第29話:俺の歴史と、光芒の終焉(第2節)
雪原に響き渡る悠真の絶叫と、彼の周囲から噴き出す、どす黒く禍々しい極大の不運オーラ。
魔神すらも警戒して彼の方へ顔を向けるという異常な光景の中、悠真は両手で顔を覆ってうずくまっていた。
「みんな、やめてくれ……僕を見ないでくれえぇ……」
人生最大の黒歴史を全軍の面前で暴露された悠真の精神は、すでに限界を突破していた。
そんな悠真の前に、真っ赤な顔をした桜井が、雪の上に膝をついて頭を下げた。
「先輩……ごめんなさい。あの日、花瓶を割ったのは私です。それなのに、正直に謝れなくて……ずっと隠れて見ていただけで、本当にごめんなさい」
「えっ……」
桜井の言葉に、悠真は顔を上げた。
彼女は、ピンク色の封筒を両手でギュッと握りしめ、ポロポロと涙をこぼしていた。
「それに……あのラブレターの誤解も、すぐに解くことができなくて……先輩に、辛い思いをさせてしまいました……」
「ち、違う! な、何のことだか、僕は知らない!」
過去の記憶を無かったことにしたい悠真は、涙目で必死に首を横に振る。
「君とは、異世界に来る直前に図書室で初めて会った。君のことは何も知らない!」
現実逃避するようにうろたえ続ける悠真に対し、桜井は真っ直ぐに彼を見つめ返した。
「でも……私の代わりに先生に怒られてくれて、私を庇ってくれて……本当にありがとう。あの時からずっと、不器用で優しい先輩が……大好きでした」
泣きながらの、二度目の真っ直ぐな告白。
それは、2年間という途方もない時間を超えて、ようやく彼に届けられた本当の気持ちだった。
「僕は……僕は……、何も……」
だが、それは、悠真にとってあまりにも残酷な、そして同時に甘く痛い真実だった。
悠真の胸の奥で、羞恥とともに、熱い感情が爆発する。
「おい、ユーマ! 大丈夫か!? なんだその不気味なオーラは!」
ルナが心配そうに声をかけ、エーテラもおろおろと戸惑っている。
「悠真様、落ち着いてください! 私の光で浄化を……!」
リーファが彼の肩に触れ、治癒魔法をかけようとした。
バチィィッ!!
「きゃあっ!?」
だが、リーファの手が触れた瞬間、凄まじい衝撃が彼女の体を弾き飛ばした。
悠真から溢れ出すのは、もはやただの不運ではない。彼の失恋のトラウマ、極大の羞恥、そして桜井の想いを受け止めた感情の爆発が、規格外のエネルギーとなって渦巻いていたのだ。
「お願いだ……! 僕に構わないでくれ! 放っておいてくれええええ!」
感情のキャパシティを超えた悠真は、完全に殻に引きこもり、さらに強烈などす黒いオーラを噴出させた。
その異常な光景を、スレイプニルの車内から窓越しに眺めていたドナとリリアーナは、息を呑んでいた。
「す、すごい……! お兄ちゃんから出てるあの真っ黒なオーラ、一体何なの!? 空間が歪んでるよ!」
「ええ……。極限の精神負荷が引き起こす、文字通りの『底なしの不運』。……あれほどの魔力、見たことがないわ」
その時、桜井が戦車に向かって力強く叫んだ。
「小春ちゃん、今です!」
「えっ……こはる?」
突然違う名前で呼ばれ、ドナは一瞬戸惑った。
だが、すぐにそれが「妹(小春)として悠真の魔力を引き出せ」という桜井の意図であることに気づいた。
「……ああ、任せて!」
ドナはニヤリと笑い、リリアーナと共に即座にグングニルの再装填と魔力充填を開始した。
「セレスティア王女、ルナさん! 王国軍と傭兵団を魔神から遠ざけてください!」
桜井の的確な指示に、二人の指揮官が即座に動く。
「王国騎士団、および全軍に命じます! ゆうゆうのオーラの射程から直ちに退避しなさい!」
「「「ハッ! 御意に!」」」
セレスティアの号令で、ゼノアとライオネルが迅速に軍を後退させる。
「野郎ども! デカブツから離れろ! 巻き込まれるぞ!」
「「「おうっ!!」」」
ルナの怒号に、ヴァルハラ傭兵団の荒くれ者たちも一斉に距離を取った。
さらに、桜井は自らヴァネッサの方へ向き直り、大声で叫んだ。
「ヴァネッサ様! 魔王軍も巻き込まれないよう、退避を!」
「……ふふ、優秀な軍師だこと。全軍、速やかに後退しなさい!」
ヴァネッサの冷徹な号令で、魔王軍も慌ただしく距離を取る。
ガァァァァァァァァァッ……!!
スレイプニルの主砲『グングニル』が、悠真の極大オーラを吸い上げ、眩い光を放ちながら魔神へとロックオンされた。
『発射まで、残り20秒!』
ドナの声が車外のスピーカーから響き渡る。
だが、その強大なパワーが充填されていくのを感じ取った魔神は、完全に悠真とスレイプニルを最大の脅威と見なし、身構えた。
『オォォォォォ……ッ!!』
魔神の巨体の周囲に、幾何学的な光の輪が回転し、あらゆる攻撃を弾き返す、分厚く強固なバリアが「全面」に展開された。
「何よあれっ!? そ、想定外のバリアだわ!」
車内のリリアーナが焦りの声を上げる。
「あんなの反則じゃん! あれじゃグングニルの威力が相殺されちゃうよ!」
桜井の足元で、巨大な神獣――ちくわも絶望に顔を歪めた。
『あのような力を隠し持っていたとは……。これでは、魔王の自爆すらも防がれてしまうぞ……!』
だが、魔神の背後で自らの命を燃やしている魔王イヴは、止まらなかった。
全魔力を全身に纏い、赤黒い流星となって、魔神の背後から特攻を仕掛けようと加速していく。
『発射まで、残り10秒!』
ドナの緊迫した声が戦場に響く。
だが、魔神の全面を覆うバリアは、絶望的なまでに分厚く光り輝いていた。
(いけないっ! このままでは、グングニルは防がれ、イヴさんの特攻も無駄になってしまう!)
ピンクの封筒を握りしめる、桜井の両手が汗ばむ。
無情に進むカウントダウン。
誰もが息を呑み、最悪の結末だけが眼前に迫っていた。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
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