22理想の代価
恐る恐る背後を振り返る
そこにいたのは首を傾げる髪の白い見覚えのある人物
『……………………?』
白い長袖のゴシック調の服にいくつかの装飾がついた黒いロングスカート
記憶にある姿とまったく同じ
あと身体が半透明になってて微妙に向こうが透けて見える
「……………………」
『……………………』
何とも言えず互いにジッと見つめ合ってしばらく
「………………………………そぉぉい!!」
『?!』
咄嗟の思いつきで右手を目の前の幽霊モドキに突き入れる
そのまますり抜けて感触はまったくない
「よっし幻覚ぅ!!」
『……………………え』
俺としたことが、いくらショックだったからって幻覚を見始めるだなんて
流石に色々マズイだろう
幻覚がなんか神妙な顔をしているが気にしない
急に幻覚を見るだなんて一体何が原因だ?
「あっそうだ」
『……………………何してるの』
そんなもん耳を塞いでるに決まってるだろ
音がくぐもらず貫通してるので聞こえる声も幻聴
本物ではない
『……………………むぅ…………』
「かっ…………いやいや」
一瞬よぎったものを頭を振って思考をクリア
ちゃんと冷静になって『いま可愛いって』言ってない!
人の思考に入ってくるな!
そもそも何でVRで幻覚なんて見るんだ
いや、脳の影響だから間違ってはいないのか?
「くっそどうしたもんか……………………」
「…………あ~、ヒカル?」
「原因は……………………?」
「聞こえてねぇな…………」
色々考えてはいるが答えは出ない
でも、勝手に自分の頭の中で喋らせるのはシロに対して失礼だ
どうにかしないと
「……………………う~ん」
「ヒカル!おい、お前大丈夫か?」
「……………………え?ああレントさん!」
声が聞こえてきた方へ振り向くとそこには心配そうな顔をしたレントさん、その背後には剣呑な雰囲気を纏った何人ものプレイヤー
「ちょうどよかった!」
「あん?」
自分一人じゃ結局堂々巡り、他の人の目も必要だ
「えっと、この辺!この辺に誰かいますか?!」
「え?は?いやお前何言ってんだ?」
「いやほんとちょっと確認するだけなんで!」
幻覚がいる方向に指を刺してレントさんに確認してもらう
レントさんは困惑して様子でこちらを見ているがこっちも混乱してる
「具体的には仏頂面で愛想の無い白い髪の女性なんですけど」
「……………………いや、お前以外誰もいないだろ」
俺にしか見えないし俺にしか聞こえない
やはり幻覚
『………………そんな風に思ってたんだ…………………………へぇ……………………』
「っく」
殺意の波動を感じてよろめいた
人間の脳は凄い、このキレ方は俺が誤ってシロが半日かけて作ったドミノを崩してしまった時レベルでそっくりだ
「……………………本当に大丈夫かお前」
「いやいやいや、もう大丈夫っす、こっちもちょっと色々あったんで…………」
実際さっきはメンタルやばかった
一年分どころかなんなら何年生きてきたのかわからんレべルの記憶を頭に叩き込んだんだ、脳に負荷がかかったっておかしくはない
『…………そんなに言うなら証拠、見せる』
証拠~?
そんなもんないだろ
触れないし他に人にも見えない
そんな状態で一体どうやって証拠を―――『…………ポチ』
「え」
「あ?……………………ヒカル、お前それどっから出した?」
手元に落ちてきたのは液体が入った透明な瓶
回復薬だ
「…………インベントリ操作してなかったよな?」
「……………………えっと…………多分、親切な観客の方が投げ入れてくれた、的な?……………………」
冷汗がだらだらと出てくる
アキラが作ってくれた簡易回復薬、俺のインベントリの底に眠っているはずのものがなぜかここに
え、マジ?
『……………………まだ信じない…………なら』
「えっあっちょっと待」
―——ドサドサドサドサドサ!!
冷たい声、連打される指
空中から落ちてきたアイテムを確保し続けるが勢いは止まらないどころかどんどんと数は増えていく
気づけば山のように積み上げられたアイテムを両手に抱え込んでいた
「おごっ!…………あっちょっと待てこれ以上はマズイ…………ッ」
「?????」
まな板やチェス盤、生肉や椅子やテーブルまで
見覚えがあるアイテムがたくさん揃っている
てか俺のインベントリこんなにアイテム入ってたっけ?
