第24話:桜井の再会と、シスコンにされた僕(第2節)
舞い散る雪の中。
悠真は仰向けに倒れたまま、胸の上にピンクのツインテールの少女・ドナを乗せていた。
「ち、違うんだ桜井さん! これは事故で……それにこの子は小春じゃなくて!」
巨大な白虎の背から見下ろす桜井唯の冷ややかな視線に、悠真は顔面蒼白で必死に弁解した。
「も〜! お兄ちゃんのバカ! あんなに『妹が世界一可愛い』って抱きしめてくれたのに、他の女の子が来たらすぐそうやって誤魔化すんだから!」
「なっ、ドナ!? お前、何を言って……!」
空気を読まないどころか、状況を瞬時に察知したドナが、あざとく嘘泣きを始めたのだ。
彼女は悠真の胸に顔を埋め、「ひぐっ、お兄ちゃん、ひどいよぉ……」と小刻みに肩を震わせる。
端から見れば、実の妹に手を出した、変態兄貴である。
桜井は、その惨状を静かに見下ろした。
2年間待ちわびた感動の再会。
無事でいてくれたことへの安堵で胸がいっぱいになる一方で、目の前で繰り広げられる相変わらずの理不尽な不運と、それに乗じた少女の悪乗りに、彼女の心はスッと冷え切っていく。
(……先輩は、どこに行っても相変わらずですね)
桜井は小さくため息をつき、軍師としての冷徹な仮面を半分だけ被り直し、上品なジト目で悠真を射抜いた。
「……先輩が、異世界でもお元気そうで何よりです」
「ちがっ……! 桜井さん、本当に違うんだってば! 話を聞いてくれ!」
「ふんっ!先輩なんか知りません」
ぷいっとそっぽを向かれ、悠真は雪の上に四つん這いになったまま石像のように固まった。
そんな悠真の背中の上で、ドナが「作戦成功♪」とばかりに舌を出して笑っていると、桜井がスッと目を細めた。
「……あなたが、技術都市クロノスの賢者、ドナさんですね?」
「えっ」
ドナはピタリと嘘泣きを止め、面白くなさそうに顔を上げた。
「なんだ、知ってたの? つまんなーい」
ドナは悠真の背中からヒョイと飛び降りると、腰に手を当てて不満げに頬を膨らませた。
「せっかくお兄ちゃんの妹のフリをして、からかってやろうと思ったのに。どうして分かったのさ?」
「私は魔王軍の軍師ですから。……先輩の周りにいる女性の情報くらい、全て調べ上げています」
桜井の言葉の裏にある、微かな執着心とヤキモチ。
ドナはそれに気づき、「へぇ……」と面白そうにニヤリと笑った。
その時、桜井の足元にいる、頭に二本の角が生えた巨大な白虎が、低く威厳のある声で喉を鳴らした。
『久しいな、不運な男よ』
「えっ……虎が、喋った!?」
悠真は目を丸くして、後ずさった。
すると、桜井が小さく微笑み、神獣の白い毛並みを優しく撫でた。
「先輩。この子は、あの雨の日に一緒に助けた子猫の……『ちくわ』ですよ」
「……ちくわ!?」
悠真は、目の前の巨大な白虎と、あの日助けた泥まみれの小さな白猫を必死に結びつけようとした。
そして、ふと思い出した。あの日、ちくわに食べさせたおやつの『生ちくわ』のパッケージ。
そこには、目の前にいる牙を剥いた勇ましい白虎の神獣とは似ても似つかない、可愛い虎のキャラクターが描かれていたのだ。
(まさか、あのメーカーのちくわを食べたから虎に化けた……? そんなわけないか)
悠真が一人で妙に納得していると、神獣は尊大な態度で鼻を鳴らした。
『ふん。我は誇り高き魔王軍の神獣。……だが、今はそなたの無事を喜ぶとしよう』
「そ、そうか……ありがとう、ちくわ」
少しだけ安堵の表情を浮かべた悠真だったが、すぐに我に返り、彼は雪を蹴って立ち上がった。
「桜井さん、ちくわ! 再会できたのは本当に嬉しい! でも、今はそんな話をしてる場合じゃないんだ!」
悠真は必死の形相で、神獣の背に乗る桜井を見上げた。
「エーテラさんが……天界の女の子が、魔族の大群に追われてるんだ! お願いだ、彼女を助けるために力を貸してくれ!」
「……」
悠真の必死な訴えに、桜井は表情一つ変えなかった。
彼女は憂いを帯びた瞳で、ただ静かに首を横に振る。
「……あれは……助ける必要ないですよ。先輩」
「えっ……?」
予想外の冷たい返答に、悠真は絶句した。
あの優しかった桜井さんが、目の前で命の危機に晒されている少女を見殺しにするなんて。
「桜井さん、どうして……! もしかして、まだ疑ってる? こいつはドナと言って、妹とは別人で……決して僕がシスコンなわけでは……」
「っ……! だから、そういう意味で言っているわけではありません……っ!」
悠真の的の外れた言葉に、桜井は顔を真っ赤にして声を荒らげた。
だが、すぐに深呼吸をして感情を抑え込み、冷徹な軍師の顔へと戻る。
「放っておいても、必ずあの場所へ戻るはずです。あのドームに眠る『災厄の魔神』を見届けに。何故なら……彼女は、天界の回し者ですから」
「天界の……回し者?」
桜井の言葉に、悠真は息を呑んだ。
魔王軍の軍師として2年間を過ごした彼女は、一体何を知っているというのか。
真っ白な雪が舞い散る中。
天空を見上げる桜井の瞳は、悲痛な光を帯びていた。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
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