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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第25話:魔神の起動と、全軍の衝突(第2節)

 天を衝くほどの巨体から見下ろす、光の無い虚無の双眸。


 無機質でありながらも神聖さを漂わせる、幾何学的な光の輪を背負い、漆黒の滑らかな装甲に覆われたその姿。それは、天界の法典によって生み出された『災厄の魔神』の完全なる姿だった。


 卵のドームを突き破り、その全貌を現した魔神の威圧感は、山頂の空気を凍りつかせていた。


 最も近くでその巨体を見上げるルナの軍勢は、誰一人として声を発することができなかった。

 彼らの肌を刺すのは、極寒の吹雪だけではない。魔神の巨体から放たれる、重く、息の詰まるような、絶対的な死を予感させる黒いオーラが、戦場全体を分厚い壁のように覆い尽くしていたのだ。


「な、なんだこいつ……」


 ルナの口から、無意識に震える声が漏れた。


 だが、それは恐怖によるものではない。彼女の全身の毛が逆立ち、黄金色の瞳が極限まで見開かれていた。

 獣人の野性の本能が、生まれて初めて出会う『人生最強の敵』を前に、戦闘種族としての血を熱く、激しく沸き立たせていたのだ。


 一方、少し離れた後方で対峙していた王国軍は、その圧倒的な存在に戦慄していた。


「……何というプレッシャーだ。私の剣が、鞘から抜けることを拒んでいるようだ」


 黄金の甲冑を纏ったライオネルでさえ、額に冷や汗を浮かべ、愛馬を落ち着かせるのに必死だった。

 ゼノアも鋭い視線で魔神を睨みつけるが、その手は微かに震えている。


「ひぃぃっ……! もうダメですぅ! あんなの、人間がどうにかできる相手じゃありません!」


 見習い騎士のボニーは、完全に戦意を喪失し、情けなく馬の首にしがみついてガタガタと震えている。


「……あれが、天界の兵器。『災厄の魔神』」


 その光景を、エリザはただ静かに、腹黒い笑みすら浮かべずに見据えていた。


「わ、我々の力で、勝てるのでしょうか……?」


 リーファが不安げに光の杖を胸に抱く。

 その隣で、リリアーナはいつも通り気怠げな様子を崩さず、紫のローブを揺らした。


「……いや、まだ手を出すには早いわね。あの巨体を相手にするには、私たちの『最高戦力』が不在すぎるわ」


 彼女の言う最高戦力とは、間違いなく、今頃雪原のどこかで迷子になっているであろう、あの不運な少年のことだった。


「リリアーナ様、そんな暢気なことを言っている場合では……!」


 セレスティアは、震える手で細剣を握りしめ、自分を取り繕うように胸を張ろうとしていた。

 だが、その強がりも限界だった。

 王女としての仮面の下で、彼女の心は、ただ一人の少年を求めて悲鳴を上げていた。


(ゆうゆう……早く助けて……!)


 どんな絶望的な状況でも、必ず『不幸なトラブル』で奇跡を起こしてくれた、愛しい婚約者。

 彼がそばにいないという事実が、魔神の威圧感以上に、セレスティアの心を心細くさせていた。


 静まり返る戦場に、業火のジルの嘲笑が響いた。


「どうした、犬っころ! さっきまでの威勢はどうした!? デカブツを前にしてビビってんのかぁ!?」


 ジルの挑発が、ルナの沸き立つ血に火をつけた。


 だが、ジルの背後に立つ謀略のヴァネッサは、なぜかこの異常事態において、意味深な沈黙を保ったまま、口角をわずかに上げているだけだった。


「ルナ殿、いけません! 一旦引き返し、陣形を立て直すべきです!」


 ライオネルの必死の警告が飛ぶ。

 だが、ルナの黄金色の瞳は、もはや魔神ただ一体に向けられていた。


「……黙れ。ここで尻尾を巻いて逃げたら、獣人の恥だ! このオレが、誰よりも先にあのデカブツの首を獲ってやる!」


 ルナは獣の咆哮を上げ、大剣を振りかぶった。


「野郎ども、続くぞ! 全軍、突撃ィィッ!!」

「オオオオオオオッ!!」


 渾身の力を込めた一撃。鋼を断つルナの大剣が、魔神の漆黒の脚部へと叩き込まれる。


ガキィィィィンッ!!


「な……っ!?」


 火花が散った直後、ルナの目は驚愕に見開かれた。

 魔神の装甲には傷一つついていない。それどころか、反発した強烈な衝撃波がルナの体を弾き飛ばした。


「ぐはあっ……!」


 ルナは雪原を数メートル転がり、血を吐いて膝をついた。


「お頭っ!!」

「犬姫様!」


 傭兵たちが悲鳴を上げる中、ルナの背後から、地を揺らす足音が近づいてきた。


「ちぃっ……!」


 ルナが振り返ると、そこには燃え盛る炎を纏ったジルと、魔王軍の軍勢が迫っていた。


(挟み撃ちか……! クソ、ここまでか……!)


 ルナは絶望し、残された力で大剣を握り直そうとした。


「ハハッ、無様だな! オラァッ! 燃えカスにしてやるぜ!」


ゴオオオオオッ!!


 非情にも、ジルの両手から紅蓮の炎が放たれる。


 だが、巨大な炎の球は、彼女の真横を通り過ぎ、一直線に魔神へと向かっていき、魔神の巨体を飲み込んだ。


「……は?」


 ルナは自分の目を疑った。

 なぜ、魔王軍が、自分たちの『神(兵器)』を攻撃しているのか。


「おい、狐女! なぜお前らがこいつを攻撃する!?」


 ルナが怒鳴るように疑問を投げかけると、ジルは炎を放ち続けながら、忌々しげに舌打ちをして振り返った。

「つべこべ言わずにこいつをやっつけろ! てめえのくだらねえプライドは後回しだ!」

「……冗談ではなさそうだな」


 ルナは口元の血を拭い、よろめきながらも立ち上がった。


 ジルの隣に並び立つ。銀色の狼と、紅蓮の獣。

 犬猿の仲であった二人の獣人が、この世界で最も不気味な『災厄』を前に、奇妙な共闘を果たす。


「行くぞ、人間飼いの犬っころ! 足引っ張るんじゃねえぞ!」

「てめえこそ、その自慢の火が消えねえように気をつけな!」


 咆哮と共に、二つの軍勢が巨大な魔神へと牙を剥く。


 だが、彼女らはまだ知らなかった。

 神の怒りが、どれほど理不尽で絶望的なものであるかを。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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イラストも是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧
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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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