表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

15お別れは突然に



Day-199



「……………………ん」

「もう一杯か?」

「…………お願い」


残った液体を勢いよく飲み干したシロがカップを渡してくる

受け取ったカップを一度水ですすいで粉を用意

湯を沸かしつつ、前々から疑問に思っていたことを聞いてみた


「コーヒー、結構好きだよな、なんか理由があるのか?」

「……………………んー」


味覚が正常に戻ってからシロはよくコーヒーを飲むようになった、いやかなりのペースで飲む

一日に十杯はざらで多い時はさらにその倍だ

今だって五杯目、正直大丈夫か心配になったこともあった


「…………楽しくなる」

「え、コーヒーを飲んで?」

「…………多分」

「そうか…………」


シロの考えることはよくわからん

一応本人の自由なんで否定したりはしないんだが


「うおっ?!…………シロ、今お湯が沸かしてるから気を付けろって」

「……………………んー」


いつの間にか後ろに回り込んでいたシロが俺の背中に頭をぶつけてくる

最近、こういうのが多い

だる絡みというか甘えているのか、猫みたいな行動をよくするようになった

原因はわかっているが、今更拒絶なんてできようがない


「ちょ、おい待て、やめろって」

「……………………」


何度も何度も頭突きを繰り返してくる

痛みはないが衝撃はやってくるので勘弁してほしい

振り返って顔を見てみると、白い肌が少し赤くなってるような


「シロ、お前大丈夫なのか?」

「…………ん」

「いや、ん、じゃなくてだな…………」


腕を広げてこちらをジッと見つめている

目はどこか獲物を品定めしている動物のよう


「うごッ……………………お、おい」

「……………………ん~」


腹部に衝撃、シロが抱き着いてきた

流石にこれ以上はマズイって

引きはがそうとしてもがっちり掴んで離してくれない


「シロ?」

「……………………すぅ」

「ね、寝てる…………」


しばらく抱き着かれたまま立ち尽くしていると、シロの手から力が抜けそのままズルズルと俺の身体を滑り落ちていった

シロの様子はまるで酒でも飲んだかのような振る舞いだが、コーヒーにアルコールを入れた覚えはない


「……………………取り合えずベットに運ぶか……………………おお?!」


背後から響く甲高い音

やかんから勢いよく湯気が噴出している

そういえばお湯を沸かそうとしていたが、結局のところ無駄になってしまった


「…………いや、俺も飲むか……………………」


今は少し苦みが欲しい



ーーーーーーーーーー



時間はあっという間に過ぎていく

俺が少しずつ戦い方に慣れ、力を付けていくように

シロに料理を任せる頻度が日に日に増えていくように



ーーーーーーーーーー



Day-238



「…………ハアァァァ!」

「—————!」


今は森の中で一人きり、シロは今日の料理の仕込み中だ

対峙するのは身体の部位が二つずつ存在する飛べない巨大な鳥、鶏ならぬ二羽鳥だ

踏みつけてくる足と突きつけてくる嘴を回避し、頭に木刀を叩きつける


「くっそ、やっぱり火力足りないよなあ」


一応ある程度戦えるようにはなってきたが、木刀じゃ威力が足りないし魔法だってMPは直ぐには回復しない

こうなるとシロが持ってる剣みたいのが欲しくなってくるよなあ


「—————!!!」

