第26話:魔導超兵器グングニル装填(第2節)
ズガァァァァァン!!!
スレイプニルの主砲『グングニル』から放たれた極大の不運エネルギー。
それが漆黒の巨体に直撃した瞬間、凄まじい衝撃波が山頂の空気を震わせた。
魔神は、かつてないほどの巨大な爆発に飲み込まれ、そのまま雪原へと深く倒れ込んだ。
「やったー! 大成功だ!」
「ふふっ、見事な威力ね」
車内の計器盤を確認したドナが両手を上げて歓喜し、リリアーナも珍しく興奮したように口元を歪めた。
外の最前線にいたルナや傭兵団も、「やりやがった!」「さすが犬姫様の婿殿だぜ!」と雄叫びを上げる。
共に戦っていた業火のジルも、大剣を肩に担ぎ直してニヤリと笑った。
「へっ、ひ弱な連中のオモチャにしては、まあまあやるじゃねえか。これでデカブツも燃えカスだろ」
「おおっ! ついに倒したぞ!」
「やったか!?」
王国軍の兵士たちが歓喜の声を上げる中、魔王軍の陣形奥深くでは、謀略のヴァネッサが笑みすら浮かべず、ただ無言で雪煙を睨みつけていた。
スレイプニルの車内。
悠真の両頬に全力のビンタを放った直後、振り抜いた手のひらを宙に浮かせたままだったセレスティアとリーファは、窓の外の爆発音にハッと振り返った。
「……っ!」
二人は、両頬を真っ赤に腫らして床に倒れ込む悠真を一瞥し、すぐに気まずそうに目を逸らすと、窓ガラスにへばりついて外の戦況を固唾を呑んで見守った。
ズズッ……。
地鳴りのような音が響き、歓喜に沸いていた空気が一瞬にして凍りついた。
『――――ォォォォォォォォォォ……』
倒れたはずの漆黒の魔神が、不気味な駆動音を響かせながら、ゆっくりと身を起こそうとしていたのだ。
光の無い虚無の双眸。
その巨躯には、直撃を受けたはずの傷跡一つ残っていなかった。
圧倒的な威圧感が、先ほどよりもさらに色濃く戦場を覆い尽くす。
「……うそ、だろ?」
悠真は床に這いつくばったまま、信じられない光景を見上げた。
「……ドナの最高傑作のグングニルが……全く効いてないなんて……」
「あり得ないわ。あのエネルギーを無傷で相殺するなんて……」
あれほど自信満々だったドナとリリアーナの顔から血の気が引き、絶望の言葉を漏らす。
その光景を遠くから眺めていた桜井唯。
魔神への攻撃から前線へ戻ってきた巨大な白虎――神獣の首筋を、彼女は静かに撫でた。
「……やはり、ダメでしたか」
彼女の呟きには、単なる攻撃が効かなかった以上の、もっと深い意味が込められていた。
魔神の巨腕が再び振り上げられようとするのではなく、ただゆっくりと、無慈悲に立ち上がろうとしている。
(これ以上の戦闘は、無為に兵を消耗させるだけですわ……!)
セレスティアは、王女としての責務と冷徹な状況判断を迫られていた。
どんなに剣や魔法、果ては天界の産物をも超えるかもしれない超兵器を撃ち込んでも、傷一つつけられない化け物。
「全軍、退きなさい! 一時撤退ですわ!」
彼女の悲痛な号令が飛ぶ。
それに応じ、ゼノアとライオネルが即座に指示を出した。
「殿下のご命令だ! 全軍、速やかに後退せよ!」
「陣形を崩すな! 殿を死守しつつ退け!」
同時に、魔王軍の陣営でもヴァネッサが冷酷に腕を振り下ろした。
「……撤退よ。これ以上、あの玩具に構う必要はないわ」
「ちっ! 今回は引き分けにしておく!」
「ギャハハ! せいぜい命を大事にしな、犬っころ! またな!」
ルナとジルが互いに悪態をつき合いながらも、王国軍と魔王軍はそれぞれ真逆の方向へと一斉に撤退を開始した。
幸いなことに、グングニルの一撃が多少なりとも効いていたのか、魔神は立ち上がろうとしたままの姿勢で沈黙し、逃げる両軍を追ってはこなかった。
数時間後。
魔神の姿が見えなくなるほど十分に距離を置いた安全地帯で、王国と傭兵の連合軍は猛吹雪を避けるように夜営を敷いていた。
「……理不尽すぎる」
焚き火の温かい光に照らされながら、悠真は両頬を真っ赤に腫らし、涙目でうめいていた。
「まぁ、可哀想に。あの魔神の強烈な怪力のせいで、こんなにお顔が腫れてしまって……」
「本当に恐ろしい災厄でした。お労しい悠真様……私がしっかり冷やして差し上げますね」
セレスティアとリーファは、どこか目を逸らしながらも、甲斐甲斐しく氷嚢を悠真の頬に当てていた。
(お前らのビンタだろ! 何を魔神のせいにしてんだよ!)
悠真は心の中で激しくツッコミを入れたが、彼女たちの手が少し震えているのを見て、黙って冷やされることにした。
そんな夜営地の静寂を破り、上空からバサバサと羽ばたく音が響いた。
「……悠真さん!」
焚き火の向こうから、純白の翼を少し焦がし、衣服もあちこち煤けた少女が、ドスドスと足音を立てて歩み寄ってきた。
追手を振り切ったエーテラだ。
無事に戻ってきてくれたことに悠真がホッとしたのも束の間、彼女の様子がいつもと違った。
無機質だったはずの瞳は涙目で抗議の光を宿し、頬をぷくっと膨らませている。
魔神が見境なく暴れ回る圧倒的な破壊力と、悠真たちが口にした「あれは災厄だ」という言葉の真実性。
自分が信じてきた天界の正義が、嘘だったと認めたくない。
そんな葛藤と混乱のやり場を求めるように、彼女は八つ当たり気味に怒りを爆発させた。
「私は警告しました! なぜ、あんな危険な真似をしたのですか!」
エーテラは悠真の胸元に歩み寄るなり、小さな両手でぽかぽかと彼の胸を叩き始めた。
「あれは神聖な存在のはずです! なのに……なのに。どうして牙を剥いたのですか!」
ぽかっ、ぽかぽかっ。
それは攻撃というより、まるで駄々をこねる子供のような、痛くも痒くもない抗議だった。
やがて、ぽかぽかと叩く小さな手は次第に力を失い、無機質だったはずの瞳から、大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。
「私の言うことを聞いていれば……っ、もうっ、信じられません!」
彼女の可愛らしい、しかし必死で本気の怒りが、静寂の夜営地に響き渡る。
交差する真実と天界の虚構。その狭間で、天使の理性が限界を迎えようとしていた。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
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