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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第3章:『残念で不幸な僕を、まじめ天使と腹黒軍師が奪い合う件について』

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第21話:エーテラの再会と、北への道(第3節)

「止まりなさいと言っているのです! これ以上の進行は、天界の法典に抵触します!」


 ニヴル森林の木々を裂くように進むスレイプニルの前方。


 エーテラは白銀の翼を大きく広げ、空中で両手を左右に突き出して立ちふさがっていた。


「この先、山脈の頂にあるのは天界が慈しみ育てた『神の卵』です! 世界を真の平穏へと導く救済の光……それを破壊するなど、断じて許されません!」


 しかし、操縦席のドナは全く取り合う様子がない。


「何、訳の分からない事いってんの!? 邪魔だよエーテラ、ひかれちゃっても知らないからね!」


 ドナが容赦なくレバーを引くと、スレイプニルは速度を落とさぬまま前進を続けた。


「あ……っ、待って、止まりなさいと言っているのです!」


 エーテラは逃げるどころか、空中で姿勢を低くし、戦車の先端にある「馬の頭」を模した巨大な意匠に小さな両手を突き当てた。


 白い翼を必死に羽ばたかせ、圧倒的な物理的推力に抗おうとする。


「……っ、ぐぬ、ぐぬぬぬ……! て、停止を、命じます……!」


 小さな体で巨大な魔導戦車を止めようとするエーテラ。


 だが、彼女一人の力では、スレイプニルの重厚な駆動に抗えるはずもない。華奢な腕が震え、戦車の冷たい装甲に押し当てられた手のひらが悲鳴を上げる。


「ひゃぅっ……!? 演算、不能……推力が、規格外、です……!」


 空中でズルズルと押し戻され、戦車の頭にしがみつくような情けない格好になりながらも、彼女は必死に「通せんぼ」を続けた。


 だが、スレイプニルは無慈悲にも彼女を押し出したまま、森の奥へと進軍を続ける。


(なぜ止まらないのですか! 天界の権威が、ただの鉄の塊に負けるなど……!)


 その滑稽なほど懸命な姿を見かねて、悠真が窓から身を乗り出した。


「エーテラさん! そんなことしたら危ないよ!」


「悠真……」


 その優しい声を呼ばれた瞬間、エーテラの動きがピタリと止まった。


「中に入って、話し合おう。ね?」


 真剣な、それでいて自分を案じる温かい瞳で見つめられ、エーテラはうっすらと頬を染めて我に返った。


 そのまま誘われるように車内に引き入れられたエーテラは、肩で息を整えながらも、セレスティアたちに詰め寄った。


「納得がいきません。天界の記録にあるのは、汚れなき救済の降臨です。なぜ皆さんは、それを『災厄』などと呼ぶのですか?」


「私のお姉さまが調べた古き伝承や文献には、こう記されていたそうですわ」


 セレスティアが静かに、しかし断固とした口調で応じる。


「『北の果てに眠るは、万物を灰に還す破壊の化身』……と。それに、魔王軍がその力を利用しようと蠢いているのは紛れもない事実です。エーテラさんが仰る『神の卵』と、私たちの追う『魔神』……あまりに食い違いすぎますわ」


「魔王軍が、利用……?」


 エーテラは混乱に目を見開いた。


 ウリエルからは「魔王軍の妨害に警戒せよ」と命じられていたが、もし魔王軍が初めからそれが「魔神」であると知って動いているのだとしたら。


「……謎を解くには、この目で確かめるしかなさそうですわね」


 セレスティアの結論に、一行は深く頷いた。


「うぅ……あり得ません。天界の情報にエラーなど……、存在するはずがありません」


 進軍を止めるのを諦めたエーテラは、目に涙を浮かべながらも強がり続ける。


「……わかりました、最後まで見届けます」


 エーテラは涙目で強がりながら言った。


「仕方がありません、進軍を阻止するのを中止してあげましょう」


 そう言うと、トボトボと悠真に近づき、その隣にちょこんと座り込んだ。


「こ、これが『救世主』の監視任務ですから。ええ、そうです、隣に座るのも……監視密度を最大化するための、合理的判断です」


 視線を逸らしながら、小さな声でそう付け加えた。


 それを見たセレスティアが、扇子で口元を隠しながら目を細める。


「あら、何しれっとゆうゆうに引っ付いてるのかしら。監視なら、少し離れた席でも十分ではなくて?」


 すると、隣にいたルナがニカッと笑い、エーテラの隣へ割り込むように座った。


「まあいいじゃねえか。魔王軍が来たら、このオレが守ってやるよ!」


 ルナはそう言うと、エーテラの細い肩をガシッと抱き寄せた。


「……っ! 地上人が天界人に気安く触らないでください!」

 エーテラは慌てて身をよじる。


「不潔……いえ、非論理的な接触なのです」

 口では拒絶し、肩をすくめて逃げようとする。


 だが、獣人特有の力強さと、力強く抱き寄せられた温もりに抗いきれず、その体は強く抵抗することができない。


(不潔です、離れるのです……でも、この温かさは、少しだけ……)

 瞳を泳がせ、頬を朱に染めながら、小さく呟いた。


「……せめて、もう少し優しく……」



 そんなやり取りを交わしながら、スレイプニルは森林を抜け、緩やかな勾配の山道へと足を踏み入れた。

 路傍にうっすらと雪が積もり始めた頃、一行はついに目的地へと辿り着く。


 そこは、奇妙なほど静まり返った山頂の広大な平地だった。


 その中央に鎮座していたのは、鈍く銀色に輝く巨大なドーム状の建造物——。


「……あれが、天界が生み出した『神の遺物』。神が産声を上げるための揺り籠です」


 エーテラが感嘆の声を上げる。


 だが、ドームを挟んだ反対側の縁には、すでに別の影が落ちていた。


「……来ましたね、人間共」

 冷ややかな声が、山頂に響き渡った。


「そして、天界の迷子も」

 静寂を切り裂き、禍々しい魔力を放つ軍勢が姿を現す。


 ドームを挟んで対峙し、こちらを冷酷に見下ろすのは、魔王軍四天王の二人――。


「業火のジルと、謀略のヴァネッサ……」

 ルナが静かにそう呟く。

「……っ!」

 悠真は思わず剣の柄を握りしめた。


 世界の救済か、あるいは破滅か。


 鈍く輝く神の揺り籠を挟み、決して交わることのない二つの陣営が、ついに正面から激突する瞬間が訪れた。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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『高安ゆき、13歳。AIじいやと小説をはじめますの ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ ) ୨୧』
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