が一年以上?!システムッ!どうなってやがる!」
『原因を検索……………………『OC』です』
「ふざけんな!OCは記録の引継ぎが行われないよう私が調整したはずだろ?!ああいや待てっ…………そっちかっ!」
机から立ち上がり視線を別の方向へ
その先にはモニターに映る件の稀人、の背後にある透明な揺らめき
「『A』ルートによる完全同期!…………引継ぎ処理は稀人だけ、処理前に記憶が全て保管されていたのか……………………くそっ!こんな抜け穴じみた方法で!!」
血がにじむほど頭皮をかきむしりながらも視線はモニターからはずさない
そこには怒りや焦燥以外にも妬みや恨みなどが入り混じった複雑な感情を感じさせる
「システム、あの稀人に憑いたイデアについて答えろ」
『現在貴方の権限では偽想終集体についての情報は―――』
「稀人のステータス範囲内ならあの女との契約で問題ないはずだ!さっさと答えろ!」
『…………………………………………承認』
空中のウィンドウに膨大な情報が表示され上から下へと流れていくとある地点で停止
対象のステータスに表示されたイデアモンスターに関する情報
それが表示された瞬間、人影は落雷に打たれたかのように硬直した後椅子に座り込む
「は」
____________________
NAME:
JOB:無職
所持金:0コール
HP(体力):0/0
MP(魔力):0/0
EPエネルギー:0/0
SP(霊気):0
STR(筋力):20
MAG(魔法干渉域):20
DEX(器用):20
AGI(敏捷):20
VIT(耐久):20
LUC(幸運):20
装備
右手:なし
左手:なし
頭:なし
胴:服
右腕:なし
左腕:なし
腰:服
脚:靴
[魔法]
[機構]
[スキル]
____________________
「……………………これは……………………名前が、ない……………………?」
困惑する声
ウィンドウをスクロールし何度も確認しているがその疑問が解消されることはなかった
「…………どういうことだ、イデアモンスターには『理想名』が必ずあるはず、稀人と同期したときに与える能力もない…………ステータスも普通、ジョブ、しかも装備欄?…………どういうことだ、これじゃあまるで……………………ただの人間……………………」
視線をモニターに戻す
そこに映る揺らめきから目を離すことなく
「お前は…………誰だ?」
ーーーーーーーーーー
「頼む、シロ」
『うん』
向かってくるのはまず三人、舐められているとは思わない
最初に動いたのはローブを着た杖を持つ人物
「火よ、火球となれ」
使用するのは『ファイヤーボール』詠唱速度と威力から、稀人に対して使うにはもっとも効率の良い魔法
次に動いたのは大剣使い
「『ウェポンシャード』!」
振り上げた大剣から飛翔する金属片、威力が高く飛翔中に干渉しようとしても普通は簡単に弾かれてしまう
着弾地点は恐らく俺を巻き込むようにして背後付近
「『ファイヤーボール』!」
発動される魔法に追従するように三人目のプレイヤーが直剣を構えて走り出す
『ウェポンシャード』で背後を、前方からは魔法、どちらに対処しても直剣の追撃が待っている
まずはタイミングを見計らって木刀を上空に投擲し、投げた勢いを利用し飛び上がって前方宙返り
―——カァン
「はぁ?!」
木刀がヒット
ウェポンシャードの対処法『金属片が放物線を描いて飛翔、頂点に達し落ち始める瞬間には干渉でき、そこで着弾地点を変えること』ができる
向かってくる魔法に対し脚を伸ばし
「『ウィンド』」
かかと落としに合わせて魔法を発動
飛翔する火球とぶつかり合い反動で後ろに吹き飛ばされ着地
少し離れた前方から緑の燐光を発する剣を振りかぶった三人目
使うスキルは『突き技『デュアルホーン』左肩、右腰』を一つ、二つと避け相手の側面で銃を頭部に向ける
「んなっ!『スウィッチ―——?!」
「使えないだろ、それ」
咄嗟に相手が発動しようとしたのはさっきカントラさんも使った『スウィッチアーマー』のスキル
『事前に設定した部位の装備を切り替えるそれは他のアイテムや物体を巻き込むように発動することはできない』ので相手の頭部に銃を密着させ、そして発砲
「—————!!」
まずは『一人目』
粒子となって消えていく稀人から目を離し前方に目を向ける
「おいっ、こっちに来るぞ!」
「回避ー!!」
さっき弾いた金属片が落ちる場所は三人の背後、他の稀人が散り散りに逃げる
それを見つつ銃をコッキング
「…………おっと弾切れか?」
周囲の警戒する視線を無視しつつ、銃からマガジンを取り出してインベントリに放り込み新しいものを取り出す
『ねぇヒカル』
「ん?」
『…………何でそんな使いづらいもの使ってるの?』
「ああこれ?」
『…………装填するの大変』
「あ~でも一応俺が持ってる武器で一番使いやすいからなぁ」
魔法はMP切れが怖い、呪術は狙いづらい、弾代が高いがある程度気にせず撃つことができる、まあ反動が無いので自動コッキングしないのはちょっとキツいが
「……………………」
警戒しているのか先程までの勢いが落ちた『夜の星』のクランメンバーたち
思っているよりも反抗されてるのに結構驚いているみたいだ
マガジンを装填しつつ首を傾ける
―——ヒュン
「「「「?!」」」」
飛んできた弾丸が地面に着弾
『背後の観客席』にスナイパーがいる
「頭狙いはいいけど、殺気が出過ぎ」
それじゃあここにいますって言ってるようなものだ
掲げた右手に木刀が収まる
「あいつ、いま察知系スキル使ったか?」
「いや、燐光出てない」
「じゃあわかってて?」
「んなわけあるか!偶然だ!」
「……………………アレ、不渡と不滅じゃね?やば」
どうにも混乱が広がっているようだがそれでも相手はトップクラン、直ぐに冷静さを取り戻す
「待て!早くしないとまたあれが起きるぞ!」
「そうだった」
「急げ!!」
「使わせるな!!」
一人が声を張り上げると、無駄のない洗練された動きで足並みを揃えまた襲い掛かってくる
今度は五人
カウントダウンを確認
「……………………まだ一分も経ってないな」
戦いは続く
十分は、意外と長い