というかほらレントさん困惑してるって、やばいって
『…………………………………………』
変わらない氷のような視線、止まった指先は表示されたウィンドウにかけられており、これ以上は無いぞって暗に示している
「わ……………………わかった、わかったから!悪かったって信じるって!お前はちゃんといるから!」
『……………………よし』
「というか早く助けて」
そろそろ限界で腕が痺れてきた、しかもHPが削れ始めてる
アイテムを仕舞うために手を伸ばした辺りでシロが硬直する
『…………………………………………あ』
「あ?」
『…………触れないから仕舞えない』
「ああもうっ!」
シロの手がアイテムをすり抜けてる
やばいこのままじゃ死ぬぅ
自分のアイテムに潰されて死ぬとか不名誉過ぎる
「…………普通に下せばいいだろ」
「えっ?……………………あっそうか」
もうどうしようもないと思っていたところで助け舟
レントさんの助言に従ってゆっくりと膝を折って両手を下す
「…………ふぅ」
「あー、ヒカル?」
「あっレントさん、すいませんちょっと待ってて貰えますか?すぐ終わるんで」
「…………まぁいいが」
「ありがとうございます…………えーと」
なんかもう一周回って冷静になった
地面にあるアイテムを一つ一つインベントリへ放り込みながら背後でふよふよ浮いているシロへ話しかける
「シロ、お前マジでどうなってんだ?」
『……………………うーん…………』
あんな今生の別れをしたってのに普通に目の前にいるんだ、なんというかこう色々と台無しだ
シロが首を傾げてうんうん唸っている間にアイテムを仕舞い終える
『…………確か、身体が無くなった後……………………真っ暗な場所……………………ヒカルが戦ってて………………………………ヒカルが…………』
「俺が?」
話の内容は要領を得ないが、一先ず聞いてみる
『……………カントラって人と…………………ヒカルが…………………あんまりにも無様な戦い方をしてて……………………』
「……………………悪かったな無様で」
こっちは記憶が無くなってんのに身体は覚えてるから困惑してたんだよ
実際かなりダメダメだったけど
『……………………ヒカルの声が聞こえて……………………手を伸ばしたら……………………ヒカルが目の間にいた』
「……………………そうか」
もう正直よくわからん
あんなに死ぬ死ぬってなってたのにこうも普通に生きてると色々アホらしくなってくる
一体に何してるんだか
「って待て!お前力はどうした?!」
シロが死ぬ理由は神の力にある間引きの指令に逆らって力ごと消滅するためだ、だがこうして生きているということは力も残っているんじゃ
『…………力?それなら―――』
「いい加減にしろっ!!!」
シロが答えるのを遮るように向こうから叫び声が聞こえてくる
視線を向ければ、レントさんの背後にいたプレイヤーの一人が凄まじい剣幕でこちらを睨みつけていることがわかった
「おいマト―——」
「さっきからおかしなことばかり!一体一人で何をゴチャゴチャと言っているんだ!!ふざけてるのか?!」
マトと呼ばれたプレイヤーをレントさんが宥めようとするも意味はなく、言葉のボルテージはどんどんと上がっていき最後は武器まで取り出した
「やっべ…………」
『…………?』
「いや、他の人にはお前のことが見えてないんだよ。ちょっと待っててくれ」
「……………………うん」
傍から見たら虚空に向かって喋るヤバい奴だ、なんて言って誤魔化そう
「…………いやーすいません、実はフレと連絡してて―――」
「はあ?!クランホーム内では許可ない奴が外と連絡取れないのは常識だろうが!!」
「…………あー」
知らんかった、一応別エリア判定なんだクランホームって
いやそれより話を逸らそう、これ以上はマズイ、最悪斬られる
「れ、レントさん!何か俺に用事があったんですよね!」
強引だがレントさんはこのクランのサブリーダー
こんな巨大なクランを運営しているんだ、きっと冷静に判断して本筋に戻してくれるはず
マトって人には後で謝ろう
「おま――—!」
「まあそうだな、聞きたいことがある」
レントさんが前に出て、マトさんがさらに怒りだそうとするのを制止しそのまま淡々と話し始める
緊張感があった空気が少し変わり、口を半開きにしたマトさんはそのまま不服そうに引き下がる
「俺が言えることならなんでも話しますよ、レントさんにはさっき助けてもらいましたから」
「そうか、なら――—」
やっぱりさっきの討伐リザルトのことだよな
シロについては俺もよくわからない
というか正直に全部話して大丈夫だろうか、時間加速して一年間過ごしていましたなんて信じられるわけがない、証明しようにもシロは見えない
ああでもシロって何故か人型だし偶然クランに迷い込んだってことにすれば―――
「新人戦のチケットについてなんだが」
「—————」
あっやべ
「このチケットはウチのメンバーの中でも限られた奴にしか配らせていない特別なもんだ、複製はできない、通し番号もついてる……………………お前、どうやって手に入れた?」
レントさんの雰囲気が変わった
有無を言わせぬ鋭い視線
強調する言葉
殺気とは違う凄みを感じる
嘘言ったら多分バレる
「…………ひ、拾いました」
「場所は?」
「ここから少し離れた中央区に近い路地裏です!」
「使った理由は?」
「最初は届けようと思っただけなんですけでちょっと欲が出て戦ってみたいなって」
「どこ所属だ?」
「どこにも所属してません!」
「プレイ期間は?」
「それは…………」
これは、正直に言うべきか?