「『ウィンド』!……………………まあでも、何時間だって付き合ってもらうぞ!」


叩きつけてくる羽根を魔法の加速で回避

この程度のモンスターに苦戦してたらシロに鍛えてもらった甲斐が無い


「—————!!!」


それからひたすら木刀を振り続け、数時間後に何とか倒すことに成功した



ーーーーーーーーーー



Day-264


目が覚める

意識が朦朧とする中、時計を確認するといつもの時間

今日の朝食はシロの担当なのでもう少し寝れる

布団を被り直して改めて寝ようとするが少し違和感が


「……………………ん?」


布団とは違う別の温かさ

感触は柔らかく、どこか甘い香りが―――


「うおっ?!」

「……………………」


布団の中に何かが潜り込んでいるのに気が付いた

白い髪に綺麗な顔、妙な寝間着に身を包んだシロの寝顔がすぐ傍にある


「おまっ…………また入り込んだのかよ…………」


驚いてベットから飛び出そうとするが、がっちり掴まれて動けそうにない

最近夜中にシロが俺の部屋のベットに入り込むことが増えた


「シロ?起きろ、朝だぞ」

「……………………ん~」


身体をゆすったり声をかけても起きる気配はまったくない

なんなら掴み力がさらに増した気がする

前までなら無理やりにでも引きはがしてベットから這い出た後シロのことも起こしたんだろうけど


「あー……………………はぁ」


諦めて、そのまま夢の世界へと旅立った

眠い



ーーーーーーーーーー



Day-287



「えーっと…………」

「…………はい」

「お、ありがとう」


塩の入った瓶を探しているとシロが渡してくれた

最近は二人で料理をする機会はあまりなかったが、今日作るものは少々手間がかかるためシロに手伝って貰うことに


「……………………」

「こっちにあったぞ」

「…………ありがと」


シロはエプロンを付け、邪魔にならないよう髪をまとめ、包丁で食材を捌いている

前はまな板ごと切ってしまうなんてことがあったが今はもう大丈夫


「……………………」


こうして料理するシロの綺麗な横顔を見ているとなんだか―――――


「…………ヒカル?」

「……………………いや、何でもない」


シロが気づいてこちらを見つめてくる

適当に誤魔化し、変な思考は切って調理に集中



ーーーーーーーーーー



Day-299



夕食を取った後、眠る前の少しの時間


「「……………………」」


シロはトランプタワー作っていた

最初は52枚一組で作っていたが最近はもっと枚数を増やして難易度を跳ね上げている

俺は物置にいくつかあった本を読んでいる


「……………………」


タイトルは「アルネの旅路」

かつての旅人アルネが、世界を渡り歩きその道程で経験した様々な出来事やトラブルを解決した話なんかが記されたおとぎ話風の本だ

少し目を離してシロの方を見ると、トランプを垂直に立ててタワーをさらに上へと伸ばしていた

器用すぎる


「……………………?」


シロがこっちに気づいたが、気にしないよう顔を振って本に目を戻す

今読んでいる箇所は、アルネが旅の合間にとある都市で休息を取っていたところ、仲間が国のお偉いさんの大事なものをぶっ壊して指名手配されてそれを何とか解決しようとしている場面だ

この本だいたいトラブルを起こすのは旅のメンバーで、アルネがなんとかしているんだが解決方法がかなり力技で面白い。湖の嵩を増やすために水じゃなくて大量の岩を叩き込むとか


