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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第4章:『残念で不幸な僕が、美少女たちと全面戦争する件について』

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第22話:一触即発と、天使の暴走(第2節)

 吹き荒れる雪混じりの風が、極寒のヘルヘイム山脈の頂を容赦なく叩きつけていた。


 鈍く銀色に輝く巨大なドームを背にして、無数の魔王軍が不気味な沈黙を保っている。


 その最前線に立つ魔王軍幹部『業火のジル』は、燃え盛るような赤いショートヘアを揺らしながら、王国の連合軍の先頭に立つルナを指差して、鼻で笑った。


「おいおい、聞いて呆れるぜ。荒野を駆ける『銀色の狼』様が、軟弱な人間どもの後ろで尻尾を振って付いてくるとはな!」

「……なんだと?」


 ジルの挑発に、ルナの黄金色の瞳がスッと細められた。


「お前みたいな女は獣人の恥だ! 人間に飼い慣らされた惨めな犬っころが! 首輪でもつけてもらったのかぁ?」

「てめぇ……! ぶっ殺す!!」


 誇りを汚されたルナは激昂し、怒りで全身の毛を逆立てながら、身の丈ほどもある大剣を抜いて飛び出そうとした。


 獣の殺気が爆発し、雪を溶かすほどの熱を帯びる。


「お待ちください、ルナ殿!」


 だが、その前に王国騎士のゼノアがサッと入り込み、鞘に収まったままの剣でルナの胸元を制した。


「ここはセレスティア王女殿下の御前です。敵の安い挑発に乗って陣形を崩すなど、下策の極み。今は耐えなさい」

「そうだとも、気高き狼の姫君よ。君の美しい銀の毛並みを、あのような下品な獣の血で汚す必要はない」


 ライオネルも優雅に馬を寄せ、たしなめるように微笑む。

 さらに、ゼノアの後ろからエリザがひょっこりと顔を出し、人懐っこい、それでいて腹黒い笑顔を浮かべた。


「そうそう。ここでルナちゃんがキレて単独で突っ込んだら、相手の思うツボよ? さあ、深呼吸して」

「くそっ……! 離せ、あいつだけはオレが八つ裂きにしてやる……!」


 ルナはギリッと牙を鳴らして歯を食いしばり、大剣の柄が軋むほど握りしめながら、かろうじて踏みとどまった。


 一触即発のヒリヒリとした硬直状態。

 誰もが次の瞬間に始まるであろう血みどろの激突を予感していた、その時だった。


「……天界の規則に従い、神の卵を起動します」

「えっ!?」


 スレイプニルの傍らに静かに佇んでいたエーテラが、無表情に、しかしどこか焦燥感を帯びた声で宣言した。


「お待ちになって、エーテラさん! あれは神などではありません! 世界を終わらせる災厄ですわ!」

「そうです、行っちゃダメです!」


 セレスティアとリーファが血相を変えて叫ぶ。

 だが、エーテラは聞く耳を持たなかった。


「私の任務は、救済の光である『神』の復活を確実なものとすること。地上の不確定な情報で、天界の絶対的な正義を歪めるわけにはいきません」


バサァッ!


 エーテラは純白の翼を大きく広げると、制止の声を振り切り、単独で巨大なドームへと一直線に飛翔した。


「ちっ……天界の手先が。あんな目障りなハエにウロチョロされては、私たちの計画の邪魔になるわ」


 その光景を冷ややかな目で見上げていた『謀略のヴァネッサ』が、黒髪のポニーテールを揺らしながら小さく指を鳴らした。


「撃ち落としなさい。記録官の羽をむしり取ってやるのよ」


 ヴァネッサの冷酷な命令を受け、上空で待機していた黒い羽の魔族たちが、一斉にエーテラへと襲いかかった。

 無数の魔法弾が、漆黒の槍となって純白の天使を包囲する。


「……っ! 予測回避軌道、展開!」


ヒュンッ!


 エーテラは空中でアクロバティックに身を捻り、紙一重で魔法弾を躱していく。


バシュッ!


 だが、圧倒的な数の暴力の前に、魔法の余波がエーテラの翼をかすめた。


 焦げ臭い匂いと共に、美しい純白の羽毛がハラハラと宙に舞い散る。

 さらに、天界の仕立てである神聖な制服の裾が、魔法の熱でチリッと焦げた。


「ぐぬぬっ! 私の大切な天界の制服が……!」


 その瞬間、いつもは機械のように無表情なエーテラの顔に、明確な「感情」が走った。


「け、計算外です! 極めて不愉快です!」


 エーテラは頬を真っ赤に膨らませ、唇を尖らせて魔族たちを睨みつけた。


「私の神聖な任務の邪魔をしてはいけません! どきなさい、この野蛮な生き物たち!」


 プンスカと可愛らしく激昂しながら、必死に妨害をかわしてドームへ急ぐエーテラ。

 その姿は、冷徹な記録官ではなく、ただの怒った女の子にしか見えなかった。



 一方、防弾ガラスに隔てられたスレイプニルの車内。

 悠真はその様子を、窓に張り付いて見つめていた。


(僕が外に出ても、足手まといになるだけだ……。でも、このままじゃエーテラさんが!)


 窓ガラスが自分の焦った息で曇るのも構わず、悠真は外の惨状に目を凝らす。

 エーテラは必死に避けているが、魔族の数は多すぎる。このままでは撃ち落とされるのは時間の問題だった。


「どうしよう、どうすれば……!」


 悠真が振り返ろうとした、その時。


ゴツン!


 足元の魔導ケーブルにスニーカーを引っ掛け、バランスを崩した悠真は、後ろにいたドナに頭をぶつけてしまった。


「あいたっ! もー、お兄ちゃん落ち着いてってば!」


 ドナが涙目で頭を押さえながら抗議する。

 つい先ほどまで、悠真の膝の上に跨がって、小悪魔的に迫っていたドナだったが、今は本気で痛がっていた。


 だが、悠真には彼女の痛みを気にする余裕すら無かった。

 悠真は勢いよく振り返ると、ドナの華奢な両肩をガシッと掴んだ。


「ドナ! 頼む、スレイプニルを出してくれ!」

「えっ……?」


 至近距離。

 吐息が混ざり合うほどの距離まで顔を近づけ、悠真は必死の形相でドナの目を見つめた。


「エーテラさんが危ない! このままじゃやられちゃう! 君が作ったこのすごい戦車なら、あそこまで助けに行けるだろ!?」

「あ、ちょ、お兄ちゃん……ち、近い……!」


 さっきまで、自分が無理やり迫って悠真をタジタジにしていたはずだった。

 それなのに、今度は悠真の方から、真剣な顔で急接近され、肩を強く掴まれている。


「お願いだ、ドナ! 君の力が必要なんだ!」

「あ、う……わ、わかった! わかったから! 近いってばぁ……っ!」


 突然の逆転の構図に、ドナは顔をリンゴのように真っ赤に染め、しどろもどろになりながら目を泳がせた。


「お願い、早く!」

「あ、うぅ……」


 ドナの心臓が、まるで暴走した魔導エンジンのように爆発しそうに高鳴る。


 その甘く緊迫した車内の外では、無数の魔族の群れが、いよいよエーテラを完全に包囲しようとしていた。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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カクヨムにも作品連載中、ぜひご覧ください。
『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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