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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第27話:魔王の反撃と、彼女の決意(第3節)

ズガァァァァァン!!!


 猛吹雪を切り裂き、八本の鋼鉄脚を軋ませてスレイプニルが戦場へと躍り出た。

 戦車の扉が勢いよく開かれ、悠真たちが外へ飛び出す。


「間に合ったか……!?」


 だが、悠真の視界に飛び込んできたのは、圧倒的な力を持つ『災厄の魔神』の足元で、漆黒のドレスをボロボロに引き裂かれながらも、一人で立ち向かう魔王イヴの痛々しい姿だった。


「イヴさん!」

 魔王軍の陣営で見守っていた桜井が、血相を変えて叫ぶ。


「私たちも加勢しますわ! ゆうゆう、下がっていてください!」

「悠真様はお守りします! 光よ!」

 セレスティアが細剣を抜き放ち、リーファが光の杖を掲げる。


「王国騎士団、殿下に続けぇぇぇ!」

 ゼノアとライオネルも、自軍に突撃の号令を飛ばす。


 それに呼応するように、ルナが大剣を構え、傭兵団が一斉に動き出した。

「野郎ども、魔王を援護しろ!」


 それを見た魔王軍の幹部、ヴァネッサやジルたちも、命がけの援護を開始しようとした。

「我らも続け! 魔王様をお守りするのだ!」


 再び両軍が武器を手に取り、魔神へ向けて総攻撃を開始した。



「――近寄るな」


 だが、その全軍の動きを、静かで、しかし絶対的な力を持った一言が制止した。

 魔王イヴだった。


 彼女は血を吐きながらも、ゆっくりと振り返り、自分を助けようとする人間と魔族、そして桜井を見つめた。

 いつもは「退屈だわ」と冷酷に振る舞う彼女の赤い瞳には、今、まるで我が子を慈しむ母親のような、優しくも悲壮な眼差しが宿っていた。


「誰も死なせないわ。……この世界を守るのは、私の役目よ」


「やめて、イヴさん! 早まってはダメです!」


 桜井が必死に叫ぶが、イヴは微笑みを浮かべたまま、再び魔神へと向き直る。


 彼女の周囲に、残された全生命力を燃やすような、赤黒い魔力の奔流が渦巻き始めた。

 極寒の雪山であるにもかかわらず、彼女の足元の雪が一瞬にして蒸発し、凄まじい熱波が周囲を焼き尽くす。


「魔王様……いったい何をされるおつもりですか!?」


 その異常な魔力の膨張に、冷静な軍師であるヴァネッサが驚愕の声を上げた。


『……あれは、もしや』


 桜井の足元で、巨大な白虎の神獣――ちくわが、苦渋に満ちた声で呟いた。


『……魔王の真の役割は、卵の監視だけではない。万が一、救世主を連れ帰る我々の作戦が失敗した際の保険……』

「……まさか」


 それは魔王軍幹部筆頭のヴァネッサすら予想していなかった、自らの命を犠牲にした特攻の準備だった。


『自らの命と引き換えに、魔神の起動を阻止するという、主から託された最後の使命だ』

「そんな……! 命と引き換えだなんて!」


『ああなっては、もう誰にも止められない。イヴは、己の命を投げ打ってでもこの世界を守るという、主の遺志に殉じる覚悟を決めたのだ』


「嫌だ……イヴさん……っ!」


 桜井は絶望に打ちひしがれ、雪の上に膝をつきそうになった。

 だが、神獣は鋭い眼光で桜井を見据え、力強く告げた。


『……やむを得ない。人間よ、今こそあのアイテム、『不幸の残滓』を使う時だ』

「……え?」


『もはや、魔王の特攻は止められないだろう……。だが、それも成功する保障はない。イブの覚悟を……無駄にしてはならない』


 神獣の言葉に、桜井はハッとして自分の学生鞄を開けた。

 中に入っている、不吉な黒いオーラを放つ古いお菓子の缶箱。


(……やるしかない。イヴさんの覚悟を、無駄にはしない!)


 桜井は震える指先で缶の蓋を開け、中から『あるアイテム』を取り出した。

 中身を見ないようにして、急いでそれをブレザーのポケットに忍ばせる。

 それが世界を救う最後の手段だというプレッシャーを押し殺し、極限の緊張の中、覚悟を決めて立ち上がった。


「……っ、やります!」


 桜井は意を決し、魔神の元へ特攻しようとするイヴではなく、スレイプニルから降りてきた悠真の元へ、全速力で駆け出した。



「桜井さん……?」


 悠真は、突然こちらへ向かって走ってくる後輩の姿に、思わず身構えた。

 今の彼女の表情は、僕の知っている桜井さんではない。魔王軍の軍師『幻影のブルーメ』として、覚悟を決めた顔だ。


「……幻影のブルーメ。いったい何を……?」

 セレスティアが息をのむ。


 悠真の傍らには、セレスティア、リーファ、ルナ、そしてエーテラの四人が、敵陣営の軍師が真っ直ぐに自分たちへ向かってくる異常事態に、張り詰めた表情で警戒している。


「……何をするつもり……かしら?」

 スレイプニルの操縦席にいたドナとリリアーナも、窓からその様子を無言で注視していた。


 両軍に囲まれ、魔王の命を削る特攻の準備が刻一刻と進む中、幻影のブルーメは、彼女たちの鋭い視線が突き刺さるのも構わず、悠真の目の前でピタリと立ち止まった。


「桜井さん。いったい、どうしたんだ……!?」


 悠真が息を呑み、身構える。

 すると――。


「先輩……っ!」


 桜井は、シリアスな表情から一転、顔から火が出るほど真っ赤に沸騰させていた。

 そして、ギュッと目を閉じ、ポケットから『あのアイテム』を両手に持ち、勢いよく突き出した。



「先輩、好きです! ずっと、ずっと前から……好きでした!」



 可愛らしい、ピンク色の封筒。

 それは、どう見ても『ラブレター』だった。


 世界を終わらせる魔神の咆哮と、自らの命を燃やす魔王の決意。

 その極限の戦場のド真ん中で。


 四人のヒロインや賢者たちが睨みを利かせる、そのすぐ目の前で。


「……は? 桜井さん、今、なんて……」


「「「「ええええええええええええッ!?」」」」


 悠真の傍らにいたセレスティアや賢者たちだけでなく、王国軍も魔王軍も関係なく、雪原にいた全員の絶叫がこだました。


 静まり返る戦場。

 真っ赤な顔で突き出された、可愛らしい封筒。


 世界を救うはずの最後の切り札は、あまりにも場違いな『ラブレター』だったのだ。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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