「……………………んー」


トランプを使いきったシロがこれ以上どうしようかと悩んでいる

しばらくすると手から「空握の糸」を出してトランプを作り出した


「……………………できた」


出来上がったトランプタワーは机を埋め尽くし天井にも届きそうなほどの規模だった

シロは満足そうに頷いたあと、糸を消しタワーを崩してトランプを片付ける


「…………ヒカル」

「どうした?」

「…………ずっと…………」


本を閉じ、シロの言葉に耳を傾ける


「……………………なんでもない……………………おやすみ」

「…………ああ」


シロはそういって椅子から立ち上がり自分の部屋へと戻っていった

一人残された俺は本を開いて読み直そうとするがぜんぜん頭に入ってこない


「……………………」


こんな日々がずっと続けばいいと、俺も思ってる

けど



ーーーーーーーーーー



いつも通りモンスターと戦うためシロと森の中を探索してい

いつもとは違う道、別のモンスターがいないか周囲を見渡していると、()()はあった


「……………………あと」


高さは二メートルほど、両開きで石造りの扉

少しだけ開いている

支えもないのにそれはその場にそびえ立ち、薄っすらと光り輝いていてまるで何かを待っているかのよう

表面には二つの三桁の数字が浮かび上がっている


「…………365-336」

「……………………」


次の日に見に来たときは、右三桁の数字が一つ増えていた

つまり


「……………………一ヶ月、か」

「……………………うん」



ーーーーーーーーーー



期限が分かったところで時間が伸びるわけではない


日々はいつも通り流れていく


変わらない

変わらない

変わらない

変わったりは、しない


長いような、短いような、夢のような日々だった


いや、その通りなんだろう


あの扉を通れば、俺はきっとあの日に戻る


夜の星(ナイトキャンサー)新人戦の一回戦終了時、休憩のためにログアウトしたあの瞬間に


意識が目覚めたまま夢を見る


まるで白昼夢のように



ーーーーーーーーーー



Day-364 18:30



「……………………」

「……………………」


いつも通りの一日を終えて、玄関前でシロと一緒にいる

唯一違うのは俺がこれから一人で森の中へ向かうこと


「……………………それじゃあ」

「……………………うん」


もう、お別れの時間がやってきた

あの扉の制限時間をそのままに、ずっとここにいることも考えた

けど、もし強制的に帰らされたりでもしたら、ちゃんとしたお別れができないと思ってこうすることにした


「「……………………」」


一年

俺にとって一年というのはいつも何かが起きる一年ばかりだ

トラウマの一年

救われた一年

更生の一年

そして今回の一年


「……………………ばいばい」

「ああ……………………じゃあな」


玄関を開けて、出ていく

お別れはもう、済ませた



ーーーーーーーーーー



「……………………」



ーーーーーーーーーー



暗い森の中

何度も入って、もう歩き慣れた森


「……………………」


帰ったらどうしようか


チケットのことは直ぐに謝ろう


今なら、勝てるかな


そういえばこのゲームの主目的って、なんだっけ


モンスターを倒して、クエストを受けて


他プレイヤーと協力して、仲良くなって


クランとか作って、レアアイテムを得るために何時間も粘ったり


VRMMOなんて、他が参入してこなれば何年もサービスは続くだろうし


五年?十年?


生きた人間にしか見えないキャラとも交流できるんだ


もしかしたら俺が生きてる間に終わらないかもしれない



扉の前に着いた


「……………………」


扉には365-364の数字

右の一桁目が点滅している

半開きだった扉はほんの少しの隙間しか残っていない、もし閉じてしまったらどうなるのだろう


「……………………俺は」


帰る

帰って、どうなる?

またいつも通りになって、一人で現実のあの部屋で静かに過ごすのか

この一年、シロと一緒に生活したあの日々から?

元に、戻れるのかって?

俺はこの世界(ゲーム)で何をしたいんだ?


「…………あと、四時間……………………」


メニュー表記の時計は動かないので代わりに使っていた時計を確認する

時刻はそろそろ二十時、ここまで歩いて二時間もかかっている

なら


「走れば、間に合う!」


振り返って、走り出す

背後にある扉、そこから漏れ出る光からどんどんと離れていく


「……………………」


暗い森は、もはや俺にとっては歩き慣れた庭でしかない

目を瞑ってたって走り抜けることができる

霧が出てきた


『——————————』


関係ない


「『ウィンド』!!」


魔法が身体を前へと運んでいく

その余波で周囲でまとわりつくような霧の気配が薄れていく


「……………………!」


俺もシロも、わかってた

ずっと一緒にはいられない

この場所からいなくなってしまった人がいる以上、俺がこの場所にずっといることなんてできないって

そういう現実から目を逸らして、終わりが見えたあの日からだって、当たり前に続く日々をずっと続けて、お別れだって泣いたりしないよう、普通のことだって誤魔化して平気なフリをしていた

だけど、このままは、嫌だ


「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」


森を抜け、玄関の扉にたどり着いた

まだ起きてるだろうか

シロは一度眠りにつくとなかなか起きないから、大変だった

扉を開く

この扉を何度シロと一緒にくぐっただろうか

廊下を抜け、リビングの方へ

始めた出会ったときを思い出す

シロは今、何をしているのだろうか

伝えたいのは、たった一言


もう一度、この場所へ戻って―――――


「……………………え?」


てっきり椅子に座って、コーヒーでも飲んでいるのかと思った

それか、一人でチェスを打っているかもと

目に映る景色は数時間前までたくさんの記憶がつまったいつものリビング


「……………………シロ?」


()()()()()()()()()()()()()()


「これは……………………」


何もない

棚に飾られた半分のまな板も

シロが作った木彫りの人形も

一緒に撮ったポラロイド写真も

間違って切り落とした盆栽の枝も

テーブルも椅子も照明も

今まで過ごしてきたあらゆる痕跡が何もかもが消えている


「俺の、部屋は…………」


何もない

空っぽ

物置も


「あれ…………変、だな……………………」


記憶はある

一年だ、忘れるはずがない

じゃあこれは?

