第35話:残念で不幸な僕と、美少女たちの未来の件について(第1節)
その日の夜。
セレスティアの私室に、ヒロインたちが集められ、秘密のパジャマパーティーが開かれていた。
天蓋付きのキングサイズベッドには、柔らかなピンクと白のシルククッションが敷き詰められ、部屋全体が淡い暖色系の光で満たされている。
各々がベッドの上に座り、中央の小さなトレイに置かれた高級菓子をつまみながら、華やかで艶っぽいムードに包まれていた。
「さあ、皆様。今夜は存分に語り明かしましょう」
セレスティアは、透け感のある黒いネグリジェの上に、ワインレッドのシルクのガウンを羽織り、大人の色気を漂わせている。
「ありがとうございます、セレスティア様」
リーファは、薄手な純白のシュミーズ姿。普段の神聖な巫女服とは違う、無防備で柔らかな体のラインが際立っている。
「……こんな遅くに、何なのですか」
エーテラは、パステルブルーの短めのチュニックにドロワーズという、幼い妖精のような可愛らしい装いで、ベッドの端にちょこんと座っていた。
そんな艶やかな三人の装いに対し、桜井唯は一人、異彩を放っていた。
「……桜井さん。その、青と白の不思議なラインが入った寝間着は、一体何という衣装ですの?」
セレスティアが、クッションを抱きしめながら不思議そうに小首を傾げる。
「衣装って……これは、学校の体操服です。これしか、寝間着がないんです」
「まあ! 機能的なデザインで、とても動きやすそうですわね」
「生地も不思議な手触りですね」
ヒロインたちに珍しそうにジャージを触られ、桜井は少し照れくさそうに笑った。
「着てみますか?」
桜井がそう言って、上着のファスナーを下ろして脱ぐ。
中に着ていた白いTシャツから、スポーティーな下着がうっすらと透けて見え、健康的な色気を放っていた。
「わあ、いいんですか?」
リーファが受け取り、シュミーズの上からその青いジャージを羽織ってみた。
純白のシュミーズと、異世界の青いジャージ。そのアンバランスな組み合わせが、妙に可愛らしかった。
「ふふ、リーファさん、似合ってますよ。可愛いです」
「ほ、本当ですか? えへへ……」
女子会らしい楽しそうな笑い声が、部屋に響き渡る。
ひとしきりお菓子と紅茶を楽しみ、空気が落ち着いた頃。
桜井は、ジャージのズボンをギュッと握りしめ、真剣な表情で切り出した。
「……皆さん。もし本当に、密林で異世界へ帰る方法が見つかったら……」
桜井の言葉に、部屋の空気がスッと静まり返る。
「先輩は、元の世界に帰って、二度と会えなくなるかもしれない。……皆さんは、それでもいいんですか?」
その問いは、ヒロインたちの胸の奥に隠していた不安を、容赦なくえぐり出した。
「……わたくしは」
セレスティアが、視線を落とした。
「わたくしは、王国の都合で無理やり婚約したようなもの。彼が元の世界へ帰ることを望むなら、それが一番ですわ」
強がるように微笑むセレスティア。だが、彼女は金色の髪の毛先をいじりながら、微かに視線を逸らし、その寂しさを隠しきれていなかった。
「悠真様は、世界を救う救世主……特別なお方です。私のような者が、引き留めることなど。……でも」
リーファも、俯いて羽織ったジャージの袖を握りしめる。
「……本当は、帰ってほしくありません。私にとって、かけがえのないお方ですから」
崇拝と純情が入り交じる、切ない本音。
「……どうせ私は、天界に捨てられた女。彼にとっても、私はただのイレギュラーですから。妻子を捨てて帰りたいなら、勝手に帰ればいいのです」
エーテラは、膝を抱えてツンケンと突き放すようなことを言いながらも、その目はすでに涙で腫れ上がっていた
桜井は、彼女たちの本音を聞き、小さく息を吐いた。
そして、ここにいないルナの、あの不器用な笑顔を思い浮かべる。
(天界や、あの司祭の暗躍も、もちろん気がかりだけど……)
「……こっちもハッキリさせないと、後顧の憂いなく帰れませんよね」
桜井は、決意を固めたように立ち上がった。
「明日、私たち全員の前で、先輩の気持ちをはっきりさせてもらいましょう。……誰を、一番に想っているのかを」
桜井の提案に、ヒロインたちは顔を見合わせた。
「……そうですわね。いつまでも曖昧なままでは、前に進めませんわ」
セレスティアが、力強く頷く。
「はい。ついに、決着の時ですね」
リーファも、決意の瞳で同意した。
「……では、そのための舞台立ては、わたくしにお任せください」
セレスティアが、自信たっぷりに微笑み、胸を張って言った。
翌朝。
悠真は、自室のベッドで気持ちよく眠っていた。
だが、その平穏は、突如として破られた。
「起きろ、悠真!」
ガチャンッ!
