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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第3章:『残念で不幸な僕を、まじめ天使と腹黒軍師が奪い合う件について』
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第20話:集結した援軍と、災厄への導き(第3節)

 巨大戦車スレイプニルが北へと進路を取る中、車内には束の間の静寂が訪れていた。

 賑やかだった騎士たちは馬で随行し、車内に残るのはいつものメンバーだけ。


 先ほどまで「姉妹」設定でライオネルを煙に巻いていたドナが、ふと真面目な顔で、隣に座る悠真を見上げた。


「ねえ、お兄ちゃん。さっきは冗談で言ったけど……元の世界に、悠真の本当の妹がいるんでしょ?」


 悠真は視線を落とし、かつての日常を思い返すように小さく頷いた。


「ああ。……小春っていう妹がいるんだ」


 悠真は苦笑しながら、懐かしそうに目を細めた。


「ピンクのツインテールで、ドナにそっくりなんだけど、口を開けば兄への毒舌ばかり。僕が不運でドジを踏むたびに『残念だね、お兄ちゃん』って呆れられてたよ」


 小春の鋭い言葉の裏にあった、パンを落とした床を兄の代わりに拭いてくれるような不器用な優しさ。

 ツンツンした態度の奥に隠れた、妹なりの気遣い。


 そんな妹の面影を追ううちに、悠真の意識はもう一人の少女の姿も思い出した。


(……それと、桜井唯)


 それは、誰にも語ることのない悠真だけの記憶。

 図書室で出会った後輩。


 雨の日に一緒に子猫の「ちくわ」を助けた、あの日。

 憂いを帯びた瞳で自分を見つめてくれたこと。


 近づいた時に感じた、甘いシャンプーの香り。



『せんぱい!』



(彼女、僕がマンホールに落ちる直前、必死に僕を呼んでくれたんだ……)


 不運続きだった自分に、初めて温かな繋がりをくれた大切な存在。切なく澄んだ彼女の声が、今も耳の奥に残っている。


 あの時、意識が闇に落ちて、次に目が覚めたらひんやりとした岩肌がむき出しの洞窟だった。


 マンホールに落ちたはずが、手にはスマホの代わりに禍々しい黒い石を握りしめていて……。


 混乱する僕の前に、淡い光を纏って現れたのがリーファだった。



「ふふっ、セレスティア様、このクッキーとってもサクサクです!」


 ふと視線を上げると、少し離れた席でセレスティアとのティータイムを楽しんでいるリーファの姿が目に映った。


「このとろけるような甘さ、元気が湧いてきますねっ」


 彼女はセレスティアが用意した高級なお菓子を幸せそうに頬張り、リスのように口を動かしている。


 洞窟で初めて出会った時の、神秘的でどこか危うげだった「聖女」の面影はどこへやら、今はただの食いしん坊な美少女だ。


 その無防備で穏やかな横顔を見ていると、悠真の心に自然と温かな灯がともる。


(……桜井も、元気にしてるかな)


「ふーん、しんみりしちゃって」


 そんな悠真の物思いを遮るように、ドナがその顔を覗き込み、いたずらっぽく笑って彼の腕に抱きしめられた。


「そんなに寂しいなら、ドナが『本当の妹』になってあげる。もちろん、今まで以上に私を可愛がって甘やかすのが条件だけどね!」


(生意気だけど、この強引さに救われている自分がいる)


「……はは、それじゃ生意気な小春の代わりより、もっと大変そうだよ……」


 ドナの明るい励ましに、悠真は穏やかな苦笑いを浮かべた。



 一方、遥か北方の魔王城――。


 氷の柱がそびえ立つ薄暗い玉座の間では、魔鏡に映る悠真たちの進軍を眺めながら、魔王軍の幹部たちが不敵な笑みを交わしていた。


「……退屈だわ」


 魔王イヴ・ルナールが、漆黒のドレスの裾を揺らしながら冷徹な瞳を細める。


「でも、ようやく盤面が動き出したようね」


 その傍らで、軍師ヴァネッサが恭しく頭を下げた。


「……すべては我が描いた盤上の如く。救世主悠真は今、王国の総力を挙げた大軍勢を引き連れ、誇らしげに『災厄の場所』へと向かっております」


 ヴァネッサは優雅に一礼しつつ、その瞳にどす黒い愉悦を宿らせた。魔鏡に映る悠真の姿を見つめ、薄く笑う。


「エーテラを奴から引き離すことには成功しましたが、取り逃したことについては……些末な問題です。重要なのは、王国が総力を挙げたこの進軍そのものが、私の掌の上にあるということ」


 彼女の声は、冷ややかな空気を震わせながら玉座の間に響き渡る。


「救世主が仲間との絆を信じ、勇ましく進軍すればするほど、彼ら自身が魔神復活の儀式を完成させるための、最上の生贄へと熟していくのです」


「ふん、生贄ねぇ。あのアホ面した男がそんな大層な役に立つのかよ」


 赤いショートヘアを逆立て闘争本能を隠さない、業火のジルが鼻で笑った。


「ジル、貴女は黙っていなさい。ヴァネッサの策略は、もっと繊細で残酷なものよ」


 慈愛のミーナが、血のような果実水を啜りながら冷ややかにたしなめる。


「天界の連中が好き勝手に動き出す前に、王国の軍勢ごと彼らを『災厄の場所』へと誘い込むことができました。彼らが正義と信じて突き進むその先に、天界の目論見を粉砕する絶望が待っている……。わたくし、その瞬間が今から楽しみで仕方ありませんわ」


 ヴァネッサは二人の言葉を受け流し、冷酷に言葉を継いだ。


「彼らが目指す地こそが、絶望の終着駅。救世主という希望の光が強ければ強いほど、その陰に潜む闇は深く、濃くなる。天界が予測すらできない『不条理な破滅』を、味あわせてやりましょう。魔神が再びその眼を開く準備は、すべて整ったのです」


「くく……面白い。ヴァネッサ、お前の策がこの『退屈』を埋めるに足るものか、特等席で見物させてもらうわ。失敗は、許されないわよ?」


 イヴは薄く微笑んだが、その視線は凍てつくような殺意を孕んでいた。

 ヴァネッサは背筋に走る戦慄を隠し、深く、深く頭を垂れる。


「……仰せのままに、我が主」


 ヴァネッサの声は静かに、だが確信に満ちて広間に消えた。



 悠真たちは仲間との絆を信じ、自らの意志で決戦へ向かっているつもりだった。


 だが実際には、ヴァネッサの冷酷な蜘蛛の糸に絡め取られ、天界の介入すらも飲み込む『最悪の破滅』が待つ地獄の釜へと、一直線に導かれているに過ぎなかった。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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