第33話:王都への凱旋と、公認ハーレム(第2節)
魔神討伐の熱狂冷めやらぬ王都アヴァロン。
悠真たちは、セレスティアの広大な別邸へと身を寄せていた。
そんな朝の豪奢なダイニングルームのテーブルには、専属のシェフが焼き上げたパンや色鮮やかなサラダが並んでいる。
だが、そんな優雅な食卓の裏では、毎朝のように『悠真の隣の席』を巡る、静かで熱いマウント合戦が繰り広げられていた。
「ゆうゆう、こちらの特製オムレツをどうぞ。わたくしが取り分けて差し上げますわ」
「悠真様、お紅茶のおかわりはいかがですか?」
「パパ、あーん!」
セレスティアとリーファが甲斐甲斐しく世話を焼き、幼女天使が無邪気に膝によじ登ってくる。
そんな騒がしい朝食の光景を、桜井唯は少し離れた席から、紅茶のカップを両手で包み込みながらジッと見つめていた。
(……先輩と二人きりになる隙が、全然ない)
彼女の視線は、虎視眈々と『その時』を窺っている。
やがて悠真が、「少し風に当たってくる」と一人で中庭へ出た瞬間、桜井は音もなく席を立ち、足早に彼の後を追った。
別邸の美しい中庭。
噴水の縁で背伸びをしていた悠真に、桜井はそっと声をかけた。
「先輩……」
「桜井さん。どうしたの?」
振り返った悠真を見上げる桜井の頬は、ほんのりと桜色に染まっている。
「……ずっと、聞きたかったんですけど。……あの手紙の返事……」
悠真の心臓が、警鐘のように跳ね上がった。
「あ、えっと、それは……」
桜井のことは、後輩として、そして一人の女の子として好意を持っている。だが、あの黒歴史の傷が深すぎて、いざ言葉にしようとすると頭が真っ白になってしまうのだ。
「私、ずっと待ってます。先輩の、口から……」
桜井が距離を詰め、甘いシャンプーの香りが悠真の鼻腔をくすぐる。
悠真が口を開こうとした、まさにその時だった。
カンッ! カンッ! カンッ!
突如、王都の方角からけたたましい警鐘が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ただならぬ空気に、悠真たちは慌てて皆のいるリビングへと駆け戻った。
屋敷の中は騒然としており、セレスティアが窓の外を険しい顔で見つめている。
「大変ですわ、ゆうゆう! 王都の壁が、巨大な魔物に破壊されたそうですの!」
「ええっ!? 魔物が!?」
突然の凶報に、甘いムードは一瞬にして吹き飛んだ。
『……我が見てこよう。人間どもはここで待機しておれ』
猫の姿のちくわが尻尾を揺らし、単独で騒ぎの中心へと向かっていった。
一方、土煙が舞い上がる王都の城門前。
警鐘を聞きつけ急行した騎士団の列に、見習い騎士ボニーの姿があった。馬を走らせるたび、彼女の豊かな胸が上下に激しく揺れる。
ボニーは城門の前で馬を急停止させ、剣を抜いて息を呑んだ。
「魔物はどこですかっ……って、えええ!?」
なんと、立ち込める土煙の中から現れたのは、魔物ではなく、見覚えのある八本脚の魔導戦車『スレイプニル』だったのだ。
「お、王都の壁をぶち抜くとは何事ですかぁっ!」
ボニーが激怒して叫ぶと、ゆっくりと戦車の扉が開き、紫のローブを揺らしたリリアーナが優雅に降りてきた。
「久しぶりね、ホルスタイン」
「ボニーです! 誰が牛ですか!!」
ボニーは、両腕で大きな胸を必死に隠しながら、顔を真っ赤にして激怒した。
だが、戦車を見上げた彼女は、車体が巨大化していたのに気付く。
「ちょっと! スレイプニルって、こんな大きさでしたっけ!?」
「あはは! 気づいた?」
操縦席からぴょこりと顔を出したドナが、ピンクのツインテールを揺らして自慢げに笑う。
「2階建てキッチン・浴室・寝室完備の、動く豪邸に改造したんだよ!」
「そう。だから城門が狭くて通れなかったの。仕方ないから、壁を壊させてもらったわ」
「仕方ないで済む問題じゃありません!!」
悪びれる様子が1ミリもない賢者二人に、ボニーは頭を抱えて絶叫した。
「……で、一体何しにきたんですか!?」
「王国の技術発展のため、国王から公式に招待されて来たのよ。……さあ、案内しなさい」
その頃、屋敷へ戻ってきたちくわの報告に、悠真を囲むヒロインたちは呆れ果てるしかなかった。
「全く……、常識というものがありませんの!?」
「なんて罰当たりな……」
(……もう!)
そんな賑やかな輪の外で、会話を邪魔された桜井は一人、頬をぷくっと膨らませていた。
翌日、桜井は廊下の柱に身を潜め、胸に手を当てて早鐘を打つ心臓を必死に落ち着かせていた。
(今日こそは……!)
昨日、不本意な形で邪魔されてしまった告白の返事を聞くために、彼女はずっと悠真が一人になるタイミングを狙っていたのだ。
やがて、廊下の向こうから悠真の足音が近づいてきた。
(よし……!)
桜井は深呼吸を一つすると、サッと彼の前に飛び出した。
「先輩。……昨日の続き、ですが」
「えっ、あ、うん……」
今度こそ邪魔は入らせない。桜井はジリジリと悠真を壁際へと追い詰める。
その真剣な瞳に、悠真が観念して口を開きかけた、まさにその瞬間。
「おっにぃちゃ〜ん♡」
ドナとリリアーナが廊下の角から乱入し、悠真の左右の腕をガシッとホールドした。
「よろしくね、お兄ちゃん♡」
「しばらく世話になるわよ、凡人」
「な、なんで君たちがここに!?」
悠真が全力で嫌がって腕を振りほどこうとするが、二人はピタリとくっついて離れない。
そこへ、セレスティアが扇子をパチンと鳴らして現れた。
「王国の技術発展のため、彼女たちを『ゆうゆうの妹』という設定で公式に迎え入れましたの。このお屋敷に、研究室をご用意しましたのよ」
「勝手に僕の妹を増やすな!」
悠真が叫ぶ横で、桜井は「……また邪魔が」と、ぷくぅぅっと限界まで頬を膨らませ、ふてくされていた。
その後――、
「わあ、家族が増えて賑やかになりますね!」
リーファが聖女スマイルで歓迎し、悠真たちは引越しの手伝いをすることになった。
「はぁ……。またややこしいのが増えましたね。これ以上、秩序を乱さないで欲しいものです」
「パパ、おてつだい!」
迷惑そうなエーテラの隣で、幼女天使がパタパタと純白の羽で飛びながら、ピンク色のクッションを運んでいる。
そんな中、スレイプニルの荷物を運び出していた桜井が、何故か不機嫌そうに無表情のままドンッ!と、木箱を悠真に押し付けた。
「先輩、これお願いします」
「おもっ、何が入ってるの!?」
腕をぷるぷると震わせる悠真の横から、リリアーナが紫のローブを揺らして覗き込んだ。
「ふふ。それはエメリア王女へのお土産の本よ。王宮の古い文献や魔導書を見せてもらう代わりのね」
妖しく目を細めるリリアーナの言葉に、悠真はごくりと唾を飲み込んだ。
増え続ける美少女たちとの騒がしい同居生活。
だが、その裏で、世界の根幹を揺るがす秘密の扉が、今まさに開かれようとしていた――。
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