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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第3章:『残念で不幸な僕を、まじめ天使と腹黒軍師が奪い合う件について』
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第18話:銀狼の牙城と、進軍の決意(第1節)

 一行を乗せた魔導戦車スレイプニルは、中継地『銀狼の牙城』を目指し、ヴォルク山脈の険路を力強く進んでいく。


 目的地が近づくにつれ、悠真は無意識にポケットの中の感触を確かめていた。


 指先に触れるのは、しなやかで温かみを感じさせる編み紐。


 それは、この地を離れる朝にルナから贈られた、彼女自身の銀髪を編み込んだミサンガだった。


(……ルナさんの髪、大切に持ってるなんて知られたら、また騒ぎになるよな)


 あのぶっきらぼうに背を向けた彼女の、言葉にできない決別の情。


 そして何より、月明かりの下で偶然にも唇を重ねてしまった、あの夜の消えない熱。

 柔らかな感触と、微かに震えていた彼女の吐息。


 思い出が駆け巡り、悠真の顔がカッと熱くなる。


 隣で地図を広げていたセレスティアたちがこちらを向く前に、彼は慌ててミサンガをポケットの奥へと押し戻し、何食わぬ顔で窓外へ目を向けた。



 すると視界が開け、断崖絶壁にそびえ立つ堅牢な石造りの要塞――『銀狼の牙城』がその威容を現した。


「止まれ! 貴様ら、その不気味な鉄の塊は何だ! 魔物の新種か!?」


「ひ、ひいっ! あれは魔王軍の新兵器では!?」

「馬が八本も足を生やしてやがる! 呪われてるぞ!」


 砦の門番たちが、見たこともない八本脚の巨躯――魔導戦車に戦慄し、槍を構えて入城を阻む。


 一触即発の緊迫感が漂う中、戦車の横で馬を操るボニーが必死に叫んだ。


「待ってください! 王家騎士のボニーです! ヴァルハラ傭兵団への使者として参りました!」


 その声に応えるように、砦の奥から銀髪をなびかせた女性が風のごとき速さで駆け寄ってきた。


「何事だ?さわがしい」


 傭兵団のリーダー、ルナである。


「ボニーじゃないか! 無事だったようだな」


 彼女はボニーの姿を認めると、懐かしそうに目を細めた。


「……ん? お前が跨っているその馬、私の愛馬『銀狼』じゃないか。セレスティアはどうした?」


 ルナは不思議そうに首を傾げながら、『銀狼』の鼻先を優しく撫でる。


「お~、よしよし。で、なぜお前が乗っているんだ?」


 再会を喜ぶように鼻を鳴らす愛馬を見ながら、ボニーは困り顔で答えた。


「はっ……。実は、私の愛馬がとある不幸な事情でいなくなってしまいまして。代わりに私がこの『銀狼』を拝借することになったのです」


 その説明を聞いた瞬間、ルナの口角が意地悪く吊り上がった。


「ほう……。旅の不運で愛馬を失うだけでなく、『銀狼』のご主人までも。ということは……」


 ルナはわざとらしく天を仰ぎ、大袈裟に肩を落としてみせた。


「不運の道連れになって、あのじゃじゃ馬姫もついに年貢の納め時だったんだな。あんな山奥で一人、魔物の餌食になって散っていったのか……」


 ルナは手を合わせ、芝居がかった口調で続ける。


「さらば、短気な戦友よ。お前の高慢ちきな態度は忘れないぞ」


「あら、誰が魔物の餌食になったとおっしゃるのかしら?」


 高く澄んだ声と共に、スレイプニルの側面に設えられた装飾豊かな扉が、貴族の馬車のそれのように静かに開いた。


 不機嫌そうに扇子を仰ぎながら姿を現したのは、他ならぬセレスティアである。


「……なんだ。生きてたのか、じゃじゃ馬姫」


「あなたにだけは『じゃじゃ馬』なんて言われたくありませんわ! この野性児!」


 ルナが心底意外そうに呟くと、セレスティアの額にピキリと青筋が浮かぶ。


「しかも勝手に人の葬儀を始めないでくださる!? 私は見ての通り、この最新鋭の魔導戦車の中で快適に過ごしておりましたわよ!」


「はっ、馬を失くして箱に引きこもっていたから、てっきり幽霊かと思ったぞ」


「この口の悪さ、相変わらずですわね……!」


 二人がバチバチと火花を散らす中、扉の影からおずおずと悠真が顔を出した。


「ルナさん、お久しぶりです。元気そうで良かったです」


「ユーマぁぁっ!!」


 ルナの表情が一変した。


 セレスティアとの言い合いなど完全に忘れたように、人狼族の驚異的な跳躍力で車体のステップへと飛び上がると、そのまま悠真の首に勢いよくしがみついた。


「うわっ!?」


「ユーマ、心配してたんだぞ! ちゃんと飯は食ってたか? また変な不幸に巻き込まれてないだろうな!?」


 ルナは悠真を抱きしめたまま、その顔を自分の豊かな胸元へぐいぐいと押し付ける。


「わわっ!? ル、ルナさん、近いですって!」

「うるさい、黙ってろ!」


 まるで自分の匂いをつけるマーキングするかのような激しい抱擁。


 銀狼の毛並みを思わせる野性的な香りと、革鎧越しにも伝わる圧倒的な柔らかさが、悠真の顔面を容赦なく包み込む。


 銀髪の隙間から覗く耳を真っ赤に染めながら、彼女はあの夜の記憶を上書きするかのように、力いっぱい悠真の体温を確かめていた。


「ちょっと! 再会早々、人の旦那様に発情するのはおやめになって!」


 セレスティアの絶叫と、僕を抱きしめるルナの熱い体温。


 懐かしくも恐ろしい修羅場の嵐と共に、僕たちは『銀狼の牙城』へと迎え入れられたのだった。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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