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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第27話:魔王の反撃と、彼女の決意(第2節)

 慈愛のミーナがもたらした、魔王イヴの単独特攻という最悪の知らせ。

 夜営地の空気が凍りつく中、桜井唯――魔王軍の軍師ブルーメは、誰よりも早く行動を起こした。


「……行きますよ、先輩。イヴさんを死なせるわけにはいきません!」


 彼女は静かに、だが強い決意を込めて神獣の背に飛び乗った。


「待って桜井さん、僕たちも行く! ドナ、スレイプニルを出して!」


 悠真の叫びに呼応し、ドナが「任せて!」と戦車の操縦席へと飛び込む。

 セレスティアたちも即座に乗り込み、魔導戦車スレイプニルは轟音を上げて雪原を蹴り出した。


 先行する桜井と巨大な白虎の神獣。

 凍てつく夜風が吹きすさぶ中、神獣の背の上で桜井は、前方を見据えたまま静かに語りかけた。


「……ちくわ」

『なんぞ、人間よ』


「私にとって、先輩との再会は2年ぶりだったけれど……イヴさんにとって、ちくわとの再会は、1000年ぶりだったのよね」


 桜井の言葉に、巨大な神獣は走る速度を落とさず、低く喉を鳴らした。


『……ふん。イヴは1000年経っても相変わらず、退屈そうで口が悪かったがな。……だが、この世界はずいぶんと変わっていた』


 神獣の声には、桜井が知る「尊大な子猫」の姿とは違う、深い哀愁が込められていた。


『我が主……そなたらの故郷の未来人は、魔神の誕生に備えて途方もない時間、研究を続けたのだ』

「……ええ」


『そして最後に、我を別次元の未来へ転移させた後、主は自らの知識と世界の真実を、後に『古文書』と呼ばれる様々な記録として残した』


 神獣は雪原を力強く蹴りながら、さらに言葉を継ぐ。


『それだけではない。主は、自分の助手として雇ったエルフとドワーフの子孫にも、この世界の未来を託したのだ』

「……エルフとドワーフの子孫」


 桜井の脳裏に、先輩や皆さんをからかって遊んでいた、二人の賢者の姿が浮かんだ。


「ふふ……。その助手の子孫たちも、随分といたずら好きに育ったのね」

『ああ。だが、あいつらが作ったあの鉄の箱と兵器は、間違いなく我が主の技術の系譜だ。……よくぞここまで、形にしてくれた』


 神獣は誇らしげに鼻を鳴らすと、再び鋭い瞳を前方へ向けた。


「だからこそ、よね」

 桜井は、神獣の首筋の白い毛並みを優しく撫でた。


「1000年間、たった一人で魔神を監視し続けたイヴさんの想いを、私たちが無駄にしてはいけない。……彼女は、この世界を守るという主の遺志に、誰よりも忠実なだけなんだから」


 悠真が来るまでの2年間、軍師としてイヴの傍に仕えてきた桜井。

 彼女は、冷酷な仮面の下にある、途方もない孤独と、この世界への深い愛情を知っていた。


『退屈だわ』


 彼女は、イヴがいつも呟いていた口癖を思い出した。

 1000年もの間、ただ一人で世界の終わりを待ち続けることが、どれほど重く、『退屈』なことか……。その言葉の重みに、桜井の胸が締め付けられる。


「……急ぎましょう、ちくわ」



 やがて、猛吹雪の向こうに、再び巨大な銀色のドーム跡が見えてきた。


「あれは……!」


 桜井が息を呑む。

 天を衝くほどの巨躯を持つ『災厄の魔神』の足元で、漆黒のドレスをボロボロに引き裂かれながらも、たった一人で孤軍奮闘する魔王イヴの姿があった。


「ハァァァァッ!!」


 イヴの細い腕から放たれる漆黒の魔力弾が、魔神の装甲に直撃する。

 だが、その強固な防壁は揺らぐだけで、魔神に致命傷を与えるには至らない。


 逆に、魔神の巨大な腕が容赦なくイヴを薙ぎ払う。


「くあっ……!」


 イヴは雪原を数メートル転がり、血を吐いて膝をついた。


「イヴさん!」


 桜井の視線の先、少し離れた場所では、魔王軍の幹部たちが立ち尽くしていた。


「………………」


 普段は冷徹なヴァネッサが、扇子を握りしめたまま心配そうに空を見上げ、ただ無言で歯を食いしばっている。

 好戦的なジルでさえ、圧倒的な力の差の前に手を出せず、大剣を雪に突き立てて悔しげに顔を歪ませていた。


「くそっ……! あのデカブツ、オレの炎が全く通じねえなんて……! 魔王様が一人で……クソッ!!」


 そこへ、夜の闇を切り裂くように、バサバサと羽ばたくコウモリの群れが舞い降りた。

 息を切らし、ドレスを乱したミーナが、転がり込むように桜井たちの元へと駆け寄ってくる。


「ハァ、ハァ……っ! 間に合って……!」


 だが、ミーナの目に飛び込んできたのは、血を吐いて膝をつき、なおも立ち上がろうとする魔王の痛々しい姿だった。


「ああっ……! イヴ様……!!」


 ミーナは悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。

 普段の妖艶な吸血鬼の余裕は完全に消え失せ、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、桜井の袖にすがりつく。


「ブルーメ……! お願い、イヴ様を……! あのままじゃ、本当にイヴ様が死んでしまうわ……ッ!」


 魔王のあまりに痛々しい姿に、四天王たちすらも手出しできない絶望感が漂っている。


『グルルルォォォッ!!』


 ミーナの悲鳴と共に、神獣が猛然と魔神に飛びかかり、その巨大な腕に牙を立ててイヴを援護する。


「やめてください、イヴさん! もう十分です!」


 桜井は神獣から飛び降り、血まみれのイヴに駆け寄った。

 だが、イヴは荒い息を吐きながらも、その赤い瞳に決死の光を宿し、ゆっくりと立ち上がった。


「……退きなさい、ブルーメ。私の邪魔をするな」

「ダメです! これ以上一人で戦えば、イヴさんの命が……!」


 桜井の制止を、イヴは冷たく、しかしどこか悲壮感を孕んだ声で遮った。


「あの人間たち……あなたの探していた『救世主』の放ったあの攻撃グングニルですら、この魔神を倒しきれなかった。……なら、私がやるしかないでしょう?」


「だからって、一人で背負う必要なんて……!」


 桜井の悲痛な叫びを背に、漆黒のドレスを血に染めた魔王は、魔神へ向けて再び魔力を練り上げる。



 その孤軍奮闘の姿に、桜井が唇を噛みしめた、まさにその時――。


『――お待たせ、お姉ちゃん!』


 猛吹雪を切り裂く轟音と共に、八本の鋼鉄脚を軋ませてスレイプニルが戦場へと躍り出た。

 戦車の窓越しに、悠真たちの必死な瞳が桜井とイヴを真っ直ぐに見据えている。


 彼らの本当の『最終決戦』が、今、幕を開けようとしていた。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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イラストも是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧
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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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