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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第28話:あの春の告白と、僕の黒歴史(第2節)

 始業式の日の午後。

 花瓶の破片で擦りむいた足を引きずりながら家に帰ると、妹の小春はリビングのテレビの前で、すでにお菓子の袋を開けてゲームに没頭していた。


「あ、お帰りー。……鞄取りに行っただけで随分遅かったね? どっか寄り道でもしてた?」


 画面から目を離さず、小春がコントローラーをピコピコと動かしながら尋ねてくる。


「ま、まあね。ちょっと……」



 その後、悠真は夕食を食べながら、学校での理不尽な出来事を愚痴った。

 廊下を走って角を曲がったら、たまたま後輩が花瓶を落とした直後で、破片に乗って滑って転び、そのまま濡れ衣を着せられた、と。


「ふ~ん……。要するに、お兄ちゃんがドジ踏んで転んだのを誤魔化すために、その後輩女子にいいカッコしただけでしょ?」

「っ……! 違う! 僕はただ、あの子が可哀想だなって思って……」


「へぇー? ……で、その子、可愛かったの?」


 小春は箸を置き、ニヤニヤと小悪魔的な笑みを浮かべて身を乗り出してきた。


「なっ……! そ、そんなんじゃないって! 顔なんてよく見てないし!」

「ふ~ん? なんでそんなに必死に顔を赤くするのかな~。お兄ちゃんって本当に分かりやすいザコだね~」


 図星を突かれ、悠真は顔を真っ赤にして黙り込むしかなかった。



 ――それから、約1ヶ月後。五月の半ば。


 放課後の静かな図書室で、桜井唯は窓際の席に座り、開いた本から目を離してぼんやりと外を眺めていた。

 窓ガラスには、シトシトと降り始めた冷たい雨の雫が、幾筋もの涙のように流れている。

(……はあ)


 彼女の心には、ずっと重く引っかかっていることがあった。


 始業式の日、自分の不注意で割ってしまった花瓶。

 その責任をすべて被り、先生に怒られてくれた、あの優しい先輩のことだ。

 桜井は、彼にちゃんと謝り、そしてお礼を言わなければならないとずっと思っていた。


 だが、元来の気弱な性格が邪魔をして、それまで全く面識のなかった、たまたまぶつかっただけの先輩に、どうやって声をかければいいのか、ずっと悩み続けていたのだ。


(直接話しかける勇気なんて、私にはない……。でも、このままじゃダメだ)


 雨音を聞きながら、桜井はギュッと拳を握りしめた。


(高橋悠真せんぱい……)


 自分の気持ちを、どうしても伝えたい。

 謝罪と、感謝と……そして、あの背中を見た時から芽生えていた、この小さな胸の鼓動の正体を。


 意を決した桜井は、その夜、自分の部屋で震える手でペンを握り、何度も何度も書き直しながら、一通の手紙を書き上げた。

 そして翌日の早朝、まだ誰もいない三年生の教室に忍び込み、心臓をバクバクさせながら、悠真の机の中へとその手紙をそっと滑り込ませたのだ。


 その日の放課後。

 外は昨日から降り続く雨で、薄暗く冷たい空気に包まれていた。


 帰りの会が終わり、悠真が机の中に手を入れた時、指先にカサリと見慣れない紙の感触が触れた。


「ん? なんだこれ」


 取り出してみると、それは可愛らしいピンク色の封筒だった。

 裏返すと、そこには丸みを帯びた丁寧な文字で、一言だけ書かれていた。


『放課後、裏庭の旧校舎前で待っています。 桜井』


「……えっ!?」


 悠真は心臓が飛び跳ねるのを感じた。

 これは、どう見ても、どう読んでも、あの伝説のアイテム……『ラブレター』というやつではないか!


(ウソだろ!? 僕に、手紙!? しかも……)


 手紙の名前を見て、真っ先に浮かんだ顔があった。

 同じクラスの女子の、『櫻井(さくらい)』さんだ。


 席が近く、たまにプリントを回す時に言葉を交わす程度の仲だが、明るくて活発な、クラスでも目立つ存在の女の子。


(まさか、櫻井さんが僕のことを……!?)


