第20話:集結した援軍と、災厄への導き(第2節)
エリザがもたらした「災厄の魔神」の復活という報は、一同に死の予感を突きつけた。
スレイプニルの傍らで即席の軍議が開かれる。重い沈黙を破ったのは、ライオネルだった。
「なるほど。魔王軍は単なる侵略ではなく、魔神の強大な力を利用し、この世界そのものを彼らの望む形へ書き換えようとしている……」
「ええ。魔王軍がそこに向かっている以上、これは世界の運命をかけた最終決戦になります」
エリザの言葉に、ゼノアが険しい表情で頷き、悠真へと視線を向けた。
「悠真、貴公に頼るしかない。……ライオネル団長、不本意ながら認めざるを得ません。魔王軍の邪悪な計画に対抗しうる唯一の力、それは悠真が持つ救世主のお力と、お二人の賢者の叡智だけです」
「……ふむ。堅物な貴公がそこまで言うのなら、間違いありますまい。救世主殿、先ほどは線が細いなどと失礼なことを申し上げた。王国の命運、いや世界の未来、このライオネルが貴方に託しましょう!」
ライオネルは先ほどまでの不遜な態度を翻し、黄金に輝く真紅の甲冑を鳴らして悠真の前に膝を突いた。
「え、あ、いや……急にそんな大層なことを言われても……」
突然、王国最強の二人の騎士から世界の命運を丸投げされ、悠真は激しく戸惑う。しかし、ライオネルの暴走はそこからが本番だった。
「何より、セレスティア王女殿下の信頼をこれほどまでに勝ち取っておられる。ふむ……殿下の婿、すなわち次期国王の座に座る者としても、貴方は相応しい御仁だ!」
「あら、ライオネル。よくお分かりですわね。わたくしも、ゆうゆうなら間違いございませんと思っておりますの。ほほほ!」
ゼノアに自慢していた手前もあり、セレスティアは扇で口元を隠しながら満足げに胸を張る。
その光景を冷ややかな目で見ていたドナが、ふと悠真の困り顔に気づき、ニヤリと笑った。
「ちょっと、あんたたち。お兄ちゃんをそうやって勝手に担ぎ上げないでくれる? 悠真は私の大事な『家族』なんだから」
「家族? おお、妖精殿。それは真実か!?」
食いつくライオネルに、ドナは悠真の右腕をぎゅっと掴み、いたずらっぽく笑った。
「そうよ。実は私……悠真の妹なの。ね、お兄ちゃん」
「なんだと!? それは驚いた。救世主殿には、これほど愛らしく、そして天才的な妹君がいたとは!」
(……妹!? いや、確かに実の妹に瓜二つだけど!)
悠真が声を殺して突っ込もうとした瞬間、反対側の左腕にも、今度は豊かで柔らかな感触が添えられた。
「あら?」
リリアーナが優雅に彼の腕を抱きしめ、瞳の奥で愉悦を輝かせながら艶やかな笑みを浮かべる。
「……隠しておくつもりだったけれど、これほど騎士様たちが熱心なら、私も本当のことを言わなければならないわね」
リリアーナは慈愛に満ちた(しかし瞳の奥は笑っている)表情で悠真の肩に手を置いた。
「ライオネル様。実は私も……悠真の姉なのです。幼い頃に生き別れ、この旅で劇的な再会を果たした、真実の姉妹なのですよ」
「おおおお! なんという奇跡の血脈! 救世主、天才、そして賢者……一族揃ってこれほどの才覚を秘めていたとは! 素晴らしい、実に素晴らしい絆だ!」
ライオネルは感涙にむせばんばかりに感動し、ゼノアは「そんな馬鹿な話があるか!」と胃を抱えている。
一方、二人の言葉がデタラメであると百も承知のセレスティアだったが、その瞳はどこか遠くを見つめ、妖しく輝いていた。
(……あら、それも悪くありませんわ。ゆうゆうがわたくしの夫になる際、この天才的な二人が『義理の姉妹』として王家に連なるという設定……王国の技術と知恵を独占できますわ。ええ、実に素晴らしいですわ!)
「殿下、何をニヤニヤされているのですか……」
ゼノアが呆れ果てる中、悠真は両側から「姉妹」にガッチリとホールドされ、もはや反論する気力すら失っていた。
(誰かこのコントを止めてくれ。世界が終わる前に僕の家系図が終わる!)
「……あの、いい加減にしてください!」
そこに割って入ったのは、普段は温厚なリーファだった。彼女は困り果てた悠真を見て、腰に手を当てて二人をたしなめる。
「ドナちゃんもリリアーナさんも、悠真さんが困っているじゃないですか。嘘もそのくらいにして下さい」
リーファは有無を言わさぬ勢いで、悠真の腕に絡みついていた二人をひっぺがした。
「……ふふっ。悠真、相変わらずモテモテだねぇ」
その様子を眺めていたエリザが、いつもの人懐っこい笑みを浮かべて楽しそうに悠真を冷やかした。
しかし、彼女は次の瞬間、真剣な眼差しでセレスティアへと向き直る。
「殿下、一刻を争います。魔王軍の先遣隊が既に山脈へ入っている可能性も否定できません。……直ちに出発を」
「ええ、分かっておりますわ。……皆様! 進軍を開始いたします! 進路を真北へ、ヘルヘイム山脈へ向けてスレイプニルを発進させなさい! そこの可愛い妹さんたちも、急ぎますわよ!」
セレスティアが「義理の妹(予定)」たちに上機嫌で呼びかけると、ドナとリリアーナは声を揃えて答えた。
「「はーい!」」
楽しそうに戦車へと駆け込む二人を静観していたルナが、感銘を受けたように独り言を漏らした。
「……ふむ。我々獣人族にとって、強いオスというのは、家族が多いもの。さすがはユーマ」
「も~! ルナさんまで変な納得をしないでください!」
リーファが頬を膨らませてたしなめ、一同はスレイプニルの車内へと戻っていった。
「……はは、もういいよ。みんな、そろそろ出発しようか。ほっといたら、僕の家系図が変になりそうだ」
するとルナが、面白そうに鼻で笑って続けた。
「ふふん……。オレの『婿殿』も大変だな、ユーマ」
その瞬間、車内の空気が凍りついた。
「「誰が婿殿ですって!?」」
セレスティアとリーファの声が、怒涛の勢いで重なった。
「何をしれっとおっしゃって! この泥棒猫!」
セレスティアは扇をバサリと閉じると、片方の手を腰に当てながら、ルナへ向けて声を荒らげる。
「ゆうゆうはわたくしの婿殿ですわよ!」
「……ちっ、怖い怖い。これだから女の嫉妬は御免だ」
敵意を向けられたルナはわざとらしく肩をすくめ、窓の外へ視線を逸らした。
悠真がさらに深い苦笑いを浮かべる中、セレスティアが気を取り直して発進の号令を下す。
「ス、スレイプニル、発進ですわよ!」
車内に渦巻く美少女たちの熱い嫉妬とは裏腹に、巨大な鉄の獣は、雪混じりの冷たい風が吹く北の空――『災厄の場所』へと、重厚な駆動音を響かせて力強く進軍を開始した。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
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