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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第5章:『残念で不幸な僕が、美少女たちに黒歴史を曝される件について』

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第30話:少女にパパと呼ばれた日(第2節)

 雪煙が晴れ、静寂を取り戻した極寒の山頂。

 魔神という強大な脅威が去り、各陣営は満身創痍の体を休め、傷ついた仲間の介抱に奔走していた。


 その中心には、倒れ伏した魔王イヴを囲むように、魔王軍の四天王たちが集まっていた。


「イヴ様! しっかりしてください、イヴ様……!」


 慈愛のミーナが、ボロボロになったイヴの体を抱きかかえ、血の涙を流しながら必死に応急処置を施している。

 吸血鬼の秘術である血の治癒能力を全力で注ぎ込むが、イヴの生命力は風前の灯火のように揺らいでいた。


「クソッ……! オレの炎じゃ、傷を焼いて止血するくらいしかできねえ……!」

 業火のジルが、己の無力さに悔しそうに牙を噛みしめる。

 謀略のヴァネッサも、扇子を握りしめ、いつもの冷静さを失ってただ見守ることしかできなかった。


「……皆の者、心配するな……この程度では、まだ……」

 イヴが弱々しく目を開け、かすれた声で呟く。


 少し離れた場所では、桜井唯が巨大な白虎の神獣に寄りかかり、祈るように両手を組んでイヴを見守っていた。


 そこへ、白と青の聖装を翻した少女が、雪を蹴って駆け寄ってきた。


「……私も、手伝います!」


 教団の光の巫女であるリーファだ。

 彼女が杖を掲げると、温かく神聖な光が、イヴの体を優しく包み込んだ。


「あ、あんたは……教団の巫女! なぜ、敵である魔族を助けるのよ!」

 ミーナが驚きと警戒の声を上げる。


「教団の教えは、決して絶対ではない……今日、それがよく分かりました」


 リーファは、真っ直ぐな瞳でイヴとミーナを見つめ返した。


「天界が世界を滅ぼそうとし、あなたたちが世界を守ろうとしていた。これまでの教えは、正しくなかったのです……。それに何より」


 リーファは、遠くで雪を掻き分けている悠真の背中を見つめ、優しく微笑んだ。


「悠真様が命がけで救おうとした命を、私が見捨てるわけにはいきません」


 光の巫女の清浄な魔力と、闇の吸血鬼の秘術。

 本来なら決して交わることのない二つの力が、一つの命を救うために見事に息を合わせる。


「……感謝するわ、教団の巫女よ。我が主を救ってくれた恩は、決して忘れない」

 ヴァネッサが静かに頭を下げ、ジルもそれに倣う。種族の壁を越えたその光景に、戦場は温かな空気に包まれていた。



 一方、その頃。

 悠真は、魔神が消滅した巨大なクレーターの周りを、半狂乱になって掘り返していた。


「エーテラさん! エーテラさん、どこだ!! 返事をしてくれ!!」


 素手で雪を掻き分け、指先が凍傷で赤く腫れ上がっても、彼は止めることができなかった。


「お兄ちゃん、もうやめなよ……」


 ドナが涙を流しながら悠真の腕にすがりつき、必死に彼を止めようとする。


「魔力充填を限界まで引き上げたグングニルの直撃だよ……? しかも、魔神のあの凄まじい爆発の中心にいたんだよ。……やっぱり、跡形もなく消滅しちゃったんだよ……」


「そんなことない! 彼女は天界の記録官だろ!? あんなに強くて、いつも偉そうに規則だのなんだのって……!」


 悠真は、あふれる涙を拭いもせず、絶叫した。

 彼がどれだけ泣いて叫ぼうとも、あの純白の翼も、いつも少し怒ったような顔も、雪原のどこにも見当たらない。


(僕が、自分の黒歴史から逃げようとして、情けない姿を見せたせいで……彼女に無理をさせたんだ……!)


 自分の不幸体質が、またしても大切な誰かを奪ってしまった。

 その絶望に、悠真が雪の上に突っ伏そうとした、その時だった。


トクン……。


 魔神が消滅した跡地に残された、漆黒の巨大な『魔石のかけら』が、突如として心臓のように脈打ち、眩い光を放ち始めたのだ。


「……何事だ!? 魔石が光っているぞ!」

「まさか、また魔神が復活するというのか!?」

 ゼノアとライオネルが鋭い声を上げ、一斉に武器を構え直した。

 彼らの声に王国騎士団の兵士たちも騒然となり、戦場の空気が再び張り詰める。


 光は次第に形を変え、一つのシルエットを形成していく。

 戦場にいた全員が、息を呑んでその光景に注目した。


 やがて光が収まると、そこには――。


「……嘘、だろ」


 悠真の目の前に、一人の幼い少女が倒れていた。


 年齢は二、三歳くらいだろうか。幼く愛らしい顔立ちに、透き通るような白い肌。

 そして何より、その背中には、見覚えのある『純白の翼』が、小さく可愛らしく生えていたのだ。


「ま、まさか……あのような小さな子供が、あの魔石から……?」

 セレスティアが扇子を取り落とし、信じられないものを見るように目を見開いた。


 悠真は、震える足でゆっくりとその少女に近づいた。

 雪の上に横たわるその姿を間近で見ると、銀色に近い髪の色や、整った幼い顔立ちが、どことなくエーテラに似ているように思えた。


「君は……エーテラさんの、生まれ変わりなのか……!」


 彼女の魂が、魔石の力を使って新しい命として転生したのだ。

 そうに違いない。


「よかった……! 本当に、よかった……っ!」


 悠真は、あふれる涙を抑えきれず、白い羽を持つその小さな体を強く、強く抱きしめた。


 腕の中に伝わってくる、驚くほど柔らかく、温かな命の鼓動。

 それは、間違いなく新しい命の誕生だった。


「うえぇぇぇん! エーテラぁ……! やっぱり、死んじゃったんだねぇ……!」

 ドナもその場にへたり込み、悠真の背中にすがりついて大粒の涙を流した。


「……ドナさん、違うよ」

(違う、エーテラさんは死んだんじゃない、生まれ変わったんだ。彼女の犠牲は、無駄じゃなかったんだ……!)


 そう自分に思い聞かせようとした、まさにその瞬間だった。


「……このロリコン! 破廉恥な規則違反者ぉぉぉ!!!」


 背後の上空から、聞き慣れたはずの、あの凛とした怒声が響き渡った。


ドスッ!!!!


「ぶふぅっ!?」


 感動の涙を流し、幼女を熱烈に抱きしめていた悠真の顔面は、後頭部に凄まじい威力の『飛び蹴り』を喰らい、冷たい雪の中へと深く、深くめり込んだのだった。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『スイート&ビター・リリィ』~男の娘王女に扮した亡国の王子、帝国の冤罪を解き明かす。はずだったのに、なぜか美少女探偵団で甘くて苦い百合ライフ~
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