第26話:魔導超兵器グングニル装填(第1節)
絶体絶命の戦場に、けたたましい駆動音を響かせて魔導戦車スレイプニルが到着した。
その巨大な八本の鋼鉄脚が雪原に深く沈み込み、急停止する。
車体の上部では、神槍『グングニル』の無骨な砲身が、冷たい輝きを放ちながらゆっくりと災厄の魔神へと向けられた。
「何してるの凡人。遅かったわよ」
戦車の扉が開くや否や、後方で待機していたリリアーナが、紫のローブを翻して素早く車内へと飛び込んできた。
いつもの気怠げな態度や、人を食ったような余裕はそこにはない。
彼女は鋭い瞳で車内の計器盤を睨みつけると、手にした杖を制御装置のコアに突き立てた。
「魔力回路、オールグリーン。魔導エネルギーのバイパス接続、完了。……いつでもいけるわ」
流れるような手つきで、瞬く間にグングニルの発射準備を整えていく。
その隣では、ドナが額に汗を滲ませながら、普段のいたずらっぽい笑顔を完全に消し去り、真剣な職人の顔つきで無数のレバーを操作していた。
「主砲の冷却装置、作動確認! 砲身のロック解除! ……お兄ちゃん、早く!」
「わ、わかった!」
ドナの気迫に押され、悠真は首元から『運命の石』を外し、操縦席の中央にあるくぼみ――起動装置へと慎重に装填した。
カチリ、と硬い音が鳴る。
その瞬間、戦車全体が微かに震え、石から放たれるどす黒い『不運エネルギー』が、グングニルの砲身へと吸い上げられていくのが分かった。
(……こいつら、やるときはやるんだな)
悠真は、二人の賢者の真剣な横顔を見て、心から感心した。
いつもは自分をからかい、オモチャにして遊んでばかりの彼女たちだが、いざという時はこんなにも頼りになる。
天才と呼ばれるだけのことはあるのだと、悠真は深く安堵した。
「……よし、最終フェーズだ!」
ドナが叫び、車外に向かって大きく手を振った。
「そこのお姫様と巫女のお姉ちゃん! 早く中に入って、お兄ちゃんの隣に座って!」
「わたくしたちが?」
「え、私ですか?」
魔神と対峙し、疲労の色を濃くしていたセレスティアとリーファは、ドナのただならぬ気迫に押され、急いでスレイプニルの車内へと飛び込んだ。
「早く早く! グングニルの威力を最大まで引き上げるには、二人の強力な魔力波長でお兄ちゃんを挟み込む必要があるの!」
「なるほど、そういうことなら任せなさい!」
「はい、悠真様をお守りします!」
ドナの真剣で「もっともらしい」説明を完全に信じ込んだ二人は、ドナの指示に従い戦車に乗り込んだ。
「よーし、二人とも、そのままお兄ちゃんの隣に座って」
だが。
ドナがくるりと振り返り、制御盤へ向かおうとしたその瞬間。
悠真は見てしまった。
ドナの口元が、ニチャァ……と、最高に性悪な『いつものいたずら顔』に歪んだのを。
(……っ! こいつ、また何か企んでるな!?)
「おいドナ! こんな時に、そんな場合じゃ……!」
悠真はドナを叱りつけようと、勢いよく席から立ち上がった。
しかし、その焦りが仇となった。
「あっ――」
足元の、いかにも不自然な位置に這わされていた太い魔導ケーブル。
それに靴の先端が、見事に引っかかったのだ。
バランスを崩した悠真の体は、前へと大きくつんのめり――。
そして、咄嗟にバランスを取ろうと前に突き出した両手が、彼の隣に座ろうと近付いてきた二人の少女の、最も柔らかく、最も神聖な部分へと吸い込まれていった。
「っ!?」
「ひゃんっ!?」
(ムギュゥゥゥッ……!)
右手にセレスティアの豊かな膨らみ。
左手にリーファの圧倒的な弾力。
悠真は、二人の胸を両手で同時に、しかも全力で鷲掴みにしてしまった。
「な、ななな……っ! ゆうゆう!?」
「ゆ、悠真様ぁっ……!?」
極限の緊張状態から一転、信じられないセクハラ行為を見舞われた二人は、顔をゆでダコのように真っ赤に染め上げ、同時に怒りの頂点へと達した。
「「きゃあ、えっちぃぃぃぃぃぃっ!!!」」
パシィィィィンッ!!!!
セレスティアの右からの本気のビンタと、リーファの左からの渾身の張り手。
二人の怒りがこもった「同時サンドイッチ張り手」が、悠真の両頬に完璧なタイミングで炸裂した。
「ぶふぅぅぅっ!!」
悠真の体は、凄まじい衝撃と共に宙を舞い、後方の壁へと叩きつけられた。
「さすが凡人、計算通りね」
悠真が床に崩れ落ちた瞬間、リリアーナが冷ややかに、しかし満足そうに呟いた。
「極度の羞恥と嫉妬、そして理不尽な痛み。……精神的ストレスによる不運エネルギーの急速増幅。完璧だわ」
「ナイスざぁこ! お兄ちゃん、最高のザコっぷりだよ!」
ドナが嬉々として発射ボタンを叩き込む。
ズガァァァァァン!!!
悠真の極大の不幸エネルギーを限界まで圧縮したグングニルの砲身から、漆黒の閃光が放たれた。
一直線に飛んだ閃光は、災厄の魔神の強靭な巨体へと真っ直ぐに直撃する。
『グオォォォォォォ……ッ!?』
今まで剣も魔法も全く通じなかった魔神が、初めて苦痛の咆哮を上げ、その巨大な体を大きくよろめかせた。
「やった! 効いてるわ!」
誰もが歓喜の声を上げる中、魔神はバランスを崩し、ズシン、と地響きを立てて雪原へと倒れ込んだ。
もうもうと立ち込める雪煙。
果たして、この一撃で終わったのか。
静まり返る戦場に、ヒリヒリとした緊張感だけが残されていた。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
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