第31話:パパ、責任を取ってください(第1節)
かつて神の遺物と呼ばれた魔神跡の現場では、悠真が美少女たちに押しつぶされるという、いつもの修羅場が展開されていた。
「うわぁぁっ! 重い、重いってば! みんな離れて!」
「きゃあっ! なぜ私まで……離れなさい、ルナさん!」
「あははは! お兄ちゃんあったかいねー!」
「パパ〜!」
だが、そんなカオスな惨状は、突如として不吉な現象によって打ち破られた。
ブォンッ……!
「……えっ?」
もみくちゃの中心にいたエーテラの体が、突然、どす黒く禍々しいオーラに包まれ始めたのだ。
「な、なんだ!? エーテラから変な気配が……!」
「えっ、どうしたの!? 何かヤバくない!?」
ただならぬ異変を察知したルナとドナが、慌ててハグを解いて飛び退く。
悠真も幼女を抱きかかえたまま、エーテラから距離を取った。
「エ、エーテラさん……? どうしたの!?」
黒いオーラに包まれたエーテラは、自分の体に何が起きているのか理解できないまま、雪の上に立ち尽くしていた。
やがて、数秒ほどで彼女を包んでいた黒いオーラが晴れていく。
だが、その直後。彼女の背中にある誇り高かった『純白の翼』が――。
「嘘……」
光を失い、薄汚れたグレーに、無惨にくすんでしまっていた。
「……エーテラさん、その羽……」
少し離れた場所から、セレスティアが心配そうに口元を覆う。
魔王イヴの治療を手伝っていたリーファも、その異変に気づき、ハッとして立ち上がった。
「あれは、もしや……」
その時だった。
『――第一級記録官エーテラ。天界の法典に背き、神を破壊する手助けをした罪は重い。よって、汝を天界より永久追放とする』
どこからともなく、冷酷で機械的な声が、エーテラの脳内に直接響き渡った。
「あれはまさしく……堕天使の羽……」
魔王のそばにいたリーファが、悲痛な声で呟く。
そう、それは天界の恩恵を失い、地に堕ちた者の証。
紛れもない『天界からの宣告』だった。
エーテラは、自分のグレーに染まった翼を振り返って見つめ、ゆっくりと状況を理解していった。
「あ……ああ……。私の、私の純白の翼が……」
彼女は雪の上にへたり込み、両手で顔を覆った。
「うわぁぁぁぁん! もう二度と、天界に帰れない……っ!」
ポロポロと大粒の涙をこぼし、やがて彼女は顔を上げると、真っ直ぐに悠真を睨みつけた。
「悠真さん! あなたのせいです! あなたが規則違反を繰り返すから、私まで巻き添えになったんですぅぅ!」
エーテラは泣き叫びながら、悠真の首根っこをガシッと掴み、前後に激しく揺さぶり始めた。
「どうしてくれるんですか! 私、もう帰る場所がないんです! 天界から追い出されて、これからどうやって生きていけばいいんですかぁぁ!」
「ぐえぇぇっ! 僕のせいって言われても……! 首絞めないで……! く、苦しい……」
彼女の理不尽な首絞めに白目を剥きかけた、その時だった。
「……ママ?」
悠真の腕の中にいた幼女天使が、不思議そうに首を傾げ、泣いているエーテラの顔を覗き込んだ。
「えっ……?」
エーテラの動きがピタリと止まる。
すると幼女は、短い両手をエーテラの頬にそっと当て、満面の笑顔で無邪気に呼びかけた。
「……ママ、泣かないで」
その、あまりにもあどけない笑顔と、温かく小さな手の感触。
エーテラの無機質だったはずの心に、これまで感じたことのない、強烈な感情――が芽生えた。
「……っ」
エーテラは悠真の首根っこから手を離し、思わず幼女をギュッと抱きしめた。
「ママ〜!」
「う、うわぁぁぁん……! 私、天に捨てられた挙句、捨て子のママになっちゃいましたぁ……!」
幼女の温もりに感極まり、エーテラは再び大号泣を始めた。
それは、彼女の身に立て続けに起こった惨事の後に、さらに突然、新しい家族ができたことへの、処理しきれない感情の爆発でもあった。
そして、数分後。
少しだけ落ち着きを取り戻したエーテラは、幼女を大事そうに抱きかかえながら、ズンッ、と悠真の前に立ちはだかった。
「……悠真さん」
「は、はい」
まだ首を押さえてむせている悠真に対し、エーテラは真っ赤な目で、涙ながらに迫った。
「私、もう天界には帰れません。それに、この子もいます。……ですから」
エーテラは、ヒロインたちが注目する中、幼女を抱いたまま、ビシッと悠真を指差した。
「この子は、私が天界の命で卵からふ化させ、悠真さんの力で天使に変化させた授かりもの。いわば二人の共同作品」
「……は?」
「そして私は今、あなたの不幸に巻き込まれ、純白の羽を失った」
「……はい?」
「悠真さん。責任を……取ってください! 私とこの子を、一生養ってもらいますからね!」
「パパー! ママー!」
「……はあぁぁぁぁ!?」
幼女が無邪気にはしゃぎ、エーテラが涙ながらに「責任を取れ」と迫る。
端から見れば、完全に『悠真がエーテラとの間に子供を作っておいて、無責任に捨てようとしている最低のクズ男』のシチュエーションが完成していた。
「せ、責任って! 変な誤解を生む言い方は、やめなさい!」
「悠真さん! あなた、私たちの子を捨てるんですか!?」
「だから、言い方!」
「パパー! ママー!」
悠真が顔を真っ赤にして必死にツッコミを入れるが、周囲でその様子を面白がって見ていた仲間たちが、容赦なく追撃を仕掛けてきた。
「あはは! お兄ちゃん、さすが手が早いねー!」
ドナが腹を抱えて大爆笑し、悠真の背中をバンバンと叩く。
「なんだ、そんなに子供が欲しいなら、オレたちも子作りしようぜ! 丈夫な獣人が産まれるぞ!」
ルナがニヤリと笑い、牙を見せて豪快に肩を組んでくる。
「……やはり、ただの女たらしね。一度死んだ方がいいわ」
リリアーナが、杖を突きながら冷ややかに、しかし口元を面白そうに歪めて吐き捨てる。
「お前ら、わざと面白がって言ってるだろ!」
悠真の悲痛な叫びは、無邪気に笑う『娘』の「パパ〜!」という声と、悪乗りした仲間たちの笑い声に、虚しく掻き消されていくのだった。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
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