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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第23話:マンホールと子猫と彼女(第1節)

「せんぱ――い!!!!」


 雨上がりのアスファルトに、桜井唯の悲痛な叫び声が虚しく響き渡る。


 伸ばした手は空を切り、悠真先輩の体は、開いたマンホールの暗い底へと真っ逆さまに吸い込まれていった。


「嘘……そんな、先輩……!」


 桜井は濡れた地面に膝をつき、マンホールの穴を覗き込む。


 だが、底は不気味なほど深く、ただ真っ暗な闇が広がっているだけだ。返事がないどころか、落下音すらしなかった。

 まるで、世界が彼という存在を丸ごと飲み込んでしまったかのように。


「いやだ……先輩……っ!」


 桜井の目から大粒の涙が溢れ出し、冷たいアスファルトにシミを作っていく。


 彼女の腕の中では、つい先日二人で一緒に助けた小さな白猫の『ちくわ』が、不安げに身を縮めていた。


「にゃあ……」

「ちくわ……。私、どうすれば……」


 桜井が震える手で子猫を抱きしめた、その時だった。


『――泣くでない、人間よ。あの男は死んでおらぬ』


「……えっ?」


 突然、脳内に直接響くような、低く威厳のある声が聞こえた。


 桜井はビクッと肩を震わせ、周囲を見回す。だが、人気のない裏路地には誰もいない。


『ここだ。我はそなたの腕の中にいる』


 桜井が恐る恐る視線を落とすと、腕の中の『ちくわ』が、まるで人間のように器用に首を傾げ、真っ直ぐに彼女を見つめていた。


「ち、ちくわが……喋った……!?」

『ちくわではない。我は誇り高き白虎の神獣……であるが、今はどうでもよい』


 子猫(神獣)は、小さな前足を桜井の胸元にポンと当てた。


『我は本来の魔力がないこの世界で、力を失い猫の姿へと成り果てていた。だが、あの男が放った異常なほど強大な『不運のエネルギー』を浴びて、一時的に意識を取り戻したのだ』


「ふ、不運のエネルギー……? それって、先輩のこと?」


『いかにも。あの男の抱える理不尽な不運は、もはや災厄の域に達しておる。その強大すぎる力が、我が主より授かった『異世界への転移陣』にエネルギーを充填させ、勝手に再起動してしまったのだ』


 子猫の言葉を要約するとこうだ。


 悠真がただ足元を滑らせてマンホールに落ちた際、そのあまりの不運ドジが規格外のエネルギーを生み出し、隠されていた転移装置を勝手に起動してしまった、ということらしい。


「それじゃあ、先輩は異世界に……!? 助けなきゃ! どうすればいいの!?」


 桜井が身を乗り出して必死に問い詰めると、子猫は逆に一歩引き、たじろいだように耳を伏せた。


『お、お前……。喋る猫やら異世界やら、突飛な話を信じるのか?』

「先輩が助かるなら、そんなことどうでもいいの! お願い、教えて!」


 桜井のあまりの剣幕に押され、子猫は咳払いならぬ喉鳴らしをしてから深刻そうに続けた。


『問題はそこだ。あの男が先に転移陣の魔力を消費してしまい、再起動できぬ。我の魔力も底を突いておる』

「そんな……! じゃあ、先輩はもう帰ってこられないの!?」


『早まるな。転移陣を修復し、再び起動させる方法が一つだけある』

 子猫は、桜井の目を真っ直ぐに見つめた。


『この世界にはまだ、あの男が残した、強烈な『不幸の残滓エネルギー』を感じる……それをコアとすれば、陣は再起動する。我はそれに乗じて元の世界へ帰還し、あの男を迎えに行くつもりだ』


「不幸の残滓……」


『あの男の部屋に行けば、必ず何かあるはずだ。我には微かに、あの男の不運の匂いが分かる』


 いつも不運に見舞われていた先輩。その彼を助けられるかもしれない。

 桜井は震える指先をギュッと握り締め、決意の瞳で立ち上がった。


「……行きましょう、ちくわ。先輩の家へ」



 子猫の嗅覚(魔力探知)を頼りに、桜井は閑静な住宅街にあるマンションの前へと辿り着く。

 だが、オートロックの操作盤の前で、彼女はふと足を止めた。


(いきなり家に行って、『先輩の部屋を調べさせてください』なんて言ったら、絶対に不審者扱いされる……)


 どうすれば、家族に怪しまれずに悠真の部屋へ入り、探し物をすることができるのか。

 桜井の頭の中で、一つの「合理的な嘘」が浮かび上がった。


(……これしかない。先輩を助けるためなんだから、恥をかいてる場合じゃない……!)


 桜井は、全身の血が沸騰するほどの羞恥と罪悪感、そして胸の奥に灯る『小さな言い訳』を抱きながら、震える指でインターホンを押した。


ピンポーン。


『……はい。どちら様ですか?』


 スピーカー越しに、少し不機嫌そうな、若い女の子の声が響いた。


「あ、あの……! 高橋先輩……悠真さんの、ご家族の方でしょうか?」

『え? はあ、まあ妹ですけど。……お兄ちゃんに何か用ですか?』


「は、はい……! 実は……」


 桜井は、ギュッと目を閉じ、顔を真っ赤に染めながら、人生最大の嘘(爆弾)を投下した。


「私……先輩の、彼女です……っ!」


 ピタリ、と。

 インターホンの向こう側で、時間が止まったような沈黙が流れた。


『…………は?』


 妹さんの、信じられないものを見るような、低くドスの効いた声。


『彼女? うちの、あの残念なポンコツお兄ちゃんに……彼女? え、詐欺ですか? それとも罰ゲームか何か?』


「ち、違います! 本当に、お付き合いさせていただいてて……!」


 桜井は顔から火が出る思いで、必死に弁明を重ねた。

 数秒の警戒の後、オートロックの解除音が鳴り響く。


『……とりあえず、上がってきてください』


 エレベーターで3階へ上がり、指定された部屋のインターホンを再び押す。

 ガチャリ、と重い金属音がして、扉が少しだけ開いた。


 隙間から、ピンク色のツインテールと、鋭いジト目が桜井を値踏みするように睨みつけている。

 だが、その扉が完全に開かれ、桜井の全身が妹さんの視界に入った瞬間――。


「えっ……」


 ジト目が、驚愕に見開かれた。


 雨上がりで少し濡れた、茶色のボブヘア。

 清楚なブレザーの制服が似合う、控えめながらも整ったスタイル。

 そして何より、恥ずかしさで頬を桜色に染め、潤んだ瞳で上目遣いをしてくる、圧倒的な美少女のオーラ。


「……嘘でしょ」


 警戒心は、一瞬にして吹き飛んだ。


「あ、あの残念なお兄ちゃんに、こんなに可愛い彼女がいたなんて……!?」


 妹さんの瞳が、キラキラと輝き始める。


「ささっ、どうぞ上がってください! 私、妹の小春です! お茶入れますね!」


 小春はさっきまでの不機嫌さが嘘のように、目を輝かせて自己紹介をすると、桜井の手を引いてリビングのソファへと座らせた。


 対面に座った小春は、前のめりになって、興味津々の眼差しを向けている。


「で……うちの残念なお兄ちゃんの、一体どこが良くて付き合ってるんですか?」


 逃げ場の無い、直球すぎる質問。


 先輩の部屋へ入るため、桜井の顔が真っ赤に染まる「彼女面接」が、今まさに幕を開けようとしていた――。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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イラストも是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧
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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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