部屋の扉が乱暴に開かれ、重武装の騎士たちがドカドカとなだれ込んできた。
「えっ!? な、何!? 敵襲!?」
飛び起きた悠真は、状況が全く飲み込めないまま、両腕を屈強な騎士たちにガシッと掴まれた。
「連行しろ!」
「はっ!」
「ちょ、ちょっと待って! 僕、何か悪いことした!? 助けてぇぇぇ!」
パジャマ姿のまま、悠真は別邸の広い中庭へと強制連行されていった。
そして、中庭の冷たい石畳の上に引きずり出された悠真の目に飛び込んできたのは――。
ものすごい剣幕で、腕を組んで並び立つセレスティア、リーファ、桜井、エーテラの四人だった。
「な、なんだよこれ……」
悠真が呆然としていると、背後から副団長のゼノアが歩み寄り、チャキッ、と冷たい剣を抜き放ち、悠真の首元にピタリと突きつけた。
「ひぃっ!?」
「悠真。貴様は、幾人もの乙女の心を弄び、そのまま異世界へ逃亡しようとしている。これは王国、いや、全女性に対する重大な反逆罪だ!」
ゼノアは、まるで大罪人を尋問するかのような過激な口調で、冷徹に言い放った。
「やれやれ……。お前が誰を想っているのか、ハッキリと答えないから、姫様はとてもご立腹だ。……これも騎士の務めだ、恨むなよ」
ゼノアは、クールにため息をつきながらも、その瞳の奥は完全にこの場を楽しんでいるように見えた。
「ゼノアさん、ノリノリじゃないですか!」
悠真が涙目でツッコミを入れるが、ゼノアは冷徹な声で迫った。
「ゆうゆうが、いつまでもハッキリしない態度をとるから、桜井さんが思い悩んでしまうのですわ。わたくしとしても、このままでは不本意ですの」
セレスティアが、王女らしい正義感と、逃げ場のない圧をかけてくる。
「ちょっ……ちょっとやりすぎな気もしますけど……。でも先輩……。今日こそは逃がしませんからね」
桜井も、セレスティアの大袈裟な演出に引きつつも、ジト目で悠真を射抜く。
悠真は、ある意味魔神よりも恐ろしい、四体の立ち塞がる美少女たちに、絶体絶命の畏怖を感じた。
「だからって、なんで剣まで突きつけるんだよぉぉっ!?」
中学時代に続き、人生二度目の『女性の恐怖』を味わう羽目となり、悠真の悲鳴が、朝の別邸に空しく響き渡るのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。
なろうの連載は、月・金の夜20時30分、次回もお楽しみに ( ⁎•ᴗ•⁎ )୨୧
・物語のキャラ・設定イラストを、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
・カクヨムでも、毎週水曜日の夜20時30分に別作品を連載中です。
https://kakuyomu.jp/users/t_yukiyuki13
・最近、note始めましたの。4コマ漫画付きエッセイですわ。
https://note.com/t_yukiyuki13
・作品掲載時は、Xで告知しますので、フォローお願いします ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )୨୧
https://x.com/T_YUKIYUKI13
是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧




