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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第22話:一触即発と、天使の暴走(第3節)

「天界の正義を、ここで示します!」


 吹き荒れる雪風の中、エーテラは純白の翼を羽ばたかせ、巨大な銀色のドームへと真っ直ぐに突き進んでいた。


バサ、バサ、バサッ!


 その後方からは、魔王軍幹部ヴァネッサの命を受けた無数の魔族たちが、黒い雲のように群れを成して追従してくる。


「させないわよ、天の使い! 落ちなさい!」


 背後から放たれる漆黒の魔法弾や、鋭利な氷柱。

 エーテラは空中でアクロバティックに身を捻り、それを紙一重でかわしていく。


「もうっ! だから私の神聖な制服を焦がさないでと言っているのです! この無作法な生き物たちは!」


 普段の無機質な記録官の顔はどこへやら、エーテラは頬をぷくっと膨らませ、プンスカと可愛らしく激昂しながらも、ついに追手を振り切って、巨大なドームの前へと到達した。


「……到着しました。これより、神の卵を――」


 だが、エーテラがドームに触れた瞬間、周囲に殺気を感じた。


「――むむっ、待ち伏せですか!」


 ドームの影から、さらに大勢の魔族の伏兵が姿を現したのだ。


 上空からの追手と、地上からの伏兵。

 エーテラは完全に退路を断たれ、巨大なドームの壁を背にして包囲されてしまった。


(このままでは、袋叩きです……! しかし、ここで瞬間移動テレポートのエネルギーを消費するわけには……)


 天界の一記録官であるエーテラにとって、テレポートは一日に何度も行使できるものではない。

 ここで力を使い果たせば、『神』の復活に支障をきたす可能性が高い。


「……不本意ですが、一時撤退を最優先とします!」


 エーテラはドームの起動を諦め、包囲網の僅かな隙間を縫うように、空高くへと反転・逃亡を開始した。


「逃がすな! あの白い羽をむしり取れ!」


 獲物を逃がすまいと、魔族の群れが執拗にエーテラの背中を追跡していく。



 その光景を、スレイプニルの車内から窓越しに見つめていた悠真は、血相を変えて叫んだ。


「ドナ! エーテラさんが逃げてる! このままじゃ追いつかれる、スレイプニルを出してくれ!」


 至近距離で、悠真の真剣な瞳に見つめられ、両肩をガシッと掴まれているドナ。


「お、お兄ちゃん……!?」


 さっきまではドナが悠真をタジタジにして遊んでいたのに、今は完全に立場が逆転し、彼女は顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていた。


「お願いだ! 早く!」

「わ、わかった! わかったから! ドナに任せなさいってばぁっ!」


 ドナは真っ赤な顔で操縦席のレバーを力いっぱい引き抜いた。


ガシュゥゥゥッ!!


 魔導戦車スレイプニルが、重厚な排気音を響かせながら、エーテラを追って猛然と雪原を走り出す。


「お、おい待て! 勝手な行動をするな、鉄の箱!」

 魔王軍と対峙していたルナの怒号が響くが、スレイプニルは構わず加速していく。



 だが、その八本の鋼鉄脚が雪を蹴り上げようとした、まさにその時だった。


「――グルルルォォォォォッ!!」


 突如、猛吹雪の向こうから、一際禍々しい影が進路を塞ぐように音もなく降り立った。


 巨大な二本の角を持ち、赤く光る眼を爛々と輝かせた、巨大な白い虎の神獣。

 その白くふわふわとした毛並みと、どこか見覚えのある瞳の光に、悠真は一瞬だけ既視感を覚えた。


(あの虎……どこかで……?)


 だが、考える暇もなかった。

 神獣が放つ強大なプレッシャーに反応し、スレイプニルの自動防衛システムが作動。


ギギギギィィィッ!!


 猛スピードで雪原を走っていた戦車が、けたたましい音を立てて急ブレーキを踏んだ。


「うわあああっ!?」


 慣性の法則に従い、悠真の体がふかふかのシートから宙に投げ出される。

 そして、真っ直ぐに飛んでいった先は――。


「きゃんっ!?」


ドスッ!


 操縦席でレバーを握っていたドナの背中に激突し、そのまま彼女を押し倒す形で、操縦席の狭い床へと転がり落ちた。


「いっ、たた……。ご、ごめんドナ! 大丈夫!?」


 悠真が慌てて身を起こそうとすると、顔のすぐ下には、ドナの小柄な体があった。

 悠真の両腕が彼女の頭を包み込むように床につき、完全に「床ドン」の体勢になっている。


「も〜……お兄ちゃんってば、大胆なんだから……♡ そんなにドナに押し倒されたかったの?」


 ドナは痛みを忘れたように、頬を赤く染めて艶然と微笑み、悠真の首に腕を回そうとしてきた。


「ち、違う! 急ブレーキのせいで……!」


 悠真が顔から火を出して弁解しようとしたが、ふと、窓の外の光景に視線が釘付けになった。


「え……?」


 巨大な白い虎の神獣。

 その背中に、一人の少女が乗っていた。


 風に揺れる茶色のボブヘアに、右側のリボン。

 そして、真っ直ぐ自分を見つめてくれた雨の日にそっくりな――


 あの憂いを帯びた瞳。


 悠真は息を呑んだ。

 魔王軍の軍師『幻影のブルーメ』として現れたその顔は、あの日、図書館で偶然出会った後輩、『桜井唯』に瓜二つだったのだ。


(まただ……)

 悠真の頭の片隅で、冷静な声が響く。


 ドナの時と同じだ。

 妹の小春にそっくりだったドナのように、彼女もまた、この異世界にたまたま存在する「桜井さんに似た別人」に違いない。


 そう自分に言い聞かせ、悠真は安堵とも落胆ともつかない息を吐き出そうとした。


 だが、次の瞬間、悠真の目は少女の服装を捉え、完全に思考が停止した。


「……嘘だろ」


 彼女が身に纏っていたのは、おぞましい魔族の衣装でも、禍々しい鎧でもなかった。

 それは、極寒の雪山には絶対にあるはずのないもの。


 見慣れた『緑ヶ丘学院のブレザー』。


 あの日、図書室で桜井さんが着ていた、元の世界の制服そのものだった。


 そっくりな別人などではない。

 彼女は間違いなく、本物の桜井唯だ。


「お兄ちゃん? どうしたの……って、もう! ドナより外の女の子ばっかり見て!」


 ドナが嫉妬して唇を尖らせるが、悠真の耳にはもう、何も入っていなかった。


 悠真は弾かれたようにドナから離れると、分厚い防弾ガラスに両手をベタリとつき、震える声でその名前を紡いだ。


「……桜井、さん?」


 窓ガラスの向こうで、神獣の背に乗る桜井の瞳が、静かに悠真を見据えていた。


 なぜ、彼女がここにいるのか。

 なぜ、魔王軍の軍師として神獣を従えているのか。


 その答えは、悠真が異世界へ落ちた『あの雨の日』まで遡る――。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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イラストも是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧
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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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