 悠真が顔を真っ赤にして舞い上がっていた、その直後。


「あ、高橋くん! ちょっといい?」


 ――教室の入り口から、まさにその『櫻井』さん本人が、彼に向かって手を振っていた。


「は、ひゃいっ!?」


 悠真は間抜けな声を上げ、慌ててラブレターを鞄の奥底へと隠した。


「ごめんね、ちょっと裏庭の倉庫まで、付き合ってくれない?」


 櫻井さんはそう言うと、段ボール箱を抱えて先に歩き出してしまった。


「裏庭まで、つ、つきあってって?!」


(う、裏庭!? 手紙に書いてあった場所だ! まさか……!?)


 悠真の思考回路は、完全にショートしていた。

 手紙の差出人を同級生の『櫻井』さんだと完全に勘違いしたまま、彼は心臓をバクバクさせながら、雨の降る裏庭へとついていった。


 旧校舎の裏にある、薄暗い倉庫の前。

 櫻井さんが、段ボール箱を置いて振り返り、口を開きかけた。


「あのさ、高橋くん……」

「ご、ごめんッ!!」


 悠真は、彼女の言葉を遮るように、目をギュッと瞑って大声で叫んだ。


「君の気持ちはすごく嬉しいけど……! 僕は今、誰かと付き合うとか、そういうの考えられなくて……! だから、その……気持ちには応えられない!」


 静寂。

 雨音だけが響く裏庭で、数秒の、永遠にも似た沈黙が流れた。


 ゆっくりと目を開けると、そこには信じられないものを見るような目で悠真を見つめる、同級生の櫻井さんの姿があった。


「…………は?」


 彼女の口から、低く、冷ややかな声が漏れた。


「……何言ってんの? キモッ!!」

「えっ?」


「私が『告白』!? あんたに!? ないないない、ウケるんだけど! ただのプリントの束、一緒に運んでほしかっただけなんですけど! 自意識過剰すぎでしょ!」


 櫻井さんは、お腹を抱えて大爆笑し始めた。

 悠真は、顔から火が出るどころか、全身の血が一瞬にして凍りつくのを感じた。


「え……? で、でも、机の中に手紙が……櫻井って……」

「はあ!? 私が手紙なんか書くわけないじゃん! マジでキモい! 近寄らないでよ、ストーカー!」


 彼女は、笑い涙を拭いながら、一人でさっさと教室の方へと戻っていってしまった。

 残された悠真は、雨の降る裏庭で、完全に真っ白になって立ち尽くしていた。


 数分後、教室に戻ると、そこはすでに地獄と化していた。


「ちょっとみんな聞いてよ! 高橋のやつ、私がプリント頼もうとしただけなのに、告白されたと勘違いして『気持ちには応えられない』とか言ってきたんだけど! マジでキモくない!?」


 教室中に爆笑が巻き起こり、女子たちの氷のような視線が一斉に僕に突き刺さる。


(終わった……僕の中学生活が、完全に終わった……!)


『自意識過剰なストーカー』

 僕の青春は、その不名誉すぎる称号と共に、無残にも散り去っていった。


「………………」


 そんな爆笑の渦に包まれた教室のすぐ外。

 薄暗い廊下の陰から、その惨状をこっそりと見つめている、一人の少女の姿があった。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『スイート&ビター・リリィ』~男の娘王女に扮した亡国の王子、帝国の冤罪を解き明かす。はずだったのに、なぜか美少女探偵団で甘くて苦い百合ライフ~
― 新着の感想 ―
勘違いから始まる告白シーンは、読んでいるこちらまで「どうなるのだろう」と緊張しながら見守っていました。主人公の思い込みが思わぬ大惨事につながる展開はコミカルでありながら切なさもあり、とても印象に残りま…
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