何もない部屋

誰もいない家

周囲を見渡しても、思い出の軌跡は何一つ存在しない


「ゆ…………め…………だったのか?」


もしかしてあの日森で彷徨っていた時からずっと?

シロなんて最初からいなくて、今まで見てきたことは全部幻覚で、ただ一人でこの場所にずっといた?

今までの思い出も何もかも全部全部俺が頭の中で勝手に作り上げた妄想?


「そんなわけあるか!!」


もう一度家の中を探す

シロがいないなんてことあるわけない

何か手がかりがきっとあるはず―――――


「……………………あ」


どうして気づかなかった?

目に入る、一つの扉

シロの私室の、扉

最初の頃は、ベットしか置かれていない殺風景な部屋だった

でも時間が経って、いろんなものであふれかえるようになって、何度も掃除しろって言ったっけ

もしいるとしたら、残ったのはここだけ


「……………………シロ、いるのか?」


鼓動の音がうるさい

ドアノブに触れる手が震えている

開く扉から、木特有のきしむ音が何もない静かな家の中で痛いくらい響いてくる


「……………………」


部屋の中には、何もなかった

窓から差しこむ月明りが、部屋の中を寂しげに照らしている

けど


「……………………階段」


部屋の中央には見たことのない四角い穴

そこには石造りの階段が、冷たい暗い闇の中へ誘うように下へと続いていた



ーーーーーーーーーー



そこは暗くジメジメしていて、重苦しい空気が漂っている

階段を下りた場所は、石造りの長い通路

光の全く届かない地下道だが完全な暗闇じゃないのはプレイヤーの視界だからだろうか

歩くたびにコツコツと足音が通路の中を反響する音以外、周囲からは何も聞こえない


「……………………あいつは…………」


この先にいるんだろうか

いろんな疑問が頭の中をよぎっていく

歩くたびに足がどんどんと重くなっていく気がする

まるで石壁の冷たさが俺の身体から熱を奪い去り、この先に行くなと言っているかのようだ


「……………………」


通路の終点についた

硬く重苦しい鉄扉、半開きで誰かが通った後がある

歩いて数分程度しか経っていないはずなのに全身が鉛のように重い

それでも何とか進み続ける

答えを知るために


「……………………本の、階段?」


扉を開くと目に入るのは大量の本

無造作のようにも、意図的なようにも見える

色とりどりの装丁が為された本たちが、階段を作るかのように積まれていた


「……………………ゲオルグ…………ミランダ……………………ミューティス」


階段を登っていくと本の違和感に気づく

どれもタイトルが普通のものとは違い、全て誰かの名前が明記されているのだ


「……………………」


一段、また一段と、登るたびに疑問が湧き出てくる

この階段は何のためなのか

シロはどういうつもりなのか


「……………………十三段」


階段の段数は十三

昔から良くないものを連想させる不吉な数字だ


「……………………シロ」


階段を登り切った先には白く長い髪を持つ姿が、こちらに背を向けたまま立っていた

シロの立っている場所は巨大な大穴の中心まで伸びた広い長方形型の橋の最端、穴の中には黒く輝いた液体が見るものを飲み込もうと波打っている


「……………………どうして、きたの?」


どうして

どうしてか

この場所に来てからずっと、シロになんて聞くべきかずっと考えていた

疑問はいっぱいある

どうして今までこんなものを隠してきたとか

お前は一体何者なのかとか

その大穴は一体なんなのか、とか


「……………………」


でも、聞きたいことは一つだけだった


「お前、()()()()()()()()?」


整理された大量の荷物

監獄のような暗く冷たい場所

処刑台を連想する十三段の階段

そして、人が飛び込むかのように設計されたような大穴にかかる橋

何より、今のシロが見に纏う雰囲気を、俺がよく知っているからこそ


「「…………………………………………」」


長い長い沈黙を超え、ようやくシロが口を開いた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