一年って言ったらこの新人戦の一ヶ月限定ってのに引っかかる
いやチケット使った時はちゃんと一ヶ月以内だから問題はないけど流石に不自然だしリアル時間で答えようそうしよう
「昨日からです」
「……………………あ?」
硬直するレントさん
マズイ、失敗した
「レントさん!こいつ絶対嘘ついてますよ!」
「…………マト」
「あいつが見せた技!それにマジストなるのに他の奴らがどんだけ苦労したか知ってるでしょう!それをたった一日二日でできるようになっただなんてありえませんよ!」
しまったそっちも不自然だった
黙りこくっていたマトさんがまたいろいろと喋り始める
背後にいた他のプレイヤーもどうやら同じ考えのようで視線に敵意が混じり始める
「えっとすいません、正確には昨日ってのは違いまして―――」
「ふざけんな!!どうせ拾ったってのも嘘なんだろ!」
「いやっ流石にそれは―――」
どうにか弁明しようと言葉を尽くそうとしたが突然こんな言葉が飛び出してきた
「こっちはお前がPKしてチケットを奪ったって知ってるんだよ!!」
「……………………へ?」
「おいマト、待て」
PK?なんの話?
呆ける俺を気にせず言葉は続く
「さっき、元々チケットを持ってたやつが戻ってきて路地裏でPKされたって言ってるんだよ!」
「いや、それだけじゃ俺だって確証はないじゃないですか?!」
「殺された奴は呪術でキルされたんだ!」
「……………………マジかよ」
俺は呪術を持っていて、チケットも持っている。確かに真っ先に疑われるのは俺だ
別に他の人も呪術を持ってる人はいると思うだろうが元々の母数がとても少ない
現状初期武器に呪術が付与される理由も、それ以外で呪術を手に入れる方法も確立していない
運で手に入れる以外ないのである
たまたま俺が拾ったチケットを持っていた人が呪術で殺された?
どんな偶然だよ
『…………うん、もう斬ったら?』
「バカ言え、トップクランに喧嘩なんて売れるか」
『…………でもそんな強そうじゃないし…………』
今度は周りに聞こえないように小声で話しているが向こうが怪訝そうな顔をする
俺が口を動かしているのは確かだからだ
「マト」
「さっさと捕まえましょう!どうせ『黒鉄団』や『貪狼』の連中ですよ!」
「……………………」
「レントさん!!」
このまま捕まるわけにはいかない
掴まればおそらく尋問されるだろうし、どうやってそこまで強くなったかも聞かれるだろう
「……………………」
『…………?』
シロの状況がわかっていない以上、下手なことは言えない
あのプレイヤーを見てると最悪シロを倒せばフラグメントが手に入るんじゃなんて過激なことを言いだす奴が出てこないとも限らない
「……………………だったら」
覚悟を決めて歩き出す
その動きに気づきレントさんを除いたプレイヤーたちが一斉に武器を構え始めた
「何のつもりだ」
「……………………話があります」
「話?!いまさらそんなもの」
「マト、いい加減にしろ。いつからお前がウチのリーダーになった」
「……………………っく」
レントさんは俺がPKしたやつだとはまだ思っていない
とはいえ何の理由もなく帰してくれるとは思わない、向こうにもメンツってのがある
「んで、話ってのは?」
俺ができることは一つ
「……………………俺が倒したイデアモンスターについて、聞きたくないですか?」
「「「「「!」」」」」
交渉するしかない




